monthly Jica 2006年9月号

特集 NGOとJICA “草の根”を支えるパートナーシップ(1/4ページ)

今や開発アクターの一つとして重要な役割を担うNGO。ODAにおいてもさまざまな形で活発な連携が行われている。

JICAは、1998年にNGOとの連携事業を開始して以来、途上国の現場でのプロジェクトのみならず、定期的な会合やスタッフの相互理解を図る研修、共同事業評価などを通して、より良いパートナーシップの構築に努めてきた。また、人間の安全保障の理念のもと、住民やコミュニティーにより迅速かつ効果的に届く援助を目指すJICAにとって、草の根レベルのきめ細やかな協力を行っていくために、NGOとJICAの双方の強みを生かして連携効果を最大限に発揮していくことがますます重要になっている。

連携効果を高めるために、今、何が求められているのか、これまでの事業を振り返るとともに、今後の連携のあり方を考える。

VOICES from Kenya(ケニア)
「上総掘りは人々を幸せにする仕事」
 文・写真=早川千晶(フリーライター)

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上総掘りエンジニアに認定されたダニエル・コイトメッティさん(右から4人目)が率いる「レキテング自助努力グループ」のメンバーたち。唯一マサイではなくカンバ民族出身のダニエル・ムティンダさん(45)(右から2人目)はカンバランドで生まれたが、人口増加に伴い暮らしが困難になり、1980年に移住してきた。「1つの井戸を完成させるのにわれわれの伝統的な作り方では3カ月から半年かかるが、上総掘りは20日あれば足りる。作業に危険もない」

水不足に苦しむアフリカや東南アジアなどの国々で命の水を容易に確保できるよう、上総(かずさ)掘り井戸※1の技術を普及するとともに持続可能な地域開発に取り組む(特活)インターナショナル・ウォータープロジェクト(IWP)が2005年、JICAの「草の根協力支援型」※2によるプロジェクト「上総掘り技術の移転と水を中心とした持続可能な地域開発」をケニアで実施した。今年3月にメキシコで行われた「第4回世界水フォーラム」で世界1,600団体の活動の中から、日本の団体で唯一「京都水大賞・ベスト10」に入賞し、国際的にも高く評価されているプロジェクトの現場の声を紹介する。

※1 明治初期に現在の千葉県袖ヶ浦市近郊で考案され、改良されながら日本各地に普及した深井戸の掘削技術。機械や燃料を使用せず、環境に優しい簡素な技術・資材で、短期間・少人数・低コストで掘削でき、IWPをはじめ日本のNGOにより途上国に伝えられている。

※2 国際協力の経験が少ないNGOや大学などの団体が実施したいと考える国際協力活動を、JICAが支援する事業。アイデア段階からJICAとNGOが相談しながら共同で事業を作り上げていく。総事業費の上限は1,000万円。

日本の伝統的井戸掘削技術を移転

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住民たちと井戸を掘削する様子(大野さん提供)。作業時には現場周辺がゾウの群れに囲まれるなど危険な状況もあったが、ゾウの習性を知るマサイ族のおかげで無事に作業を終えることができた

「水がこんなにおいしいものだとは知らなかった!」

ダニエル・コイトメッティさん(35)が顔をほころばせる。牛やヤギなどの牧畜を生業とする生粋のマサイ人だ。4人の子どもの父親で、地域のリーダー的存在でもある。

「子どもたちにきれいな水を飲ませたくて、皆で力を合わせて井戸を掘った。あふれ出た透明な水の甘さといったら、まるで夢のようだよ!」

彼は井戸からほとばしる水を容器にくみ、私に手渡した。ごくり、ごくりと味わいながら飲み干す。乾いたのどに「甘い水」が染み込んでいく。乾期になると何カ月もほとんど雨が降らない半乾燥地帯で暮らすマサイの人々だからこそ、豊富で清潔な水源を得た喜びはひとしおだ。

ダニエルさんが暮らす地域に日本の伝統的手法で井戸が掘られると聞いたとき、一も二もなく飛びついた。9カ月間技術指導を受け、上総掘りエンジニアとしての認定を受けた。同様に指導を受けた7人のエンジニアのリーダーを務める。

