2016年4月22日
当プロジェクトはこれまでベトナム国内で実施されてきたJICAの自然環境分野の協力成果を統合し、分野・組織横断的な取組によるさらなる成果の発揮を目指してスタートした、包括的な技術協力プロジェクトです。そのため、カウンターパート機関も農業農村開発省(MARD)や、天然資源環境省(MONRE)、各地方の人民委員会(PPC)や農業農村開発局(DARD)等多岐にわたり、関係者間での情報共有や共通認識の形成がプロジェクト成功のためには重要となっています。
こうした背景の下、ベトナム中央政府の幹部職員や、北西部のライチャウ省など5つの地方政府の副知事や森林政策担当者ら12人を対象に、日本の森林・生物多様性に関する研修を実施しました。なお、当プロジェクトからも宮薗チーフアドバイザーが参加しました。
研修生は4月11日から19日の9日間の日程で、和歌山県や京都府、山梨県等の行政機関や民間企業の方々にご協力いただき、日本の林業・森林政策や生物多様性保全の取り組みを学びました。
どの講義も研修生にとって実りのあるものとなりましたが、その中でも、和歌山県田辺市で視察した、「みなべ・田辺の梅システム」は、研修生達の中で特に印象に残っているようです。
昨年12月に国連食糧農業機関(FAO)の世界農業遺産に認定されたこの地域の梅林では、昔ながらの知恵やこの地域の自然環境とも調和した方法にて梅が生産されており、現在でもなお、地域における大きな産業の柱として地域に根付いています。
梅の栽培は斜面で行われていますが、梅の木の下には草を栽培するとともに、梅林の周辺に薪炭林を残すことにより、斜面の土壌流出を防ぐだけでなく、梅林へ水分や養分を上手く補給する工夫がなされています。また、薪炭林の樹木を原料とした、高品質の備長炭生産もこの地域では有名です。
我々が活動を行っているベトナムの農村地域においても、急峻な傾斜の山間部が大部分であり、そうした地域には多数の少数民族や貧困世帯が生活しています。そこでの人々の生活は森林から採取できる資源や、森林を開墾した焼畑等に依存し、生計は大変苦しいものがあります。
そうした人たちが焼畑等の代替となる生計向上手段を導入することを支援していくことは、貧困削減のみならず森林や生物多様性の減少や劣化を防止する観点からも極めて重要な取り組みです。
「みなべ・田辺の梅システム」の例は、周辺環境と調和・融合した産業の育成や、その持続性の観点からも、参加者にとって大変参考になったものと思います。
我々専門家としても、この「梅システム」のように、一過性のものでなく、プロジェクト終了後も長年にわたり地元に根付く取り組みを、省庁の垣根を超えて結束した今回の研修生と共に考え、進めて行きたいと思います。
また、今回の研修生は、プロジェクト活動のみにとどまらず、より広範な分野においてベトナムの将来を担う重要な立場の人たちです。是非、今回の研修の成果を活かし、この国の豊かな自然環境を残しつつ、持続的な発展を目指すことを念頭に置いて、この国を引っ張って行ってもらえたらと思います。