monthly Jica 2006年7月号

特集 対中技術協力 いま何が求められているのか(2/3ページ)

PROJECT in Beijing (北京) 省エネで地球環境問題に挑戦!

今、中国では急激な経済成長に伴い、大気汚染が深刻化し、地球環境への悪影響が懸念されている。汚染による被害の拡大を防ぎ、また炭酸ガスの排出を抑制して地球温暖化対策を推進するため、JICAはエネルギー消費量が最も多い産業の一つ、鉄鋼業のエネルギー効率改善のための技術協力を展開中だ。

エネルギー消費大国の課題

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製鉄所で高炉から溶かした鉄を取り出す作業の様子。プロジェクトでは各地の製鉄所を訪問して工業炉の診断を行い、それぞれの工業炉における改善策を提案している

北京に到着してまず目に飛び込んできたのは、今にも雨の降りそうなどんよりとした空だった。「最近はいつもこんな感じですよ」とJICA中国事務所の大久保晶光さんが言う。北京では晴れの日が多いそうだが、澄んだ青空を見られることは少なく、そこには大気汚染も関係しているようだ。

近年、急激な工業化によって経済成長を続ける中国。発電所や製鉄所、セメント工場などから放出される燃焼排ガス中に大量に含まれる亜硫酸ガスや酸化窒素は、酸性雨となって森林や建築物、人々の健康に影響を与え、また炭酸ガスは地球温暖化の原因となっている。

「中国ではエネルギーの使用が非効率で、燃焼排ガスの発生量が極めて多い」と指摘するのは、「鉄鋼業環境保護技術向上プロジェクト」の環境保護技術の専門家、野宮好堯(よしたか)さん。例えば鉄鋼業は、1トンの鉄を作るのに、日本が0.7トンのエネルギー(石炭換算)を使う一方で、中国では1.2トンも使用するという、実に非効率なエネルギーの使用・燃焼方法が採られていた。大気汚染、そして地球温暖化は、もはや一国の問題にとどまらない。今後、発展に伴いますます鉄の生産量の増加が予想されるだけに、エネルギーの効率的な利用は急務だ。

そこで中国政府から支援要請を受けたJICAは、2002年、省エネと大気汚染の改善につながる燃焼技術と排煙処理技術を伝えるプロジェクトを開始した。

2つのアプローチで協力

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合田祐介専門家、上村専門家、村上専門家(左から2、4、5人目)と陳さん(右から2人目)ら鋼鉄研究総院燃焼グループの職員。また野宮専門家は、中国鉄鋼業の省エネルギー・環境保護への貢献が高く評価され、2005年度「中華人民共和国友誼奨」を受賞した

「製鉄の過程でエネルギーの非効率性が目立つのは加熱炉であり、そこでの燃焼技術を改善すれば大幅な省エネが可能」と強調するのは、工業炉燃焼技術が専門の村上弘二さんだ。省エネの方法はさまざまだが、特に有効なのが「蓄熱燃焼技術」※1。端的に言うと、燃焼中に発生する高温の排気ガスを効率的に再利用することによって燃料の使用量を少なくする技術で、燃焼温度の高温化に伴って大量に出る酸化窒素を減らすことも可能にしている。

技術指導に当たる村上さんは、鉄鋼業の中国人技術者とともに製鉄会社を回って各炉を診断し、彼らがまとめる炉の改善提案への助言などを行う。技術者の一人、陳峨(チェンオー)さんは「技術そのものは理解できたが、これを800近くある製鉄所にどう普及していくか、方法を模索中です」と課題を述べる。

また、協力のもう一つの柱となるのが、排煙中の汚染物質を除去する排煙処理技術を移転・普及すること。燃焼技術の改善で燃焼排ガスを削減すると同時に、ガスに含まれる汚染物質を減らすこともまた重要だからだ。

さらに、「『第11次5カ年計画』の中で中国政府が重視する『循環経済』※2の実現に向けた協力も必要」と野宮さん。そこでJICAは昨年、日本での研修に循環経済に焦点を当てたコースを新設。研修員は大手製鉄会社やごみ焼却炉など40カ所を視察した。チーフアドバイザーの上村正弘さんは「循環経済が進む日本の技術を間近で見られて極めて有益だったという声が多かった」と研修の有効性を語る。

残された協力期間は1年余り。今後の課題を尋ねると、「燃焼実験による燃焼の解析を強化し、より効果的な改善案を作成すること」と上村さんは言い切る。「燃焼技術に関する製鉄会社からの要求は厳しくなるはずです。その対応には各製鉄所での診断はもちろん、多様な燃焼実験の結果が有効になると思うので、実験炉の利用方法とデータの分析法を徹底して学んでいきたい」と、陳さんもその重要性を認識している。

