ザンビア保健省職員を対象としたタイにおける第三国研修の実施:ユニバーサルヘルスカバレッジ達成に向けた医療技術評価

2017年8月24日

2017年7月、ザンビア保健省(注1)から6名の職員がタイに視察団として派遣され、政策立案に向けた医療技術評価(Health Technology Assessment:HTA)の活用について学ぶ機会を得ました。ユニバーサルヘルスカバレッジ達成のための基礎的保健サービスマネジメント強化プロジェクト(BHC for UHCプロジェクト)(注2)では、現在ザンビア保健省の進めるNational Health Care Package(NHCP)の改訂を支援しており、HTAの概念をNHCPに取り入れることで効率的なサービス提供の実現を目指しています。当視察ミッションはザンビアのBHC for UHCプロジェクトの活動の一環として実施されましたが、タイのグローバルヘルスとユニバーサルヘルスカバレッジのためのパートナーシッププロジェクト(GLO+UHCプロジェクト)(注3)からも支援を受け、更にInternational Decision Support Initiative(iDSI)(注4)およびその協力機関である南アフリカのPRICELESS SA(注5)からも関係者を呼び寄せる形で実施されました。タイ側では、Health Intervention and Technology Assessment Program(HITAP)(注6)が受け入れ機関となり、タイにおけるユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)の達成およびUHC実施にともなう様々な側面へのHTA活用についての経験をご紹介いただきました。今回の視察ミッションについては、iDSIのブログ(注7)に詳細が報告されていますので、そちらもご参照ください(以下に日本語訳があります)。

ユニバーサルヘルスカバレッジ:ザンビアがタイから学ぶべきこと

ザンビア共和国政府は、全ての人々が経済的な困難に直面することなく質の高い保健医療サービスを受けられるよう、UHCの達成を目指している。そのため、ザンビア政府は国民に対して基礎的保健サービスを原則無償で提供しており、各医療施設レベルにおいて提供すべき保健医療サービスについてはNHCPの中で規定している。しかし、現実的には医療施設のキャパシティー不足等により、保健医療サービスがそれを最も必要としている人々に届いているとは言い難い状況にある。

このような状況を踏まえ、ザンビア保健省はJICAからの技術協力を受け、人々の保健医療サービスへのアクセスと利用を改善すべく、基礎的保健サービスのマネジメント力強化を目的としたBHC for UHCプロジェクトを開始した。プロジェクトを進めていく中で、UHCを達成するためには重点対象疾患および提供するサービスの優先度を設定しながら効率的に資源を配分することの重要性が認識されてきた。折りしもザンビア保健省は現行のNHCPを改訂する方向に動いており、その過程でこれまでになく保健医療サービスの有効性や費用等の情報が重要視されてきている。その中でザンビア保健省とJICAは、エビデンスに基づいた政策立案過程を制度化してきた他国の経験に学ぶ必要があることを痛感してきた。

タイ王国は低中所得国の中でいち早くUHCを達成した国の一つであり、HITAP等の機関を通じてその経験を他国と共有してきた。このことを踏まえ、ザンビア保健省は職員6名を選出し、JICA BHC for UHCプロジェクトおよびiDSIの協力機関であるPRICELESS SAと共に、2017年7月にタイに視察団を派遣した。視察団はHITAPを訪れ、NHCP改訂等へのエビデンス提供を視野に入れたHTA活用について学ぶことを目的としていた。

視察ミッションは4日間のワークショップと医療施設訪問によって構成された。ワークショップでは、タイにおけるUHCおよびHTAの概要、政策立案過程におけるHTAの役割り、HTAを活用した医療保障制度の給付対象サービスの設定等、多岐に亘るテーマが取り上げられての議論が行われた。また、ザンビア保健省とPRICELESS SAとの間での話し合いの場も設けられ、HTAに係る長期的な協力についても意見交換が行われた。

タイ視察ミッションはザンビアの視察団から非常に高い評価を受けた。とりわけUHC達成までの道のりや政策立案過程におけるHTAの制度化等、タイが独自に積み上げてきた経験を学ぶにつれて参加者からは称賛の声が上がった。ザンビアにHTAの概念を導入していく上で、NHCPの改訂およびその費用分析から始めるのが適当であろうとの認識が示された。また、ザンビアにおいて重要な関係者を巻き込んでHTAを推し進めていくためにも、最優先課題の一つとしてHTAの政策提言書を作成しなければならないとの提案がなされた。ザンビア保健省からの参加者は、UHC達成に向けてHTAが果たし得る大きな役割の可能性について学び、今回の視察ミッションはザンビアにおけるUHC達成に向けた強い動機づけとなったようである。

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視察団歓迎会にて(ザンビア保健省、HITAP、PRICELESS SA、iDSI、JICAプロジェクトからの参加者)

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ワークショップの様子(HITAPの職員と議論するザンビア保健省計画局の副局長)

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地方病院を視察するザンビア保健省の職員