monthly Jica 2006年3月号

特集 砂漠化防止 忍び寄る砂の脅威

2006年は「砂漠と砂漠化に関する国際年」。厳しい干ばつや砂漠化の被害に苦しむ人々のために、国際社会の認識を高めることが目的で国連によって設定された。

砂漠化をはじめ、自然環境の劣化が私たち人間の生存基盤を脅かしている。その進行を食い止めることは人類共通の最優先課題の一つだ。

特にアフリカ諸国などの開発途上国では、貧しい人々の多くが自然資源に頼って生活しており、貧しさゆえに過度に資源を使用してしまい、資源が枯渇し、さらに貧困が進むという悪循環に陥っている。

この悪循環を断ち切り、人々が自らの力で砂漠化防止と生活の向上に取り組んでいくために、JICAはどのような協力を展開しているのか。

「砂漠化」とは?

砂漠化対処条約(正式名称「深刻な干ばつ又は砂漠化に直面する国(特にアフリカの国)において砂漠化に対処するための国際連合条約」)では砂漠化を「乾燥、半乾燥および乾燥半湿潤地域におけるさまざまな要因(気候変動および人間活動を含む)に起因する土地の劣化」と定義している。砂漠化の要因は、大きく気候的要因と、過耕作や過放牧、薪炭材の過剰採集などの人為的要因に分けられ、その大部分が人間活動によるものとされる。

砂漠化対処条約は、アフリカを中心とする開発途上国で深刻化する砂漠化問題に対して、国際社会が協力体制を強化し、砂漠化の影響を受けている国・地域が砂漠化に対処するための行動計画を作成・実施すること、また、その取り組みを先進締約国が支援することなどについて規定したもの。1994年採択、96年発効、現在の締約国は190カ国+EC(欧州共同体)。昨年10月にケニア・ナイロビで第7回締約国会議が開催され、今後10年間における砂漠化対処への取り組みの戦略などを検討する暫定政府間ワーキング・グループの設立を決定したほか、2006年の「砂漠と砂漠化に関する国際年」における各国の参加を呼びかける決議も採択された。

VOICES from Niger(ニジェール)
「生きる糧が大地を緑に変える」

マラディ州ギダンルンジ県タンバラオア村の小学校の子どもたち。

マラディ州ギダンルンジ県タンバラオア村の小学校の子どもたち。福田さんが村人と枝打ちを行った木が枝葉を広げて木陰をつくり、子どもたちの休み場となっている

「177位」—2005年、国連開発計画(UNDP)は西アフリカ・ニジェールの人間開発指数を177カ国中177位と発表した。つまり「世界最貧国」にランク付けされたといえよう。

課題は山積している。医療、食料供給、安全な水、基礎教育…あらゆる基本的なニーズが満たされていない。そこに伸し掛かる「砂漠化」。

貧困と絡み合う問題とはいえ、その日の食べ物にも事欠く人々に、どう取り組めるというのか。

だが、あきらめるわけにはいかない—そんな決意を胸に、最も過酷な国で、最も難しい問題にチャレンジしている日本の若者たちがいる。

※ Human Development Index(HDI)。人々の生活の質や国の開発の度合いを測定する尺度として、一人当たりGDP、平均寿命、就学率を基本要素に、独自の数式に基づき指数化したもの。UNDPが毎年発行する「人間開発報告書」で発表される。

砂漠化防止と貧困削減

マラディ州ギダンルンジ県タンバラオア村の小学校の子どもたち。

ソトレ村のマリキ・ウマルさん(左)・ザイナブさん(中央)夫婦と話す佐々木夕子隊員(右)。グループ活動のまとめ役でもある佐々木さんは現在、サガフォンド・ナマロ区の村々にCOGESを設立するため、現地のNGOとともに休みなく村を巡回している

灼熱の太陽が容赦なく照りつける。一歩踏み出すごとに、足元は黄色い砂に埋もれ、眼前の砂丘はなかなか近づいてこない。ここはサハラ砂漠ではない。ニジェールの首都ニアメから車で30分ほどのところにある小高い砂丘だ。登り切ると、収穫を終えたミレット(ヒエ)畑が見下ろせた。乾期のせいか、緑はほとんど見当たらない。振り返れば、ニジェールを含む西アフリカ諸国の“命の川”ニジェール川がたたずんでいる。

