monthly Jica 2007年6月号

特集 地球温暖化 地球の未来を守る闘い(3/4ページ)

PROJECT in Indonesia(インドネシア)
クリーンな地熱が地球環境を守る

【地図】インドネシア環境にやさしい地熱エネルギーが、世界最大ともいわれるほど豊富に埋蔵されるインドネシア。電力不足の解消に有望なエネルギー源だが、取り組みが遅れていることから、日本の経験と技術を生かした地熱開発計画づくりにJICAが協力している。

地熱発電の魅力

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調査対象地域であるスマトラ島の南部ランプン州バリラン。日本とは異なり、地熱を温泉として使う文化のないインドネシアでは、発電所を多く建設することが可能という

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標高1,700メートルの高原台地にあるワヤン・ウインド地熱発電所。1999年に運転を開始した。現在インドネシアにある7カ所の発電所のうち、5カ所はジャワ島にある

大分県・九重町(ここのえ)にある地熱発電所の周辺ではちょっと珍しいハウス栽培が行われている。地熱発電の廃熱水を活用したバラの栽培だ。九重町はもともとバラの産地ではなかったが、廃熱水を使うことで、温度や湿度に敏感なバラが一定の環境の中で栽培できるようになった。今や町の特産品の一つとなったバラは、地熱利用で温室栽培されている同地域の日田(ひた)市天瀬(あまがせ)町のバラとともに、出荷先の岡山〜関西で大きなシェアを占めている。

そうした熱水が利用できるのも、九州には火山が多く、地下に豊富な地熱資源が眠っているからだ。地熱資源は永久的に枯渇することがない上、利用に際し二酸化炭素(CO2)をほとんど排出しない環境にやさしいエネルギー。発電以外にも、温泉や施設園芸、冷暖房、養殖漁業、道路融雪などに利用でき、周辺地域の振興に貢献できる。

そんなポテンシャルを秘めた地熱資源は、どこにでもあるわけではない。その中で、地熱資源の宝庫といわれるのがインドネシアだ。1万以上の島々からなる火山国インドネシアには、カリマンタン島を除くほとんどの土地に地熱資源が分布。発電資源として見積もられている2万8000メガワットは世界最大と推定されている。

しかし、現在7カ所の地熱発電所で発電される電気は807メガワット(原子力発電所1基分に相当)、資源量の3%に満たない量だ。政府は地熱開発促進に努めてきたが、1997年のアジア通貨危機で取り組みが一時ストップしてしまった。

そうした状況において、今、政府の地熱資源への注目度は高い。地球温暖化対策として温室効果ガスの排出削減が求められる中、再生可能エネルギーの中でも、CO2の排出量が最も少ない分類に入り、発電所のトラブルも少なく、安定性と持続性の高い地熱は、魅力的な資源だ。また、石油への依存度が高まったことで2004年に石油の輸入国に転じたインドネシアにとって、エネルギー源の分散も大きな課題である。さらに、国内はまだまだ電力不足が深刻で、電気がなければ産業も発展しない。CO2の排出権を先進国に提供することは外貨獲得にもつながる—政府は2000年より再び地熱開発に取り組み始め、03年には、地熱開発事業の国・地方・民間による推進を目指す「地熱法」を制定するとともに、国家エネルギー計画で2025年までに地熱発電量を9500メガワットに引き上げる開発目標を発表した。

ところが、目標は打ち出したものの、地熱開発には一部高度な技術力が求められることもあり、目標達成のための計画の具体化・実施が遅れている。そこで、インドネシア政府は、かつて中米などで地熱開発支援の経験があり、国内でも地熱発電に取り組む日本に支援を要請。同国への協力の柱として「民間主導の経済成長のための環境整備」を掲げるJICAが、開発調査「地熱発電開発マスタープラン」を06年3月に開始した。

投資環境の整備が重要

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スラウェシ島コタモバグの井戸に集まる住民。かつて、インドネシア国営石油開発公社が掘った井戸で、地下に地熱があるので温水が出てくる

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23地点を一カ所ずつ回り、岩石やガス、液体を地道にサンプリングする島田団長(左)と団員。持ち帰って一つ一つ分析し、地熱エネルギーの規模を調べる

地熱発電の仕組みはこうだ。まず、地熱エネルギーがある地点に行き、地表から地下の地熱資源の分布や特性を把握するために地質調査・地化学調査・物理探査などを行う。その結果から、発電源として有望な地点を選び出し、調査用の井戸を掘削して地熱資源の存在を確認、規模を把握する。地熱資源が発電源として確実に機能することが確認できれば、地上に発電所を建設。掘削して地下から蒸気を取り出し、その力でタービンを回して電気を起こす。

