プロジェクト概要

プロジェクト名

(和)交通安全に関する組織能力および実施能力向上プロジェクト
(英)Project on Capacity Improvement for Road Traffic Safety Institutions and Implementation in Thailand

対象国名

タイ

署名日(実施合意)

2020年10月13日

協力期間

2020年12月11日から2023年12月10日

相手国機関名

タイ運輸省(交通安全オペレーションセンター、情報通信技術センター、国道局、地方道路局、陸上交通局)、タイ国家警察

背景

タイ王国(以下、「タイ」という。)は、世界銀行(WB)の公表データによると2018年GDPが約5,050億米ドルに達し、10年前の2008年GDPと比較すると1.73倍になる等、順調な経済成長を遂げてきた。一方で、経済成長に伴う同国のモータリゼーションが加速しており、それに伴う交通混雑の深刻化や交通事故の多発など交通環境の悪化が顕著となっている。2015年に世界保健機関(WHO)が公表した「Global Status Report on Road Safety 2015」によると、2012年データに基づくタイにおける人口10万人あたりの交通事故死者のWHO推計値は36.2人に達し、ASEAN諸国の中で1番目、世界でも2番目に多い状況であった。同国運輸省(Ministry of Transport。以下、「MOT」という。)も交通事故死者数がワーストクラスである状況を深く憂慮しており、国際連合(UN)が2010年3月2日に決議した「交通安全のための行動の10年(UN Decade of Action for Road Safety 2011-2020)」(国際連合総会決議64/255号。以下、「国連決議」という。)に沿って、2020年までに交通事故死者数を2010年比で半減させることを目標として交通安全対策を進めているが、期待通りの効果が上がっていない。先頃公表された「Global Status Report on Road Safety 2018」では、同国の人口10万人あたり交通事故死者数は32.7人と推計されており、ASEAN諸国で1番目、世界でも9番目に多い状況であり、高止まりしている。
JICAプロジェクト研究「開発途上国における交通安全への取り組み」(2016年6月)では、タイにおける交通死亡事故の7割がオートバイ(含む三輪自動車)によるもので、事故要因の多くがスピード超過や車線変更時の確認不足、車間距離不保持といったヒューマンエラーに起因していることが報告されている。加えて、MOT、タイ王国国家警察(Royal Thai Police。以下、「RTP」という。)、保健省(Ministry of Public Health。以下、「MOPH」という。)、病院・保険会社を始めとする民間組織等の各機関・組織で異なる交通事故データが保持されており、各々の情報共有が成されないことで交通事故の実態や事故要因が把握されていない、といった問題点が指摘されている。
このような現状に鑑み、MOT大臣から日本の国土交通大臣に対して、交通安全対策についてのノウハウを日本に学びたい旨、要請があり、2016年8月6日に両大臣間で覚書が締結された。この覚書に基づき、同国政府機関及び日本国国交省の担当職員からなるWorking Group(WG)が設置され、同国職員の日本での研修の実施や、国交省による交通安全分野の産官学関係者の現地派遣を通じ、交通事故多発地点の対策についての議論・助言が行われてきた。これまで数次に渡るWG実施を通じて、同国の交通安全状況の改善に対する協力がなされてきたところであるが、同WGの活動にて、より体系的かつ中長期的に改善に取り組む必要性が確認され、この度MOTは我が国に対して「交通安全に関する組織能力および実施能力向上プロジェクト」の実施を要請した。

目標

上位目標

タイ全国の道路交通事故による死者数が減少する

プロジェクト目標

道路交通安全に関する組織能力および実施能力が向上する

成果

1.新交通事故管理システム(New-TRAMS)の信頼性および利用状況の改善
2.国道および/または高速道路上のパイロット区間での活動を通じた安全な道路対策の策定・実施
3.パイロット地域の県道および/または市町村道路での包括的な交通安全プログラムの実施
4.運転免許制度および商業車両の運行管理にかかる交通安全のための陸運行政の改善

活動

成果1に係る活動

1-1.タイ王国国家警察(RTP)、保健省(MOPH)、内務省(MOI)およびe-claim(保険会社)と強調しているNew-TRAMSをレビューする。
1-2.死亡事故、重軽症事故、対物事故など各種事故規模感・レベルに基づく事故捜査の新しい枠組みを策定する。
1-3.運輸省(MOT)および関係機関を対象として、交通事故捜査に関する研修を行う。
1-4.試行的に指定地域のデータを用いてNew-TRAMSの信頼性を向上させる。
1-5.詳細事故分析にかかるMOTおよび関係機関の能力を向上させる。
1-6.データ分析結果を含む四半期・年次事故報告書を発行する。
1-7.交通安全オペレーションセンター(TSOC)の役割を詳細にレビューし、行動計画を提案する。

成果2に係る活動

2-1.国道および/または高速道路における事故多発地域の事故データ・情報を収集する。
2-2.事故多発地域を分類し、パイロット事業対象として優先度の高い道路区間を選定する。
2-3.パイロット事業の実施に向けた事故多発地域の改善計画を策定する。
2-4.MOTおよび関係機関によって実施される事故多発地域でのパイロット事業を支援する。
2-5.交通流の前後比較分析に基づいて、パイロット事業の有効性を評価する。
2-6.パイロット事業にて得られた成果を含む、交通安全に係る技術マニュアル「交通安全技術グッドプラクティス」を作成する。

成果3に係る活動

3-1.MOTおよび関係機関と協議のうえ、成果3に係るパイロット地域を選定する。
3-2.利用者、車両、道路環境に関するデータを収集し、参加型手法を通じて地域住民と協力することにより、成果3に係るパイロット地域の県道および/または市町村道における交通安全上の高リスク発生地域・区間および危険な行動を特定する。
3-3.危険行動と対策の関係を決定し、子供やその保護者を対象とする安全プログラムをも考慮したパイロット地域での包括的な交通安全プログラム(工学面、教育面、取締面の対策含む)を策定する。
3-4.MOTおよび関係機関によって実施されるパイロット地域での包括的な交通安全プログラム(交通安全教育および交通取締りの指導者研修、啓発活動含む)を支援する。
3-5.包括的な交通安全プログラムの有効性評価に必要な手法を作成する。

成果4に係る活動

4-1.学科試験、講習、実技訓練を含むオートバイにかかる免許制度を改善する。
4-2.学科試験、講習、実技訓練用の研修教材を開発する。
4-3.成果4に係るパイロット地域において、オートバイ免許の取得を奨励する。
4-4.交通違反者や免許更新者を対象とした再教育プログラムを提案する。
4-5.商業車両の交通事故データを収集・分析する。
4-6.MOTによる商業車両の安全運航管理の監督を支援する。

投入

日本側投入

専門家派遣、機材供与(必要に応じて)、研修員受け入れ(カウンターパートの本邦研修受け入れ)

相手国側投入

カウンターパートの配置、パイロット事業に関する費用