monthly Jica 2007年10月号

特集 人々のためのインフラ インフラが開く可能性(4/4ページ)

Expert's View
専門家に聞く インフラの役割と国際協力

「貧困削減」が援助の主流を占める中、近年インフラの重要性が再認識されるようになってきた。かつてのインフラ支援と現在のインフラ支援はどう違うのか、求められることは何なのか。アジア諸国のインフラ整備に長年携わってきた東京大学大学院の吉田恒昭教授に聞く。

1 世界の援助潮流における近年のインフラ支援の考え方は?

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吉田 恒昭(よしだ・つねあき)
東京大学大学院新領域創成科学研究科教授。1946年栃木県出身。81〜97年、アジア開発銀行において農村、農業、交通、エネルギー、天然資源分野などのインフラプロジェクトの計画・執行などに従事した。2005〜06年JICA「クロスボーダー交通インフラ対応可能性研究」技術アドバイザー。著書は『Systems for Infrastructure Development:Japan's Experience』(編共著、国際協力出版会)、『アジアの開発課題と展望:アジア開発銀行30年の経験と教訓』(編共著、名古屋大学出版会)、『メコン地域開発』(共著、アジア経済研究所)など。

ここ10年くらいを振り返ると、2000年にまとめられたミレニアム開発目標(MDGs)をはじめ、「貧困削減」が援助の大きな潮流となっています。基礎的な保健医療や教育を重視した世界銀行を中心とする欧米ドナーは、いわゆる経済インフラに対する援助を大きく減らしました。

それで悲鳴を上げてきたのが開発途上国です。「ドナーは貧困削減や社会開発が大事だと強調し、われわれもお願いしますと言ってきたが、気が付くと貧困削減や社会開発の持続性を担保する経済成長を下支えするインフラの整備が遅れ、身動きできなくなってしまった」と。

やはり国家の骨組みを形成するような基幹インフラがなければ、長期的・持続的な発展が望めず、バランスの取れた開発が非常に困難であるということを、途上国自身が身に染みて分かってきたのではないでしょうか。

最近、「インフラ回帰」と言われますが、援助の世界でインフラの役割をもっと強調してもいいのではないかという声が上がっています。特に、インフラが社会や環境、貧困にどういう影響を及ぼすのかを考え、貧困削減や社会開発に貢献するインフラを経済成長戦略とバランスを取ってどう構築するかという発想で支援が行われるようになってきています。

2 活発化している地域統合の動きとインフラの関係は?

グローバル化の文脈の中で、近年リージョナル化が進んでいますが、それは地域の国々が共通の開発目標や戦略を持てたがゆえに、できるだけ各国の資源を互いに有効利用し、地域全体として発展していきましょうという考えに基づいています。今、各地域で経済連携協定(EPA)・自由貿易協定(FTA)をはじめ経済統合の動きが盛んですが、その手段として国境を越えるインフラ、とりわけ「クロスボーダー交通インフラ(CBTI)」が重要視されています。また、地域経済統合が進むとCBTIの整備も進むため、CBTIは手段であり結果でもあるといえます。

インフラネットワークには主に水、エネルギー、交通、情報通信などがありますが、そのネットワークがクロスボーダーで進展すると、水は隣の国からもらっているけれど電力は隣に送っているというように相互依存が多くの場合発生します。例えばマレーシアとシンガポール、あるいは香港と中国本土は、送水を止められると危機に瀕(ひん)するので、良好な関係維持が重要です。メコン川流域国でいえば、雲南省が上流で水の圧倒的な支配権がありますが、物流に着目すれば南北回廊で雲南の出口がハノイ、バンコクなどとなり物流の支配権は下流国が強くなります。このように、インフラを通じて依存関係ができ、それが地域の経済統合だけでなく安定や平和につながることも期待できるでしょう。

メコン川流域諸国では、戦場から市場へという共通の価値観を持つようになった結果、リージョナル化が進みCBTIも整備されてきています。一方、アフリカ諸国でも国境を越えた“アフリカ人意識”が高まりつつあり、インフラもクロスボーダーでつなげていこうという動きがかなり見られます。

3 インフラ整備で求められる国際協力とは?

インフラはハードだけを造って何もしないでいると、実は貧富の格差を広げてしまう可能性を持っています。インフラの便益を最大に享受できる人というのは、教育やアセット(資産)のある人です。人材育成や能力向上を配慮せずに、ただインフラ、インフラと言うのは危険です。格差が少なくなるような手段や政策は何か、よく考えなければいけません。

また、従来インフラは、規格などを隣国とは差別化して“パトリオティック”(愛国主義的)に造られてきた面があります。これからは一国のインフラを支援する場合でも、地域全体とのつながりを考えることが重要です。

先進国の政府開発援助(ODA)の対国民総所得(GNI)比は現在0.3%程度ですが、これを0.7%くらいまで増やせば、途上国のインフラは相当整備されます。インフラのネットワークをつくることは世界平和と共栄の前提になるのですから、先進国側の国民にはそのこともよく理解してほしいところです。

貧困削減が援助の主流となり経済インフラ支援が世界的に減った時期においても、日本は金額的には急減することなくインフラ支援を続けてきました。特に日本が整備したアジア諸国の港は、彼らの開発戦略の要諦(ようてい)である海外直接投資(FDI)と輸出振興政策に合致し、貿易による成長に大きく貢献しました。

日本は欧米の援助関係者から「インフラづくりにベストな体制を持っている」とうらやましがられてもいます。日本にはマスタープランという総合的な枠組みづくりから、具体的なインフラプロジェクトにつなげるアプローチがあり、制度整備や人材育成にも貢献している。また、無償・有償資金協力を通して基幹インフラへの支援も行っている。新JICAにとっては一層の比較優位になります。JICAにはインフラが人々に与える持続的インパクトを日本と途上国での経験を踏まえてもう一度しっかり研究し、アジアでの経験をもっと自信を持って世界に発信していってほしいと思いますね。