monthly Jica 2007年4月号

特集 観光振興 地域再生の“光”(2/4ページ)

PROJECT in Ghana(ガーナ)
観光振興の呼び水は官民連携

外国人観光客の数が増え、観光業が経済成長に大きく貢献しているガーナ。観光振興に有効な官民連携によってさらに観光客を増やし、一層の発展を目指す同国をJICAが支援している。

観光資源の商品化を

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阿寒国際ツルセンターの野外飼育場へツルを見に向かう研修員ら。センターは、タンチョウの生態や行動など基本的な研究を行い、保護活動に役立てるとともに、その成果を市民に伝えるための施設で、分館のタンチョウ観察センターに野生のタンチョウが集まる給餌場がある。官民が連携してタンチョウを守る試みを行っている

はらはらと雪が舞う1月下旬の北海道釧路市阿寒町。今年は暖冬といわれるが、それでも気温がマイナスまで落ち込む真冬の北海道は、赤道近くのガーナからやって来た研修員にとって極寒の大地だ。慣れない雪の上を慎重に歩き、彼らが着いた先は阿寒国際ツルセンター。日本の特別天然記念物に指定される野生のタンチョウヅル数十羽が、給餌場(きゅうじば)※に舞い降りては飛び去っていく光景を前に感動しつつ、「年間どのくらい観光客が来ますか?」「餌代やセンターの維持費はどこから捻出しているのですか?」と、必死に寒さをこらえながら聞く。

彼らは、JICAの技術協力プロジェクト「観光振興支援プロジェクト」の一環で行われた研修の研修員たち。「官」代表である観光省のコムラさん、ガーナ観光局のガメリさんと、「民間」代表であるバー経営者協会のステファンさん、ケータリング協会のハリエットさんの4人が、1月14日から約1カ月間、官民連携による日本の観光振興の取り組みを見ながら、その重要性などについて学んだ。

近年、ガーナの観光業は、経済成長に大きく貢献し、カカオ、金に次ぐ第3の外貨獲得源となっている。誰もが知る観光地はそれほど多いとはいえないが、近年の外国人観光客の数は平均10%程度の伸び率を示し、観光収入や雇用者数も急増。周辺諸国と比べて治安が安定していることや、首都アクラを中心に道路などのインフラ整備が進んでいること、さらに英語が公用語であることが呼び水となり、地域活性化の手段としても期待が高まる。

観光業は雇用を創出し、農村部の現金収入の向上にもつながることから、ガーナ政府は経済成長と貧困削減の牽引(けんいん)役として観光振興に力を入れ、重点開発分野として位置付けている。1996年に、世界観光機関(UNWTO)と国連開発計画(UNDP)の協力を得て、観光開発計画(National Tourism Development Plan for Ghana 1996-2010)を策定し、さらにその後、米国国際開発庁(USAID)の支援を受けつつ、民間セクターとの協議を通じてつくられた観光戦略5カ年計画では、07年までに年間100万人の観光客誘致、30万人の雇用創出、15億ドルの観光収入の達成を掲げている。

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雪の降る中、寒さに耐えながら給餌場の前で質問を重ねるガメリさん。「ガーナは都市と地方にさまざまな差があるが、阿寒町は東京に比べると田舎だけれど同じスタンダードが浸透している」

しかし、昨年の観光客数は約50万人。達成できなかった理由の一つは、「観光資源を『商品』という視点でとらえていないから」とプロジェクトのチーフアドバイザー、石崎進専門家は説明する。中西部地域の城塞群と、アサンテ族の伝統的建造物群の2つの世界遺産をうまく活用できていないほか、全国どこへ行っても同じ土産物が並ぶ。「もっと観光客の立場で考えることが重要。伝統的なダンスやイベントなどと組み合わせたツアーを企画したり、地域の特色を生かした土産物を開発したり、ちょっと視点を変えることでいろんな観光商品が成立する」と石崎さんは言う。それには、観光サービスを提供する民間セクター(航空会社、旅行会社、通訳、ガイド、ホテル、レストランなど)が観光客を呼び込むためのアイデアを出し、それを実行しやすくなるように、観光省をはじめとする行政が制度を整備したり、キャンペーンなどを打ち出してサポートする、官民一体の取り組みが不可欠だ。だが、ガーナでは民間セクターの規模が小さく脆弱(ぜいじゃく)な上、行政の民間支援策も不十分なことから、独自の観光商品を生み出せない状況にある。

