平和構築案件との連携・ゲジラ州にダルフールからの視察団をお迎えしました

2018年8月1日

スーダンでは、本プロジェクトのような保健分野での活動のみでなく、教育、農業、水資源といった、人々の生活と密接に関わる分野で、JICAによるさまざまな活動が展開されています。かつて国内での紛争を経験したスーダンでは、平和構築に向けた支援に対するニーズも高く、JICAはダルフールやカッサラといった地域を対象として、社会の復興につながる活動を続けてきました。中でも、ダルフール3州を対象とする「公共サービスの向上を通じた平和構築プロジェクト(愛称SMAPII)」は、この分野の代表的なプロジェクトの一つです。

SMAPIIでは、保健・衛生状態の改善など、生活に密着した活動に住民が積極的に関わることにより、コミュニティにおける住民同士の連携を強化することを目指しています。その活動の中には、コミュニティ保健委員会(Community Health Committee:CHC)の組織強化や、コミュニティレベルの保健人材による保健衛生教育の普及など、本プロジェクトと共通する部分も多く含まれています。そこで、二つのプロジェクトの関係者が情報交換を行う場を設け、互いの経験から学び合うための連携の機会として活用しよう、というアイディアが生まれました。このアイディアは、2018年1月27日~28日の2日間、ダルフールからゲジラ州への視察団の受け入れという形で実現しました。

視察団は北・南・西のダルフール3州の保健省職員、CHCの代表者など、約50名の大グループでした。視察の初日にはゲジラ州保健省による歓迎会が行われ、連邦保健省やJICAスーダン事務所、本プロジェクトの関係者など、総勢80名が参加しました。

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プロジェクト活動の紹介を行うダルフール側の代表者。

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遠方からの視察団を迎え、普段よりもお洒落に気合が入るゲジラ州の保健省職員。

翌日、本プロジェクトは視察団を支援対象コミュニティに案内し、CHCの活動や保健衛生の改善に向けた取り組みについて紹介しました。ここでは、視察先の一つであった東ゲジラのアルバシャグラ・コミュニティでの視察の内容について報告します。こちらは本プロジェクトの支援対象の中でも優良事例の一つとして挙げられるコミュニティで、CHCを中心として、積極的な活動が行われています。

視察ポイント1:CHCによる年間計画の策定と実際の取り組み

本プロジェクトでは、対象コミュニティのCHCに年間の活動計画の策定を指導し、活動の進捗についてモニタリングを行っています。アルバシャグラでは、保健サービスとアクセスの改善という目標の元に、救急車両の確保、ヘルスセンターの水周りの整備、住民への保健衛生教育などの具体的な活動が計画されています。CHCによる熱心な呼びかけに応じ、コミュニティの住民は車両や寄付の提供、保健ボランティアとしての参加など、さまざまな形で活動計画の実現に向けた協力を行っています。救急車両の確保については、ピックアップトラックを所有する男性がCHCの呼びかけに賛同し、必要時には自分の車を救急車両として役立てたいと申し出ました。彼は、視察団に対して、コミュニティのために貢献できることを誇りに思う、と話していました。
ヘルスセンターの水周りの整備は、住民による寄付を集めて実施されていました。また、住民への保健衛生教育は、保健ボランティアや本プロジェクトの支援によるスクールヘルス活動によって積極的に進められており、年間計画に沿った活動が着実に実行されていました。

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CHCが作成したアクションプラン。保健センターに貼り出されているため、住民にも内容が周知されている。

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救急搬送の車両。所有者の携帯の番号と「無料」という文字が大きく記されている。

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保健ボランティアによる手作りの保健衛生教育用の教材。

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小学生が演じる、マラリア予防についての寸劇。本プロジェクトによるスクールヘルス活動の一環。

視察ポイント2:SNSを活用した住民の結束

アルバシャグラには病院がなく、最も近い病院へ行くにも1時間以上かかります。このため、コミュニティ内に救急病院を整備することが住民の悲願となっていました。そこで、CHCメンバーなど、コミュニティの中心人物が病院建設のための募金活動を開始し、集まった資金で施設の建設に着手しました。資金集めの原動力となっているのがソーシャルネットワークサービス(SNS)のアプリケーション、WhatsApp(ワッツアップ)です。寄付金が確実に建設費として活用されていることを示すため、SNSを通じて資金の支出入に関する情報が常にアップデートされるほか、写真や動画で工事の進捗が共有されています。アルバシャグラでは、湾岸諸国での仕事に従事する人が多く、彼らの寄付が病院建設費の多くを支えています。SNSは遠く離れた彼らとコミュニティを結びつける強力なツールとして機能しています。

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建設中の救急病院。幹線道路沿いに位置しており、コミュニティ外からの利用者も期待できる。

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病院の後方に整備された給水搭。将来的に病床数を150床とする計画だが、十分なキャパシティを備える。

さらに、アルバシャグラでは、SNSを通じた住民のアイディアを元に、女性や若者の所得創出のための施設(コミュニティ開発センター)の設立も行っています。土地、建物だけでなく、ミシンや縫製道具などの備品に至るまで、すべて住民による寄贈物資で整備されたこの施設は、洋服や編み物といった手作りの品の生産・販売の場として活用されており、コミュニティの女性たちに貴重な現金収入を得る機会をもたらしています。

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コミュニティ開発センターで縫製作業に励む女性たち。学校の制服の縫製、販売も行っており、他店よりも安価で良質と好評である。

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同センターに展示されている編み物製品。生産者の女性は、売上げで子供に文房具を買ってあげられるようになった、と話していた。

後日談

ゲジラ州への訪問の後、ダルフールのSMAPII関係者からは次のような感想が寄せられました。
・「自分たちのコミュニティは、かなり進んでいると思っていたが、さらに進んだ住民主体の活動を見て、よい刺激を受けた」
・「募金によって自発的な活動を進めていることに感心した。子供から老人まで、住民の一人ひとりが、保健活動の推進のために小額でも寄付を行っていると聞き、我々が外部からの支援に慣れてしまっていることに気づかされた。」
・「SNSの活用方法は参考になった。アイディアや資金を募るだけでなく、活動の進捗や資金の管理について頻繁に情報をアップすることで、活動の透明性を高めるためのツールとしても使えることを学んだ」

視察団を受け入れたことは、ホスト側のゲジラ州保健省とアルバシャグラ・コミュニティにとっても、今後の活動を進める上での活力となったようです。アルバシャグラでは、自分たちの活動が「優良事例」として他州へ紹介されたことで、大きな励みとなった、自分たちの活動が評価されたと感じた、という声が多く聞かれました。遠く離れたダルフールからわざわざ視察団がやって来た、ということで、コミュニティ内でのCHCの存在感が一層高まった、というコメントもありました。

ダルフールとゲジラ、約1000キロも離れた場所に暮らす人たちが経験を共有し合った数時間。この出会いがお互いのコミュニティに何をもたらしていくのか、この先の変化に注目していきます。