monthly Jica 2006年9月号

特集 NGOとJICA “草の根”を支え“草の根”を支えるパートナーシップ(3/4ページ)

TRAINING in Japan(日本)
「村民の視点」引き出す現地NGOの育成を

村落開発の効果的な支援のあり方が模索される中、地域住民のニーズを熟知する現地NGO関係者のための研修が、JICAとNGOの連携により実施されている。

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「地元学」を実践する三重県宮川村で実施されたワークショップ

開発途上国で住民参加のもとに村落開発を行う時、援助する側は住民との信頼関係を築くのに時間と忍耐を要求される。また、地域に溶け込むことができても、外部の人間の理解力には限界があることは否めない。そこで、先進諸国の援助機関の多くは、現地の状況を熟知し、住民のニーズを把握する現地NGOと連携して支援を行う方法を重視するようになっている。援助側と住民とのパイプ役を果たすことが期待されているのだ。

そんな現地NGOの力を重視するJICA大阪国際センターと関西NGO協議会は、現地NGOスタッフが自国でプロジェクトの改善に貢献できるよう、1998年から研修を実施している。この「JICA-NGO連携による実践的参加型地域開発コース」は、日本のNGOの推薦を受けた現地NGOスタッフやNGOとの連携にかかわる政府関係者が、日本のNGO・ODA関係者との議論を通してそれぞれの課題を客観的に見直すと同時に、より効果的な参加型地域開発の知識や手法を学び、ファシリテーター※1としての役割を理解することが狙いだ。また、阪神淡路大震災の被災地の復興に当たってきた神戸のNPO/NGOを訪問し行政と協働事業に関する見識を深めたり、三重県宮川村で実践されている「地元学」※2のフィールドワークに参加するなどして、地域の人々自身が地元の資源や力を発見していくことの重要性を学んでいる。

井戸掘りや植林などを通してアジア18カ国の人々の自立を支える日本のNGO「アジア協会アジア友の会(JAFS)」が提携しているネパールのNGO「HARD(ハード)」。そのスタッフとして女性や子どもの支援に携わってきたリマ・マナンダールさんは、昨年研修に参加した。研修中は「自分の国では立場を気にして発言しづらい場合もあるが、研修員同士なら意見を言い合える」と活発な議論を展開。「今までの活動をさまざまな角度でとらえ直し、ファシリテーターとしての自分の役割が見えるようになった」と言う。帰国後も他国の研修員とEメールでやり取りするなど、「研修で相談し合える友人もできた」と喜ぶ。

研修を通して実りを得たのは研修員だけではない。コースの運営方針やカリキュラムを作成する「運営委員会」は、JICAと関西NGO協議会からそれぞれ3人ずつで構成されている。協議会の宮下和佳さんは「私たちは単なる事業の委託・受託関係ではなく、対等の立場で議論し、試行錯誤しながら研修をつくり上げている」と語る。昨年まで研修を担当していたJICAの中川淳史さんも「現地NGOと密着して活動する経験豊富な日本のNGOから学ぶことは多い」と強調している。

※1 参加者の知識や経験を引き出しながら、会議やワークショップ、さまざまな社会活動などを促進・援助する人のこと。

※2 地域を見直し持続的な地域づくりを進めるための手法。熊本県水俣市で提唱され、岩手県陸前高田市や愛知県美浜町など日本各地で実践されている。

Expert's View 専門家に聞く これからのODA・NGO連携

日本ではここ10年、ODAとNGOとの政策対話が持たれるようになり、JICAとNGOとの連携も進展してきた。自らNGO活動に関与し、国際社会開発における市民社会の重要性を説いてきた西川潤氏に、ODAとNGOの望ましい連携のあり方について意見を聞く。

1 ODAとNGOの連携の動きが生まれた背景は?

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西川潤(にしかわ・じゅん)
1936年台北市生まれ。早稲田 大学大学院アジア太平洋研究科教授。国際経済学を専攻し、南北問題、開発援助、社会経済などの理論研究に取り組む。これまで、国連調査訓練研修所の特別研究員、パリ第一大学、メキシコ大学院大学、ラサール大学(マニラ)、タマサート大学(バンコク)、北京大学などの客員教授を歴任。外務省ODA懇談会委員。JICAジェンダー平等懇談会委員。国際開発学会副会長。著書は『飢えの構造』(ダイヤモンド社)、『人間のための経済学』『世界経済入門』(岩波書店)ほか多数。

1990年代までのODAは、南北格差の縮小や人道支援を建前としたが、実際はそれぞれの援助国が途上国のインフラを整備して自国の企業が途上国に投資する道ならしをする形が多かったのです。