「毎年、少しずつ砂が迫って来ているのが分かるよ。止めるためには植林が必要なこともね。でもお金がないから分かっていてもできないんだ」。砂丘に近いソトレ村のマリキ・ウマルさんはつぶやいた。

ニジェールは126万平方キロ(日本の3.4倍)もの国土を持つが、その65%はサハラ砂漠で、12%が年間200〜400ミリしか雨が降らないサヘル地域だ。耕作地は3.5%しかなく、人口の9割が農牧業を営んでいる。しかし、ほとんどが天水に依存しているため、収穫量は降雨量に左右され、干ばつに見舞われれば、飢餓状態に陥ることも多い。その上、人口増加に伴って、過耕作や過放牧、薪炭材の過剰伐採などにより、森林荒廃、土壌劣化、砂漠化が深刻化し、人々をさらに過酷な状況に追い詰めている。そのため単なる植林だけではなく、農地を保全して食料生産の向上と人々の生活改善を図り、貧困削減と砂漠化防止に取り組むことが求められている。

そんな極めて困難な“両立”を支援するため、青年海外協力隊員たちが現地の人々とともにさまざまな活動を展開している。

住民主体の総合村落開発

マラディ州ギダンルンジ県タンバラオア村の小学校の子どもたち。

隊員が村人に作り方を教えて普及した改良かまど。土とロバのふん、水などを混ぜて作る。このかまどを使うどの村の女性たちも、「薪を無駄に使わなくて済むようになったし、調理も楽になった」と口をそろえる

ティラベリ州コロ県サガフォンド・ナマロ区。ここにはソトレ村をはじめ、40カ村がニジェール川沿いに点在している。これらの村落の生活改善を目指して、「農業」「教育」「保健」「植林」を柱に総合的な村落開発を住民組織が主体となって推進していけるよう、5人の隊員によるグループ活動が行われている※1。具体的には、生活基盤である環境の保全と収入向上のため、薪の使用量を軽減させる改良かまどの普及や植林活動、果樹や自然農薬の導入、農林業資機材・技術の改善とアクセス向上、保健医療状況の改善のために学校保健の普及や妊婦・母親への啓発活動、教育の質の改善のために学校運営委員会※2の設立などを支援している。

「以前使っていた三つ石かまどは1日に10本以上の薪が必要だったけれど、改良かまどは3本で済むのよ。風で火の粉が飛んで火事になったり子どもがやけどすることもなくなったし、調理時間も短くなったわ」

うれしそうにそう話すのは、ソトレ村のザイナブ・ウマルさんだ。毎朝子どもと歩いて行っていた薪集めは、今では週1回になった。空いた時間で総菜や手工芸品を作って売り、現金収入も増えた。「私だけじゃないわ。ほかの女性たちもよ」。2年前から女性グループでお金を集めてマイクロファイナンス(小規模金融)も始めたという。改良かまどは、砂漠化防止だけでなく、女性のエンパワーメントにもつながったようだ。

だが村では年々、周辺の木が減り、より遠くまで薪を取りに行かなければならなくなった。10年ほど前に砂の侵攻を防ぐため植林をしたが、干ばつで枯れてしまった木も多いという。ニジェール政府は、命綱であるニジェール川に砂が押し寄せ、水量が減ることを懸念し、今年、川沿いの村で大規模な植林事業を開始する。植林隊員の中井篤志さんは「政府がお金を出して植林をしても、村できちんと管理できなければ残らない。改良かまどや植林技術の普及のほかに、環境教育を行って人々の意識を高めるとともに、村で管理できる人材や組織の育成を支援したい」と意欲を見せる。

