monthly Jica 2007年10月号

特集 人々のためのインフラ インフラが開く可能性(2/4ページ)

PROJECT in Sri Lanka(スリランカ)
未来を切り開く村人たちの底力

【写真】長期にわたる紛争で荒廃したスリランカの北・東部州。大量に発生した避難民の帰還と再定住、地域の復旧・復興が急務となる中、JICAはコミュニティー主導の基礎インフラ整備や社会経済活動の活性化を通じて地域の復興と持続可能な村落開発を支援している。

「自分たちにもできる!!」

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異なる宗教や民族に属す人々を集め、皆で協力して農村復興を進めていくことの大切さを説明するトリンコマリー県ムリポターナ村住民組織のリーダー

「3年前は人前で話すこともできなかったが、今はこうして皆の前で話ができる」「村で団結すれば何でもできることが分かり、自信がついた」

2007年8月、スリランカ北部州マナー県のある村では、住民たちが集まり、生き生きとした表情で語り合っていた。彼らは、JICAの「コミュニティ・アプローチによるマナー県復旧・復興計画(MANRECAP)」の対象地域に暮らし、自ら村の復興に取り組んできた人々だ。彼らの多くはプロジェクトが始まる前まで、教育や医療などのサービスが受けられず、生計手段もなく、自分たちの未来に希望を持つことができなかった。

スリランカでは、1980年代から20年以上にわたって、少数民族タミル人の分離独立を求める「タミル・イーラム解放の虎(LTTE)」と、シンハラ人を中心とする政府との間で内戦が続いていた。特に北・東部州では多くの命が失われ、道路や電力施設、灌漑(かんがい)施設、学校、病院といった経済・社会インフラも破壊されてしまった。02年2月の暫定停戦以降は徐々に復興が進み、国内外に避難していた住民が帰還・再定住しつつあるが、厳しい生活を強いられていた。

そうした中、JICAは、緊急人道援助から持続可能な地域開発へ円滑に移行することを念頭に置き、住民参加型の開発手法を通して、コミュニティーの基礎インフラの復旧と人々の能力向上を目指したMANRECAPを04年3月に開始した。

当初の状況について「村人の自立心は低く、国連やNGOなどの食料援助に頼って生活している人が多かった」と話すのは、農業・地域開発の専門家、佐野幸規(ゆきのり)さん。そこでMANRECAPではまず、同県の中でも特に貧しい2郡10村を活動地域に選定し、それぞれで村人とワークショップを開いた。日本人専門家のファシリテーションのもと、村人自身が村の問題点や開発のアイデアを出し合い、「コミュニティー・アクション・プラン(CAP)」と呼ばれる行動計画を策定した。その内容は、紛争で破壊された道路や小規模灌漑施設、給水設備、公民館、幼稚園の建設・修復のほか、農作物の栽培や若者への職業訓練、女性グループのマイクロファイナンス活動、子どものグループ活動など多岐にわたり、村の復興に大きく寄与するものだ。そして、各活動を担う住民組織がつくられ、村人自身が必要な活動の優先度を選択し、関係機関と役割分担して、計画を実行している。

ある村人は「最初は自分に何ができるか分からなかった。でもプロジェクトスタッフや日本人が会議の進め方や会計の知識、インフラ建設の基礎技術などを教えてくれ、活動開始後も毎日村に来て相談に乗ってくれた」と話し、現在、村の復興に積極的にかかわっている。その“日本人”の一人、プロジェクトチーフアドバイザーの税所(さいしょ)卓也さんは、長年、同国の村落開発に携わってきた。「住民が『これならやれる』と思える活動を自分たちで行うことが持続可能な開発実現の第一歩。村人と信頼関係を築き、一人一人のやる気を引き出しながら、彼らを後押ししたい」。

