monthly Jica 2007年3月号

特集 開発教育/国際理解教育 世界とのきずなが育てる“生きる力”(2/6ページ)

LECTURE on INTERNATIONAL COOPERATION for Students(国際協力出前講座)
世界を体感!名物講師の国際協力出前講座

JICAの青年海外協力隊員や専門家などが帰国後、小中高校で、途上国の実情や国際協力の大切さを伝える「国際協力出前講座」。その名物講師として知られ、九州で活躍する小田哲也さんの出前講座をレポートする。

「名物講師の授業を見たい」

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コロンビアの民族衣装を着て現れた小田さん。体育館を駆け回り、生徒一人一人と目を合わせながらワークショップを行い、子どもたちが発言しやすい環境をつくった

1月下旬、佐賀県。九州各地で開発教育を推進する元青年海外協力隊員ら10人が、JR佐賀駅に集まった。「どうすれば、より子どもたちの心をとらえる授業ができるのか…」と試行錯誤を繰り返している彼らは、これまで約50回にわたって出前講座や講演を行い、教員や生徒から定評を得ている、小田哲也さんの授業を参考にしようと、九州各地からやってきたのだ。

駅からバスに乗り継いで向かった先は、東与賀(よか)町立東与賀中学校。この日、同校では、2年生の「総合的な学習の時間」の国際理解をテーマにした授業で小田さんを講師に迎えることとなっていた。広い体育館には、80人の生徒たちがこれから始まる授業を、期待に満ちた表情で待ち構えていた。

「¡Hola, Buenas Tardes ! ¿ Como estan ? Mi nombre es…」。軽快なラテン音楽とともに、突然、ステージの後方から走って登場した小田さんは、生徒たちの前に立つと耳慣れない言語を話し始めた。言葉の意味が分からず「何が始まったんだろう?」と驚く生徒たち。

これは小田さんのちょっとしたパフォーマンスの一つ。「『こんにちは、皆さん。お元気ですか?私の名前は…』とスペイン語であいさつしたんですが、普通に日本語で話すよりも、関心を示してくれる。それに、たとえ言葉が通じなくても子どもたちは私のしぐさや表情から、理解しようとする力を持っている」。それを引き出すことが小田さんの狙いだ。

巧みに生徒の興味を引き付けた小田さんは、ようやく日本語で話し始めた。「今日は世界を体感しよう。題して100人村ワークショップ※」。

小田さんはまず、全員に「役割カード」と呼ばれる、小さなカードを配った。それぞれのカードには性別、年齢、地域、言語など7つの項目が記され、80人一人一人が異なる“プロフィール”を手に入れた。そして、スクリーンに世界地図を映し出すと、小田さんは生徒たちに質問を投げ掛けた。

「世界では女の人と男の人、どっちが多いか知ってる?」

少し考える時間を設けた後、小田さんは「じゃあ、カードに書かれた性別に分かれてみよう」と促した。自分のカードを見て、動き出す生徒たち。全員が移動し終わると、小田さんは「男性48%、女性は52%」と答えを発表した。さらに「でも、途上国では死んでしまう人の数も女性のほうが多いんだよ。なぜだと思う?」と質問した後、衛生状態や医療設備が日本のように整っていない状況を説明した。

また、カードには、「○」「△」「□」の3つの記号のうちのいずれかが記されているが、それらは「先進国」「途上国」「1日1ドル未満で暮らす極貧国」を意味し、生徒たちは小田さんの指示に従って再びグループに分かれた。そして、各グループが持つ富に見立てたあめが配布される。先進国グループには、80粒以上のあめが配られる一方、極貧国グループはたった1粒しか得られず、「なんで先進国グループはあんなにいっぱいあるの?こっちにも分けて!」と不公平な分配に不満を口にする。生徒たちはワークショップを通じ、世界の不平等を体感し日本の恵まれた生活について考える機会を得た。

※世界を100人の村に例えて南北間の格差を分かりやすく伝えた本「世界がもし100人の村だったら」(マガジンハウス)をもとに考え出された参加型ワークショップ。教材「ワークショップ版 世界がもし100人の村だったら」(開発教育協会)は、世界の現状を体感するための教材として、多くの開発教育指導者が利用している。

異なる世界を知る重要性

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1997年から3年間、小田さんは協力隊員としてコロンビアの少年院で英語の授業や日本文化紹介などを通して青少年の更正を支援した。「人を思いやる心を持つコロンビアの子どもたちのことを、日本の子どもにも伝えたい」と小田さん

出前講座を終え「自分の知らない世界のことが分かった」「ぜいたくな日本の生活を見直したい」と感想を述べる生徒たち。中には「将来、協力隊として途上国の人々を助けたい」と熱く語る生徒もいた。

こうして小田さんは、一方的に知識を詰め込むのではなく、生徒たちが世界の実情を体感しながら問題を考えるきっかけをつくり出し、自分も世界の一員であるという“気づき”をもたらしている。

また、「彼らに、日本とは異なる世界があることを知らせるのは、とても重要。視野を広げ、自分を客観的に見つめるきっかけにもなる」と言う小田さん。「日本の子どもたちは目の前のお金やモノにとらわれ、自己中心的になっている。一方、隊員時代に出会ったコロンビアの子どもたちは、貧しくても周りのことを考えながら生きていた」。小田さんは、世界の実情だけでなく、本当の豊かさとは何かを教えてくれたコロンビアの人々のことも、生徒たちに伝えている。

また、2005年、小田さんは不登校や引きこもりの子どもたちのためのフリースクール「箱崎自由学舎ESPERANZA(えすぺらんさ)」を、福岡県に設立した。「ESPERANZA」とは、「夢、希望」を意味するスペイン語。「みんなが希望を持って、笑顔でいられる社会をつくりたい」と自らの“夢”を語る小田さんは、これからも出前講座を通して、子どもたちの心を豊かにする活動を続けていく。

「箱崎自由学舎 ESPERANZA(えすぺらんさ)」のホームページ:http://www.esperanzahp.jp

出前講座を知るためのマルチメディア教材が完成

毎年約20万人が受講している「国際協力出前講座」は、開発教育・国際理解教育に取り組む小中高校の教員たちが最もよく利用しているJICAのプログラムだ。元青年海外協力隊員などのJICA関係者が学校を訪問し、途上国での活動や現地の人々との交流など、自らの体験談を話すことで、生徒たちは楽しく、時には考えさせられながら、日本とは異なる国々の文化や生活、問題を学ぶことができる。

この出前講座をもっと多くの人に活用してもらおうと、2月、JICAはマルチメディア教材「世界が教室にやってくる!」を作成した。約37分間の映像には、出前講座の内容や、出前講座を利用した中学校4件のケーススタディのほか、出前講座の申し込み方法、開発教育に利用できるプログラムや資料・教材などが紹介されている。

教材は、全国の学校や教育委員会などに配られる予定で、出前講座を通したさらなる開発教育の促進が期待されている。