※1 「カレゴロ地域生活改善計画協力隊グループ」。1993〜2001年、砂漠化対策と住民の生活改善を目指して、隊員グループ活動で植林や改良かまどの普及、野菜の優良品種の導入に取り組んだ「カレゴロ緑の推進協力プロジェクト」の成果を定着させ、保健医療や教育などの分野を加えて総合的な村落開発を行うため01年に開始。これまでに19人が派遣され、現在はシニア隊員の佐々木夕子さん(村落開発普及員)、小川奈穂子さん(野菜)、岩城義之さん(村落開発普及員)、中井篤志さん(植林)、堀田匡子(まさこ)さん(看護師)が活動している。

※2 民主的な選挙を行って住民による学校運営委員会(COGES)を設立し、教育の質の改善を図る、タウア州で実施中の技術協力プロジェクト「住民参画型学校運営改善計画」(みんなの学校プロジェクト)のモデルを導入し、COGESを核に学校運営の改善と総合的な村落開発を進め、村全体の活性化を目指している。

村人との緑化活動

マラディ州ギダンルンジ県タンバラオア村の小学校の子どもたち。

ガリンマラム小学校の苗木に水をやる生徒。ニジェールでは毎年8月3日の独立記念日に全国で植樹祭が行われる。福田さんは昨年の植樹祭の日、住民200人と仲間の隊員21人と一緒に学校に植林。苗木には子どもたちの名札がつけられ、その子が責任を持って育てることになっている。苗木が家畜に食べられないよう、ミレットの茎の柵を取り付けた

もう一人、砂漠化防止と生活向上に取り組む植林隊員がいる。秋田県農林水産部の職員、福田泰宏さんだ。

ニジェール唯一の幹線道路の両側に果てしなくサバンナが続く。ミレットが栽培できない乾期の今は、むき出しの大地に残された草木に家畜が群がり、いつ砂漠と化してもおかしくないようだ。そんな光景を眺めながら、ニアメから東へ約600キロ、福田さんがいるマラディ州ギダンルンジ県に向かった。

ギダンルンジには国内有数の自然林があるが、過放牧や伐採で砂漠化の危機に瀕している。同県環境局のアブドラ・カデル局長は「環境資源が適切に管理されていない上、人口増加で負荷が増えている。資源管理や住民の啓発が必要だが、環境局には十分な人材も資材もない」と嘆く。福田さんは2004年秋から、植林や育苗などの技術指導と啓発活動に取り組んでいる。彼もまた改良かまどを村で普及したり、木を大きな庇陰樹に育てるために枝打ちを啓発したり、村人と幹線道路沿いに植林を行ったりした。

ヘルスワーカーの一人、タビタ・ワンジルさんは、ビーズ細工のレッドリボン作りで細々と生計を立てながら、5人の患者をサポートしている。03年に検査を受けて感染が発覚したが、ICROSSの支援で体調を回復させ、04年に研修を受けてヘルスワーカーになった。陽性者の仲間と「SHUHUDA HAI(生き証人)自助努力グループ」を結成、現在は105人のメンバーと共同農場運営やレッドリボン作りなどを行っている。

生活向上から自発的な植林を

マラディ州ギダンルンジ県タンバラオア村の小学校の子どもたち。

今年1月、ギダンルンジの500ヘクタールの荒地に約5万本を植林して土壌の回復を図る「ニジェール大統領プロジェクト」が始まった。現場では、土木機械がないため、300人以上の労働者が炎天下で苗木を植える大きな溝を手作業で掘っていた。福田さんも測量を手伝ったり、人々から問題を聞き取り、より効率的な作業の進め方を考えたりしている

昨年6月に枝打ちを行ったタンバラオア村の小学校のニームの木には大きな枝葉が広がり、子どもたちに心地よい木陰を提供していた。村長によると「それまで村には木を管理する人が誰もいなかったが、彼(福田さん)と枝打ちをしてから、住民が村のほかの木も枝打ちするようになった」。切った枝は薪にもなり、木の伐採量や薪の購入費を減らす効果もある。成長が早いニームは枝打ちから4カ月で密度を増して枝葉を広げ始め、その後も繰り返し枝打ちが可能だ。

