monthly Jica 2007年11月号

特集 水資源 すべての人に安全な水を

Expert's View
専門家に聞く 給水分野の課題と支援

ミレニアム開発目標の一つ「2015年までに安全な飲料水および衛生施設を継続的に利用できない人々の割合を半減する」の達成に向けて、国際社会が手を取り合って開発途上国を支援している。生きるために不可欠な給水分野で、途上国はどのような問題を抱えているのか。村落給水についてJICAの丸尾祐治国際協力専門員に、都市給水について山本敬子専門員に聞く。

1 開発途上国の給水分野の現状と課題は?

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村落給水
丸尾 祐治(まるお・ゆうじ)

JICA国際協力専門員。理学博士。1944年静岡県出身。北海道大学理学部地質学・鉱物学科卒業。青年海外協力隊、JICA専門家などを経て、89年より現職。地下水開発・管理に関する開発調査、サハラ以南アフリカを中心とした村落給水の無償資金協力などに携わる。2003〜06年、エチオピア「地下水開発・水供給訓練計画」のチーフアドバイザー。

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都市給水
山本 敬子(やまもと・けいこ)

JICA国際協力専門員。技術士(水道部門)。1947年北海道出身。北海道大学工学部卒業。千葉県水道局、JICA企画調査員(ボリビア、上下水道)、日本水道協会シニア専門家を経て、95年より現職。2003〜06年、カンボジア「水道事業人材育成プロジェクト」のチーフアドバイザー。

丸尾 サハラ以南アフリカの村落の給水普及率は、4〜6割程度というのが現状です。しかし、ハンドポンプなど給水施設が故障しても、村落ではスペアパーツがすぐに手に入らないため、修理できずに使えない状態の施設がどの国にも2、3割程度あります。ですので、国連の定義による普及率※1は、これらの数字よりさらに低くなります。

給水分野の開発は、「地方分権化」と「民営化」の推進という2つの世界的な潮流の中で実施されています。地方分権化について言えば、郡レベルに開発の全責任を移管しようとしているのですが、その責任を負うべき人材が絶対的に不足しています。また、村落には本当の意味での行政機関がないため、施設は村の住民が自主的に管理しなければなりませんが、法的に施設の所有権が村人にあるかというと、そうではない。政府開発援助(ODA)で供与された施設は国の資産となるので、住民たちも維持管理は政府がやるべきだという気持ちになってしまいます。

井戸掘削部門の民営化に関しても、技術力や作業効率の低さなどが原因で、西アフリカの一部を除いて完全な民営化には至っていません。

山本 都市については、浄水場などの施設が増えているにもかかわらず、都市への人口流入が大きいため、途上国では普及率が下がっています。都市周辺には水道などインフラの未整備な地域が広がってスラム化し、貧困層は水売りから高い値段で水を買わされています。

こうした人口集中は水源不足に拍車を掛け、さらには住民自身の排水で身近な水源である地下水を汚染しています。配水管網の老朽化による漏水や盗水で無収水率は40%を超え、これは水源の無駄遣いであるばかりでなく、漏水個所からの水の再汚染、料金収入の減少につながり、経営を圧迫しています。また、水道事業は水道料金で賄うのが原則ですが、生活に直結するので政治的介入が多く、料金を下げてしまう。それによって経営が成り立たなくなり、維持管理が不十分になっています。

普及率は農村地域より高い※2ですが、24時間給水しているところは少なく、安全な水も供給できていません。都市給水でも人材不足は深刻で、人を育てなければ支援が生きません。

※1 2000年に国連が定義した「給水普及率」とは、ポンプ付きの管井戸やわき水をコンクリートで覆い、蛇口を取り付けたような改良型の給水施設に持続的にアクセスでき、水場までの距離が1キロ以内で、1日に1人当たり20リットル以上の水が得られる割合をいう。

※2 世界保健機関(WHO)の報告では、途上国における改善された飲料水システムの普及率は2004年、都市で92%、農村で70%。

2 給水分野の国際的な支援の潮流は?

丸尾 各途上国で水分野開発プログラム(Water Sector Development Program:WSDP)が策定され、ドナー間の援助協調※3が進んでいます。具体的には各ドナーが資金を共通の基金(コモン・バスケット)に供出し、個々のプロジェクトではなく給水分野全体を支援する方向で動いています。ところが、この中でも被援助国側の人材・能力不足が原因で、この方式による開発が一向に進まない例も多く見られます。

山本 水源開発も施設整備も莫大(ばくだい)な資金が必要で、多くのドナーはPPP※4で民間参入を促進し、民間の資金と効率的経営を期待しています。一方で、民間企業の撤退の話も最近あちこちで出ています。

また、技術協力と資金協力をセットで行うことが重視されています。しかも世界銀行やドイツ復興金融公庫などは、援助の成果を評価して、効果があればさらに資金協力するといったきめ細かな方法も始めています。

※3 複数の援助国・機関(ドナー)が個々に援助するのではなく、重複を避け、様式を統一化し、連携してその分野の援助を行うこと。

※4 より良い公共サービスを実現するために、官、民、受益者の3者が平等の立場で協働する形態。「官民パートナーシップ(Public-Private Partnership)」の略。

3 JICAに求められることは?

丸尾 援助協調による支援に明るい展望が開けない現状において、着実に成果を上げているJICAのプロジェクトは、被援助国側にとって大変頼りになる存在です。JICAは制度上、コモン・バスケットには原則的に加われませんが、被援助国のWSDPに沿った形で独自のプロジェクトを進めています。

例えば、エチオピアでは10年にわたり水分野の人材育成を続けていますし、ザンビアではハンドポンプのスペアパーツの流通網を確立し、給水施設の休止期間を短縮する協力を行っています。セネガルの「安全な水とコミュニティ活動支援計画(PEPTAC)」(参照)も含め、これらの協力はそれぞれの国の給水分野において、なくてはならないプロジェクトとして認識されています。今後も他ドナーと協調しつつ、このような協力を進めるべきと考えます。また、施設が故障するのは造ってから数年経った後ですから、プロジェクト終了後もフォローに努め、メンテナンス方法などを繰り返し住民に指導することも大切です。

山本 カンボジア・プノンペン市の水道公社は1993年以降、日本や他ドナーの協力で施設が整備された後、JICAの人材育成で、24時間、適切な水圧で安全な水が住民に供給されるようになりました※5。JICAに求められるのは、やはりこうした人材育成です。近年JICAはキャパシティ・ディベロップメントを重視していますが、今後もこのコンセプトに沿ったプロジェクトを推進すべきだと思います。

また、住民の意識の向上も重要です。料金を払って良いサービスを得る権利意識の醸成や水の有効利用など、住民の意識改革は青年海外協力隊が支援することもできると思います。

今後の課題は、技術協力と資金協力をどうタイミングよく投入するかでしょう。来年、技術協力と有償資金協力、無償資金協力の一部が統合する際には、手続き面などで思い切った改革をし、資金と技術のバランスが取れた援助ができるようになることを期待しています。

※5 JICAの開発調査「プノンペン市上水道整備計画」で策定された水道整備マスタープランをもとに、日本をはじめ多数の援助国・機関が施設の整備とともに人材育成を行った。JICAは2003〜06年に「水道事業人材育成プロジェクト」を実施、その後07年5月にフェーズ2を開始した。貧困層に配慮した水道料金体系(多く使うほど高くなる逓増(ていぞう)制)も整備し、水道事業の独立採算制が機能している。