パラグアイ国際PHC会議(中南米国際フォーラム)開催

2015年10月30日

2015年9月24日〜25日、パラグアイ厚生省の協力のもと、実施中の技術協力プロジェクト「プライマリーヘルスケア体制強化プロジェクト」主催の「国際プライマリ・ヘルス・ケア会議」が開催されました。JICA本部からも杉下智彦国際協力専門員が参加し、基調講演および各セッションでの意見交換を行いました。

会議は、延2日間にわたって首都アスンシオン中心部にある「ホテル・エクセルシオール」で行われ、パラグアイ厚生大臣、エルサルバドル厚生副大臣をはじめ、9か国(ニカラグア、ホンジュラス、ドミニカ共和国、ボリビア、チリ、ブラジル、エルサルバドル、パラグアイ、日本)の保健医療行政関係者及び中南米地域で実施されているJICAの地域保健プロジェクト関係者(ニカラグア、ホンジュラス、ドミニカ)、パラグアイ国内で活動する保健分野JOCV12名など、合計228名が参加し、大盛況となりました。(国外参加者数:29名(内、講演者3名、パネリスト19名および国内参加者数:199名(内、講演者数2名、パネリスト8名)、大臣1名(パラグアイ)、副大臣2名(エルサルバドル、パラグアイ)、県知事3名、各国厚生省 総局長クラス15名(内、パラグアイ10名)、県衛生局長クラス18名(内、パラグアイ14名)、PAHOアドバイザー8名(講演者1名、パネリスト8名))

1日目の開会式典はパラグアイ保健大臣、上田義久全権大使(元JICA理事)、WHOパラグアイ事務所長、ITAIPU財団(協賛)により執り行われました。パラグアイ保健大臣からは、プロジェクトチーフリーダーである小川専門家への謝辞とともに、プロジェクトで育ててきた「USFモデル」を国家プログラムとして全国展開することに対する強いコミットメント、およびこのようなPHCモデルの中南米全体への普及のためのネットワーク作りに貢献していく所存であることが話されました。また上田大使も2008年の洞爺湖サミット・TICAD IVなどに触れ、JICA理事時代に保健分野のグローバル化に貢献してきたこと、そして今回パラグアイでJICAプロジェクトが単独でこのような大きな会議を開催できる力をつけてきたことを嬉しく思う由などが話されました。

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また開会式典に引き続き、杉下専門員から「ポスト2015年開発アジェンダにおけるプライマリヘルスケアの重要性」というタイトルで基調講演が行われました。パラグアイでは、「家族保健ユニット(Unidades de Salud de la Familia:USF)」の設置が行われてきており、来るべき慢性疾患などの増加に対応するための一次的基礎医療サービスの拡充と、住民が主体となった健康増進活動の推進、さらには上位の保健施設(市立・県立・国立病院など)の負担を軽減し、保健プロモーション活動による予防的サービスの促進によって、保健資源(財源・人材・機材など)の効率性と対費用効果を高めるという、保健システム全体のパフォーマンスを向上する戦略的な取り組みであることが説明されました。さらには、戸別訪問や寸劇といった住民参加活動が進展するにつれて、十代の望まない妊娠、貧困層や障害者、高齢者や先住民といった社会的弱者の医療サービスへのアクセス、就学や就労に関する課題など、これまで見えなかった様々な社会課題の解決策が求められるようになってきており、経済のグローバリゼーションによる恩恵とその副作用としての格差社会の進展の是正を目的として、住民に最も近いところにある公的サービスの拠点であるUSFは、社会変革のための中核的な役割を担うことが期待されてきている点が強調されました。

伝統舞踊を鑑賞しながらのランチに引き続き、午後はエルサルバドル副大臣、保健システム担当官(PAHO、ワシントン)および厚生省元PHC総局長の講演があり、最後にプロジェクトからの発表(USFモデルの構築)が行われ、非常に活発な意見交換が行われました。

第2日目午前は、パラグアイ厚労副大臣も自ら議長を務めながら、以下の5つセッションに分かれてのグループ討論が行われました。

  • コミュニティ保健人材の定着
  • 緊急リファレルシステムの構築
  • PHC保健人材育成
  • 住民参加活動の促進
  • PHCサービスの統合

各セッションには、各国代表団をはじめパラグアイ関係者が50名ほど参加し、非常に活発な意見交換が行われました。特にPHCの実践に関して、各国は保健人材育成やサービスデリバリーについて関心が高く、USFは中南米で共通の戦略を取っていることもあって、このようなグループセッションが大変効果的であることが理解されました。

午後は、各セッションの発表に引き続き、副大臣からは、IDB(米州開発銀行)がパイロット実施している地理情報システムを応用した妊産婦のデータ管理の事例紹介があり、参加者の興味を喚起していました。

閉会式では、主催者代表(厚生省、JICA、PAHO、イタイプ財団)および基調講演者、各国代表、グループセション議長に対して表彰が行われたあと、吉田JICAパラグアイ事務所長により閉会の挨拶がなされました。

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会議終了後、JOCV保健隊員を集めて、グローバルヘルスの最終潮流に関する勉強会を主催し、現場の知見を共有するとともに大変活発な意見交換が行われました。

中南米で推進されている家庭保健制度(USFなど名称は各国により異なる)は、まさに「健康は住民一人一人の手の中にある」というプライマリー・ヘルス・ケアの理念を実践するためのプログラムであり、「人々が中心となった保健システム強化(People Centered Health Systems Strengthening)」といえます。特に、中南米地区はNCDの急激な増加による財政負担が顕在化してきており、しっかりと地域に医師を派遣し(中南米では対人口比の医師集が多い傾向にあることも相まって)、NCD対策のみならずすべての疾病の予防保健の拠点としてのUSFの機能強化が注目されています。その中でも、エルサルバドルは国家戦略として保健予算の大幅な増額によりUSFの拡大を行ってきており、今回の国際フォーラムでも厚生副大臣の参加もあっても注目を集めました。またパラグアイにおけるJICAのUSF実施モデルも、寸劇などの住民参加活動の進展という点では抜きんでており、保健プロモーターの育成など大きな注目を集めていました。このように、ポスト2015年保健開発アジェンダとしてユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成が新たな目標になってきている中で、家庭保健プログラムの地域ネットワークを構築する端緒を作ったこの会議の意義は大変大きいと考えられます。さらには、USFは保健のみならず社会変革の核となることが期待され、まさに格差のない豊かな社会作りへの処方箋として、JICAは今後も協力を進めていく予定です。