monthly Jica 2006年12月号

特集 エネルギー 未来を照らし出す光(2/3ページ)

PROJECT in Bangladesh(バングラデシュ)
電力セクターの職員に「やればできる」の精神を

2020年までに全国民に安定した電力の供給を目指すバングラデシュ。電力セクター全体の運営能力向上のために、経営者から一従業員までが一体となって業務・経営の質の向上を追求する手法「Total Quality Management(TQM、総合的品質管理)」が今、JICAの支援によって根付き始めている。

意識改革を支えるTQM

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2006年6月、BPDBのTQM推進室やPGCB、WZPDCLなどから合わせて30人の研修員が集まり、ワークショップが実施された。TQMがどれくらい浸透しているかを確認するため、各組織ごとに現状分析を行い、問題点について議論した

一日の平均停電時間約6時間、電化率38%という低い電力水準にあるバングラデシュでは、不安定で絶対的に不足している電力供給の状況と、高いシステムロス率※1、電力事業者の劣悪な経営状況などが問題となっている。これらを改善するため、バングラデシュ電力開発庁(BPDB)は1994年、各国ドナーの支援のもと、電力セクターを発電、送電、配電の各部門に分離。BPDBや独立発電事業者(IPPs)が発電した電力は、電力送電会社(PGCB)などによって送電され、ダッカ電力供給会社(DESCO)や農村電化庁(REB)、西部配電会社(WZPDCL)などが、各地の工場や一般消費者に配電し、それぞれが責任を持って経営、設備運転・維持管理を行う体制を整え始めた。

日本は99年からJICAと国際協力銀行(JBIC)が連携して支援を開始。JBICが円借款による発電所の建設や送電線の整備、農村電化などを通して電力供給の支援を行い、JICAは専門家を派遣したり、日本で研修を行うなどして、各部門の経営体質改善や電力設備の維持管理技術の向上のための支援をしてきた。その中で特に重視して伝えてきたのが、「Total Quality Management(TQM)」の考え方だ。TQMは、消費者の満足する品質を備えたサービスを適切な価格で提供できるよう、組織全体を効果的・効率的に運営するための手法として、これまで日本の電力会社においても導入されてきた。

※1 テクニカルロスとノンテクニカルロスの2つに分類される。前者は、設備の老朽化などの技術的な問題で起きるロス。後者は、盗電など外部要因によるロス。

具体的な提案示し改革を

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PGCBの送電用変電所。同国の電力セクターの中で唯一、送電ロスを軽減した実績を持つPGCBは、送電部門のモデルとして、さらなるTQM推進に尽力している

これまでのJICAの支援で定着しつつあるTQMの知識を、実践に移し、TQM活動※2の導入によって各部門の運転・維持管理、マネジメント能力を改善するため、JICAは2006年12月から「TQMの導入による電力セクターマネジメント強化プロジェクト」を開始する。TQM導入が比較的進んでいる、BPDBの発電部門と配電部門、PGCBの送電部門、WZPDCLの配電部門の4つをモデル事業所として選定し、TQM活動を活性化させていく予定だ。

支援対象として一番のターゲットは、各組織のトップと労働者との間に立つ中間管理職。6月から現地に電力セクター政策アドバイザーとして派遣されている東京電力職員の鈴木誠一専門家は、「中間にいる職員は、大卒で、TQMに関する知識、現場の状況、技術を修得している。彼らこそが、組織の体質やトップの意識を変えていくキーパーソンになり得る」と言う。しかし「トップのやり方が悪い」と不満ばかりを口にし、自ら動こうとはしない彼らに、鈴木さんは「トップはあなたたちからの情報や提案を待っているはず。何が問題で、それを解決するために何が必要か、あなたたちが事業改善のための提案・費用対効果を具体的に示していけば、トップの方針も変わっていく」と説得に努めている。「TQMを通して、日常の業務手順など一人一人の役割を明確にし、まずは個々人に『やればできる』という意識を持ってほしい。そのためにも、彼ら自身の提案を実現化させるプロジェクトにしたい」。