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燃焼実験炉を使いながら燃焼の解析方法などについて指導する村上専門家(中央)。陳さん(左)は「仕事にまじめで経験豊富な日本人専門家から学ぶことは多い」と話す

また、プロジェクトの支援機関である(社)日本鉄鋼連盟は昨年、中国鋼鉄工業協会との共催で「日中鉄鋼業環境保全・省エネ先進技術交流会」を北京で初めて開催し、この分野における業界間の民間協力関係も広がりつつある。さらに今年5月には、日本の経済産業省と中国商務部の共催で「日中省エネルギー・環境総合フォーラム」が東京で開催され、官民の関係者およそ700人が参加。政策、人材、技術、投資を含めたビジネスなどの多層的な交流関係の拡大が期待されている。

「2000年以降、中国の工業分野の発展にはすさまじいものがある」と野宮さんは力説する。地球環境の行く末をも左右し得る大国中国が、持続・安定的に発展し、また地球環境問題に共に取り組んでいけるよう、今、環境保護、省エネ、資源の有効活用のための技術・経験を持つ日本の力が求められている。

※1 1990年代から開発が始まり、2000年には「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」の支援により日本発の技術として実用化されている。

※2 減量化、再利用、資源化を原則に、エネルギーなどの資源を効率的に利用すること。

もう一つの中国を見つめる14年間の緑化協力

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村の子どもたちと一緒にマツの苗を植える高見さん

都市への水源を持つ黄土高原は、中国の未来を担う重要な地域。長年、その黄土高原の緑化協力を続けてきたNPO法人「緑の地球ネットワーク」の活動からは、急速に発展する華々しい中国とは異なる、もう一つの姿が見えてくる。

「山は近くにあるけれど、煮炊きに使う柴(しば)はなし。十の年を重ねれば、九年は日照りで一年は大水…」

黄土高原の東北端、山西省大同市の民謡は、この地方の自然と生活の厳しさを如実に表している。年間降水量平均400ミリのうち、3分の2が夏の一時期に集中。乾いた表土が一気に流される「水土流失」によって、土壌が劣化、植物は育たず、砂漠化を加速させている。また、大同市の中央部を流れる桑干河(そうかんが)は北京の重要な水源だが、1998年からは水が干上がってしまっている。

「経済発展とともに、中国の環境は大変なことになる」。70年代から度々中国を訪れる機会があった高見邦雄さんは、同国の急激な自然環境の変化に危機感を募らせていた。そして、深刻化する水不足や砂漠化、風砂などの問題を現地の人々とともに解決に導くべく、92年、「緑の地球ネットワーク」を設立し、緑化協力を開始した。2004年9月からは、JICAの草の根技術協力事業※「中国黄土高原における森林再生事業」を通して、持続可能な森林再生を実現するためのモデルづくりに取り組んでいる。(草の根技術協力事業ホームページはこちら

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大地を切り裂く浸食谷。夏に集中する雨が表土を押し流して砂漠化を加速させる

当初、まだ日本で中国の環境問題が広く知られておらず、「アスファルト砂漠、コンクリートジャングルの大阪から、緑豊かな中国に木を植えに行くなんて」とあきれられた。一方、中国では、植林協力の記念碑に「打倒日本」と書かれるなど、人々からの反発もあった。

そうした多難な時期を乗り越え、高見さんらは、現地の人々と信頼関係を築きながら活動を進めてきた。乾燥とやせ地に強いマツを黄色い大地に植え、「地球環境林」と名付けて育てたほか、学校に行けない貧しい子どもたちのために、小学校に果樹園を作ることを提案。賛同してくれた地元の青年団と、アンズやリンゴなどの果樹を植え、その収益を教育費に充てることで、多くの子どもたちが教育を受けられるようになった。これまでの植林は、4600ヘクタール、1600万本にもなる。

また、これらの活動を技術的にバックアップしているのが、「地球環境林センター」だ。マツや自生の広葉樹の育苗や栽植、管理の方法を確立し、マニュアル化するための実験・研修施設を備え、人材育成にも一役買っている。

高見さんは、「社会問題が真っ先に顕在化するのは辺境の貧しい地域。日本の水俣病やイタイイタイ病がその典型です。黄土高原の農村を見ることで、明日の中国を理解できるのではないか」と、輝かしい発展の陰に当たる部分をこそサポートすべきだと訴えている。

※ 地方自治体や地域のNGO、大学などが、これまで培ってきた経験や技術を生かして、途上国への草の根レベルの支援活動をJICAと共同で実施する事業。