2019年の競争消費者庁年次報告書の公表

2020年4月29日

2020年4月29日、競争消費者庁は2019年の競争法の運用状況等に関する年次報告書を公表しました。

ここでは、2019年の年次報告書のうち、競争法の運用に関連する部分について簡単に紹介します。
なお、処理件数等の表に関しては、これまでの年次報告書に掲載されている数字等を用いて当方において取りまとめたものであり、2019年の年次報告書において、これらの表が掲載されているものではありませんので、この点、ご注意ください。

1.事件審査の状況

競争法は、2018年6月に第14回国会において改正され、2019年7月1日から施行されています。ただ、法執行機関である国家競争委員会の設立、機能、権限、組織構成等に関する政令(以下「組織政令」といいます。)が制定されていませんので、昨年7月以降においては、正式審査等の実施や法的措置等を行うことができない状況にあります。
このため、以下の件数については、特に断りがない限り、改正競争法施行前の昨年1月から6月までの件数等となります。

(1)競争制限協定及び市場支配的地位濫用

ア 処理件数

2019年における標記行為に関する審査決定及び事件処理委員会決定はなされていません。
なお、2019年における事前調査の件数については年次報告書上に記載はありません。

競争制限協定及び市場支配的地位濫用事件処理件数の推移
  2014 2015 2016 2017 2018 2019
事前調査(注1) 10 4 5 4 7 N.A.
審査決定(注2) 1 0 0 0 1 0
事件処理委員会決定 1 0 1 0 0 0

(注1)事前調査の件数については、改正前の競争法下で競争制限協定等と共に「競争制限行為」として扱われていた経済集中に関する事件が含まれている可能性があります。
(注2)改正前の競争法第86条(予備審査)又は同第88条(正式審査)に基づく決定が行われた事件数となります。

他方、年次報告書には、2019年9月に寄せられた、入札に関連して行われた行為に関する情報について調査等を行ったことが記載されています。
本件は、Bac Ninh省保健局発注の特定医療用品についてA社が同局と契約交渉を行うに当たって、特定医療用品を取り扱うB社がA社にこれを販売することの証明書が必要であったところ、B社はA社の競争業者であるC社に販売証明書を出していたことをもってA社に対する販売証明書の発行を拒否したという事例(競争制限協定に該当するおそれ)ですが、調査の結果、これらの事業者は、A社が当該契約を履行できるようにすることを約束するに至ったことが紹介されています。

イ 競争制限協定に係る適用除外

競争制限協定の禁止規定の適用除外に関する決定は、2019年においてはみられません。

競争制限協定に対する適用除外決定の状況
  2014 2015 2016 2017 2018 2019
適用除外決定 0 0 0 1 1 0

他方、2019年においては、2017年及び2018年に適用除外決定がなされた2件の事案について、当該決定に記載された条件等の関係事業者による遵守状況を監督したとしています。
なお、商工大臣は、2017年10月、ハノイ及びホーチミンとシャルルドゴール間の旅客サービス事業に係る2社間の共同運航事業について、また、2018年6月、ダナンとシンガポール間の2社間の共同運航事業について、それぞれ、3年間を期限として適用除外を認める決定をしています。

(2)経済集中

ア 届出等の状況

改正前の競争法においては、当事会社の合計シェアが30%以上50%以下となる場合に事前届出を行わなければならない(旧法第20条)とされています。
また、改正後において5件の届出がなされていますが、改正法では、1)当事会社(連結会社を含む。)の前会計年度のベトナムにおける総資産、2)同取引額、3)経済集中の取引価値、4)前会計年度の関連市場における合計市場シェアの4つの基準のいずれかに該当する場合に事前届出を行わなければならないとされています。

経済集中規制の運用状況
  2014 2015 2016 2017 2018 2019
1~6 7~12
届出 9 0 4 4 4 1 5
審査決定(注) 0 0 0 0 1 0 -
事件処理委員会決定 0 0 0 0 0 1 -

(注)改正前の競争法第86条(予備審査)又は同第88条(正式審査)に基づく決定が行われた事件数。

また、このような当事会社からの届出に基づく調査だけではなく、自ら探知した案件についても調査を実施しており、2019年は2件について職権探知による調査を行ったほか、2018年に職権探知により調査を行った5件のうち1件(グラブ・ウーバー事件)について、2019年4月及び5月に予備審査及び正式審査の決定を行っています。

イ グラブ・ウーバー事件

本件は、2018年4月、競争消費者庁が改正前の競争法に基づき職権により審査を開始した事件です。2019年6月17日、競争評議会の下に置かれた事件処理委員会は、両当事会社に罰則を科し排除措置を採るよう求める競争消費者庁の要請を却下する旨決定しています(No.26/QD-HDXL)。
当該決定に対し、競争消費者庁は、2019年6月25日、競争評議会に対して不服申立てを行っていますが、同年7月1日に改正法が施行されたため、本件の取扱いは、国家競争委員会の設置後に判断されることとされています。

ウ 経済集中規制に関する適用除外

改正前の競争法における経済集中規制では、一定の場合について同規制の適用除外とすることが可能となっており、直近の案件は、2014年に適用除外が認められた統合ATMスイッチングサービス等を提供する2社による経済集中(合併)です。

経済集中に関する適用除外決定の状況
  2014 2015 2016 2017 2018 2019
適用除外決定 1 0 0 0 0 0

当該事案では、社会経済開発又は科学的若しくは技術的進歩に資するとして、2014年12月、経済集中規制の適用を除外するとの首相決定(No.2327/QD-TTg)が出されています。
その決定では、科学的・技術的進歩に向けた計画を策定し実施するなどの条件が課され、競争消費者庁等が5年ごとに当該条件の実施状況を評価することとされています。

(3)不公正競争規制

2019年においては、誤認させる表示について4件、違法な多層式販売行為について1件、それぞれ処理しています。
なお、不公正競争行為に関する22件の申告が寄せられたものの、証拠不十分のため、申告人に関係資料が返却されたことが紹介されています。

不公正競争事件の処理状況
  2014 2015 2016 2017 2018 2019
1~6
誤解させる表示 1 1 0 0 1 4
不公正な競争を目的とした広告 6 18 15 9 3 0
不公正な競争を目的とした販売促進活動 0 0 0 0 1 0
違法な多層式販売行為 0 4 5 10 4 1
その他 0 0 0 0 0 0
合計 7 23 20 19 9 5

2.競争法遵守に向けた取組

競争消費者庁は、CJ CGV Vietnam Co., Ltd.に対して競争法の遵守状況等について調査を行ったほか、豚肉市場における公正・透明で競争的な市場環境を創造・維持し、経済効率性、社会福祉及び消費者利益を増進する観点から、同市場の調査チームに参加するなどの取組を実施したとしています。
また、競争消費者庁は、2019年8月にBinh Thuan省Tanh Linh地区人民委員会が同地区の教育・研修部及び各学校に対して同地区の児童・生徒のための保険を購入するに当たって特定の1社と調整するよう指示する文書(No.1489/UBND-VX)を発出したことについて、当該文書は市場における競争を阻害するものであり、国家機関による競争阻害行為を禁止する改正競争法第8条第1項に該当するおそれがある旨指摘し、同地区人民委員会は、当該文書を撤回しています。
さらに、当該指摘に併せ、競争消費者庁は、Binh Thuan省人民委員会商工局に対し、同省人民委員会がその傘下組織に向け、競争制限につながる行政文書を発出することのないよう指示することを求めたとしています。

【画像】

2019年版年次報告書の表紙