プロジェクトでは、停電の回数や電気料金回収率、システムロス率などの指標を09年までに改善することを目指し、具体的な数値目標を掲げている。その目標達成のための行動計画を職員が経営者に提案する定例会議も開かれ、今後はそこで出された案を実行していく体制を整える。そして、労働者の日常作業や点検基準などもマニュアル化して業務の質を高め、末端で働くスタッフにもやりがいや向上心を育てていく。

また、電気料金の不正な支払いや盗電などが相次いでいるため、電力量メーターや料金徴収を厳しく管理する必要性を職員に教育するとともに、正しく支払うよう顧客に啓発していく予定だ。

バングラデシュの電力セクター全体にTQMが普及・定着するには地道な取り組みが求められるが、現地ではこれから本格的に始まるプロジェクトへの期待が高まっている。

※2 TQM活動には、経営者主体で実施する方針管理、中間管理職が行う日常管理、そして末端の労働者などが行う品質管理(QC)、改善提案、監査・考査などが含まれる。

【図表】バングラデッシュにおける電気の流れ

TRAINING in Jordan(ヨルダン)
イラクの復興を支える制度支援

イラクでは、紛争後数年を経た今も、多くの国民が電気や水道など公共サービスを十分に受けられない状態が続いている。電力供給の改善は特に緊急性が高い課題だ。治安が悪く、現場での直接的な支援ができない中、JICAは隣国ヨルダンで電力分野の研修を行っている。

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イラクの電力事情の情報を共有するため、イラク人研修員10人に加え、米国国際開発庁(USAID)の元イラク駐在員を招いてワークショップを実施した(2005年12月)。JICAの支援について説明する譲尾さん(左)

長年にわたる紛争や経済制裁により国力が一気に衰退したイラクでは、電力供給量が紛争前の水準を下回り、バグダッドなどの主要都市では一日8時間以上停電する日が続いている。

2003年10月に、イラク支援の前線基地として「イラク班」が設置されたJICAヨルダン事務所では、「施設整備の効果と自立発展性を高めるには、地道な技術協力が不可欠」との考えのもと、電気事業を制度、技術面から支援するため、ヨルダン電力公社とともに第三国研修を実施している。これまでに約320人が研修に参加した。

イラク班の譲尾進(ゆずりおすすむ)さんは「イラク人自身が“復興の担い手”として主体的な役割を果たせるよう、日本とヨルダンの専門家、イラク人の3者がそれぞれの役割を果たしつつ、力を合わせて研修をつくり上げている」と言う。研修ではまずイラク人が現状を発表し、イラクと共通の電力システムや開発課題を持つヨルダン側が自国の電気事業制度改革の経験を教授、また日本人専門家がアジア諸国の成功・失敗事例や問題点の政策分析の方法を教える役割を担う。イラク電力の将来の方向性などについて、日本人専門家がリードしながら議論を進め、その結果をイラク人が自国に持ち帰り関係者との調整や、データ収集・分析を行う。このサイクルを繰り返すことにより、日本人が現地に入ることなしに現場レベルでの制度支援を行うことが可能となる。

多くの研修員は、夜を徹してレポートをまとめたり、研修終了後も仲間同士でディスカッションを重ねるなど意欲的だが、一方で、複雑な問題もある。1970〜80年代には先進国並みの高い国力を誇ったイラク。研修員の中には、「ヨルダン人から教わることはない」とヨルダンでの研修に消極的な者もいるという。また、イラク省庁は研修員を選定する際、職員に対し「研修機会を平等に与える」との方針を持つため、特定の有望な人材に集中的に研修の機会を与えることが難しい。

譲尾さんは「直接イラクの現場を見られない中での支援は想像以上に難しい。でも、泥沼化する混乱の中からイラクが抜け出せるか否かは、周辺国やドナーがどれだけ真摯(しんし)に復興に取り組むかにかかっている」と語る。

イラク班では「イラク支援は長い目で見ることが大切」と考えている。治安の回復とともに、イラクで直接支援できる日がくることを願い、復興への長い道のりを今日もイラクとともに歩んでいる。