monthly Jica 2007年10月号

特集 人々のためのインフラ インフラが開く可能性(3/4ページ)

PROJECT in Mekong&Africa(メコン&アフリカ)
地域を結ぶ交通インフラ整備で格差是正と貧困削減

同じ開発戦略を持つに至った近隣諸国が一体となって成長していこうとするリージョナル化が、世界各地で進んでいる。その動きを支えるのが、国境をまたぐ交通インフラ「クロスボーダー交通インフラ(CBTI)」だ。ハードとソフト両面のCBTIの整備は地域の経済発展を促し、ひいては貧困削減につながることが期待される。メコン地域とアフリカでJICAが取り組むCBTIへの協力とは。

【Mekong】経済回廊の整備でメコン地域を戦場から市場へ

橋の開通で加速域内物流

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タイとラオスを陸路でつなぐ第2メコン国際橋。橋の建設は、複数国にまたがる案件としては初の円借款事業となった。サバナケット側にはJICAの提案に基づいた経済特区が整備されつつあり、日系企業の参入も始まっている。これまで二国間ベースの協力を実施してきたJICAは、今後、このように地域全体を視野に入れた協力も行っていく(写真提供:株式会社オリエンタルコンサルタンツ)

2006年12月20日、メコン川に架かる全長2050メートルの橋を、おびただしい数の人々がゆっくりと渡る。欄干には無数にはためくタイとラオスの国旗。ラオス中部サバナケットとタイのムクダハーンを結ぶ「第2メコン国際橋」は、JICAが詳細設計の調査を実施し※1、日本の円借款により03年12月に着工され、この日無事開通式を迎えた。この橋の開通で、メコン地域は大きく動き出そうとしている。

一般に、メコン川の流れる中国雲南省、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムと、メコン川沿いではないが中国広西チワン族自治区から構成される地域を「メコン地域」と呼ぶ。ここでは1991年にパリ和平協定※2が結ばれるまで数々の戦闘が繰り広げられたが、安定を取り戻した社会主義の国々は次々と市場経済路線を打ち出し、「メコンを戦場から市場へ」のフレーズのもと地域が一体となって発展していこうというリージョナル化の動きが生まれた。この地域の復興を促進させるため92年にアジア開発銀行(ADB)のイニシアチブで始まったのが、大メコン圏(Greater Mekong Subregion:GMS)経済協力プログラムだ※3。

このプログラムでは、道路をはじめとしたインフラの整備を生産や貿易、そのほかの開発と直結させた「経済回廊」のコンセプトのもと、メコン地域を縦・横断する東西回廊、南北回廊、南部回廊の整備を進めている。ミャンマーのモーラミャインからベトナムのダナンに至る1450キロの東西回廊は、ミャンマー国内の整備が遅れているものの、第2メコン国際橋の開通でほぼつながった。

現在、製造業においては、バンコクで部品を製造してハノイで組み立てるといった水平分業が行われている。橋の開通前は海上ルートで2週間以上かかっていたバンコク-ハノイ間の輸送が、この橋の完成で2日ないし3日に短縮された。このルートを使ったトラック輸送は増えており、地域経済の活発化が期待される。

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回廊が格差を広げないために

クロスボーダー交通インフラ(CBTI)の整備が、確実に関係諸国に裨益するかというと、そうとは限らない。メコン地域には1人当たり国民総生産(GNP)が2700ドルを上回るタイから、500ドルに満たないラオス、カンボジアまでと大きな格差が存在する※4。目覚ましい発展を見せるタイとベトナムに挟まれた内陸国ラオスの懸念は、「国土を素通りされ、回廊の整備が自国に利益をもたらさないのでは」といったことだ。

JICAアジア第一部でメコン地域を担当する小泉幸弘さんによると、橋の建設に先立ってJICAが実施した開発調査では、外国からの投資をラオスに呼び込むためサバナケット地区に経済特別区を設けることを提案、一部ではすでに操業が始まっており、雇用確保にも貢献している。また、JICAは東西回廊を切り口として観光振興および一村一品運動を通じた地域開発のためのプロジェクトを08年から開始するなど、域内の格差是正と地域統合に向けた支援を加速させる。

メコン地域のうち中国を除く5カ国が加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)は今年1月の首脳会議で、2020年に設定していた共同体構築目標を5年早め、2015年とすることを決めた 。域内格差の是正が共同体成否のカギを握るとして、人材育成を主とするASEAN統合イニシアチブ(IAI)※5とともに、GMS経済協力プログラムには大きな期待が寄せられている。

「協力の伴った競争を」

「CBTIの整備は域内に競争と協力をもたらすが、協力が伴わない競争では格差は広がる一方だ」。今年8月最後の1週間、横浜を拠点に開催されたJICAの「クロスボーダー交通インフラセミナー」に参加したカンボジアのヴァシン・ソリヤ公共事業運輸省企画局局長はこう語った。

セミナーの参加者は中国を除くメコン地域5カ国からの9人。メコン6カ国では、越境時の通関・検疫手続きや国境での積み替え手続きを省略するなどの越境交通協定(CBTA)が07年3月までに結ばれ、国境を共有する2国間ではその実施要領を詰める作業をしている。

