monthly Jica 2006年12月号

特集 エネルギー 未来を照らし出す光(1/3ページ)

今、エネルギー安全保障は、世界の最重要課題の一つだ。増大するエネルギー需要や原油価格の高騰などに伴い、世界各国はエネルギーの安定確保に努めている。今年7月のG8サミットにおいても、先進国・途上国に関係なくエネルギーは生活の質と機会の向上に不可欠であり、各国が連携して多様な角度からエネルギー問題に取り組んでいくことの必要性が認識された。

エネルギーの大半を海外に依存する日本は、変動する国際情勢を踏まえて5月にエネルギー安全保障を核とした「新・国家エネルギー戦略」を策定し、その柱の一つにアジア・世界のエネルギー問題克服への積極的貢献を掲げている。

JICAは、開発途上国の社会経済や人々の生活を支えるエネルギーの安定供給のために、「電力の安定供給」「再生可能エネルギー利用」「省エネルギー」の3分野で協力を展開してきた。早くからエネルギー対策に取り組み、“省エネ先進国”である日本の技術や経験を生かした協力とその成果を紹介する。

VOICES from Turkey(トルコ)
「小さな気付きが生む省エネ効果は絶大」

自国で消費するエネルギーの半分以上を輸入に頼るトルコでは、特に消費量の多い産業界の省エネルギーが急務だ。しかし、省エネを推進するトルコエネルギー天然資源省/電力資源調査開発総局(MENR/EIE)が設立した国立省エネルギーセンター(NECC)の技術、体制、経験不足で対策が不十分だったことから、JICAは2000年から5年間、「省エネルギープロジェクト」を実施し、人材育成や工場診断を通じて産業界の省エネ活動に貢献した。その協力をさらに活性化させるため、現在は2人のシニア海外ボランティア(SV)がNECCスタッフをサポートしている。

各工場の省エネは順調に進んでいるのか、新たな課題はあるのか─プロジェクト終了から1年余りが経過した現場を訪ねた。

産業界の省エネが課題

冬の訪れを告ぐ冷ややかな風が吹き抜ける10月中旬の首都アンカラ。ラマダン(断食月)だったせいか、日中は静寂な一面を見せながらも、あちこちでビルやマンションなどの建設工事が進み、街は活況を呈していた。低調だった国の経済も国際通貨基金などの支援を受けて改革を推進し、2005年の経済成長率は7.2%を記録。経済安定への苦闘を経て、今トルコは新たな改革の段階に突入している。

その柱の一つがエネルギー対策だ。繊維や自動車に続き、家電やセラミック産業が競争力を付け、特に産業界のエネルギー消費量は増加の一途にある。しかし、有力なエネルギー資源に恵まれないトルコはその半分以上を外国からの輸入に依存。1990年代の湾岸戦争の影響で石油価格が高騰したときはインフレが加速した。再生可能エネルギーの普及などにより自給率を高めるとともに、地球温暖化対策やエネルギーの安定供給、環境保全を重視するEUへの加盟に向け、消費量の多い産業界で省エネを推進することは喫緊の課題だ。

そして、日本の高い省エネ技術に注目したトルコが支援を要請し、JICAは「省エネルギープロジェクト」を2000年に開始。70年代の石油危機を契機に、日本の省エネ活動を主導してきた産業界の技と経験が、トルコで生かされている。

エネルギー管理者の育成

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NECCのエネルギー管理者研修所を案内するNECCのシュレイヤ・アクマンさん(右)。センター内には、工場診断のための約300個の機材も保管されている

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(上、左から)エルダルNECCセンター長、JICAのアリさん、ユスフEIE部長、JICAの山下望さん。EIEでは産業界に省エネ技術を普及するセミナーや住民意識の向上を目的とした絵のコンテストを実施している

「加熱炉の排熱回収や部分照明への変更など24カ所を改善し、ここ5年間でエネルギー消費量を25.4%削減した。コンプレッサー(気体圧縮機)の排熱は社員寮のシャワーに利用している」と話すのは、洗面器や便器など衛生陶器を製造する企業ビトゥラ(VitrA)のアリ・イサン・オイマンさん。セラミック焼成の過程で膨大な熱を消費するこの工場では、長年省エネ活動を続けている。特にエネルギー管理者がEIEの研修に参加したことで「今まで気付かなかった部分にも目が届くようになった」という。