生徒数92人のガリンマラム小学校の校庭には今、204本の苗木が育っている。福田さんの考案で、昨年8月に住民と協力隊員が一緒に植えたものだ。「子どもたちが毎日家から水を持ってきて苗木にあげて管理しているんですよ」とブガリ・ファティ校長が教えてくれた。週末も水やりに来たり、家にも植林したりと、子どもたちの環境意識を高めるきっかけにもなった。

カデル局長は「日本人が働きかけることで住民の関心も引きやすく、たくさんの人が協力してくれるようになった。彼が起こした多くの変化は、私たちだけではできなかったことだ」と強調する。

だが、成功ばかりではない。往来の多い幹線道路沿いを緑化して、見る人の啓発につなげたいと考えて植えた苗木は、村から離れていることもあって、村人に自分たちの木であるという所有意識が芽生えず、管理が適切になされていない。

「この国では何万本、何百万本と植林されても、住民がきちんと管理できないため、家畜に食べられたり、枯れてしまったり、木が育たない。でも十分な食料もなく、農作業に追われる人々には、植林やその管理が大事だと分かっていても、実際に行うのはとても難しい。もちろん啓発は続けますが、今は住民が生活向上に取り組む中で植林も促される方法を探しています」

この過酷な国で、人々が自発的に木を育てようとする住民本位の植林は可能なのか—何かきっかけは必ずあるはずだ。残された活動期間に、その“種”を一粒でも多くまいていこうと、福田さんは再び村を歩き始めた。

PROJECT in Senegal(セネガル)
砂漠化を防ぐ力を住民の手に

マラディ州ギダンルンジ県タンバラオア村の小学校の子どもたち。

セネガルの乾いた大地に育つユーカリ(撮影:今村健志朗)

土地の不適切な管理などにより土壌劣化が進行するアフリカ最西端の国、セネガル。暮らしを圧迫する脅威に自分たちの力で立ち向かおうとする人々を、JICAが支えている。

土壌保全と生活向上の希望の光

マラディ州ギダンルンジ県タンバラオア村の小学校の子どもたち。

植林活動の一環で森林局の苗畑から苗木を村に運ぶ住民

マラディ州ギダンルンジ県タンバラオア村の小学校の子どもたち。

森林局スタッフによる植林研修を受ける村の住民たち

世界の乾燥地域の中で特に深刻な砂漠化に直面するアフリカ大陸サヘル地域。その最西端に位置するのがセネガルだ。乾燥地および半乾燥地に属する大地は、気象条件や土地の利用法などの影響で土壌劣化が進み地力は低下、砂漠化の一途をたどっている。

しかし、経済人口の大半が農牧業など一次産業に従事するセネガルでは、多くの住民が自然資源に依存した生活を送っている。中でも農村部に集中する貧困層は、作物栽培や薪炭材、家畜の餌に活用するなど、依存度が特に高い。適切な管理なしにこのまま資源を使い続ければ、土壌劣化は加速し、貧しい人々は生活向上の道筋をつけることもできない。

その土地に適した森林の総合経営を進めるとともに、土地資源管理の責任を住民に持たせることで人々の生活を改善したい—1993年に「森林行動計画」を策定し、アグロフォレストリーなどを通じた土壌保全の推進を掲げたセネガル政府の要請に応えるべく、2000年、JICAはプロジェクト「総合村落林業開発計画(PRODEFI)」を開始。「土地を利用する住民の参加と能力向上が重要」との判断から、プロジェクトの焦点は「地域住民による持続的な自然資源管理」の実現に絞られた。

活動の舞台は、落花生の栽培が盛んなカオラック州ニョーロ地区にある9つの村。半乾燥地の中でも比較的降雨量が多く落花生栽培に適した土地だが、60年代に主要な輸出産品だったため連作障害を引き起こし、土壌が劣化。地域経済に打撃を与え、人々の暮らしを圧迫していた。

