本プロジェクトは、シリア国北部の農村部において、住民が必要な保健医療サービスへアクセスできるよう促すことによって、母子保健・リプロダクティブヘルス(RH)(注1)の状況が改善することを目指しています。
JICAは、2006年6月〜2009年3月の約3年間、シリア北部アレッポ県マンベジ郡で、「リプロダクティブヘルス強化プロジェクト(フェーズ1)」を実施しました。フェーズ1では、「保健センターにおける母子保健・リプロダクティブヘルスサービスの質の向上」と「住民の行動変容促進」を同時に行う手法が用いられました。2008年11月に行われた終了時評価では、保健センターのマネジメント力の向上やサービスの質が改善するとともに、地域住民のRHサービスの利用の拡大など一定の効果が確認されました。その後、シリア政府の要請を受け、フェーズ1で導入したアプローチのさらなる向上と、より多くの農村部への裨益拡大と定着を目指して、JICAはフェーズ2を実施することとしました。
このプロジェクト・フェーズ2は、2010年1月より3年間の予定で、実施されています。フェーズ2では、フェーズ1で導入したアプローチ(成果1と成果2)をより効果のあるものに改良することに加え、県・郡保健行政の計画・管理能力強化(成果3)というたいへん重要な成果も加わりました(図1参照)。
図1 プロジェクトのデザイン
プロジェクトの対象地域は、アレッポ県のマンベジ郡、アルバーブ郡、デルハーフェル郡と、イドリブ県のハンシフーン郡の、計4郡です(図2)。プロジェクトの裨益者は、県・郡の保健行政官(約50人)、プロジェクト対象地域の保健センター(その他プライマリケア施設2ヶ所を含む)のスタッフ(約415人)、および対象地域の15〜49歳のリプロダクティブ年齢の男女(約96万人)です。
図2 プロジェクト対象地域
本プロジェクトでは、以下の2つのアプローチを、カウンターパートと地域住民と一緒になって実施することによって、その効果が融合(インテグレーション)し、相乗効果をもたらし、最終的に住民がRHに関する正しい行動を起こすこと(行動変容)を目指しています(図3)。
保健センター(Health Center:HC)のRHサービスの質の向上と供給量の拡大を目指して、(1)マネジメント能力の向上(研修やスーパービジョン、5S(注2)の概念の導入など)、(2)スタッフのモチベーションの向上(コーチングなど)、(3)利用者から目に見える変化(基礎的医療器材の整備、ユーザーフレンドリーな環境作りなど)、に取り組んでいます。
地域において、さまざまな方法でRHメッセージを伝え、住民の行動変容を促しています。地域組織、宗教指導者、地域リーダーを包括的に巻き込んで、3種類の保健教育活動((1)保健センターでのマス教育、(2)アウトリーチ(出張訪問)によるグループセッション、(3)助産師や保健ボランティア(CommunityHealth Volunteer:CHV)の家庭訪問による個別指導)を展開します。また、妊婦の98%が利用していると推計される民間クリニック(出典:プロジェクトKAP調査2010年)とも連携し、RHメッセージを伝えてもらいます。
図3 2つのアプローチ
また、このようなアプローチがプロジェクト終了後も継続されるように、県・郡の保健行政官の能力向上にも力をいれています。まず、これまでほとんど独自に保健行政を計画・施行することがなかった郡保健事務所に対して年間保健活動計画を策定するよう指導しています。また、この計画に基づく、郡内の研修制度の確立、スーパービジョン制度の体系化、地域保健教育制度の組織化と推進等を促しています。
日本の戦後の地域保健の仕組みや、家族計画普及に取り組んだ公衆衛生院(当時)の「計画出産モデル村」、官民の助産師や保健師の指導員としての取り組み、企業による「新生活運動」などを参考にしています。
家族計画普及活動に長い実績のある「シリア家族計画協会」や、地域での各種教育活動を実施している婦人連盟、教職員組合、そして地域を束ねている政党及びその支援団体や宗教リーダーなどの力を借りて、持続可能な包括的地域活動を展開します。
プロジェクト対象地域において、マンベジ郡で1名の保健師が活動しています。また今後、アルバーブ郡、ハンシフーン郡にも保健師・看護師隊員が派遣される予定です。地域にしっかり根を下ろして活動するこれら隊員と情報交換しながら、必要に応じて一緒に活動するなどして連携します。
プロジェクトの実施体制は、図4のように、中央レベルにプロジェクトステアリング委員会、プロジェクト対象地域の県レベルに技術委員会、郡レベルに郡ワーキングチームを設置しています。垂直方向だけでなく、水平方向の情報共有や連携にも力を入れています。
図4 プロジェクトの実施体制