プロジェクト概要

プロジェクト名

(和)科学的根拠に基づく薬物依存症治療プログラム導入プロジェクト
(英)The Project for Introducing Evidence-based Relapse Prevention Programs to Drug Dependence Treatment and Rehabilitation Centers in the Philippines

対象国名

フィリピン共和国

署名日(実施合意)

2017年12月20日

プロジェクトサイト

ビクタン薬物依存症治療施設(Treatment and Rehabilitation Centre:TRC)及びタガイタイTRCを薬物依存症リラプス予防モデル(以下、「Intensive Treatment and Rehabilitation Program for Residential TRCs;INTREPRET」という。)導入のパイロット施設とし、その後のトレーニングモジュールの実施検証施設として、上記パイロット施設に加え他3か所のTRC(プロジェクト開始後に検討・決定)を対象とする。同国に導入される治療モデルとして確立され、実施検証を経たINTREPRETについて、育成された人材や成果を活用し、保健省自身の主導により、全保健省管轄TRCへの普及展開に向け、体制を整備する。

協力期間

2017年12月20日から2022年12月19日

相手国機関名

(和)保健省違法薬物乱用予防・治療プログラム
(英)Dangerous Drug Abuse Prevention and Treatment Program(DDAPTP), Department of Health

背景

(1)当該国における違法薬物対策セクターの開発実績(現状)と課題
2016年に就任したドゥテルテ大統領が最優先課題として取り組んでいるのが違法薬物対策であり、徹底的な取り締まりの強化により、100万人以上が自首し治療や社会的サポートを求めていると報道されている(注1)。フィリピン全国で保健省認可を受けた既存のTRCは42施設(注2)あるが、入所者の急増により、TRCの数が不足し、治療・リハビリの提供や質の担保が十分になされない状況が続いている。
このような状況下、フィリピンでは、2016年10月の大統領令(注3)により省庁間タスクフォースが組織され、TRCの整備・支援に取り組んでいる。当該タスクフォースで副議長を務める保健省は、大統領令を着実に実行する中心的役割を担っており、資金を動員し、TRCの新規建設に向け取り組んでいる。一方で、TRCで提供されている治療プログラムについて、その治療効果の把握や向上が課題となっており、フィリピン政府は、再発予防に効果的な治療プログラムの導入の必要性を認識し、既存のTRCで提供されている治療プログラムの見直しも検討されている。

(2)当該国における違法薬物対策セクターの開発政策と本事業の位置づけ
本事業は、TRCでの治療プログラムの改善を目指した技術協力プロジェクトであり、リラプス予防モデル(注4)に立脚した具体的治療モデルとして科学的根拠が確立されているマトリックス・モデル(注5)をフィリピンに導入することにより、TRCにおける治療プログラム実施に係る能力強化を目指す。当国の「薬物対策国家行動計画 2015-2020(注6)」で挙げられている5つの戦略の柱のうち「違法薬物需要削減戦略」において、「治療及びリハビリテーション」はこの戦略を推進するプログラムとして位置付けられており、本事業は、薬物依存症治療プログラムサービス提供者の能力強化を図る点で、本行動計画に貢献するものである。また、「フィリピン開発計画 2017-2022(注7)」において、違法薬物対策は現政権の重点政策であることが述べられており、本事業は、公衆衛生アプローチの介入により治療プログラムに係る課題解決に貢献するものである。

(3)違法薬物対策セクターに対する我が国及びJICAの援助方針と実績
我が国は、2016年10月26日に開催された日・フィリピン首脳会談において、薬物使用者の更正等を支援したい旨を表明し、日・フィリピン経済協力関係強化を確認した。これにより、日本政府は、フィリピン政府関係者等との協議を通じ、薬物使用者の更正及びリハビリ分野への具体的な支援を迅速に実施していく方針とした(注8)。続いて、2017年1月12日の日・フィリピン首脳会談においても、安倍総理大臣は、違法薬物対策に関し、日本は、民間の知見も活用してオールジャパンで協力することとし、同年2月の関係省庁高官の日本への招聘以降、治療施設の整備、治療プログラムの策定、人材育成・啓発活動に対する支援を行い、コロンボプラン(注9)と連携した更生支援も実施する旨を述べた(注10)。
対フィリピン共和国国別開発方針(2012年4月)においては、脆弱性の克服を重点分野として貧困層への影響の高い各種リスクの最小化が課題であるとし、保健医療等の分野におけるセーフティネットの整備を行うこととしている。また、対フィリピン共和国JICA国別分析ペーパー(2014年11月)では、横断的課題として、社会弱者への影響が大きい各種脆弱性の克服が挙げられている。本分野への対応は、我が国の協力方針及びJICAの分析に合致し、薬物依存症治療の改善を通じて健康な生活の確保に資することからSDGsゴール3に貢献するものである。

(4)他の援助機関の対応
EUの資金により当分野においてWHOの専門家を派遣し、コミュニティケアに関するガイドラインの作成等、技術支援を行っている。

(注1)2017年1月13日NHK放送「国際報道2017」

(注2)List of Drug Abuse Treatment and Rehabilitation Center - as of December 2015, Health Facilities and Services Regulatory Bureau, DOH
42施設のうち、宿泊型治療施設は39施設で、うち公立が14か所、民間が25か所。一方、通所型治療施設は3施設あり、うち公立が1か所、民間が2か所。

(注3)Executive Order No.04: Providing for the Establishment and Support of Drug Abuse Treatment and Rehabilitation Centers Throughout the Philippines