また、税所さんは「地域の行政官にプロジェクトの有用性を理解してもらうことも重要」と言う。例えば、シャンティプラム村では、生活用水の不足が深刻な問題となっていたが、治安悪化などが原因で水道工事を請け負う会社がなく、問題解決の糸口を見つけられずにいた。だが、MANRECAPの活動に理解を示す県次官が、「技術者が現場に来られないなら、住民に技術を伝え住民自身が運営・管理できる方法を探ろう」と水道局に提案。今年8月から、水道局の技術指導のもと、住民たちが協力して工事に携わっている。水道給水パイプの埋設に当たっては、道路局やパイプ埋設場所に不法居住している住民との交渉、電柱の移転、工事に必要な機材の調達など、作業は山積みだが、村人たちはそれまで行ってきた道路工事や公民館建設の経験とチームワークを生かし、一つ一つ解決している。

収入向上につながる 住民主導のインフラ整備

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マナー県クーライ村の住民たちが工事中の共用給水設備。村の青少年グループがパイプの運搬や積み降ろしを手伝うなど、さまざまな住民組織がかかわりながら作業を続けている

こうした住民主導の村落開発は、マナー県から南東に約150キロ離れた東部州トリンコマリー県でも実施されている。05年11月に始まった「トリンコマリー県住民参加型農業農村復興開発計画(TRINCAP)」は、農業生産性が低く貧困層が多い6村を対象に、稲作、畑作などの農業技術の向上と農村インフラの改修、また、複数の民族が共存するコミュニティー内の民族間の信頼関係の再構築を目的とする農業農村復興モデルづくりを行っている。

「重要なのは住民が主体的に自分たちの村の開発にかかわること」と言うのは、プロジェクトチーフアドバイザーの山岡茂樹さん。「行政サービスが十分に行き届いていないこの地域では、住民自らが組織として力を付け、農村インフラの適切な維持管理方法や農業生産性向上を図るすべを持つことが必要」。そこで、TRINCAPでも、住民主導の行動計画CAPを作成し、日本人専門家の技術指導のもと、村のインフラを住民の手で整備しているほか、彼らが必要とする農業・畜産技術の習得を目指している。

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マナー県シードゥビナーヤカクラム村で建設中の井戸。安全で安定した生活用水を供給できる予定で、村人たちは完成を待ち望んでいる

「この地域はもともと共同体の意識が低く紛争でさらに悪化してしまったが、CAPを通じて、水利用組合や開発委員会、女性組合などいろんなグループが結成され、活動に参加する人がどんどん増えている。彼らの多くは建設工事などの技術・知識が乏しいが、困難を乗り越えていく過程で、コミュニティーの団結力が高まっている」(山岡さん)

最近、農業グループの活動に参加するようになったある村人は「同じ村に住む人たちが水路や道路を造ってくれたおかげで田畑に行きやすくなった。だから自分も手伝い始めた」と話す。また、村人が建設した多目的ホールは、幼稚園や栽培した農作物を売る市場、女性グループの裁縫研修会場などとして利用され、彼らの収入向上につながる場にもなっている。こうしたコミュニティー主導のインフラ整備や社会経済活動を通して、人々の自立心が芽生え始めている。

治安悪化を乗り越えて

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トリンコマリー県パニケティヤワ村では、住民を対象に左官工の研修が行われた

全人口の約85%が農村に居住するスリランカで、JICAはこのようなCAPを通じた村落開発支援を拡充している。06年から実施中の「北東部津波及び紛争被災地域コミュニティアップリフトメント(T-CUP)」は、内戦に加え、04年末のインド洋津波で甚大な被害を受けた東部州2県で、住宅や基礎インフラを再建するとともに、住民自身がさまざまな組織を立ち上げ、生計を向上させる取り組みを行っている。また、今年3月には、水へのアクセスが悪く、特に貧しい南部州ハンバントタ県で「南部地域の村落生活向上計画(SOUTH-CAP)」を開始し、住民主導の経済・社会インフラ整備などを通じて人々の自立を促している。

現在、一時は安定した治安が再び悪化しており、不安の中で暮らす住民も少なくない。だが、住民主導のこうしたプロジェクトを粘り強く続けることで、インフラの復旧と、復旧したインフラを活用した社会経済活動が進み、活気を取り戻した村々がスリランカの平和と安定を築いていくことを願う。