monthly Jica 2007年3月号

特集 開発教育/国際理解教育 世界とのきずなが育てる“生きる力”(6/6ページ)

日本各地の開発教育イチオシ活動

北は北海道から南は沖縄まで、地域の特長を生かしたユニークな開発教育が、各地のJICA国内機関のサポートのもと展開されている。

北海道

JICAファンになった札幌の高校生

北海道札幌清田高校の普通科「グローバルコース」は、その名の通り“グローバルな視点で活躍する人材”の育成を目指すコースだ。定員40人、2年次には「国際協力」という高校ではちょっと珍しい授業も週に2時間ある。

コース新設に当たり、同校は「教科書と校内での活動だけでなく、もっと生徒たちの視野が広がる教育がしたい」と、開発教育を推進する北海道内の大学やJICA札幌などに協力を仰いだ。また、社会科教諭の細田孝哉さんがJICAの教師海外研修の参加者だったことで互いの距離は縮まり、連携がスタート。国際協力出前講座やJICA-Net※を通じたマレーシア高校生との交流、研修員の学校訪問など、JICA札幌の開発教育支援メニューを授業で多用し、生徒の国際理解促進に役立てている。

また今年8月には、海外ボランティア実習と題して、希望する生徒とカンボジア・ベトナムを訪れる計画があり、「JICAの協力現場も見られたら」と細田さん。1期生である2年生の中にはJICAファンも生まれ、うち3〜4人が月に一度JICA札幌が開催する市民セミナーに欠かさず参加する。世界とつながる貴重な時間を過ごした生徒には、確かな行動力がはぐくまれている。

※ JICAが国内外の69カ所に設置するインターネット回線を利用したテレビ会議システム。遠隔講義や会議などで利用される。

「北海道に住む私も世界の一員」と意識

指導力の向上などを目的として、在職期間が10年に達した全教員に受講が義務付けられている「10年経験者研修」。この研修の選択科目の一つに「国際理解教育」を設ける北海道教育庁は、石狩や空知地方などで2005年からJICA札幌と連携し、研修の一層の充実に努めている。

研修では、開発教育の概念や実践例の紹介はもちろん、世界を100人の村に例えて地球の問題を分かりやすく理解するワークショップなどを受講者が実際に体験。JICA職員や青年海外協力隊経験者も講師となって体験談などを披露する。「北海道に住む私が世界の一員であることを意識できた。生徒たちにもその意識を持ってもらえるように活動していきたい」とはある受講者の感想だ。

同庁は、現職教員の協力隊参加にも積極的など開発教育・国際理解教育への関心が高い。一方、JICA札幌は「担い手のすそ野を拡大する」ことが北海道における開発教育支援事業の課題であり、多くの教員に開発教育に触れる機会を提供したいと考える。両者の思いが重なって実現した、JICAと教育現場の新たな連携の形といえる。

福島県

県内5団体が連携して開発教育を推進

「福島県国際理解教育ネットワーク(FIENET)(フィーネット)」は、県内の学校や地域で国際理解教育を推進するため、2001年に設立されたネットワーク組織。県民の国際理解を深めたり、教員の国際理解教育のスキルアップを図ろうと、研修・講師派遣・イベントなどさまざまなプログラムを実施している。国際理解教育を重視する、福島県国際交流グループ、福島県教育委員会、JICA二本松、ふくしま青年海外協力隊の会、(財)福島県国際交流協会の5団体で構成される。

プログラムの一つで、昨年12月にJICA二本松で開かれた1泊2日の「ふくしまグローバルセミナー2006」には、高校生や教員、NGO関係者、会社員など130人が参加。東北や九州地方から足を運んだ人もいた。国際理解教育の実践者などが講師となって、グループディスカッションやゲーム、写真、映像などを使った30近い参加型の講座が行われた。参加者は自分の関心に合わせて講座を選択し、各国の多様性や格差、国際理解教育の実践例などについて学んだ後、夕食会などで交流を深めた。

栃木県

地域の人々とともに歩む国際協力推進員

【写真】

出前講座で小学生に世界遺産の話をする松島さん

全国47都道府県に配置され、各自治体と連携して、地域の人々の国際協力に対する理解を促す国際協力推進員。その一人、(財)栃木県国際交流協会で働く松島愛実(まなみ)さんは、2002年から2年間、青年海外協力隊員として中国の中学校で家庭科の授業などを行い、帰国後、「日本人に国際協力をもっと身近に感じてもらいたい」と、推進員になった。

