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人身取引の定義

「人身取引」とは、搾取の目的で、暴力その他の形態の強制力による脅迫若しくはその行使、誘拐、詐欺、欺もう、権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずること又は他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われる金銭若しくは利益の授受の手段を用いて、人を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、又は収受することをいう。搾取には、少なくとも、他の者を売春させて搾取することその他の形態の性的搾取、強制的な労働若しくは役務の提供、奴隷化若しくはこれに類する行為、隷属又は臓器の摘出を含める。

出典:「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書」(略称 国際組織犯罪防止条約人身取引議定書)(2000年)、第三条、外務省訳、http://www.mofa.go.jp/MOFAJ/gaiko/treaty/treaty162_1.html)

人身取引被害者の数

  • 米国国務省は毎年80万人が国際的な人身取引の被害にあっていると推定している(米国国務省2008 p.7)。
  • UNIFEMは年間の人身売買被害者の数を50万人から200万人の間との推計を紹介、その大部分が女性であるとしている(UNIFEM 2008 p.5)。
  • ILOによると、世界中で年間245万人の人が人身取引されて強制労働させられており、これにより320億USドルの利益が生み出されている。そのうち30%はアジアで生み出されている(UNIAP 2007 p.10)。
  • UNODCは71カ国のデータが可能な国の調査結果から、2003年から2006年の間に人身取引被害者が27%増えたとしている。(UNODC 2009 p.48)
  • UNODCが155カ国から集めたデータによると、人身取引の79%が性的搾取で、18%が強制労働の被害者である。性的搾取の被害者は大半が女性である。(UNODC 2009 p.6)

以上のように人身取引に関するデータの推計は困難である。その理由は、

  1. 人身取引は違法であることから、表にでにくい。
  2. 特に、性産業で働かされていた人は自身が人身取引被害者であることを名乗りでにくい。
  3. 人身取引被害者の定義が共有されておらず判断が違うことがある、などによる。

従って、公表された被害者数の背後に多くの隠れた被害者がいることを忘れてはいけない。

タイにおける人身取引の現状

  • タイは送出国であり、受入国であり、経由国である。タイからマレーシア、日本、米国などへ送り出されている。また、周辺国から経済力の高いタイに送り込まれてきたり、タイを経由して他の国に送り出されている。

【図】

  • タイにおける人身取引は、性労働、建設労働、農業労働、工場労働、漁業労働、物乞い、偽装結婚などさまざまな形態で行われており、複雑である。
  • タイにおける人身取引被害者数を示すデータはないが、人身取引対策部(BATWC)が保護した被害者数は以下の通り。しかし、政府を通さず政府以外の機関(国際機関、NGO等)から支援を受けた被害者、誰からも支援を受けずに帰国した被害者、被害者と認定されず強制送還となってしまった被害者などがあり、実際の被害者の数はこれにとどまらないことに留意すべきである。

海外で被害にあったタイ人被害者

  • 人身取引対策部(BATWC)が支援した、海外から帰還したタイ人被害者は、2003年度 199人、2004年度143人、2005年度207人、2006年度148人、2007年度278人、2008年度158人、2009年度は60人であった。
  • BATWCが2003年度から2009年年度の間に支援した、被害者を含むタイ人帰還者総数は1,193人。国別内訳では、多い順にバーレーン、マレーシア、日本、南アフリカとなっており、この4カ国からの帰還者が全体の約75%を占めている。バーレーンが最も多く全体の約27%、日本から帰還した被害者は17%である。

※ ここでいう年度はタイの会計年度(10月〜9月)をさす。

タイ国内で被害にあった外国人被害者

  • 1999年から2009年9月末までの間に、タイ国内において人身取引被害者と認定され、BATWCに保護された外国人は4,121人。うちラオス人、カンボジア人、ミャンマー人が98%を占めている。被害者数は年により増減があり、過去10年の動向からは増えているとも減っているともいえない。
  • 2009年9月末現在、BATWC管轄下の人身取引被害者のための長期シェルターに滞在している外国人被害者は372人で、国籍別では全体の60%がミャンマー、31%がラオスである。