EIEは95年以来、ビトゥラのように大型プラントを有する500余りの工場に対してエネルギー管理者の配置を義務付け、各工場で効果的な省エネ対策に当たる管理者を育成している。プロジェクトでNECC内に設置されたエネルギー管理者研修所には、熱や電気に関するさまざまな機材が備えられ、エロル・ヤチンさんをはじめNECCスタッフには、「エネルギーを無駄なく使用するための最適な条件を参加者自身で試せるので研修内容が一層実用的になった」と評価も高い。02年までの7年間で350人だった研修参加者は研修所設立後の4年間でさらに450人増えた。研修コースも12から25分野と豊富になり、「参加希望者はいつも定員を上回る」とエルダル・チャルクオールNECCセンター長。ISO14001※1の取得などを目指す企業から注目されている証拠だ。

また、EIEはJICAと連携し、アフガニスタンやイランなど周辺20カ国のエネルギー管理者に対する第三国研修※2を04〜06年に実施した。ケマル・ブユクミッチEIE局長は、「研修員は帰国後、学んだ知識や技能を自分の所属機関で生かしている」と成果を述べ、今後も実施していきたい意向だ。

一方で、「改善すべきことも多い」と指摘するのはSVの手塚榮(さかえ)さん。プロジェクト終了後からNECCスタッフのサポートに当たる手塚さんは、「エネルギー管理者研修での指導方法にもっと工夫が必要」と訴える。「機材が整えられ、現在の研修は省エネ技術の基本を習得するのに有効だが、ある設備をあえてエネルギー効率の悪い条件に設定しておき、研修参加者に効率的な設定に直させるような内容も加味するとより効果的。なぜそうすべきかを自分が考えなければ、自社で実践するとき技術を応用できない」。

※1 組織活動による環境への負荷を最小限に食い止めるために定められた国際的な標準規格。

※2 途上国がJICAの支援を得て、ほかの途上国(第三国)の研修員を受け入れ、技術移転などを行う研修事業。

改善点をあぶり出す工場診断

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アルチェリックの冷蔵庫工場の省エネ対策を説明するムスタファさん(右)。背後にあるのは自動運転のコンベア。これの設置で工場内搬送コストが削減できたが、空のまま動くコンベアも多く「運転面でも省エネが必要」(手塚さん、左)

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TPMを行うアルチェリックの工場内には、目標とそれを達成するための計画表が張られていた。エネルギー管理責任者のセルダル・チャタロルマンさんはEIEでの研修に協力し、省エネの実践例とその成果を研修参加者に発表している

アンカラから西に車で3時間のエスキシェヒルにトルコ最大の家電メーカー、アルチェリック(Arcelik)の冷蔵庫工場はある。年間約300万台を製造、海外でのシェアも拡大中で、省エネ型冷蔵庫の開発にも力を入れている。04年にはプロジェクトのもう一つの柱であった工場診断を受けた。

診断後、工場内で部品を運ぶフォークリフトを省エネ型に切り替え、さらに自動運転のコンベアを設置し、1部品当たりの搬送エネルギーは半減したそうだ。また、屋根に太陽光パネルを設置して照明に利用するほか、コジェネレーションシステム※3を導入し、電気、熱、蒸気の効率的な運用に努めている。ムスタファ・エセンリック製造管理長は「コジェネレーションシステムの導入やEIEの省エネコンテストに挑戦することは、わが社のイメージアップにもつながる。省エネには地道な取り組みが不可欠だが、その先にある効果は確かだ」と話す。さらにアルチェリックでは全従業員を対象としたTPM※4に関するトレーニングを実施し、生産性向上の重要な観点に“省エネ”があることを皆が理解している。

「しかし床に製造途中の半製品が大量に置かれていた。これでは品質管理面で行方不明品や異種製品混合という問題を招きやすい上、工場内の搬送コストがかかる。販売計画に基づく各工程の生産管理を強化する必要がある。品質管理は究極の省エネ対策だ」と手塚さんはまだ改善点があることを指摘する。

