monthly Jica 2007年3月号

特集 開発教育/国際理解教育 世界とのきずなが育てる“生きる力”(5/6ページ)

EXPERIENCE of JOCV(元青年海外協力隊現職教員)
“地球人”になるための教育を

「知り、共感し、考え、そして自分自身が行動する」—青森県むつ市の高校で社会科を担当する南澤英夫さんが、生徒との学習の中で大切にしていることだ。青年海外協力隊参加の経験を生かし、学校と地域で開発教育を広げる南澤さんの取り組みと生徒たちの変化とは。

教室に「モジモジくん」はいない

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「メディアリテラシー」の授業。戦争報道の写真を利用し、生徒にいくつかの違う立場で新聞を作らせ、同じ写真が立場の違いによってまったく違う内容として報道されることを学んだ

3、4人のグループに分かれた生徒たちが、頭を突き合わせて大きな紙に何かを書き込んでいる。紙の中央には「環境問題」の文字。その周りを、「酸性雨」「温暖化」「海面上昇」といった、環境問題から連想される無数の文字が取り囲み、それぞれがクモの巣状につながっている。

ここは本州最北端、下北半島に位置する青森県立むつ工業高等学校(以下、むつ工)の教室。生徒たちが取り組んでいる「ウェビング」は、参加者自身が問題に気付くよう、開発教育でよく使われる手法だ。各グループの発表では活発な意見が飛び交い、笑いやどよめきが起こる。突然の質問にも上手に切り返し、そこに「モジモジくん」は見当たらない。

授業を進めているのは、社会科教諭の南澤英夫さん。1996年から2年間、青年海外協力隊員としてマレーシアに派遣され、日本語を教えた経験を持つ。

ここにいる生徒のほとんどが、南澤さんに出会う前は開発教育というものに触れたことがなかったという。最初のうちは自分の意見がなかなか言えない子もいたが、今は「違いますね。しゃべります。人の話も聞けるようになった」。

「先生、今のはこういうこと?」「分かる?じゃあ、代わって説明してもらえるか」。時々生徒が先生役になる。自信に満ちた笑顔がこぼれ、みんなが授業を楽しんでいる様子がうかがえる。

協力隊、それは一つの生き方だ

南澤さんは、協力隊に参加する前から授業に開発教育を取り入れていた。90年に訪れた東南アジアでは、そこで活動する協力隊員や日本のNGOのスタッフが、生き生きとしていることが印象的だった。そして、彼らのことを授業で話すと、今度は生徒が身を乗り出す。気が付くと、話しながら楽しんでいる自分がそこにいた。

その後、JICAのエッセイコンテストに生徒が応募。「もし入賞したら、それは神様が自分に『協力隊へ行け』って言っていることじゃないかと思っていたら、入賞したんです。それまでは他人の話を授業で伝えていたけれど、自分が体験したことを生徒に還元できたら、もっと面白いだろうなと」。

南澤さんが派遣されたマレーシアは、マレー系、中華系、インド系の人々が共存する多民族国家だ。宗教も違えば、習慣も違う。互いが多様性を認め、理解し合って成り立つ国家。それは、開発教育が持つ視点と重なっていた。

帰国後、南澤さんは本格的に開発教育の手法を学び始めた。(特活)開発教育協会(DEAR)が東京で行うワークショップや研修に参加し、貿易ゲーム※などの教材も自分で集めた。そして今、「あおもり開発教育研究会」に参加し、学校や地域で開発教育を実践するとともに、その担い手を育てる活動にも取り組んでいる。

南澤さんは、「協力隊は一つの生き方だ」と思っている。その影響か、昨年までむつ工で教え、一緒に陸上部の顧問をしていた越善(えちぜん)啓さんも協力隊に参加した。昨年10月には、カンボジアで活動中の越善さんとむつ工をJICAのテレビ会議システムで結び、全校生徒とのディスカッションが実現した。

※ 「貿易」を中心に世界経済の動きを疑似体験することによって、そこに存在するさまざまな問題を学び、その解決方法を考えるシミュレーションゲーム。

よりよい社会をつくってほしい

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マレーシアの全寮制中高等学校で日本語を教える協力隊時代の南澤さん。現在マレーシア各地の中等学校で行われている日本語教育は、青年海外協力隊がその基盤を作ったという

南澤さんが開発教育をする上で大切にしているのは、知るだけではなく、行動につなげること。そして、いつかよりよい社会をつくることに参加してほしいと願っている。

ここ数年、その思いが実を結び、むつ工にはいくつもの足跡が残された。その一つが「国際協力ボックス」だ。これは05年度の3年生が考えたもので、いらなくなったCDや書籍類をボックスに集め、それを換金して国際協力活動に寄付するというもの。このほかに、地雷撲滅に向けたメッセージTシャツや、世界平和を訴えるメッセージDVDを作ったクラスもある。

「傍観者ではなく、自分が動きたいという気持ちになった」。むつ工OBの大川翔さんは言う。また、設備システム科2年の大屋めいさんは、「将来は国際協力の現場を自分の目で見て、協力もしたい」と話す。

南澤さんは、「国際化が進み、外務省や政財界には開発教育や国際理解教育が必要だという認識がある。けれどそれが教育界、特に学校現場では見えてこない」と現状を憂える。「開発教育を何のためにやっているかというと、“地球人”になるためだ。途上国では3秒に1人の子どもが貧困で亡くなっているのに、自分には関係ないというのはおかしい。私たちは日本で生活していれば日本人になれるが、地球人になるためには学びや努力が必要だ。そのためのベースが開発教育にはあるんだと思う」。

分かる授業、学びの実感がある授業を追求して、開発教育にたどり着いた南澤さん。協力隊の経験などを生かし、今後は下北発の教材を作りたいと思っている。