monthly Jica 2006年6月号

特集 援助協調 効果を高める連携の力(2/3ページ)

PROJECT in Bangladesh (バングラデシュ) 援助協調がもたらす教育水準の向上

バングラデシュではセクターごとにドナー間の援助協調が活発に行われている。教育セクターでは初等教育の質を高めるために、バングラデシュ政府のオーナーシップのもと11のドナーが協力しており、その中でJICAは理数科教育の改善を図るプロジェクトを実施中だ。

アクセスの向上から質の改善へ

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マイメンシン県の小学校で行われた理科の模擬授業。実践的な内容を取り入れ、子どものやる気を引き出すのが狙いだ

1990年以降、バングラデシュは「万人のための教育(EFA)」※1の達成に向けて、初等教育の義務化などさまざまな取り組みを行ってきた。その結果、約10年間で粗就学率が76%から97.4%にアップ。教育機会へのアクセスは飛躍的に向上した。しかし、入学した子どもの約3分の1が中途退学しており、修了率は67%にすぎない。背景には教育の「質」の問題がある。

バングラデシュの小学校では、教員の一方的な講義形式による教授法が一般的で実験など実践的な授業は少ない。教員の指導力不足も問題だ。また、教員1人が生徒60人以上を受け持つほど教員不足が深刻で、教科書の内容も十分とは言い難い。とりわけ実践的な授業が重視される理数科教育の質の向上は喫緊の課題だ。

こうした初等教育問題に取り組むため、現在展開されているのがサブ・セクターワイド・アプローチ「バングラデシュ第2次初等教育開発計画(PEDPII)」※2。バングラデシュ政府のオーナーシップのもと、アジア開発銀行(ADB)など8ドナーによる財政支援と、日本を含む3ドナーの技術協力を通じて、「教育行政の能力向上・組織改革」「学校および授業の質の改善」「インフラ整備」「アクセスの拡充」を図ることが目的だ。

※1 教育開発における国際社会の共通目標。2015年までに、初等教育の完全普及や成人の非識字率の半減など教育分野の6つの目標の達成を目指している。

※2 教育分野の中でも初等教育分野(サブセクター)において、バングラデシュ政府とドナーが一貫した開発政策に基づき、セクターごとに整合性のある活動を行う枠組み。11のドナーは、財政支援(ADB、世界銀行、イギリス、欧州共同体(EC)、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、カナダ)と技術協力(日本、国連児童基金(UNICEF)、オーストラリア)の2つの支援形態で、04〜09年まで支援。

効果拡大のためプログラム化を推進

現地ODAタスクフォース「バングラデシュ・モデル」※3では、教育セクターの基本方針に「初等教育の質の向上」を掲げ、PEDPIIの「学校および授業の質の改善」への貢献を表明している。

そこでJICAは、「小学校理数科教育強化計画プロジェクト」を2004年10月からマイメンシン県で開始。教員訓練や教育内容改善などの主導的な役割を担う「国立初等教育アカデミー(NAPE)」をベースに、教員養成校、現職教員研修機関、学校の連携強化を通じた教員養成・研修の体制づくりに取り組んでいる。

また、初等教育省では初等教育アドバイザーの長岡康雅専門家が、バングラデシュ政府やPEDPIIとの調整、プロジェクトの成果・教訓の共有など中央政府レベルで活動中だ。他方、現場レベルでは、小学校などで理数科を教える青年海外協力隊が、現場の視点をプロジェクトに生かす試みを実施。このように「バングラデシュ・モデル」教育セクターでは、政策レベルから現場レベルまで各種スキームを連携させ、成果を最大限に発揮できるようプログラム化※4を推進している。

※3 日本の援助関係機関の現地事務所員が集まり、日本の援助政策の立案・実施体制の強化に向けて活動するグループ。バングラデシュでは、大使館、JICA、国際協力銀行(JBIC)、日本貿易振興機構(JETRO)を中核として構成されている。

※4 バングラデシュの基礎教育内容向上プログラムとして、外務省「内なる改革委員会」において優良プログラムに認定。同プログラム内では、UNICEFを通じたPEDPII支援も展開中。