また、床や壁のタイルを製造するカロ・セラミック(Karo Seramik)は、NECCでの研修や工場診断を通じ、05年までの5年間で25%の省エネを達成。「エネルギーを大量に使用する分野のため、生産コストの3割がエネルギー代。生産量が増加すればそれだけ省エネは大切であり、ちょっとした気付きが大きな省エネにつながる」と責任者のラマザン・スドゥライさん。現在の生産量は操業開始時の約20倍だが、「近年ライバル社が現れ、低コストで品質を保持し、競争力を高めるためにも重要」と話す。

※3 ディーゼルエンジンなどで発電する一方、その排熱を再利用して給湯や空調などの熱需要を賄うエネルギーの効率的運用システム。

※4 Total Productive Maintenance(全員参加の生産保全)の略。生産システムの効率化を追求する企業を目指し、生産過程のあらゆるロスを未然に防ぐ仕組みづくりを社員全員の参画によって実現するための活動。

求められる新たな対策

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アナドル・エフェスのエルディンチさん(左)。ラマダン中はビールの消費量が落ち込むそうで、数ラインはメンテナンス中だった

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EIE内に建設されたエコ住宅のモデルハウスに社会科見学に来ていた小学生。市民一人一人の意識向上がトルコの次の課題だ

国内シェア約8割、海外でも人気が高いトルコビール「エフェス・ピルセン」を生産するアナドル・エフェス(ANADOLU EFES)のアンカラ工場。国内外にある全7工場のうち、アンカラ工場ではここ数年、省エネ活動を強化している。

「過去5年間でエネルギー消費量を3割削減した。03年にコジェネレーションシステムを導入し、余熱の蒸気を生産と暖房に再利用している」と説明しながら、エネルギー管理責任者のエルディンチ・バルトさんが工場内を案内してくれた。SVの片野敬二さんは「省エネ方法はさまざまだが、抜本的改善のために各工場でコジェネレーションシステムを持つことは有効」と活動を評価する。

また同社では、全工場長とエネルギー管理者をメンバーとする全社的なエネルギー委員会を年2回開催。各工場での省エネ活動の成果発表のほか、製造段階ごとの水、エネルギー、電気の消費量を分析して問題点を明らかにした上で、新たなエネルギー対策を検討している。

EIEが実施した研修参加者へのアンケート結果によれば、研修参加後、1工場当たり平均7%の省エネが実現している。ユスフ・コルジュEIEエネルギー資源部長は、「今年中に予定される省エネ法制定後は、対策が強化されるので省エネはさらに進むはず」と話す。だが、新たな投資を要する省エネは法律だけで徹底するのは難しい。そこで今注目されているのが、省エネを望む企業に、別の企業が既存設備の問題点把握から、改善案提起、資金や人材、設備などのサービスを包括的に提供し、経済的に省エネを実現するESCO(エスコ)事業※5。片野さんも「省エネ活動の拡大には法律・資金の両面で優遇制度をつくり加速すべき」と国による制度整備の必要性を強調する。

しかしESCO事業者に資金や高い技術が求められるほか、技術サービスに費用を支払う契約が従来の商習慣になじみにくいため、今のトルコで成り立つか議論を進めている。また導入に多額の資金が必要であり、ユスフ部長は「日本の円借款による協力に期待している」。

産業界のほかに、EU各国の協力を得て民生面でも省エネを実践するトルコ。市場には省エネ仕様の電化製品も増え、“省エネ”の視点は一般市民の間に浸透しつつある。しかし「(電気を小まめに消すなど)もっと一人一人の行動を変えていかなければならない」とケマルEIE局長。さらに交通分野での対策も求められる。「(エネルギー対策に早くから取り組んできた日本と)さらなる協力関係を築きたい」(ケマル局長)。

JICAの協力を通じて自信を付けたNECCスタッフの姿はもちろん、各工場のエネルギー管理者たちが試行錯誤を繰り返しながらも、皆自分の技術水準を自負し、自社の成長のためにより効果的な省エネ活動を実践し続ける様子は、何よりもうれしい実りだ。今後も限りあるエネルギー資源の効率的利用の重要性を、その経験をもっていまだ手付かずの国内外の工場に伝えることが彼らの新たな役目といえるだろう。省エネは安定した経済への道のりであり、トルコのさらなる発展のカギ。省エネを求める周辺国をリードする存在へトルコが成長する日はそう遠くないはずだ。

※5 ESCOはEnergy Service Companyの略。