プロジェクト概要

プロジェクト名

(和)結核及びトリパノソーマ症の診断法と治療薬開発
(英)Establishment of Rapid Diagnostic Tools for Tuberculosis and Trypanosomiasis and Screening of Candidate Compounds for Trypanosomiasis
通常は「TB and Tryps. Research Project」と称している。

対象国名

ザンビア

プロジェクトサイト

ルサカ

署名日(実施合意)

2009年10月12日

協力期間

2009年11月15日から2013年11月14日(4年間)

背景

ザンビア共和国(以下、「ザ」国)は国民一人当たりのGDP953米ドル(2008年世界銀行推計)の後発開発途上国に分類され、5歳未満児死亡率が未だ10%以上と、保健セクター全体の改善は急務の課題である。「ザ」国政府は1992年以降「質が確保された費用対効果の高い保健医療サービスを住民の近くで提供する」ことを目標に保健改革を推進しており、第5次国家開発計画2006〜2010では各種感染症対策や母子保健、保健人材育成、必須医薬品、インフラ整備等を優先課題として揚げ、感染症対策に関しては、HIV/エイズと性感染症、マラリア対策、結核対策、ぎょう虫と寄生虫感染症を重点項目として様々な取り組みを行っている。

HIV/エイズ対策は「ザ」国の保健医療の中でもっとも重要な分野の一つであり、成人(15〜49歳)のHIV陽性率が約14.3%(DHS2007年速報値)とされているなど状況は深刻である。これに対して「ザ」国では2003年より抗レトロウイルス薬での治療(ART)を開始し、2005年に完全無料化するなどART治療の拡大を遂げ、HIV/エイズ患者の生存期間は延長したが、一方で日和見感染である結核の拡大も深刻な問題として喫緊の対策の必要性が高まっている。

結核の診断には通常、世界的な結核対策のパッケージであるDOTS(Directly Observed Treatment, Short-course 直接監視下短期化学療法)に置いても推進されている喀痰塗沫検査が用いられ、「ザ」国でも主要な結核検査の手法であるが、感度が低く、誤診率が高い。また、喀痰塗沫検査で発券できない結核に対して用いられる培養検査は感度の高い診断法であるが確定診断に4〜8週間を要するため、早期診断・早期治療開始が困難となる他、「ザ」国検査施設の衛生環境によりコンタミネーション(雑菌混入)等の問題も多い事から、迅速かつ特異性の高い新規診断法の開発が求められている。また、薬剤耐性結核菌の発見も危惧され、多剤耐性(MDR:Multi Drug Resistance)株の報告があるもののその実数は明らかでない状況である。MDR診断に必要な結核菌株の遺伝子解析については、DNAマイクロアレイを用いた簡易な検査キットが開発されているが、一回当たりの検査費用が高く実用的でない事から、「ザ」国の結核菌株の遺伝情報に基づいて、特異性が高く且つ簡便、安価な診断法開発が求められている。

人獣共通感染症であるトリパノソーマ症は「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases:NTD)」に分類され、診断技術や治療薬に関しては、他の感染症と比較して大きく遅れている分野の一つである。サハラ以南アフリカにおける感染者は5万人から7万人と推計されており、ザンビアでの新規感染報告は年間50件以下と隣国に比して少ないものの、マラリアと誤診されて重症化を招いているケースが多数報告されており、結核同様、簡易かつ迅速な開発法が求められている。また現在使用できる治療薬も限られており、副作用等の問題からも、安全性・有効性の高い新規薬剤の研究開発も必要となっている。

事業概要

4-1.プロジェクト目標と指標・目標値

4-1-1.プロジェクト目標

  • 共同研究を通じて、ザンビア研究機関の結核及びトリパノソーマ症の迅速診断法及びトリパノソーマ症治療薬候補化合物スクリーニングに関する研究開発能力が向上する。

4-1-2.指標・目標値

  • 結核及びトリパノソーマ症に対する迅速診断ツールのザンビアでの実行可能性が確認される。
  • トリパノソーマ症に対する非臨床試験候補化合物が作製される。

4-2.成果と想定される活動と指標・目標値

4-2-1.成果

  • 薬剤感受性試験を含む結核の迅速診断法が、ザンビア国の検査室等で実施可能な手法として開発される。
  • トリパノソーマ症の迅速診断法が、ザンビア国の検査室等で実施可能な手法として開発される。
  • 多様性指向型合成手法を用いて、トリパノソーマ症に対する非臨床試験候補化合物が開発される。
  • 結核及びトリパノソーマ症に対する迅速診断法及びトリパノソーマ症に対する治療薬候補化合物スクリーニングのための研究体制が整備される。

