2013年1月30日
SSTVR(国営南スーダンTV・ラジオ、職員290名)を公共放送化したいという南スーダン政府の求めに応じてJICAが画期的なプロジェクトを始めた。
NHKインターナショナルに委託して公共放送としての人材育成や組織強化を支援しようというものだ。NHKインターナショナルが、今後4年間にわたってSSTVRで報道や番組制作、それに放送機材管理を行う人材を育成し、組織づくりのお手伝いをする。今回、8名のメンバーで首都ジュバを訪れ、情報省やSSTVRの幹部と今後の方針について枠組みを協議、合意にいたった。
SSTVRは独立前は北のスーダン放送の「地方中継局」のひとつだった。従来からある施設は貧弱で、機材は海外からの支援や独自で細々と買い入れていたものがあるのみ。加えて埃がひどい気候で、メンテナンスも的確でないため故障しやすく、中継機材室には壊れたカメラ15台とVTR3台が修理されないまま山積みになっていた。修理するにも予算がなく、そのルートが確立していないのだ。折りしも近隣諸国を訪問していた大統領の動向を伝えるTVニュースは、主に伝送写真による構成。それでも動画は外部のインタ—ネットカフェ等でデータ伝送を受けて15秒ほど使っていた。局で契約しているインターネットの通信費が支払えず、通常はネットに繋がってないためだ。
原稿作成用のパソコンは数が少なく、サーバーに繋がっているのは1台のみ。テレビとラジオのスタジオが1つずつあるが、素人が作った(TV技術局長)ため、収録中雨が降ると雨音が聞こえてしまうという。中継車は2006年に導入したものが、ラジオ・テレビ用に各1輌ある。使うのは新年、独立記念日、クリスマスの年3回だけ。予算と要員、そして使い方のノウハウ不足のためだ。
テレビの地上波は出力が弱く、画面はかなり粗い。日本では許されない画質だ。
プロジェクトはこのSSTVRの職員の取材・制作・技術能力の向上に貢献し、公正・中立な公共放送になるための支援をし、視聴者を増やそうという、「きわめて野心的な」(欧米のメディア関係者)ものだ。国連とスイスの財団が多額の資金を出して全土でFM局を運営している「Mirayaラジオ」の設備・機材を見たが、最新鋭のものがそろっていて、大人と子供ほどの違いに唖然とした。
救いは、やる気ある若い職員がいることだ。ニュースデスクの一人はケニアの大学卒で「ケニアなら月2千ドルになるが、ここでは4百ドル。でも独立後の新しい国づくりに貢献したいと思い帰ってきた。」と話す。室井専門家がスタジオで開いた即興の「照明研修」では、若い技術職員が熱心に聞き入っていた。連日の現場ヒアリングでは、これからの我々に対する期待、特に現場で喫緊に必要とされる機材の供与や、それを使っての取材、制作、技術の能力を高めたいという職員の意欲を、全員が感じることができた。
原田誠(総括/放送局運営/民主化)
SSTVRの敷地
壊れて放置されたカメラ
唯一のTVスタジオでの夜のニュース収録の様子