「推進員はあくまで裏方。活動は地味です」と言う松島さんだが、県内の各学校に何度も足を運び、単発で終わらない地道な開発教育の推進に尽力している。中でも、宇都宮市立星が丘中学校の3年生18人を対象に、松島さんの協力を得ながら同校の教員が行った国際協力出前講座は、出前講座のモデルとして、マルチメディア教材(11ページ参照)でも紹介されている。これは、モンゴルに派遣されていた隊員が現地での生活について生徒に伝えるだけでなく、両国の子どもたちが自国の紹介ビデオレターを作成して交換し合うなど、モンゴルをより身近に感じられる授業となった。「この企画を実現できたのは、モンゴルで活動中の隊員や両国の教員、地域の人々の協力のおかげ」と言う松島さんは、そうした人と人とをつなぐ役割を果たしている。

「栃木にはJICAの活動を知っている人がまだ少ないので、多くの市民に国際協力のことを知ってほしい。今後はこれまでの活動で培った人脈を生かし、開発教育指導者のためのセミナーを開催したい」

神奈川県

クラスメートのルーツを探る「ヨコハマ遠足」

横浜市鶴見区にある市立潮田中学校は、全校生徒600人のうち100人以上が外国に“ルーツ”を持つ。戦前に渡日した韓国・朝鮮・中国人や、中南米の日系人。学区が京浜工業地帯に隣接するため、近年特に日系人の工場労働者とその家族が増え、また国際結婚の数も多い。

多文化が共生する地域性を踏まえて、同校は「国際教室」というクラスを設けて授業や生活面で生徒をサポート。誰もが安心して暮らせるまちづくりの一環として人権教育にも取り組む。さらに、あるクラスで日系ブラジル人が話題に上ったことを機に、「なぜ横浜に外国や沖縄と関係する人が多いのか」を考え、そのまとめとして、JICA横浜に併設した海外移住資料館を見学する「ヨコハマ遠足」を5年前から実施している。5万点の品々で伝えられる移住者や日系人の証言に、真剣な顔つきでクラスメートのルーツを探る生徒たち。「移住の意味が何となく分かった気がした」「ブラジルに行っておじいさんやおばあさんに思い出を聞いてみたくなった」「外国の子が潮田中を好きと言ってくれるように頑張りたい」と感想を残している。

「国際協力」へ一歩目を踏み出す宿泊研修

【写真】

女子学生を手本にインドネシアの研修員も一緒におにぎりを握って楽しむ

川崎市立橘高校国際科は、カリキュラムの一つに「開発途上国理解と国際協力」を掲げている。クラス全員でカンボジアの子ども1人の里親になって、毎月1人120円ずつ支援しているため、途上国に関心の高い生徒も多く、国際協力出前講座や研修員の学校訪問などJICA横浜の開発教育支援事業を活用した授業も多数展開している。

今年1月には、エチオピア、ケニア、マレーシアなど9人の研修員が同校を訪れた。完璧な英文でなくても一生懸命コミュニケーションを図ろうと、生徒たちは積極的に英語で話し掛け、さらには「日本の文化を教えてあげたい」とおにぎりを作ったり、ラジオ体操やけん玉で体を動かして、研修員と一緒に楽しい時間を過ごした。

また昨年11月、それまでの学習の集大成として、JICA横浜と協力して初の宿泊研修を実施し、国際科の2年生39人が参加。横浜に日本事務所がある国連世界食糧計画(WFP)や、NGO「ワールド・ビジョン・ジャパン」、JICAの職員などが途上国の現状や体験を語り、生徒たちにとっては「なぜ途上国に援助が必要なのか」を社会・歴史的背景から学び、自分ができる国際協力のあり方を考える好機となった。

長野県

途上国の今と協力隊の活動を発信する「世界情報センター」

青年海外協力隊の訓練所、JICA駒ヶ根が学区内にある長野県駒ヶ根市立赤穂南小学校が設置する「世界情報センター」。ここには、世界各地の民族衣装・楽器や民芸品、切手のほか、途上国で活躍する協力隊員からの現地通信や手紙、写真など常に新しい“情報”が展示され、現地の生活や文化、協力隊の活動状況などを地域社会に広く発信している。

同校が年3回行っている隊員候補生との交流会などをきっかけに、やる気に満ちた候補生の姿に感動を覚えた同校の西澤浩教諭が「隊員の活動やJICA駒ヶ根のことを、学校や地域の人にも知ってもらいたい」と考え、センターの設置事業をJICA駒ヶ根に提案。設置されて丸2年になる。

児童は休み時間に民族楽器を弾いて楽しんでいる。西澤さんは「楽器は触れているうちに壊れてしまうこともあるが、実際に手で触れる体験は貴重」と話す。また、JICA-Netでスリランカの小学生とリアルタイムの交流も実現。JICA駒ヶ根が学区にある同校の特色ある教育活動として、「これからも国際理解教育を推進したい」と考えている。

滋賀県

マレーシアで出会った障害児との交流を通して

【写真】

ホームステイ先の家族と水野さん(前列左から2人目)