4-2-2.活動

活動 1:感受性試験を含む結核の迅速診断法がザ国の試験室等で実施可能な手法として開発される。
1-1.
ザンビア人結核患者から収集した生体試料中の抗酸菌株の遺伝子解析を行う。
1-2.
LAMP法を用いた結核の迅速診断法を開発する。
1-3.
開発した迅速診断法が検査室等で実施可能な手法となるよう、特異性及び検出感度について、従来法(顕微鏡検査、培養法、PCR(Polymerase Chain Reaction)法など)との比較試験を実施する。
1-4.
結核の薬剤耐性菌株から得られた遺伝子情報を基に、薬剤感受性試験法を確立する。
1-5.
開発した結核の迅速診断法及び薬剤感受性試験法を参画検査施設へ研究目的での試験的に導入し、実現性の評価を実施する。
1-6.
迅速診断法と結核の薬剤感受性と実験室における実行可能なリサーチを導入する。
1-7.
使用した生体試料及び分離した抗酸菌株を保管し、将来の診断法改良に使用できるように整備する。
活動 2:トリパノソーマ症の迅速診断法が、ザ国の検査室等で実施可能な手法として開発される。
2-1.
ザンビア人トリパノソーマ症患者から生体試料を収集し、遺伝子解析をするための検体を行う。
2-2.
LAMP法を用いたトリパノソーマ症の遺伝迅速診断法を開発する。
2-3.
開発した迅速診断法が検査室等で実施可能な手法となるよう、特異性及び検出感度について、従来法(顕微鏡試験、分離法、PCR法など)との比較試験を実施する。
2-4.
開発したトリパノソーマ症の迅速診断法を参画検査施設へ研究目的で試験的に導入し、実現性の評価を実施する。
2-5.
使用した生体試料及び分離したトリパノソーマ症原虫株を保管し、将来の診断法改良に使用できるように整備する。
活動 3:多様性指向型合成手法を用いて、トリパノソーマ症に対する非臨床試験候補化合物が開発される。
3-1.
抗トリパノソーマ活性を有するリード化合物の構造を系統的に改変した化合物群を設計する。
3-2.
設計した化合物群を短段階の化学変換で多様性指向型合成し、トリパノソーマ症に対するケミカルライブラリーを構築する。
3-3.
合成した化合物群の活性および安全性評価のためのin vitro評価系を確立する。
3-4.
ケミカルライブラリーに保管されたトリパノソーマ症に対する新規化合物の活性及び細胞毒性をin vitroで評価し、構造活性創刊に関するデータも収集する。
3-5.
モデルマウスを用いたトリパノソーマ症に対する候補化合物の活性試験及び安全性試験を実施し、最終候補化合物を同定する。
3-6.
トリパノソーマ症に対する最終候補化合物の大量合成系を開発する。
3-7.
家畜レベルの大動物を用いた最終候補化合物の活性及び安全性試験を実施し、トリパノソーマ症に対する非臨床試験候補化合物を選定する。
活動 4:結核およびトリパノソーマ症に対する迅速診断法及びトリパノソーマ症に対する治療薬候補化合物スクリーニングのための臨床体制が整備される。
4-1.
研究課題ごとの標準操作手順(SOP)を整備する。
4-2.
研究グループミーティングを四半期ごとに実施し、研究の進捗、成果、安全管理について協議する。
4-3.
研究者が月例研究進捗報告書を研究グループリーダーに提出する。
4-4.
研究運営年間計画書を作成する。

地球規模課題対応国際科学技術協力の枠組み

環境・エネルギー、防災、感染症対策等の地球規模課題について、日本と途上国の大学・研究機関等が連携し、国際共同研究を実施する事業。将来的な社会実装(具体的な研究成果の還元)の構想を有する国際共同研究を通じて、途上国の自立的研究開発能力の向上と課題解決に資する持続的活動体制の構築を図る。

