monthly Jica 2007年6月号

特集 地球温暖化 地球の未来を守る闘い(4/4ページ)

Expert's View
専門家に聞く 地球温暖化と国際協力

産業革命以降、温暖化の原因である温室効果ガスは、先進工業国を中心に排出され続けてきた。しかし、今後数年間で途上国全体の温室効果ガス排出量は、先進国のそれを抜くと予測されている。地球全体で取り組まなくてはならない温暖化対策の枠組みは、どのように形成され、どのように実施されているのか。

1 地球温暖化対策に向けたこれまでの動きと最近の議論は?

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三村 信男(みむら・のぶお)
茨城大学 地球変動適応科学研究機関(ICAS)機関長、広域水圏環境科学教育研究センター教授。1949年広島県出身。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)に専門家として参加。JICA調査研究「気候変動への適応策に関するJICAの協力のあり方研究会」講師。研究テーマは、地球温暖化の影響評価と適応策。主な著書は、『地球環境ハンドブック』(共著、朝倉書店)、『海面上昇とアジアの海岸』(共著、古今書院)、『地球温暖化はどこまで解明されたか』(共著、丸善)など。

温暖化の問題が最初に注目されたのは、1988年ごろだといわれています。世界的に地球環境問題への関心が高まる中、88年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が設立され※1、その2年後にIPCCが温暖化の影響や将来の予測についてまとめた報告書を出しました。それを受けて、92年の国連環境開発会議(地球サミット)で気候変動枠組条約(UNFCCC)の署名が開始され、各国での批准を経て94年に条約が発効しました。

ここまでの動きを見ると、温暖化が世界の課題としてあがってからこれだけの短期間で条約が発効したのは、ものすごいスピードだと思うのです。それだけ世界の人々の危機感が高まっていたということでしょう。

しかし、京都議定書で各国の温室効果ガスの排出目標が決まったからといって、すぐに対策へとは進みませんでした。削減のための具体的手続きだとか、約束を守れなかった場合の罰則など、いろんな問題を議論しているうちに、アメリカが京都議定書から離脱したのです※2。その後、2001年11月、京都議定書の運用ルールを定めたマラケシュ合意が採択されて細かな手続きなどがすべて決まり、ロシアの批准を経て05年にやっと京都議定書の発効となりました。条約発効までのスタートダッシュと比べ、対策に関する約束事がきちんと決まるまでに10年もかかっている。それだけ地球温暖化対策というのは、経済や社会にとって非常に重い、重要な仕事なんだと思いますね。

今年発表されたIPCCの第4次報告書では、はっきりと温暖化が起こっていると断定し、人間活動による温室効果ガスの増加が温暖化の原因であると強く指摘しました。すでにさまざまな分野で影響を観測できるレベルになっているし、将来への影響も大きいのです。例えば、気温上昇が1.5〜2.5℃を超えると、生物種の約20〜30%が絶滅する危険があることや、数億人が水不足の危険にさらされるといったことです。

このように影響の大きい温暖化を抑制するために、今後は中国やインドなどの途上国も温室効果ガスの排出削減に参加するべきだという主張や、厳格な削減目標を課すよりも、フレキシブルでもっと多くの人が参加しやすい方法にしたほうがよいという意見もあります。このあたりの議論はこれからますます活発になると思います。

※1 IPCCは、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)が共同で設立した。

※2 2001年3月、ブッシュ大統領は、議定書に途上国が参加していないことやアメリカの経済への悪影響が懸念されることを理由に、議定書からの離脱を表明した。

2 温暖化対策はどのように取り組まれているのか?

UNFCCCにはいくつかの原則※3があり、その中に「共通だが差異のある責任」というものがあります。温室効果ガスは先進工業国がたくさん排出してきたのですが、先進国だけが対策を取ればいいのかというと、そうではない。あと数年で、先進国全体の温室効果ガス排出量を、途上国全体の排出量が抜くといわれています。条約の原則のもと、実際の対策は先進国と途上国が協力して進められています。

温暖化対策には、「排出削減策」と「適応策」の大きく2つがあります。

排出削減策は緩和策とも呼ばれ、温室効果ガスの排出をなるべく少なくしましょうというものです。これについては、各国が省エネや森林保全などを政策の柱に据えて取り組んでいますね。しかし、日本の場合、これ以上省エネしようと思っても、莫大な投資をしてやっと数パーセントの排出削減ができるような効果しかない。一方、途上国には、エネルギー効率が悪く、しかも炭酸ガス1トン当たりの削減費用がずっと安い国があるわけです。そういうところに対して日本が支援すれば、日本国内で省エネに取り組むよりも大きな効果があげられる。さらに、支援によって削減された温室効果ガスの量は、日本の削減量としても認められます。そういう仕掛けがクリーン開発メカニズム(CDM)なんですね。

CDMでは、途上国が、環境配慮の足りない従来型の技術を使って発展を遂げるというパス(進路)から、最新の優れた技術を使って経済成長を遂げるというパスに乗り換えることができるので、途上国にとってもメリットがあります。

もう一つの適応策というのは、温暖化による悪影響をなんとか少なくしようというものです。バングラデシュや南太平洋の島しょ国に行くといつも言われるのが、「われわれは温室効果ガスをほとんど出していないのに、海面上昇やサイクロンで多大な影響を受けている」ということです。このように、ガスの排出を削減するよりも悪影響への対策を取るほうがずっと重要だという国がものすごく多いのです。インフラ整備などJICAがやってきた協力は、実は適応策の経験として有望だといえますね。

※3 UNFCCCは、次の5つの原則を指針とすることを求めている。1)共通だが差異のある責任に従い、先進国は率先して対処する、2)気候変動の悪影響を受けやすい途上国の事情に配慮する、3)気候変動の悪影響を緩和するための予防措置を取る、4)締約国は、持続可能な開発を促進する権利と責務を有する、5)協力的かつ開放的な国際経済体制の確立に向けて協力する。

3 地球温暖化対策に関して、JICAに期待することは?

人間のあらゆる活動が温室効果ガスの排出源になっているわけですから、温暖化を止めるためには、エネルギーの使い方や生活の仕方、場合によっては人間の価値観も変えなければいけないかもしれない。つまり、最終的には、今とは違う地球にやさしい社会経済システムをどうつくっていくかという話だと思うのです。また、適応策のほうも、それぞれの国の社会をより安全にして、安定した発展を実現していくことが根本的な目的だと思います。それこそ、JICAが事業の柱としている「人間の安全保障」や「持続可能な開発」と同じ目標に沿っています。

ですから、JICAには、持続可能な社会をどうつくるかという大きな政策の中で、温暖化対策のための援助を考えていただきたいですね。つまり、防災や環境、教育などの協力と並んで温暖化対策がある、というのではなく、それぞれの分野の中に温暖化対策の視点を入れていってほしいと思います。