「ミンダナオ 土地問題セミナー」の開催

2015年2月13日

ミンダナオにおける様々な紛争の根本原因の一つとして、長年の深刻な土地問題があげられます。その状況を受けて、ミンダナオの関係者に他国の事例を広く紹介してこの問題への取り組みに向けた糸口としてもらう事を目的に、2015年2月13日にコタバト市において、前年にJICA研究所より刊行された「Confronting Land and Property Problems for Peace」の研究者を招聘して「ミンダナオ 土地セミナー”Confronting Land and Property Problems:A Forum for Peace in Mindanao”」がJICAフィリピン事務所主催、アジア財団共催で開催されました。

セミナーには、フィリピン政府(OPAPP)、MILF、BTC、ARMM政府、地方自治体、少数民族代表、クリスチャン代表、NGO及びドナー関係者など70名以上が参加し、移行期正義の調査に携わる市民団体代表及びミンダナオ州立大学教授のファシリテートのもと、各国の事例紹介とそれに続くパネリスト及び参加者による質疑応答が活発に行われました。

事例紹介では、上記調査書を共著された武内進一氏(日本貿易振興機構アジア経済研究所主任研究員)、古沢希代子氏(東京女子大学現代教養学部教授)、片柳真理氏(広島大学大学院国際協力研究科准教授)の他、Abdul Badruddin氏(ミンダナオ州立大学教授)が登壇し、以下の事例と教訓を発表しました。

■武内氏(ルワンダ及びブルンジ):1)政策の効果的な運用は政治的リーダーの能力次第、2)司法の独立と調停の存在が不可欠、3)社会の安定には、人々の不満への対応が必要。
■古沢氏(東チモール):1)土地に係る正義が平和な国作りの土台。2)土地問題を解決するには一貫した公正な政策が必要。3)過去の過ちを正し住民が受けた苦悩に応える体制が必要。
■片柳氏(ボスニア・ヘルツェゴビナ):1)土地返還成功の要因は紛争以前からの明確な土地所有権と短期間の避難期間、国際社会の強力なプレゼンス。2)避難民の帰還には土地返還の成功のみならず治安状況、経済・社会環境などの条件が揃う事が必要。
■Badruddin氏:バンサンモロ地域(マギンダナオ州)の土地問題における、一般裁判所、イスラム裁判所、MILFイスラム・シャドウ裁判所の比較。1991年〜2014年の間にそれぞれの裁判所に持ち込まれた事案の解決率は、一般裁判所が約50%、イスラム裁判所は94%、MILFイスラム・シャドウ裁判所は97%。

また、武内氏、古沢氏、片柳氏からは「移行期の正義の在り方は社会により様々。ミンダナオにおいてもこれから定義されていくべき」との提案がなされました。

続いて、パネリストとして、ARMM政府 環境及び自然資源省(Department of Environment and Natural Resources)の地域局長、ARMM政府 少数民族問題担当省(Office of Southern Cultural Communities)の局長、キリスト教系NGO代表、土地問題に造詣の深い元下院議員が登壇し、次のようなコメントがなされました。
1. フィリピンでは土地関連の法律に整合性がない
2. 土地問題を包括的に把握・整理をする必要がある
3. 貧困層の少数民族の土地が不法土地ビジネスに悪用される可能性がある

さらに、参加者からは中央政府による土地問題の対応方法や土地返還のプロセスについての質問、又、土地問題や紛争解決に置ける女性の役割の重要性が指摘され、最後にまとめとして、以下の4点が提言としてあげられました。
1. 土地に関する制度・組織の整備
2. 多角的な土地問題調査の実施
3. 土地制度、所有権、関連法への市民の理解促進
4. 伝統的土地紛争解決法に関する調査研究の実施

本セミナーの開催を通じて、土地問題に関するガバナンスの強化や住民の知識向上、補償やフォーマル・インフォーマルの紛争解決制度など、人々の関心や必要とされる活動が明らかになりました。いずれもミンダナオの和平と復興に不可欠な要素であり、関係者が今後の取り組みを考える上で良い契機となったと思われます。またJICAとしても今後、事業を実施する上で検討すべき事項を学ぶ格好の機会となりました。
今後もプロジェクトの枠にとらわれず、様々な形でミンダナオの和平プロセスに貢献していきたいと考えています。

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