プロジェクト概要

プロジェクト名

(和)フィリピンにおける狂犬病排除に向けたワンヘルス・アプローチ予防・治療ネットワークモデル構築プロジェクト
(英)The Project for the Establishment of the One Health Prevention and Treatment Network Model for the Elimination of Rabies in the Philippines

対象国名

フィリピン共和国

署名日(実施合意)

2018年4月26日

プロジェクトサイト

中部ルソン地域のパイロット市及び郡を含む州

協力期間

2018年8月20日から2023年8月19日

相手国機関名

フィリピン熱帯医学研究所、フィリピン国立サンラザロ病院

背景

(1)当該国における保健セクターの開発実績(現状)と課題

狂犬病はイヌなどの感染哺乳動物からの咬傷曝露により感染し、発症すれば重篤な神経症状を伴い、ほぼ100%死亡するウイルス性人獣共通感染症である。発症後の治療法は未だ確立されておらず、感染動物のコントロールと咬傷曝露を受けた人への発症予防策を徹底する必要がある。狂犬病はWHOにより顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases:NTDs)のひとつとして分類されており、主に、僻地での脆弱な貧困層に影響を与える感染症である。

フィリピンでは年間200人~300人の狂犬病による死亡例が保健省により報告されており、狂犬病が公衆衛生上の重大な問題として捉えられている世界上位10か国のひとつとされている。同国は2007年に制定された「共和国令第9482号 狂犬病対策法」に基づき、2020年までの狂犬病排除を目標に保健省が農業省と協力して「国家狂犬病予防対策プログラム(National Rabies Prevention and Control Program:NRPCP)」を実施している。主な対策として、犬への集団ワクチン接種、頭数管理と移動制限/管理、サーベイランスとアウトブレイク・レスポンス、曝露後発症予防(Post-Exposure Prophylaxis:PEP)、ハイリスク・グループへの曝露前予防投薬(Pre-Exposure Prophylaxis:PrEP)、啓発活動など、国際的に定められた狂犬病制御のための方策が含まれ、撲滅に向けた取り組みがなされている。しかしながら、脳組織を用いるイヌ狂犬病の診断を実施する施設は限られており、かつ、時間や労力を要する。また農業セクターによる加害動物の狂犬病ウイルス感染状況に関する情報の取得や医療機関との連絡体制といったワンヘルス・アプローチ(注)によるサーベイランス・システムも未だ十分に機能しているとは言えない。さらに、咬傷曝露者においてもPEP標準接種法の未完遂例も多く、重度の曝露で行われるグロブリン製剤投与が供給不足等により実施されないケースもある。

このような状況が依然フィリピンで狂犬病が撲滅できない要因にもなっており、これらの諸問題を解決するために新しい科学的根拠に基づいた狂犬病制御のための方策を実装する必要がある。

(注)人、動物、環境の衛生に関する分野横断的な課題に対し、関係者が連携してその解決に向けて取り組むという概念を表す言葉。

(2)当該国における保健セクターの開発政策と本事業の位置づけ

フィリピン保健省では狂犬病対策を重視し、「共和国令第9482号 狂犬病対策法」に基づきNRPCPにより2020年までの狂犬病排除を目指している。

本事業は狂犬病を根絶している我が国の知識や経験を背景に、国際科学技術協力をJICAの技術協力の枠組みで実施することにより、新規診断法開発やワンヘルス・アプローチによるサーベイランス・システムの強化、根拠に基づく介入手段の開発を行うことで、狂犬病排除のためのフィリピン政府の具体的な施策である上記プログラムの実施に貢献するものである。

(3)保健セクター対する我が国及びJICAの援助方針と実績

2014年7月に閣議決定した「健康・医療戦略」の中では、基礎研究から実用化までの一貫した研究開発の推進や、政府開発援助(ODA)を活用して公衆衛生危機への対応を強化することなどが言及されている。本事業は研究成果の社会実装を強く意識した地球規模課題対応国際科学技術協力(Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development:SATREPS)の枠組みのもと、公衆衛生上重大な問題として捉えられている狂犬病制御へ向けた取り組みであり、我が国の方針に直接的に貢献する。

また、我が国の「フィリピン共和国国別開発協力方針」(2012年4月)では、「脆弱性の克服と生活・生産基盤の安定」が重点分野(中目標)のひとつとして掲げられている。具体的には、「感染症など、特に貧困層への影響が大きい各種リスクに対する脆弱性の克服及び生活・生産基盤の安定・強化を図るべく、保健医療などの分野におけるセーフティネットの整備を行う」とあり、本事業で実施する狂犬病排除に向けた国際共同研究・技術協力は同項目に合致するものである。

保健セクターにおける関連の支援実績としては、1979年に無償資金協力「熱帯医学研究所設立計画」により、熱帯医学研究所(Research Institute of Tropical Medicine:RITM)が設立され、1980年から1988年にかけて技術協力プロジェクトによる研究実施能力強化の支援が行われた。また、フィリピンではこれまでに感染症分野のSATREPSプロジェクトとして「レプトスピラ症の予防対策と診断技術の開発プロジェクト」(2010年~2015年)がフィリピン大学をカウンターパート機関として実施され、2011年からは本事業の実施機関であるRITMをカウンターパート機関とした「小児呼吸器感染症の病因解析・疫学に基づく予防・制御に関する研究プロジェクト」が開始され、2017年3月に終了した。本事業は、フィリピンにおいて3件目の感染症分野のSATREPSプロジェクトとなる。

(4)他の援助機関の対応

保健省及び農業省がリードする「国家狂犬病予防対策プログラム」には様々な分野のパートナー機関が参画しており、WHOやビル&メリンダ・ゲイツ財団も主要メンバーとして名を連ねている。本事業ではJICA専門家や保健省からのプロジェクトメンバーを通して同プログラムと協調してプロジェクト活動を実施することが想定されている。