インドネシアが目標とする9500メガワットを発電するには、今後数十地点での開発事業が求められている。そこでJICAの調査では、有望な地熱資源が分布するとされる70地点の既存データを収集・分析し、その結果、地熱資源が豊富で発電源としてより可能性の高い23地点で地質調査・地化学調査を実施した。さらにその中から、開発事業が遅れているスラウェシ島コタモバグと、化石燃料による発電コストが高く、開発事業がより難しいとされる離島のフローレス島ソコリアの2地点を選び、技術移転のためのパイロット事業として物理探査を行い、発電所建設の可能性を明らかにし、開発事業計画をまとめている。

また、地熱発電による電力の供給計画も策定。送電線開発計画や、ほかの電源開発との調整を行い、国立公園や森林保護区など周辺環境に配慮した開発計画を立案する方法についても指導している。

さらに重要なのが、政策面での提言だ。一般的に、地熱開発には資源開発のリスクがあり、それが事業化の障害となっている。地熱開発で大きなコストをかけて掘削しても、十分に発電できるだけの蒸気が得られなければ事業にはつなげられず、失敗に終わる可能性もある。このリスクをできるだけ軽減し、民間による事業を進展させるには、地質調査・地化学調査を十分に行うことが必要だ。しかし、資金や技術が不十分で、インドネシアでは具体化されていない。そのため、このリスクを軽減するための方策を検討し、提言するのも調査の目的の一つだ。
「特に初期の資源調査はリスクを伴い、コストを回収することが難しい場合があるので、民間にはできない。リスクとコストが伴う調査こそ政府が行うべきと考えるインドネシアの方針は適切だが、資金や技術の面で政府も難しいのなら、日本が支援すべき」と島田寛一(かんいち)・調査団長は話す。民間を呼び込むための政策として有効な免税や減税措置は、日本など先進国では可能でも、途上国であるインドネシアにとって容易でないという問題もある。「政府がリスクを取り除き、投資の魅力を示せば民間企業も興味を持つはず」と島田さん。その好例として、リスクが軽減された北スマトラ州の地熱地域では、インドネシアの事業者に日本やアメリカの企業が協力する形で、世界最大級の地熱発電所を建設することが決まっている。最終的に提出するマスタープランでも、民間が参入しやすい投資環境の整備に関する政策も盛り込みたいと考えている。

CDM事業化への可能性

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岩の割れ目や噴気しているポイントが地熱エネルギーのある目印となる。車の入れない奥地に行くときは何時間も歩かなければならない

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ワークショップに参加した国営石油開発公社の職員。地熱開発では蒸気供給の部門に携わっており、技術説明を聞き入っていた

調査団によれば、5万キロワットの地熱開発は、50万バレル(8万キロリットル)の油田開発に相当するという。石油依存度を低下させたいインドネシアにとって、代替効果の高い地熱開発は意義のある事業だ。

一方、インドネシアの地熱開発を支援する日本にとっての意義も大きい。例えば、5万キロワットの発電のために排出されるCO2は、石炭火力発電だと990グラム/キロワットに上るが、地熱発電だと22グラム/キロワット※1で済む。調査で策定したマスタープランに基づき、日本が引き続き地熱開発事業に協力すれば、途上国の温室効果ガス排出量削減などの支援を行った先進国が、その削減量を自国の削減分に換算できる「クリーン開発メカニズム(CDM)」事業としてつなげられる可能性もある。地熱資源開発の投資収益性と、民間事業者の投資意欲を高めるためにも、CDMの適用可能性を示すことは重要といえる。

そうした理由から、この調査にはCDM事業化への検討も含まれ、調査団は今後、地熱開発事業が実施される可能性の高い主要な地熱地域での事業による温室効果ガスの削減量を見積もるほか、発電所の規模ごとの削減効果などをまとめている。また、それらの結果をもとに、事業化に向けた標準的な地点を例として、モデル的な事業設計書(PDD)※2を作成することになっている。そして政策提言の中では、インドネシアが円滑に地熱開発事業を実施できるよう、国際協力銀行(JBIC)の円借款や、日本カーボンファイナンス(JCF)※3による支援についても提案していく予定だ。

現在、インドネシアでの地熱開発において、他国・他ドナーの協力事業は実施されていない。同じ火山国で、地熱開発の経験と技術を持つ日本に対するインドネシアの期待は大きい。地熱発電が軌道に乗れば、熱水などを多目的に利用して地域の人々や産業にも貢献できる。しかも、何より環境にやさしい。経済成長と環境のバランスは険しい道ではあるが、両立を目指すCDM事業に日本もインドネシアもやる気を見せている。