協力を進める中で、紆余(うよ)曲折を経ながらも02年、プロジェクトチームが提案したのが、地域で現地の資源を活用し、人々のニーズに合ったものを、参加者を選別せず多数を対象に実施する“研修”と“口コミによる普及効果”などを特徴とした「参加型持続的自然資源管理普及モデル(PRODEFIモデル)」。モデルに沿って3年間行われた研修活動は、住民の能力強化に寄与し、延長フェーズ(05〜08年)で対象村を30に拡大している現在は、土壌保全、そして人々の生活向上につながる希望の光となりつつある。

住民のやる気に知恵を注ぐ

「実がなれば食料になるし、売ることもできるんだ」

フィルギ・グワン村のモマト・シセさん一家は、PRODEFI内の研修でマンゴーの苗木の作り方を習得し、栽培し始めた。収入向上のために、土壌保全に関する研修にも参加している。

研修テーマは、苗木生産や浸食対策、植物防除、計画策定など村の問題点を考慮してチームが挙げたものと、植林技術や家畜肥育、野菜栽培、養鶏など住民が自発的に提案したものを合わせた10種類以上。住民はそれぞれ興味のある分野の研修に参加する。生活向上も視野に入れているため自然資源管理に直結するテーマばかりではないが、「活動の原動力は『その活動を行いたい』という住民の気持ち。やる気のある活動に知識を注げば、おのずと実践率も上がる」とプロジェクトの総括を務める芹沢利文さんは説明する。

また、植林地経営の専門家、石坂浩史さんは、「住民にとって自然資源の喪失は日々の暮らしの問題。現金収入源となるユーカリを植林する住民に、『長い目で見ると、ユーカリには土壌保全の効果もある』と、より進んだ知識を伝えれば彼らは選択肢を増やせる。それに、苗木作りへの挑戦など、彼らの判断で行う植林活動に少しアドバイスするだけで成功率はぐっと高くなる」と言う。

研修のうわさは口コミで周辺の村へと広がりを見せ、「自分たちはもっといいものをつくろう」と意気込む住民も多い。砂漠化を予防するための資源管理活動を彼ら自身の力で継続し、ほかの村に普及していく—JICAが描くそんな未来もそう遠くはなさそうだ。

※ 住民自身で活動を計画・実施する能力を向上するための研修。

Burkina Faso(ブルキナファソ)
学校苗畑で緑の大切さを子どもたちに

マラディ州ギダンルンジ県タンバラオア村の小学校の子どもたち。

子どもたちに種のまき方を教える佐藤さん

砂漠化の問題が深刻なブルキナファソに派遣された青年海外協力隊員が、子どものうちから緑化の大切さを知ってもらおうと、小学校で生徒らとともに苗畑づくりを行った。

アフリカ西部に位置するブルキナファソの北部は、周辺の国々と同様、深刻な砂漠化にさらされている。2000年、日本は同国の砂漠化対策への支援として、6カ所の苗畑センターの改修を行った。そして01年より、そのフォローアップとして植林と村落開発普及員の青年海外協力隊員の派遣が始まった。

「私が派遣された地域のほとんどの人は煮炊きに薪を使っています。小さな子どもたちが枝の束を抱えて歩いているのをよく目にしました」と話すのは、03年から2年間、サハラ砂漠の南限に位置するドリの環境・生活環境省サヘル地方局に派遣された佐藤向陽さんだ。彼が地方局の苗畑センターで植林のための苗木を生産する一方、同じ部署に配属された村落開発普及員の山脇葉子さんが村へ入り、改良かまどづくりなどの啓発活動を進めていった。

センターでの活動の傍ら佐藤さんが取り組んだのは、小学校の苗畑づくりだ。ドリに住むプル(フルベ)族は遊牧民で、植林の意識が高くないといわれている。たまたま親しくなった小学校の先生から「授業で木の大切さは教えるが、それを実践する場がない」と聞き、佐藤さんは生徒と一緒に苗畑づくりをすることにした。

校長先生と相談して用意した種は2種類。将来黄色い花をつけるテベティア・ネリフォリアと、成長するととげを持つので生け垣に使えるアカシア・ニロティカだ。初めて苗木づくりに取り組む子どもたちは興味津々。佐藤さんの心配をよそに、校長先生のリーダーシップの下、肥料のための牛ふん集めや、毎日の水やりなどがきっちりと行われていった。

