monthly Jica 2007年3月号

特集 開発教育/国際理解教育 世界とのきずなが育てる“生きる力”(3/6ページ)

DEVELOPMENT EDUCATION STUDY TOUR for Teachers(教師海外研修)
教師海外研修から広がる開発教育

学校教員が開発途上国の社会・教育事情や日本の援助活動を視察し、その経験を日本の教育現場に還元する目的で、1967年から実施されている「教師海外研修」。昨年、JICA北陸主催のこの研修に参加した小中学校の先生たちが、タンザニアで出会った日本人専門家「タムタム先生」を招いて授業を行った。

タムタム先生の授業に感動して

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タンザニアのブンゴ小学校を訪問した教員たち

2006年9月、JICA専門家としての活動を終え、タンザニアから帰国したばかりの田村賢治さんのもとに、一本の電話があった。

「北陸の小中学校に来て話をしてもらえませんか」。電話の相手は、JICA北陸の職員、小林龍太郎さんだ。

話の発端は、その約2カ月前、北陸3県(富山、石川、福井)の小中学校教員8人がJICAの「教師海外研修」に参加し、タンザニアのソコイネ農業大学地域開発センター※1を訪れたときのこと。02年から4年間にわたって、ほかの日本人専門家とともに持続的な農村開発の手法開発とそれを担う人材の育成に取り組み、現地の人々から「タムタム」※2の愛称で親われていた田村さんの話を聞き、教員たちは非常に感銘を受けた。その話の内容とは、タンザニアの農業事情や田村さんの活動説明にとどまらず、開発の意義や自助努力の大切さを伝えるもので、「専門家としての喜びは村人に会うこと」と穏やかに語る田村さんの言葉には、現地の人々への思いが込められていた。

「田村さんの話を子どもたちにも伝えたい」。研修に同行していた小林さんは、そんな教員たちの声を実現させようと、「国際協力出前講座」の枠組みを利用。11月14日から4日間にわたって、田村さんを招き、北陸地域6つの小中学校で特別授業が行われた。

※1 1999〜2004年、技術協力プロジェクト「ソコイネ農業大学地域開発センタープロジェクト」が実施され、その後、2年間、現地の人々の自立的発展を実現するためのフォローアップ事業が行われた。

※2 スワヒリ語で「とてもおいしい」の意。タンザニアの人々にとって“タムラ”は言いづらく、親しみを込めてこう呼ばれていた。

「大切なのは、相手への“思い”」

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前年度の教師海外研修でエジプトを訪れた同僚に勧められ、瀬川さんも研修に参加した

そのうちの一つ、石川県金沢市立大浦小学校で5年生の担任を務める瀬川大輔さんは、田村さんと一緒に授業を行う日を心待ちにしていた。

研修でタンザニアへ行くまで「実は開発教育にまったく興味がなかった」と言う瀬川さんだが、研修を通して、これまで思い描いていた“苦悩するアフリカ”のイメージが一転。貧しくとも前向きに生きる人々の姿に驚くとともに、人々と同じ目線で農村開発に携わる田村さんの虜になった。

「田村さんの活動やその思いに迫り、子どもたちが国際協力について考えるきっかけになれば」。瀬川さんは、田村さんを迎える前から、タンザニアの基礎情報を子どもたちに教えたり、田村さんと連絡を取り合って授業の進め方を決めるなど、入念な準備を行った。

そして授業当日、「起立、ジャンボ!」と元気なあいさつとともに始まった授業で、田村さんはタンザニアの村で支援した養魚、養蜂、育苗・植林、農業の4つの事業を紹介。養魚用の池を手で掘ったり、蜂から身を守るための服を蚊帳とジャンパーで作った様子などを写真で見せ、村人自身でできることを尊重しながら支援してきた経験を語った。機械を使うことなしにあらゆる作業を行う村人の様子を知り「大変そう!」と驚きの声をあげる子どもたち。だが、瀬川さんが「どうして田村さんはお金や機械をあげなかったの?」と質問すると、「村人みんなで協力することが大事だから」「お金をあげたら何もしなくなるから」などそれぞれの意見を述べていた。

田村さんは最後に、「お金をあげなかったのは、タンザニアの人たちを信じていたから。国際協力は“物ごい”でも“お恵み”でもなく、お互いを大切に思うことから始まる」とのメッセージを伝えた。

「貧しさを知らない日本の子どもたちは、途上国の事情を話すと『はだしでかわいそう』『機械がないから不便だ』と考えてしまいがち。でもそうではない。現在の日本とは異なる生活様式があり、そこで暮らす人々も同じ人間なんだと知ってほしかった」(田村さん)

一方、田村さんは、授業を通して、教えるだけでなく学んだこともあったと振り返る。ある生徒の「タンザニアは最終的にどうなればいいの」という素朴な疑問は、開発援助の根本的な課題につながる鋭い言葉として、田村さんの心に残った。

後日、田村さんのもとに6校の生徒が書いた200通以上もの感想文が届いた。「タンザニアは貧しいけれど豊かな心を持つ人がいる」「自分は行けないけれど募金したい」など思い思いの感想がつづられており、田村さんはそれら一つ一つに返事を書いた。感想文の一部はスワヒリ語に翻訳され、タンザニアの村にも送られる予定だ。

また、今回の授業は同僚の教員にも影響を与え、研修に参加した瀬川さんらを中心に金沢市内の小学校教員やJICA北陸の職員たちで国際理解教育について学び合う場を設けようと計画中だ。

「これからも国際理解を促す活動を積極的に行っていきたい」という瀬川さん。研修に参加したことで、途上国への見方が変わるとともにタンザニアで活動する日本人の情熱に触れ、「自分にもできる国際協力を」と開発教育に力を入れ始めた。「人への思い」を伝える田村さんの授業は、“国際理解”にとどまらない、普遍的な価値を持った話として、多くの人々の心を捉え、開発教育のネットワークを広げている。