「日本の障害児教育の優れた点を、国際協力の舞台で生かす道はあるのか」。滋賀県立新旭養護学校の水野証(さとる)さんは、そんな思いを胸に、昨年8月、教師海外研修に参加した。マレーシアで、特に障害者問題に注目しながらJICAのプロジェクトや教育現場を視察した水野さんは、ボルネオ島のティドン族の村でホームステイした際、一人の障害児に出会い、その家族にインタビューした。そして、「今までこの子について尋ねてくる人は誰もいなかった。聞いてもらえてうれしい」という父親の言葉から、彼らが村で孤立し、将来に不安を抱えながら生きていることを知る。

「こんな自然の豊かな村だが、『自然保護』という考えも『社会福祉』という概念もない。でも、具体的な苦しみは実感としてある」。水野さんは、障害者問題にとって、障害児やその家族が「自分たちは孤独ではない」と思える社会づくりが重要であることを改めて学んだ。

帰国後は「現地の人々のことを知ってほしい」と養護学校の生徒や同僚の教員にマレーシアでの体験を伝えている水野さん。「見たこともない外国のことを想像するのは難しいかもしれないが、日本の障害を持つ子どもたちにも広い視野を持ってほしい」と、これからもマレーシアで出会った障害児のことを語り続けていきたいという。

兵庫県

教育委員会との連携を強めるJICA兵庫

人権や貧困など地球規模の問題を教室でいかに伝え、生徒が主体的に参加しながら学ぶにはどのような工夫をすればよいのか—。昨年8月10、11日、開発教育指導者研修「第3回多文化共生のための国際理解教育・開発教育セミナー」が、JICA兵庫と兵庫県教育委員会、神戸市教育委員会、NGOの共催で開かれ、教員ら208人が集まった。セミナーでは、経験豊富な講師陣が、教室ですぐに使える開発教育の手法や教案を組み立てるための情報源などを紹介。特に、食事や災害など、自分たちの身近なところから考える事例が多く取り入れられ、参加者からは「教養の時間などで生かしたい」などの声が聞かれた。

また、これまでJICA兵庫は国際化の進展に柔軟に対応できる人材の育成を目的に、JICAの開発教育支援事業などで、兵庫県教育委員会や神戸市教育委員会と連携を図ってきた。今後はJICAボランティア経験者の教員採用の枠組みを広げるなど、さらなる連携を進めていく。

沖縄県

沖縄から国際的に活躍できる人材を

2005年3月、沖縄県教育委員会とJICA沖縄は、開発教育と教育分野の国際協力を推進しようと、全国で初めて「連携に関する覚書」を締結した。以降、覚書に基づき国際協力出前講座や、国際理解教育・開発教育指導者養成講座、教師海外研修など、協力して開発教育に取り組んでいるほか、JICA青年招へい事業で受け入れた途上国の教員に対して教育庁の職員が講義を行うなど連携を深化させている。こうした事業は年3回実施される「連絡協議会」で、計画づくり、進ちょく確認、評価を行っている。昨年6月の協議会では、教職員の人材育成の一環として、青年海外協力隊への現職教員特別参加制度における勤務経験年数を緩和することを確認し合った。

沖縄県教育庁の仲村守和教育次長は、JICAとの連携について「特に、教師海外研修を経験した教員は、帰国後も精力的に開発教育に取り組んでおり頼もしい。また、昨年開催した中学生の英語合宿では、研修員との交流を通して子どもたちの成長する姿が見られた」と高く評価している。

沖縄とブラジルの子どもたちをつないだ「豚プロジェクト」

沖縄本島最北端に位置する国頭(くにがみ)郡国頭村にある安波(あは)小学校。たった9人の生徒が通う同校の教員、池田裕美さんは、03年度の教師海外研修でタンザニアを訪問して以来、積極的に開発教育に取り組んでいる。

その一つが「一校一国運動」※の一環として、ブラジルの日本語学校の生徒たちと安波小学校の生徒との交流を実現させた「豚プロジェクト」。第二次世界大戦後、戦災に苦しむ沖縄にハワイの沖縄移民が550頭の豚を贈ったことなどから、沖縄の歴史にとって欠かせない存在になっている豚のぬいぐるみを送り合い、子どもたちの家に「ホームステイ」させ、豚になったつもりで日記をつける。それにより、互いの生活や文化を理解し合い、交流を深めていく。

池田さんは、今年7月から青年海外協力隊の現職教員特別参加制度で、ニジェールへ派遣される予定。その経験もまた開発教育に生かしてくれるだろう。

※ 世界の沖縄移民ネットワークの拡充と深化を目的に、5年に一度、沖縄全土で開催される「世界のウチナーンチュ大会」の関連行事。小中高校生が海外の沖縄移民とメール交換や贈り物を通して交流し、移民の歴史や異文化について学ぶ。