セミナーでは各国のCBTA担当者である9人に日本の物流インフラの現場を紹介するとともに、各国のインフラ、税関体制や運輸業などについて互いの情報を交換した。CBTIが地域でバランス良く機能するためには、当セミナーのように関係国が密に話し合う協力の場が求められている。

【Africa】ハードとソフトの交通インフラ整備で貧困削減を目指す

越境手続き簡素化の切り札、OSBP

【写真】リージョナル化の進展はアフリカにおいても例外ではない。だが現状はメコン地域と比べるとかなり厳しいようだ。

「世界銀行の調査では、アフリカの輸送コストは南米の3倍、東南アジアの5倍とされています」。こう話すのは「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)」※6事務局にJICAからアドバイザーとして派遣されている吉田憲正さん。

アフリカの輸送コストが高い原因は、道路の不備が25%、越境手続きの不備などが75%といわれている。吉田さんはアフリカの越境手続きに時間がかかる理由として、1)地域協定の整備不足や運用の問題、2)国ごとに異なる煩雑な書類を手書きで記入するなど手続きの問題、3)書類の電子化の遅れ、4)国境職員の質とモラルの問題、5)国境施設の不整備などを挙げる。

これらを解決するカギとして注目されているのが、ワンストップボーダーポスト(OSBP)だ。これは、出国時と入国時に行ってきた税関、検疫、出入国審査を両国が共同で行うことで越境手続きを一度で済ませる仕組みである。

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ザンビア・ジンバブエ間のチルンド国境。「ここでは両国合わせて200台以上のトラックが絶えず滞留しており、ドライバー相手の売春が発生し、道路沿いのHIV感染が社会問題となっています」(吉田さん)。アフリカの国境では7日以上もトラックが止め置かれることがある。国境施設は職員による賄賂の要求など不正の温床にもなりやすい。日本のOSBP支援により、これらの問題解決が期待される

この仕組みを機能させるためには、OSBP仕様の国境施設や二国間協定などの法整備が欠かせない。同時に、書類や手続きの共通化や電子化に加え、職員研修なども求められる。これらを支援する日本の協力が、ザンビアとジンバブエ国境のチルンドで行われている。チルンドでは02年に国境を流れるザンベジ川に無償資金協力によって橋が架かり、今年7月にはOSBP施設が完成した。2国間協定や国内法の整備支援も行い、アフリカ初の機能するOSBPを目指している。

東アフリカ共同体(EAC)※7域内においても今年から新たな協力が始まった。EAC加盟国のケニア、タンザニア、ウガンダは05年1月に関税同盟を発足させ、域内の輸送需要の増加が見込まれている。これに対応するため、今年3月、国際協力銀行(JBIC)はケニアのアティ川とタンザニアのアルーシャを結ぶ国際幹線道路の改良および国境の町ナマンガにおけるOSBP施設建設のための円借款を供与した※8。

そうした動きを踏まえて今年9月に始まったJICAの支援は、OSBPの手続きのうち税関業務を対象としたものだ。ほかの地域の事例も参考にしつつ、地域にふさわしい税関手続きのモデルを開発し、3カ国の現場職員への研修も行っていく。

国境につながる国内道路の整備のために

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タンザニア・ムベヤ州トゥクユ近郊でLBTにより地方道路を整備する労働者たち。LBTは地元住民に収入機会を与えるほか、自分たちが使う道路を整備するため細かなメンテナンスが期待できる

地域経済を活発化させるためには、国際基幹道路だけでなくそれにつながる国内道路の整備やマネジメントの改善も必要だ。タンザニアではこのための2つの協力がJICAによって行われている。

同国では、全長約8万5000キロの道路ネットワークのうち、舗装道路はその5%に過ぎず、約5万キロの地方道路においては通行状態が良いとされる区間は10%に満たない。JICAはタンザニアが導入した道路維持管理の枠組み※9にのっとり、幹線道路のメンテナンスを担うタンザニア道路公社の発注者としての能力の向上や、道路基金理事会が担う道路財源の管理、現地建設業者を対象とする実務研修の質の向上を目指した包括的な協力を行っている。また、地方道路に関してはLBT(Labour Based Technology)という工法を普及させるためのプロジェクトを実施中だ。

LBTとは、現地で入手しやすい機械を使用する以外は人力で道路整備を行う労働集約型の工法をいう。その土地々々で人件費の安い農民などを雇い、主に鋤(すき)や鍬(くわ)などを使うことで工事費用を安く抑えられるほか、地域に雇用機会を創出するため貧困削減への貢献も期待できる。この工法は1970年代から国際労働機関(ILO)によって定式化され、アフリカやアジアの低開発国で導入され実績をあげてきた。しかし、タンザニアにおいてはその手段や方法が制度化されず、個々の経験が一般化できていない。

JICAのプロジェクトでは、マラウイとザンビアの国境近くにあるインフラ開発省適正技術研修所をベースに、LBTの認知度を高めるための普及活動と、地方自治体職員や民間建設業者などLBT関係者に対する研修のカリキュラム開発などを行っている。

ハードとソフト両面の交通インフラが整備されれば物流コストが下がり、アフリカ産品の国際競争力が増し、ひいては経済発展も望めることだろう。貧困削減のためのインフラに注目が集まっている今、アフリカでインフラ支援に取り組む意義は大きい。