エンジニアの中で最も若いハリソン・サンペルさん(22)は、高校卒業後地元に戻ったが、仕事が見つからず、技術を身に付けたいと思ってプロジェクトに参加した。

「井戸ができるまで、人々は川から水をくんで生活していた。最近では上流域での開発が進み、人口も増えているので川の水が汚染され、チフスやコレラなどの病気に苦しめられていたが、井戸ができてから確実に病気が減った。井戸掘りは人を幸せにする良い仕事なので、その技術を習得することができて本当にうれしい」

かつては魚もいたという川はよどんで悪臭を放っている。泡が立つほどの汚染された水でも、ほかに水源がなければこの水を使うしかない。井戸の完成後は、川で水をくむ人の姿は見られなくなった。

ケニア南東部カジアド郡ロイトキトック地域では2005年、「インターナショナル・ウォータープロジェクト(IWP)」とJICAの連携プロジェクトにより、住民の積極的な参加のもと、6本の上総掘り井戸が完成し、7人のエンジニアが育成された。総事業費は998万8000円だった。

安全な水へのアクセスを

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エレライ小学校に作られた井戸の水を飲む生徒。261人の生徒は村人手作りの木造教室に入り切らず、半分は青空教室で勉強している。公立小学校は約6キロ先にしかなく、ゾウが出没するため危険で通えない。生徒は学校が終わると井戸で水をくんで持ち帰る

タンザニア国境に近いこの地域には、主に牧畜民であるマサイ族が居住しているが、近年、彼らの生活を圧迫する深刻な状況に陥っていた。人々は元来、キリマンジャロの雪解け水を水源とするロンボ川に依存していたが、上流地域で灌漑(かんがい)農業開発が行われ、大量の水がくみ上げられて水量が激減し水質も悪化していた。しかも、女性や子どもが毎日1時間以上歩いて水くみをしており、重労働のために学校に通えない子どもも多かった。また、水を求めて移動するゾウの群れと遭遇して危険なため、水くみが困難な村もあった。

「安全な水へのアクセスは人間が生きるために不可欠であり、IWPの活動はその確保を住民とともに考え、解決していくのが目的です」

そう語るIWP代表の大野篤志さんは、住民に上総掘りの技術を提供し、井戸ができることで生活環境が改善され、かつ野生動物との共生も可能になると考えた。

大野さんと上総掘りとの出会いは22年前にさかのぼる。土木会社に勤務していたころ、日本のNGOがアフリカで上総掘り事業を行うことを知り、興味を抱いた。すでに廃業していたが、彼の祖父は上総掘りの技術者だった。大野さんはNGOの事業に参加し、消え行きつつあった上総掘りの技術を復活させた故近藤晴次氏に弟子入りして技術を習得した後、ザンビア、タンザニアで掘削に取り組んだ。最初のザンビアでの活動で日本の上総掘りをそのままアフリカで行うのは難しいことが分かり、試行錯誤の末、「アフリカで調達できる道具を使い、日本人がいなくても掘れる上総掘り」を考案。世界中で適応可能な方式に改良されて、高い評価を受けるようになった。

タンザニアでの活動時にケニアのNGO「AMREF(African Medical & Research Foundation)」のエンジニア、ジョージ・ワンブーアさんが参加したことがきっかけで、ケニアでも上総掘りを普及していたIWPは、ワンブーアさんの提案でロイトキトック地域を調査。住民のニーズが高く、地層的に上総掘りに適していることが分かり、プロジェクトを実施することになった。

NGOとJICA双方の利点を活用

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上総掘り技術移転後に完成したエレライ村のキフリ井戸。国立病院を退職後に開業した医者のムワンギさんは「住民を動員して村の各所に20本の上総掘り井戸を作りたい」と夢を語った

