monthly Jica 2006年5月号

特集 特集 大洋州地域協力 海がつなぐ島国のきずな(2/2ページ)

PROJECT in Palau(パラオ)
子どもたちに楽しい算数教育を

パラオの小学校では、教師の能力・指導力不足などが原因で子どもの計算能力低下が問題となっている。指導方法などの改善で子どもたちの能力アップを目指そうと、10人のJICAボランティアが活動中だ。

計算能力低下の悪循環

【写真】子どもたちを指導する今津さん。

子どもたちを指導する今津さん。生徒一人一人が十分理解できるよう、きめ細やかな指導を心掛けている

世界屈指の青い海といまだ手つかずの大自然が残るパラオ。有数のダイビングスポットとして多くの観光客が世界中から訪れ、この国の経済は観光業に支えられているかのように見える。だが、実質的にはアメリカからの財政援助に依存しており、それが終了する2009年までに、いかにして経済的自立を果たすかが同国の課題となっている。

パラオの将来を担う人材の育成に貢献し、彼らの力で国を支えていってほしい—そんな思いで現地に向かったJICAボランティアが、今取り組んでいるのは教育の質の向上だ。

「特に深刻なのが初等算数教育」と話すのは、JICAパラオ駐在員事務所の田中智穂さん。全国統一テストなどの結果、必須科目の中で最も成績が悪かったのが算数だった。

なぜ算数なのか?そもそも小学校入学時の生徒たちに「数の概念」はあまりなく、簡単な四則演算の定着が難しい。その上、アメリカ製の英語で書かれた教科書を十分に理解できない生徒も少なくない。

また、教師の能力・指導力不足も大きな原因だ。パラオでは教師に教員免許などの資格取得が義務付けられていないため、専門的知識も指導力も不十分な教師が多い。数年前に青年海外協力隊員が年間指導計画を作成するまでは、国の定める指導要領がなかったため、教科書をそのまま読み聞かせる教師も多く、解き方や考え方が生徒に身に付かない。そのために子どもの計算能力の定着が遅れ、「結局、問題が悪循環している」と田中さんは指摘する。

そこでJICAは、1999年から現地の小学校へ協力隊を派遣。現在は公立・私立小学校20校のうち9校で、隊員たちが算数教育の質的向上を目指して活動しているほか、教育省に派遣されたシニア海外ボランティアがカリキュラムの改善などに取り組んでいる。

生徒の理解を深める工夫を

【写真】図形を勉強するアルモノグイ小学校の子どもたち。

図形を勉強するアルモノグイ小学校の子どもたち。

公立のアルモノグイ小学校で活動中の三枝千晴さんが力を入れているのは、子どもたちのやる気を引き出す授業だ。「四則演算を早く、そして確実にできるようにするため、5分間の小テストや100マス計算を応用した『25マス計算』を継続して行い、頭の訓練をしています。テストの所要時間や点数を発表することで、子どもたちはますますやる気を出してくれるんです」。

また、私立のマリス・ステラ小学校では「生徒たちがより理解しやすいように」と、今津敬一さんがゲームなどを使った授業を展開。「私立の小学校は予算の関係で公立より教材が不足している面もありますが、ある物をうまく活用し、子どもたちに基礎学力をしっかり定着させたい」と意気込んでいる。

さらに、教師の指導力向上のために教育現場で活動する隊員たちと綿密に情報交換し、教育省とのパイプ役を務めるのがシニア海外ボランティアの橋本力さんだ。国内の小学校を視察し、隊員のサポートや現地教師への算数指導法のアドバイスを行っているほか、パラオ全体の初等算数教育のカリキュラムの改善も計画中だ。また、年に3〜4回、隊員とシニアボランティアが集まる「算数部会」では、各校の問題点に関する話し合いや算数科の年間指導計画の作成、現地の教師を対象としたワークショップを開催している。昨夏に行われた、マーシャル諸島とミクロネシア連邦の教師も参加した広域研修では、各国の課題や改善策について話し合われたほか、3カ国の共通課題である指導計画書作成の重要性が確認された。

「教師が教科書を読み、板書し、それを生徒がノートに写す。そんなパターン化された授業では、生徒が興味を持って勉強するはずがありません。子どもたちに『算数の時間が楽しみ』と言われるよう、いろんな工夫をしていきたい」(三枝さん)。その工夫をいつかパラオ人教師たちの間で行えるようになることが、隊員たちの願いだ。

Expert's View 専門家に聞く
これからの太平洋地域協力

太平洋諸島フォーラム(PIF)を構成する国々にはどんな共通性があるのか。
この地域に対して求められるのはどんなことなのか。
第4回太平洋・島サミットに向けて、日本の協力に期待することなどを聞く。

1 太平洋島嶼(とうしょ)国の共通性と太平洋諸島フォーラム(PIF)の役割は?