佐藤さんは「黄色い花の咲くころドリを訪ね、木の成長を見たい」と楽しみにしている。一方で、「一日を生きるだけで精いっぱいの人々に木を切るなと言っても、『じゃあ自分たちは死ぬしかないのか』と言われたら返す言葉がない。彼らが木を切らずにやっていける仕組みをつくらなければいけないと思う」と、砂漠化の根本的問題を提起する。

※ アフリカの村では煮炊きのため主に石を3つ並べただけのかまどを使っているが、改良かまどは燃料効率がよく、三つ石かまどに比べて薪の量が少なくて済む。

PROJECT in China(中国)
緑豊かな草原を取り戻すために

急速に砂漠化の進む中国内モンゴル自治区阿拉善(アラシャン)盟。石川県金沢市のNGO「世界の砂漠を緑で包む会」がJICAの草の根技術協力事業として、現地のNGOとともに取り組む画期的な砂漠化対策事業とは?

草原のすぐ脇にまで砂漠が迫る。かつてテンゲル、バダンジャリン、ウランブホの3つに分かれていた砂漠がつながり、今では阿拉善(アラシャン)盟砂漠と呼ばれている

黄砂の飛び立つ場所

「沙瀑来了!(砂嵐が来たぞ)」—それはまるで、地震のように突然やって来る。辺り一面が薄暗くなり、細かな砂粒が吹き荒んで体を打つ。車は足止めを食らい、人々は近隣の建物に逃げ込んで嵐が過ぎ去るのをじっと待つ。

ここは中国内モンゴル自治区阿拉善盟。国内で最も強力な砂嵐が頻発する場所として知られる。この地で天高く巻き上げられた砂は風に乗り、遠く日本へも飛来する。「黄砂」だ。家畜の死亡・行方不明や農作物の被害など砂嵐による経済的損失は推計で年10億円にもなる。

砂嵐の発生は年々増える傾向にあり、近年では年20回を超える。その有力な原因と見られるのが、毎年約1000平方キロのペースで進む砂漠化だ。阿拉善盟総面積の約半分はもとより草木の生えない砂漠が占める。問題は今、砂漠と砂漠の間に広がり、人々の暮らしを支えてきた草原までもが砂に飲み込まれつつあることだ。

金沢市のNGO「世界の砂漠を緑で包む会」(以下、包む会)は1998年から阿拉善盟で緑化事業を実施してきた。砂漠化対策に取り組む現地NGO「阿拉善盟黄河文化経済発展研究会」と協力して阿拉善左旗バロンベリ鎮※1に事業区域を整備。阿拉善盟政府の林業研究所や治砂センターなどからの技術支援も受けながら、花棒(ファーバン)や砂捌棗(サーグェーゾー)、固有種のザグなど現地に自生し、寒さや乾燥に強い灌木の植栽・種まきを進め、これまでに700ヘクタールの緑化を行ってきた。

※1 盟、旗、郷鎮はいずれも地方自治体の行政単位。

砂漠化の原因を断て

マラディ州ギダンルンジ県タンバラオア村の小学校の子どもたち。

包む会が日本から派遣する緑化ボランティアは現地でホームステイし、ホストファミリーと一緒に植栽作業などに取り組む。環境教育事業にはこうした経験も生かされている

砂漠化対策では緑化と同時に砂漠化の原因を断つ—阿拉善盟ではすなわち、モンゴル系遊牧民による家畜、特にヤギの過放牧を防ぐ取り組みもまた欠かせない。

定住化につれて、遊牧民は従来の自給自足的な生活に適した羊よりも高値の付くカシミヤが採れるヤギの飼育数を急増させた。しかし、放牧地の面積は限られる上、ヤギには草を根っこまで食べ尽くす習性がある。草原が減少し、餌不足によりヤギから良質なカシミヤが採れなくなると、遊牧民は生計を維持するために過放牧を開始。土地はやせ衰え、次々に砂漠と化した。