6本の井戸は、コレラ発生地域の2村とゾウの群れが出現する村、3つの小学校に、住民たちの手で掘削された。各村では作業期間中、数人で全員の家畜の世話をするなどの協力体制を敷いて、まさに村総出で井戸を作り上げた。昨年7月、住民が一丸となって井戸を掘る様子を視察したJICAケニア事務所の狩野良昭所長は「人々が一つの目標に向かって力を合わせる姿に感銘を受けた。コミュニティー全体を揺るがすような、初めての試みだったのではないか」と語る。また、JICAとNGOの連携には大きな意味があると強調した。

「本当に支援が必要な人々に届くように、コミュニティーに近いところでのきめ細やかな動きがNGOの得意とするところ。一方で、ODAの場合は比較的規模が大きい事業に向いている。NGOには、相手国政府との交渉などの点でODAの持つ利点を有効活用してもらい、現場での作業がやりやすくなると良いと思う。JICAとしては、NGOと連携することで現場の臨場感がよく伝わり、NGOが持つ柔軟性などの利点から学ぶことも多い」

しかし、小規模の予算できめ細やかな活動をするNGOにとって、さまざまな制約があるJICAとの連携は簡単ではなく、業務の進め方の違いから生じる困難もある。

「NGOは現場が基本だから、現場での作業により多くの時間を割きたいと思うのは当然だが、JICAでは密な報告が必要。少人数ですべてをこなす小規模NGOにとって報告業務の負担は大きいだろう。また草の根技術協力支援型の資金は実施期間のみに限られるが、現場重視のNGOとしてはその前後が大切。彼らに事前調査や事後のフォローアップなどにかける予算がないとなると、その資金調達の困難さが想像される」(狩野所長)

IWPの大野さんも、予算の問題点を指摘する。「予算計画後、申請から契約、実施までに時間がかかるために、ケニアの為替変動で物価が上昇し、予算が圧迫された。また、1月に始まったプロジェクトは、初期の資材購入が多い時期と年度更新が重なった。だがJICAは年度ごとに精算をしなければならないため、協力期間が年度をまたぐ際の負担が大きかった」。

しかし、草の根協力支援型には現場重視の柔軟性も取り入れられている。プロジェクト期間中、例年にない天候不順に見舞われ、作業が難航したが、その対応策をIWPは事前にJICAと相談していたため、期間の延長申請が円滑に認められた。不休の作業を続けながら1カ月半延長し、契約内容を完了することができた。

JICAとの初めての連携を終えて、大野さんは次のステップを計画中だ。現地では家畜の増加や道路拡張工事のために森林破壊が懸念されていることから、再度草の根協力支援型に応募し、井戸から水を得られるようになった小学校で苗木を育て植林する事業を行い、自然保護に配慮した持続可能な開発をさらに浸透させたいと考えている。「今後の課題は、プロジェクト実施後の評価を次期プロジェクトに確実につなげていくことではないか。NGOの年間予算規模の大小にこだわらず、現地で表れている効果を重視して、客観的に評価されると良いと思う」。

コミュニティーに密着して活動するNGOと、国家規模の尺度で援助を展開するJICA。双方の立場の違いから生じる距離感をできるだけ縮めていくことが今後の連携における課題といえよう。

ロイトキトックではその後、7人のエンジニアたちが「レキテング自助努力グループ」を結成、周辺地域に上総掘りを宣伝し、井戸掘削を請け負っていく計画だ。今年5月には、グループとAMREFが連携してエレライ村に新しい上総掘り井戸を完成させた。IWPの技術移転が見事に成功したことを証明する第1号井戸だ。「ケニア中に上総掘りの良さを伝えていきたい」とエンジニアたちは目を輝かせている。プロジェクト終了後もアドバイスを続けている大野さんは「1960年代まで日本各地で活躍していた上総掘り技術は今や博物館の展示物になりつつあるが、日本が世界に誇れる技術。今後も援助機関や現地NGOと連携しながらミレニアム開発目標(MDGs)の一つである安全な水へのアクセスの向上に貢献していきたい」と意気込みを見せる。

アフリカ適応型の新方式として生まれ変わった上総掘りのさらなる発展が楽しみだ。