国際共同研究においては、1)開発途上国側の大学・研究機関等に対するODAによる支援を(研究者派遣、機材整備、研究費等)をJICAの技プロとして行い、これと連携して、2)我が国の大学・研究機関等に対する支援をJST(競争的資金)により行う。

【図】

実施体制概念図

研究概要

背景

ザンビアを始めとするアフリカ地域では、結核HIV重複感染や治療困難な多剤耐性結核の蔓延が危惧されており、伝播の実態を明らかにし、対策を行うことは急務の課題である。また、マラリア類似性疾患はマラリアとの誤診により重症化を招く場合もあり、保健センターレベルで実施可能な診断法の開発が必要とされている。

本プロジェクトは、1)結核及び2)マラリア類似性疾患の一つであるトリパノソーマ症迅速診断法を開発し、疫学情報の収集を目指すものである。また、3)トリパノソーマ症の治療に有効な新規化合物の合成と評価を行い、治療薬候補物質開発 のための活動に取り組む。また、これらの共同研究を通じて、ザンビアにおける関連研究機関の研究能力向上を図ることを目的とする。

ザンビア側

ザンビア大学医学部付属教育病院(University Teaching Hospital: UTH)、ザンビア大学(University of Zambia: UNZA)獣医学部及び医学部

日本側

北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター及び創成科学共同研究機構

関係機関及び実施体制図

国内研究機関

北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンター
人獣共通感染症リサーチセンター ザンビア拠点 (ザンビア大学獣医学部内)

(独)科学技術振興機構(JST)

地球規模課題国際協力室

JICA内

経済基盤開発部国際科学技術協力室:制度設計、全般取り纏め担当
ザンビア事務所担当者
アフリカ部〉〈人間開発部

【図】

関連する援助活動:文部科学省「新興再興感染症拠点形成プログラム」について

  • 2005年度に開始された、1)国内の大学・研究機関の感染症研究拠点としてのインフラ強化と、2)新興・再興感染症が発生あるいは発生する可能性の高い国に日本の研究者が常駐し相手国研究者とのバイラテラルな共同研究を推進するための研究拠点形成を目的とした文部科学省の委託事業。
  • 北海道大学は2007年度よりUNZA獣医学部に拠点を設置している。
    • 南部アフリカ自然界におけるウイルス性人獣共通感染症病因の生態解明
    • 節足動物媒介性感染症の実態解明と予防対策確立のための基礎研究
    • 抗酸菌感染症の生態解明と予防対策確立のための基礎研究(この他、国内では出血性ウイルス熱や高病原性鳥インフルエンザなども研究)
  • 拠点形成プログラムではUNZA獣医学部にP3検査室を設置して研究活動をしている。

用語解説

〈LAMP法〉
LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法は、栄研化学が1998年、PCR(Polymerase Chain Reaction)法に代わる遺伝子増幅技術として独自に開発した、安価、迅速、簡易、精確な遺伝子検査法(栄研化学HPより抜粋)。サンプルとなる遺伝子、プライマー、鎖置換型DNA合成酵素、基質等を混合し、一定温度で保温することによって反応が進み、検出までの工程を1ステップで行うことができる。特別な試薬、機器を使用せず、トータルコストを低減できる。(PCRに比して、変性反応が必要なく、定温での反応が進行するため特別な機器が不要。また、増幅速度が速く、特異性も高い。)
〈トリパノソーマ症〉
トリパノソーマ原虫による原虫感染症で、アメリカトリパノソーマ(シャーガス病)とアフリカトリパノソーマ症(睡眠病)に分類される。後者はローデシアトリパノソーマ(急性睡眠病)及びガンビアトリパノソーマ症(慢性睡眠病)の二種類が存在する。アフリカ睡眠病は、ツェツェバエを介して感染する人獣共通感染症で、病状が進行すると意識が朦朧し、昏睡して死に至ることもある。アフリカのサハラ以南に存在する風土病で、感染者は5万人から7万人(推計)とも言われている。
トリパノソーマ症は顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases:NTD)に分類され、対策が遅れていることから、協力が必要とされている分野でもある。