【写真】小林泉さん

小林泉(こばやしいずみ)
1948年東京都出身。大阪学院大学国際学部教授、(社)太平洋諸島地域研究所理事。国際開発論、オセアニア地域研究専攻。JICA「大洋州地域別支援委員会」委員、外務省「外務省/日・PIF首脳会議に向けた有識者会議」委員。著書は「オセアニア 図説世界文化地理大百科」(朝倉書店、共訳)、「オセアニアを知る事典」(平凡社、共著)、「太平洋島嶼諸国論」(東信堂)、ほか

PIFは、地域の独立国12カ国と2つの自治地域、およびオーストラリアとニュージーランドが加盟する地域協力の枠組みです。オーストラリアとニュージーランドを除くと、PIFの中で面積も人口も一番大きいのがパプアニューギニアです。2番目はフィジーですが、それでも89万人で、あとはずっと少なくなっています。また、パプアニューギニアには石油や天然ガスなどの資源がありますが、ほかの島々にはほとんどありません。そういう意味では、これらの国家群を一つのキーワードでくくるのは無理がありますよね。

しかし、なおかつ共通性をあげるとすれば、独立形態が似通っていることがいえると思います。アフリカやアジア諸国は植民地化された後、独立戦争を経て近代国家として独立したという経緯があるけれど、この地域はトンガを除くと宗主国に無理やり独立させられたような面があります。

島々の言葉や文化、習慣は異なりますが、そういった類似性があり、かつ小さな島国一つ一つでは国家として国際社会にアピールできないので団結してやっていきましょう、というのがPIFです。PIFの下には太平洋漁業機関や南太平洋大学などいくつもの下部組織があり、外交だけでなく地域内の問題についても協力して解決しようとしています。

また、この地域にはアメリカやフランス、イギリスなどの旧宗主国やそれらの海外領土も含めた太平洋共同体(PC)という組織もありますが、こちらは政治ではなく社会・経済開発を中心に扱っています。

※パプアニューギニア、フィジー、ソロモン諸島、バヌアツ、サモア、トンガ、ツバル、ミクロネシア連邦、キリバス、マーシャル諸島、パラオ、ナウルおよびクック諸島、ニウエ

2 日本・太平洋諸島フォーラム首脳会議(太平洋・島サミット)の役割と、5月の会議で協議されることは?

太平洋・島サミットは1997年以降3年ごとに日本で行われており、日本がPIF諸国と意見交換をする絶好の機会となっています。2003年に沖縄で開かれた前回のサミットでは「沖縄イニシアティブ」(→こちらを参照)が採択され、現在はそれに沿った協力が行われています。

今年の5月には4回目のサミットが再び沖縄で行われますが、沖縄を舞台にすることには大きな意味があるのです。一つは、島嶼国に対して「日本にもあなたたちと同じ島嶼地域がある」ということを示し、同じ太平洋の国家だという意識を持ってもらう。もう一つは、沖縄は産業や資源などの経済パターンが島嶼国と非常に似ているので、沖縄の成功例や失敗例を参考にしてもらえることです。

今度のサミットでは、この地域が共通して抱える問題、すなわち環境問題や持続可能な開発などが前面に出るのではないでしょうか。例えば、グローバル化によって近代工業製品のごみが発生し、それを島内では処理できなくなっています。この分野では日本は大いに貢献できるでしょう。また、日本がPIF諸国と協力し、よい統治を行うよう人材を育成し、太平洋地域の安定と発展を保っていけるような流れをつくることが大切だと思います。

3 求められる国際協力とは?

日本の援助には、一つのマニュアルみたいなものを作り、それをすべての国に当てはめようとする傾向が感じられます。そうではなくて、個別の対応をしていかなければいけないということでしょうね。特に太平洋の島嶼国は、大型の援助は適さないところです。大きな国なら一つ失敗しても次から気を付けることができますが、この地域のように小さなところは一度失敗すると取り返しがつきません。

例えば、島と島を結ぶ道路などを造った場合、それによって生態系が変わり、サンゴなどの生き物が死んでしまったら元に戻すのは難しい。小さなところだけに、ものすごく変化の影響を受けやすいのです。個々の事情に合ったきめの細かい援助がとりわけ必要なんですね。

これは私の持論ですが、この地域への支援として「信託基金方式」を提唱しています。この地域の人々はもともとタロイモや魚をとり、首長がそれを再配分して生活してきたのです。それが、資源もお金もないのに宗主国によって独立させられた。そうなると、1万人しかいない国でも政府をつくり、国連に加盟すればニューヨークへ大使も送らなくてはいけない。しかし、そもそも先進国のいう「自立」などできるわけがないのです。そこで、これらの島嶼国をグローバル化に組み込んだ先進国の責任として信託基金を設置し、とりあえずその運用益で国家財政を賄っていく。もちろん、そのためには透明性を確保するなど整備すべきことはいくつもあります。

この方式は、最近アメリカなどが取り組み始めたところですが、日本もなんとかこうした援助ができればいいと思っています。