協調が相乗効果を生み出す

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教員の指導能力向上のため、NAPEで理科の指導法を教える相馬敬専門家

しかし、プロジェクト立ち上げ当初は、PEDPIIで雇用したコンサルタントなどによるプロジェクト・アプローチを認めないといった動きもあり、活動の一部が思うように進まないこともあった。「プロジェクトチームやJICA事務所との密な連携をもとに、各PEDPII関係者との交渉を根気強く続け、何とか実現までこぎ着けました」と長岡さんは振り返る。

一方、JICAでは、事業効果の拡大には、他ドナーとの協調が重要であると考えている。一つの地域を集中して支援するプロジェクトは、その効果が限定的になりやすいが、他ドナーとの連携によって成果をほかの地域へ普及しやすくなる。また、JICA事務所の小林美弥子さんは、「プロジェクトによる協力はNAPEをはじめとする現場のカウンターパートと一体となって活動するため、キャパシティ・ディベロップメント(能力開発)に効果的。財政支援を生かすためにも能力開発が重要であり、これらは相互補完的であるべきでしょう」と話す。実際にJICAの活動によって教授法や教科書などに対する教員らの考え方が徐々に変わりつつある。こうした成果はバングラデシュ政府や他ドナーに評価され、PEDPIIの活動の成功事例にもあげられており、JICAは08年のプロジェクト終了後も、PEDPIIの枠組みなどを利用してほかの地域へ展開することも検討中だ。

教育をはじめ、バングラデシュではセクターごとの援助協調により、相乗効果を高める取り組みが活発化している。その中でこのプロジェクトは、援助形態の多様化における先進的な事例として注目を集めている。

Viet Nam (ベトナム) 活発な動きを見せるベトナムの援助協調

50以上のドナーが集中し、援助協調の動きが最も活発な国の一つであるベトナムで、JICAはどのような取り組みを行っているのだろうか。

今、開発援助の世界では、「量」だけではなく「質」の向上のために、各ドナーと被援助国が共同で取り組む「援助協調」の重要性が高まっている。2005年3月の「パリ宣言」※1以来、途上国の現場では援助協調の動きが活発化しており、中でもベトナムの取り組みに注目が集まっている。

現在ベトナムで活動するドナーの数は50以上。1991年のカンボジア和平成立を端緒とするベトナムを取り巻く国際環境の改善を受け、多くのドナーが同国の膨大な開発ニーズに着目したためだ。こうした状況から、ベトナムは、90年代後半から政府と各ドナーが援助協調を議論する場として、教育や保健、貧困削減など20以上にわたるセクター・テーマ別のパートナーシップグループを設置。04年には、援助の効果向上自体をテーマとした「援助効果パートナーシップグループ」も設けた。このグループでは、援助の受け入れを効率化するための、ベトナム側の法制度や手続き・アプローチの改善、体制・能力に関する方策などの話し合いを重ねている。

さらに05年9月、ベトナムは世界に先駆け、「パリ宣言」を独自の内容に即し改定した「ハノイ宣言」を策定。政府とドナーによる行動計画策定のプロセスでは、JICAも現地ODAタスクフォースの一員として積極的に参加し、04年後半にはトップドナーの日本が議論をリードした。

最近は、ヨーロッパ諸国や開発金融機関による協力の方法として「一般財政支援」※2が増えている。ベトナムでも01年に開始され、日本は04年から協調融資として参画。このような動きに対してJICAは、「財政支援をはじめとする援助協調の動向と現地に密着したJICAの具体的な活動は、援助効果向上のための相互補完的な役割を果たす」と考えている。

こうして加速化する援助協調の流れの中、JICAは、ベトナム以外の途上国においても同様のアプローチを用いることで協力の成果をさらに高める方針だ。

※1 世界91カ国・26機関が参加した「パリ援助効果向上ハイレベルフォーラム」で採択された宣言。援助の質の向上のための具体的措置を公約。

※2 被援助国の国庫に各ドナーが一元的に資金を拠出する援助方式。資金の使途は、ドナーが議論に参加して策定した被援助国政府の政策のもとに決定される。