見かねた阿拉善盟政府により、現在は盟内各地で5年間の放牧禁止措置が取られている※2。しかし、遊牧民にとって代替あるいは兼業可能な収入源がないまま禁止を解けば、再び同じ状況に陥ることは明白だ。

そこで包む会では新たに種子採種事業を立案した。遊牧民が灌木の植栽・管理や種子の採種などの技術を身に付け、種子生産により収入を得られるように支援していくというものだ。採種された種子は、品質基準をクリアすることを条件に阿拉善盟政府が買い上げ、政府の砂漠緑化計画に使用する。事業が軌道に乗り、遊牧民の安定した収入源となれば、牧畜が放牧地の面積に見合った家畜数で営まれるようになる日も遠くない。

※2 退牧環草政策。放牧の中止により草原の自然回復を図る。この間、遊牧民には補助金を支給する。

生命を敬う心を育てたい

住居近くにまで砂漠が迫り、危機感を強める遊牧民が種子採種事業に寄せる期待は高く、参加希望者も相次いでいる。一方、町に住む人々は一般に砂漠化への関心が薄い、と包む会事務局長で阿拉善盟出身の呉向栄(ウーシャーロン)さんは指摘する。

「そもそも砂漠とのかかわりがない、という人が多いんです。彼らに必要なのは、自然との距離を縮め、自分たちの暮らす土地の環境について詳しく知る機会。知ることが、地域の問題について考え、解決に向けて行動する糸口にもなるはずです」

「機会」をつくろうと、現地の小学校の子どもたちやその家族への環境教育も始めた。中心的な活動は種子採種事業への参加による現地学習。遊牧民との交流や植栽・種まきなどの共同作業を通じて、参加者に砂漠化問題の当事者意識を高めてもらうことが狙いだ。

「心の砂漠化が一番怖い」。呉さんの声がひときわ熱を帯びる。「身近な緑を守ることは、生命を敬い大切にする心を育(はぐく)むことでもあるんです」。

2005年10月、JICAは草の根技術協力事業として両事業への支援を決め、包む会との協力を開始。現地では今、新たな種子採種圃場の整備や簡易研修所の建設が進む。零下30度にもなる厳しい冬が終わりを告げる今月には、いよいよ初の苗木植栽が始まり、小学生の現地実習も本格化する予定だ。

Expert's View 専門家に聞く
砂漠化問題の現状と対策

マラディ州ギダンルンジ県タンバラオア村の小学校の子どもたち。

武内和彦(たけうちかずひこ) 1951年和歌山県生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科教授。世界各地域で約30年にわたり砂漠化防止、持続的農村環境の整備、巨大都市の環境改善などに取り組んできた。国連砂漠化対処条約科学技術委員会専門家グループのメンバー。著書は「環境変動と地球砂漠化」(朝倉書店、共著)、「生物資源の持続的利用」(岩波書店、共編著)、「環境時代の構想」(東京大学出版会)、「生態系へのまなざし」(同、共著)ほか。

世界の砂漠化の現状はどうなっているのか。砂漠化防止のために求められることは何なのか。砂漠化と貧困の関係、国際的な取り組みなどを聞く。

1 近年の砂漠化の傾向は?

ここ数十年、世界の乾燥・半乾燥地域の降水量はあまり減少しておらず、砂漠化はかつてほど顕著には進行していません。国連が砂漠化を問題視するきっかけとなったのは北アフリカ・サヘル地域の砂漠化ですが、1960〜80年代の干ばつのとき、砂漠化前線がどんどん南下して、このままいくとサヘル全域が砂漠になってしまう、とメディアも盛んに取り上げました。しかしその後、気候が湿潤になり、砂漠化した地域の植生も全体として回復傾向にあります。

実は、砂漠化の進捗状況はまだ明確にはとらえ切れていません。グローバルなスケールでの状況の把握すら、十分できていないのが現状です。ただ、局地的には人間活動の影響が非常に強まっている場所があり、急激な砂漠化が引き起こされている地域は見られます。例えば、モンゴルでは、91年以降の市場経済化によって、遊牧民の多くが、環境容量を考えずに家畜の頭数をどんどん増やした結果、草原の生態系が急速に劣化するという現象が起きています。

2 砂漠化と貧困の関係とは?