タイ政府による人身取引の取り組み

タイ国内における取り組み

  • 1997年、「女性及び子どもの人身取引に関する保護および禁止法」策定。
  • 2003年、人身取引された女性及び子どもの保護及び支援を目的とする「女性と子どもの国内外における人身取引の予防、抑制、対策にかかわる国家政策及び計画」 を策定。
  • 2003年、政府関係者とNGOの間で以下の3つの協定書が交わされた。
    1. 政府の諸機関の間の協定書
    2. 政府とNGOの協定書
    3. NGOの活動に関する協定書

      2003年の計画および協定書は画期的なものである。これにより犯罪者ではなく被害者と見なされ支援が受けられるようになった。また、政府・NGO関係者の責任と協力体制が明確になった。

  • 2003-2008年、タイ国内7地域全域で、地域内の関係者の協力を約束した協定書(MOU)が結ばれ、社会開発人間安全保障省、県知事、NGO等が署名した。
    この中で、各県に「被害者の保護・支援」のために多分野協働チーム(MDT:Multi-Disciplinary Team)を設置することがうたわれた。
  • 2008年、人身取引対策法(The Anti-Trafficking in Persons Act 2008)が制定された。
    • 保護・捜査の範囲が拡大され、男性も保護の対象になり、加害者の処罰が厳罰化された。
    • 法律が制定された6月5日を反人身取引デーとした。
    • 被害者受け入れのための緊急シェルターが各県に設置された。
    • 2009年、人身取引被害者を含む暴力等被害者のためのホットラインを全国展開し、各県のシェルターで24時間対応可能とした。

国際的取り組み

2004年にメコン地域の周辺国(カンボジア、ラオス、ベトナム、ミャンマー、中国)政府の間で人身取引対策に協力して取り組む協定(COMMIT MOU)が結ばれた。

2003〜2009年の間にタイ政府とカンボジア、ラオス、ベトナム、ミャンマー各国政府の間で人身取引被害者の保護と送還に関する協力に関する二国間協定(MOU)が順次締結された。

プロジェクトの活動分野—被害者の保護

  • 人身取引対策は大きく4Pがある。4Pとは(政策(Policy), 予防(Prevention), 保護(Protection), 訴追(Prosecution))である。本プロジェクトは、そのうち被害者の保護(Protection)に重点を置いている。 (下記図参照)
  • ここでいう人身取引被害者の「保護」には、被害者の帰国受け入れ、救出、被害者としての認定、心身の健康および社会的状態のアセスメント、福祉サービスの提供、心理的・身体的回復支援、教育・職業訓練の提供、加害者訴追のための事情聴取・法廷での証言等の支援、損害賠償などの法的救済措置の適用支援、人身取引被害者基金申請、本国への送還、社会復帰支援などのすべての過程を含む。

【図】

被害者保護と多分野協働チーム(MDT: Multi-Disciplinary Team)

  • タイ政府は人身取引被害者の保護・支援にあたり、MDTのアプローチを導入しており、中央政府レベル及び県/地方自治体レベルでMDTを形成して対応することになっている。
  • MDTは多様な専門家や専門分野の機関が協働して虐待を受けた人や困難な状態にある人を支援する方法をいう。
  • 人身取引対策のMDTメンバーには、警察官、ソーシャルワーカー、シェルター職員、NGO、弁護士、医療関係者のほか、入管、検察、労働省、外務省の職員などが含まれる。
  • 被害者の事例毎に関係するメンバーが招集されMDTを形成する。招集はメンバーの提案に基づきBATWCが行う。

被害者保護におけるMDTのかかわり方(タイ国内における被害者保護を想定)

【図】

【参考文献】