ところがグローバリゼーションの時代に入り、世界的に市場経済化が進展すると、市場の失敗と呼ばれる現象が広がりました。つまり、グローバリゼーションは世界の特定の部分に繁栄や経済成長、資源の集中をもたらしますが、その反面、貧困国はどんどん貧しくなり、貧富の格差も広がってくる。その中で民族紛争が起こり、公害や環境破壊、感染症などの問題が広がり、頻発する天災の被害も深刻になっています。

今まではODAが行っていた経済成長のための地ならしを、今度は主として民間投資や多国籍企業が担当するようになり、ODAは市場の失敗に対応するという、民間投資との分業関係が新しくできてきたのです。政府自身もグローバリゼーション下では「小さい政府」が望まれます。しかし悪化する社会問題や環境問題には政府だけでは対応できないので、NGOの力が必要とされるようになりました。

また、小さな政府の時代になると、政府のできることには限界がある。そこで、80年代末ごろからNGOやボランティア活動が活発になるとともに、社会・環境・平和構築などの諸問題の解決のために、ODAがNGOあるいは市民社会と連携するという考え方が国連の場で確立し、社会的にも受け入れられるようになってきたのです。

2 日本や援助国のODAにおけるNGOの位置付けは?

経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)のメンバー国の中でも、ODAとNGOの連携をずっと昔から続けている国、例えば北欧諸国やオランダ、アメリカなどは両者の連携事業がずいぶん進んでいます。逆に、フランスや日本のように、まだそれほど進んでいないところもあります。その理由の一つとして、日本の場合、今までの経済発展の中に占める政府のウエイトが大きかったことがあります。ですから、日本ではNGO経由で使われるODA予算が増えつつあるとはいえ、ODA全体の予算の中では2.8%(2004年)に過ぎません。アイルランドやオランダではODA予算の15%前後、イギリスは5.4%がNGOに支出され、そのほかNGOとのマッチングファンド※もあります。

NGOのいいところは、現場をよく知っていること。そして現地の人々の気持ちが分かるということでしょう。役所でカバーできない専門性を備えている団体もあります。ところが日本では、ODAにおけるNGOの位置付けというものが非常に弱い。外務省はNGOとの対話をもう10年くらい続けていますが、NGOが建設的な提案をしても、実際の政策立案にはなかなか取り入れられにくい。「国民参加」といってもしばしばスローガンに終わりがちなところがあります。

まずは政府部門とNGO部門の対話をもっと実り豊かなものにすることが大事です。それを裏付けるものが予算なので、ODA予算をもっとNGOに割り当てなければなりません。

※共同で資金を拠出すること。

3 JICAとNGOの望ましいパートナーシップとは?

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JICAの草の根技術協力事業で(特活)シェア=国際保健協力市民の 会が東ティモールで行っている「エルメラ県における保健教育促進 プロジェクト」。JICA事業のさまざまな分野でNGOとの積極的な連 携が期待されている

JICAは10年ほど前と比べると、ずいぶん変わってきましたね。昔はJICAにとって、NGOは眼中になかったと思います。それがだんだん変わったのは事実で、今の草の根技術協力事業などNGOとの連携の枠組みにそれが現れています。これは積極的なイニシアチブですが、JICA全体の予算からすれば、まだまだ規模が小さいですね。また、外務省とNGOの人事交流や、JICAとNGOの定期的な協議などもいいことだと思いますが、イギリスなどのようにさらに進めるべきでしょう。

グローバルレベルでの社会開発問題を考えていくには、市民社会との協力なくしてはできません。そうすると、現在、草の根技術協力事業で扱っている貧困や環境、女性支援の分野ばかりではなく、JICAの事業すべての分野にNGOも積極的に入り、大いに意見を交換するようなビジョンが必要ではないかと思います。それによって、今はまだマージナルな位置にある草の根技術協力事業の予算が、もっと生きた形で使われるようになるでしょう。

途上国の草の根をよく知るNGOを、予算面で支援するだけではなく、JICAとNGOが政策レベルで協力し、ODA全体にNGOが持つ草の根の考え方を反映させていくことが大切なのです。

2008年度にはJICAと国際協力銀行(JBIC)の一部が統合し、ODAが一元化されていきます。日本がODAを通して世界にメッセージを発していく良い機会です。そのとき、新生JICAがNGOをどう位置付けるのか。これは、日本のODAとNGOの関係を象徴することになりますから、非常に重要な問題だと思っています。