monthly Jica 2007年9月号

特集 国際緊急援助隊(JDR)設立20周年  被災者に寄り添う緊急援助(4/6ページ)

JICA's Approach
「シームレス」と「連携」でより効果的な緊急援助を

国際緊急援助隊(JDR)は、海外での大規模な災害に対し、被災国または国際機関の要請に応じて、国際緊急援助活動を行うために日本政府が派遣する。災害発生後、いち早く被災地に駆け付けるJDRの変遷と仕組み、近年の傾向とは。

カンボジア難民救援が出発点

日本が初めて国際的な緊急援助活動を行ったのは1979年のこと。70年代後半のカンボジア内戦の激化により発生した大量の難民を救援するため、日本政府は、視察団(団長:緒方貞子・現JICA理事長)を派遣し、この報告をもとに国公立・私立病院、日本赤十字社、JICAなどから構成された医療チーム(Japan Medical Team:JMT)を、タイ国境に派遣した。この活動では、全13チーム、延べ407人の医療関係者が派遣されたが、当時、民間ボランティア組織が整っていた西側主要国が迅速に医療チームを派遣し、救援活動を開始したのに対し、日本はこうした事態に即応できるシステムが確立されていなかったため、諸外国と比べて著しく遅れた対応になってしまった。

その反省を踏まえ、外務省は文部、厚生両省(当時)や病院・民間医療団体の支援のもと、難民や災害を対象とした国際救急医療チーム(Japan Medical Team for Disaster Relief:JMTDR)を82年に設立し、JICAを通じて組織的に派遣するシステムを構築した。

以降、海外で災害が発生すると、日本は主に被災国が緊急に必要とする資金の供与、医療チームの派遣によって対応してきたが、87年9月16日に「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」(JDR法)が公布・施行されたことにより、1)捜索・救助活動、2)医療活動、3)応急対策・復旧活動のための各チームを派遣できる体制が確立された。また、92年には、世界の大規模災害に効果的・機動的に対応するため、JICAに国際緊急援助隊事務局が設置される。

さらに同年、「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」(PKO法)の成立とJDR法の改正により、紛争に起因する災害(難民救援など)はPKO法が、自然災害と人為的災害(ビルの倒壊や原油流出など)はJDRが担当すると整理された。また、大規模災害に対しては、必要に応じて自衛隊部隊をJDRチームとして派遣することが可能となった。

JDRの体制

【図表】JDRの対象地域は先進国も含まれるが、特に開発途上国には、自国だけでは緊急かつ十分な救援活動を実施できない国が多い。一方、地震や台風など多くの自然災害に見舞われる日本は、災害対策の経験・技術的ノウハウを蓄積している。それらを災害救援に生かしたいという思いから、JDR事務局は、要請があれば速やかに応えられるよう、派遣体制を常に整備している。

JDRは、救助チーム、医療チーム、専門家チーム、自衛隊部隊から成り、被災国や国際機関の求めに応じて災害の種類や規模を勘案し、いずれかのチームを単独で、あるいは複数のチームを組み合わせて派遣する。こうした人的援助のほか、資金援助(緊急無償資金協力、外務省が担当)や物的援助(緊急援助物資供与)があり、このうち人的・物的援助を外務省の指示のもとJICAが担当している。

【救助チーム】

救助チームは、行方不明者の捜索、被災者の救出や応急措置、安全な場所への移送が主な任務。警察庁、消防庁、海上保安庁の救助隊員などで編成され、被災国の要請から24時間以内に日本を出発し、捜索、救助活動を行う。派遣期間は移動を含め約1週間。登録者数は、警察庁440人、消防庁600人、海上保安庁約600人、合計1600人以上で、緊急の派遣要請に備えている。

【医療チーム】

医療チームは、被災地の医療機関の補助を目的とし、主に診療および診療に関しての技術的助言(防疫を含む)などの支援活動をする。メンバーはボランティアが中心で、JDR事務局にあらかじめ登録された医師、看護師、薬剤師、医療調整員などから編成され、被災国の要請から48時間以内に出国することを目標とする。登録者数は、医師200人、看護師334人、薬剤師39人、医療調整員163人で、合計736人(2007年7月現在)。

【専門家チーム】

専門家チームは、建物の耐震性診断や火山の噴火予測・被害予測など、災害に対する応急対策と復旧活動の指導を行う。また、新しい感染症がまん延する可能性があるとき、被害の拡大を食い止めるため、緊急的かつ技術的な助言などを行う。チームは、災害の種類に応じて、関係省庁や地方自治体から推薦された技術者や研究者などで構成される。