そこでJICAは、官民連携による観光振興の経験が豊富な日本の取り組みを生かし、これまで距離感のあった「官」と「民」の連携強化を通じた観光振興支援を06年に開始。「何千、何万という大きな数じゃなくても、官民が一体となって宣伝やマーケティングを工夫していけば、すぐにではないが政府が掲げる年間100万人の観光客誘致は達成できる可能性は高い」(小沢良一専門家)。JICAが「官民連携」を大きく打ち出して途上国の観光振興を支援するのは新しい試みだ。

※食料が少なくなる冬の間、タンチョウヅルを保護するために設けられた人工の餌やり場。

PPPフォーラムの立ち上げ

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PPPフォーラム開催の際、昼食時にガーナの民族舞踊が披露された。ガーナ独自の音楽や踊りを観光ツアーに加えるのも、観光客を呼び込む手段の一つだ

プロジェクト開始から半年余りが過ぎた昨年8月、首都アクラのとある会場は熱気で満ちていた。そこに集まっていたのは、観光省やガーナ観光局スタッフ、旅行代理店やホテル経営者ら約100人。皆、「官民パートナーシップ・フォーラム(PPPフォーラム)」のメンバーだ。

PPPフォーラムとは、官と民による有効な連携強化策を立案、共同で事業を実施するためのパートナーシップ推進機構。これまでは、官民連携の必要性は認識されていたものの、実際に具体的な活動が行われていなかったことから、プロジェクトの支援で設立された。メンバーは、プロジェクトが提案した1)ファイナンス・投資、2)人材育成、3)マーケティング・宣伝、4)政策、5)商品開発、という5つのワーキンググループの中から一つを選んで参加する。各グループは定期的にミーティングを開き、話し合って決めたパイロットプロジェクトに取り組む。例えば、マーケティング・宣伝グループではビジターセンターの設置を、商品開発グループではアフリカ諸国のモデルとなり得る商品開発を進めている。

「私たちが期待するのは、官民が一緒になって、各パイロットプロジェクトをきちんと形にすること。企画、立ち上げ、維持、評価…というサイクルを、プロジェクトが終わってもPPPフォーラムの中で継続していってほしい」と石崎さん。下村剛史専門家も「プロジェクトでは、官民連携を通じた観光振興に彼らが主導的に取り組んでいくための意識と下地づくりが大事」と強調する。民間セクターからの参加者は、通常業務でミーティングに出席できない場合も多いが、「観光は民間セクターがメーンプレーヤー。参加者を増やし、PPPフォーラムを大きくしていきたい」と、観光省やプロジェクトチームは考えている。

日本で学んだこと

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釧路湿原野生生物保護センターの自然保護官、露木歩美さん(左から2人目)の案内で、研修員は釧路湿原に訪れる人たちの情報ステーション、温根内(おんねない)ビジターセンターを訪問。中でも、来訪者自身が新しい情報を書き込んでいく自然伝言板に興味を持ったようだ

1月に来日した研修員たちは、兵庫県の観光政策や、官民連携による観光資源の発掘・開発などのほか、小江戸と呼ばれる埼玉県川越市の町並み保全について、立教大学観光学部の溝尾良隆教授から講義を受けた。特に、観光客を考えたまちづくりに自治体とNGOが共同で取り組む阿寒町の例は印象的だったよう。

中でも積極的に質問していたのは、ガーナ観光局のガメリさん。観光省の政策に沿って、観光客の来訪促進や受け入れ対策などを実行する立場にある彼は、細部にまで関心を持ち、「官と民がギブ・アンド・テークの関係になっているのが実感できた」と感想を残した。

また、PPPフォーラムのマーケティング・宣伝グループに属する観光省のコムラさんは、「日本の宣伝方法などをミーティングの場で共有し、パイロットプロジェクトに生かしたい」と話すとともに、ステファンさんやハリエットさんに「料理のメニューはただ黒板に書くだけでなく、写真を付けたり、日本のようにサンプルを出せば、外国人観光客にも分かってもらえるのでは?」と提案。それに対してハリエットさんは、「帰国したら早速私のレストランでトライしてみようと思う。日本ではいろんな立場の人が観光産業の重要性を理解している。私たちもそうならなければ」とうなずいていた。

官民連携による観光振興が一般的に行われている先進国の中で日本の特徴は、地方レベルでも官民連携の観光振興が機能し、阿寒町のような小さな自治体も確実な成果を収めていることだ。ガーナはまだ地方レベルで取り組む段階にはないが、観光振興による地方活性化への期待が高いことからも、この先、日本が協力できることは多いだろう。「しかしまずは中央レベルで」と小沢さんが言うように、今は将来のための足場を固める努力が重要だ。