(注4)再発予防すなわち断薬の状態を継続させるための治療モデルで、米国ワシントン大学(当時)のG. アラン・マーラット氏によって開発された。再使用に至りやすいハイリスク状況を同定し、こうしたハイリスク状況への対処を学習する。アルコール依存、薬物依存から性犯罪や摂食障害の治療まで、適用範囲は広い。(G. アラン・マーラット、デニス・M. ドノバン (2011)『リラプス・プリベンション』(原田隆之訳)日本評論社)

(注5)マトリックス・モデルは、米国Matrix Institute on Addictionsが1980年代に開発した治療プログラムで、豊富な有効性に関する科学的根拠を有し、今日では米国を始め世界各国で実施されている。

(注6)National Anti-Drug Plan of Action 2015-2020, Dangerous Drugs Board

(注7)Philippine Development Plan 2017-2022, National Economic and Development Authority

(注8)2016年12月12日から16日まで薬物対策支援調査団が派遣され、協力ニーズについてフィリピン政府関係者との協議が行われた。

(注9)1950年に提案されたアジア太平洋地域の国々の経済社会の発展を支援する協力機構。日本も加盟国として1955年から研修員受入れや専門家の派遣といった技術協力を行った。

(注10)日・フィリピン首脳会談

目標

上位目標

フィリピンのTRC退所者の健康状態や生活状況が改善する。

プロジェクト目標

フィリピン政府における施設ベースの薬物依存症治療サービスを効果的に提供するための機能・体制が強化される。

成果

成果1:全国で適用可能な薬物依存症治療モデル(INTREPRET)と研修システムが開発される。
成果2:INTREPRETの有効性が科学的な研究手法により実証され、それに伴いフィリピン政府の研究実施機能が強化される。
成果3:保健省の薬物依存症治療サービスのスーパービジョン機能が強化される。

活動

成果1に係る活動

1-1 社会・文化に配慮したINTREPRET試用版(タガログ語版患者用ワークブック、治療プログラムセッション手順書、プログラムセッション評価用チェックリスト)を作成する。
1-2 パイロットTRCにINTREPRET試用版を導入し、適用性を評価する。
1-3 INTREPRETの研修モジュール試用版を作成する。
1-4 (パイロットTRC 3か所とは別の)2か所のTRCで研修モジュール試用版を運用し、実用性を検証する。
1-5 研修モジュールを完成させ、保健省の承認を受ける。
1-6 INTREPRET全国普及計画及び研修後のパフォーマンスモニタリング計画を作成する。
1-7 ビクタンTRCを国家薬物依存症治療研修拠点として機能させることのニーズと実行可能性を明らかにする。

成果2に係る活動

2-1 フィリピンの社会・文化的側面に着目した先行研究をふまえ、INTREPRETの有効性を評価する研究デザインを作成する。
2-2 TRC新規入所者に使用する薬物依存症アセスメント用心理尺度を開発する。
2-3 薬物依存症治療の有効性を評価する心理尺度を開発する。
2-4 INTREPRET試用版を評価するためのデータ収集を行う(活動1-2と連動して実施)。
2-5 INTREPRETの研修システムを評価するためのデータ収集を行う(活動1-4と連動して実施)。
2-6 データ解析を行い、研究結果をフィリピン及び海外の研究者に向けて発信する。

成果3に係る活動

3-1 薬物依存症治療サービスのスーパービジョン指針を定める文書(スーパービジョン項目、報告手順、レビュー会合開催方法などを含む)を作成する。
3-2 スーパービジョン指針に基づいて、地域レベル、中央レベルでのモニタリング評価活動実施を促進する。

投入

日本側投入

1)専門家派遣:チーフアドバイザー、業務調整、等120M/M
2)研修員受入:本邦研修、第三国研修
3)機材供与:プロジェクト活動に必要な機材

相手国側投入

1)カウンターパートの配置
プロジェクト・ダイレクター:保健省次官
プロジェクト・マネジャー:保健省DDAPTPマネジャー
技術コーディネーター:ビクタンTRC及びタガイタイ TRC医療専門官
その他のカウンターパート
2)執務スペース及び必要機器
3)ローカルコスト(プロジェクト実施に必要な運営費)
4)カウンターパートのフィリピン国内移動旅費
5)プロジェクト活動に関連する必要なデータの提供

外部条件

・フィリピン政府の不法薬物禁止に対する政治的、経済的な方向性が著しく変化しない。
・TRCへの新規治療方法の導入について、影響力のある外部団体から不当に妨害されない。

関連する援助活動

我が国の援助活動

1)無償資金協力「違法薬物使用者治療強化計画」(2017年)
2)コロンボプランを通した支援(フィリピン対象地域5か所にて違法薬物対策に係るコミュニティケアトレーナー育成の協力について検討中。)
3)本邦招へい事業(2017年2月及び7月の2回に亘り、フィリピン薬物対策に係わる高官を招聘し、日本国内の薬物依存症治療施設及び啓発現場の視察等を実施。)
4)課題別研修「犯罪者処遇(矯正保護)」「犯罪防止及び刑事司法」

他ドナー等の援助活動

EUの資金により当分野においてWHOの専門家を派遣し、コミュニティケアに関するガイドラインの作成等、技術支援を行っている。TRC及びコミュニティで取り入れる治療プログラムが一貫性・整合性のとれたものとなるようWHOと連絡調整していく。