【自衛隊部隊】

自衛隊部隊は、大規模な災害が発生し、特に必要があると認められるとき派遣される。大掛かりな緊急援助活動や船舶・航空機を用いた輸送活動、防疫活動、医療活動などを行う。

【緊急援助物資供与】

被災地の救援や復旧活動を支援するため、被災地に緊急援助物資を供与する。物資は、テント、スリーピングマット、プラスチックシート(ビニールシート)、毛布、ポリタンク、簡易水槽、浄水器、発電機の8品目の中から、ニーズに合わせて提供する。これらは、被災直後に最も必要な物資といわれ、迅速、確実、かつ大量に供与するには、事前に調達・備蓄し、適切に管理する必要があるため、世界各地への航空輸送拠点となるシンガポール(アジア・大洋州対象)、ドイツ・フランクフルト(アフリカ・中東・東欧対象)、南アフリカ・ヨハネスブルク(南部アフリカ対象)、アメリカ・マイアミ(中南米対象)の4カ所に備蓄倉庫を設置している。

医薬品については、使用期限や温度管理の問題で備蓄が難しく、また現地で使用されている言語表記のものが望ましいため、必要に応じ、デンマークにある国連児童基金(UNICEF)調達部やオランダのIDA(International Dispensary Association)から緊急調達し、被災地に輸送する。

シームレスな支援

JDRの活動は、主に災害初期をターゲットに発生後1〜2週間、長くても4週間をめどに実施されるが、被災地ではその後も長期間、復旧・復興支援が必要となる。JDRでは、医療チームに、ニーズ調査専門の隊員を同行させ、急性期支援から、復旧・復興支援をスムーズに移行させるための取り組みや、医療チーム撤収後も被災民に医療支援が継続的に行われるよう、現地医療機関や国内外のNGOへの活動の引き継ぎなども実施している。

このようにして、JICAは緊急援助から復旧・復興への切れ目のない(シームレス)迅速かつ柔軟な支援に努めている。

進む国際協調と連携

【図表】国際緊急援助でも国際協調が進展している。大規模災害の現場には海外から多くの救援チームが駆け付けるが、88年のアルメニア地震では、それがかえって被災国に混乱を招いた。その教訓を生かし、近年は各チームが連携し合って、より効率的に活動できるよう、国連人道問題調整事務所(UNOCHA)が中心となって調整するシステムがつくられた。また、UNOCHAは電子掲示板的なウェブサイト「Virtual OSOCC(On-Site Operation and Coordination Center:現地活動調整センター)」を通して、世界中で発生した災害の最新情報を収集するとともに、情報交換を行っている。

UNOCHAは、災害発生直後に被災状況を把握する国連災害評価調整チーム(UNDAC)を派遣するほか、被災国にOSOCCを立ち上げ、援助調整を行う。海外からの救援チームは被災地到着後被災国政府と調整を図るとともに、OSOCCに連絡を取り、必要な情報や適切な活動場所に関するアドバイスなどを受ける。また毎日、関係者を集めた調整会議が開かれ、情報を共有する。JDRもこのシステムに沿って活動している。

特に捜索救助の分野においては、世界中の多くの緊急援助関係の国や機関が、捜索救助チームの活動調整を行う国際捜索救助諮問グループ(INSARAG)に所属し、ガイドラインの整備、被災地における情報共有や協力体制の確立のための訓練を実施したり、災害後のレビュー会議や、定期的な地域別会合なども開催しており、日本も積極的に参加している。

国際緊急援助の基本的な原則は、被災国が自国で災害救援活動ができない場合にのみ国際緊急援助を行うこと、そして国際緊急援助を受けるかどうかを決めるのは被災国自身であることだ。こうした原則に基づいて国際緊急援助活動は行われている。

研修・訓練で災害に備える

国際緊急援助活動は、自己完結型の活動を重視している。また日本とは習慣、言語、通信事情などが異なる不慣れな環境の中で行うことになる。こうした状況において活動が効率的、効果的に遂行できるよう、JDR事務局では平時に、救助チームや医療チームの関係者を対象として、チームワークの向上やさまざまな災害を想定した研修、訓練を実施している。

救助チームに対しては、年に1回、約5日間の総合訓練を実施し、参加者は災害現場で必要とされる知識や技術を座学や実地訓練を通じて習得するだけでなく、訓練を通じて省庁間を超えた理解と連携を深める。

医療チームに対しては、仮登録している医療関係者が本登録するための導入研修(3/6ページ参照)のほか、登録者のうち希望者に中級研修(年数回)を行い、医療活動に必要な知識・技術の質の向上に努め、災害に備えている。

また、JICA職員を対象に、各チームの円滑な任務遂行のためのさまざまな調整に当たる業務調整員の研修を、年に数回実施している。

【図表】