ベトナム社会主義共和国(以下、ベトナム)では、近年の経済成長に伴い、車両の増加、道路インフラの整備が進む一方で、道路交通安全に必要な行政による対策の遅れなどにより、道路利用者の無秩序かつ危険な交通行動が目立ち、交通流が至る所で錯綜しているため、交通事故は増加し、2007年には交通事故死者数は13000人を超え、大きな社会問題となっている。
このような状況下において、ベトナム公安省と各地方の公安部の交通警察を掌る部署では、道路交通法違反者の取り締まりや交通指導、信号機等による交通管理、交通事故処理、事故データの収集分析などの担当業務を懸命に推進している。
同省傘下の人民警察学院(以下PPA)は、交通警察官を含む警察官の養成を行うとともに、すでに警察の職場に就いている幹部職員の再訓練を行う組織として位置づけられ、また地方における警察官の教育・養成機関(人民警察大学、人民警察高等学校)を統括し、その講師を養成する役割も持っている組織である。しかし、現在、PPAやこうした関連教育機関(人民警察大学、人民警察高等学校)における教育内容は、近年の急激な交通状況の変化に十分に対応したものとは言い難く、その改善あるいは抜本的な改革が喫緊の課題となっている。
また、PPAでは、ベトナム全国から収集される交通事故データを分析し、効果的な政策提言を行なう機能を強化するため、公安省からの支援も得つつ、「交通安全研究センター」を立ち上げる準備も開始している。
この様な背景を踏まえ、本プロジェクトの実施がベトナム政府から日本政府に対して要請され、2010年1月のJICAによる詳細計画策定調査の結果として、プロジェクトの枠組みに関する討議議事録(R/D)が、2010年4月に署名され、本プロジェクトの開始に至った。
基本的にハノイ市を拠点とするが、人民警察学院(PPA)はベトナム全国の交通警察官を訓練する機能を持っており、ニーズを把握するという観点からは、業務対象はベトナム全土となる。
ベトナムの人民警察学院(PPA)において、「交通違反取締り」や「交通規則と交通管理」等の技術に関わる教育内容と教育方法を向上させること、PPAにおける「交通安全研究センター」の立上げ支援や、交通事故対策へのPPAによる政策提言機能を強化することを通じて、PPAにおける交通警察指導教官の能力を向上させることが、本業務の目的である。