砂漠化と貧困との間には、非常に密接な関係があります。砂漠化が起こる理由は、貧しい人々は燃料を買うお金がないから薪にするのに木を伐採する、そのため、ただでさえ生物量が少ない乾燥地の木が減少し砂漠化が進む、という一種の悪循環が生じているからです。また、砂漠化した場所では、女性が非常に過酷な労働を強いられるという例が多いのです。周りに木や水がなくなるので、薪集めや水くみのために、どんどん遠方に出かけて行かなければならないわけですから。

乾燥地は気候が非常に不安定です。気候が湿潤化した時期にはある程度農牧業生産が見込めるのですが、逆に乾燥化したときには危機的な状況が訪れます。食料危機、飢餓がその例です。

例えば、サヘルにあるスーダンの砂漠化の原因の一つに、雨の多い時期に遊牧民を定住させ、牧畜から農業へと土地利用を転換してしまったことが挙げられます。もともと遊牧というのは一種の危機管理システムなのです。雨の状況に応じて移動し、家畜の頭数も餌となる草の生産量と見合うよう調節しながら放牧していたので、一カ所の土地に大きなインパクトを与えませんでした。このような自然と共存した危機管理システムとは違う土地利用システムを作り上げてしまったことも問題です。

3 砂漠化対処条約の背景と砂漠化防止の取り組みは?

マラディ州ギダンルンジ県タンバラオア村の小学校の子どもたち。

モンゴルでは、家畜の増加により、草原の生態系が急速に劣化し、砂漠化の進行が懸念されている(撮影:今村健志朗)

砂漠化対処条約の正式名称には「特にアフリカにおいて」という言葉が含まれ、アフリカの砂漠化への取り組みが第一義的にあります。92年の地球サミット(国連環境開発会議)では気候変動枠組条約や生物多様性条約が作られましたが、そのとき砂漠化の問題は当初議題にはあがっていませんでした。それでアフリカの国々が「置いていかれる」と危機感を持ち、地球サミットで採択された「アジェンダ21」で砂漠化対処条約の締結が勧告されたのです。

昨年10月にナイロビで開催された砂漠化対処条約の第7回締約国会議では、砂漠化・干ばつの早期警戒体制の開発支援、砂漠化に対処するために伝統的知識と近代知識の統合を推進することなどが決定されました。こうした議論を具体的に進めるために、条約の科学技術委員会の下に専門家グループが設置されています。しかし、実際には予算がほとんどついていません。

本来なら、砂漠化モニタリングシステムの開発などは、国際的な規模でやらなければいけないのですが、そこがまだできていません。残念ながら私の印象では、先進国がこの問題に積極的に取り組んでいるとは言い難いのが現状です。

※ 持続可能な開発を実現するため、各国および国際機関が実現すべき具体的な行動計画。

4 砂漠化防止に対する日本の役割、JICAへの期待は?

一つは東アジアという視点が非常に大事だと思います。アジアでは、中国の内モンゴル自治区やモンゴルの砂漠化が深刻ですが、それらの地域では日本に輸出するためにソバやカシミヤを大量に生産しています。見方を変えれば、砂漠化の誘因に日本人も一役買っているといえなくもありません。また、近年では砂漠化した地域から飛来する黄砂の問題も深刻になっています。そうした観点からも日本が東アジアの砂漠化に強い関心を寄せる必要があると思っています。

また、世界全体の貧困問題について考えると、やはりアフリカへの支援は重要です。ただ、日本の援助は、いろんな地域の自然や文化的な多様性を、日本の技術を移転させる上での阻害要因のように考えているところがあると思います。地域の人々が持つ伝統的な知識を生かし、その延長線上に砂漠化防止のあるべき姿を描くことが大切だと思います。

基本的には貧困を撲滅し、いかにその地域社会が安定した生計を営めるような仕組みをつくるかということが問われるわけですが、JICAでは近年、そうした取り組みに力を入れているように見受けられます。これが実は砂漠化への対処そのものであるといえると思います。