monthly Jica 2007年12月号

特集 ジェンダー すべての人々が生きやすい社会へ

PROJECT in Yemen(イエメン)
学ぶ喜びを女性たちに

【地図】イエメン1994年より地方分権化を進めているイエメン政府は、教育分野においても分権化を導入し、男女格差の是正と住民参加を重視した基礎教育の拡充に取り組んでいるが、その道のりは半ばだ。こうした中、2005年6月に始まったJICAの「タイズ州地域女子教育向上計画」が目覚ましい成果を見せている。学校と地域住民が共に考え、女子教育改善のための計画を提案・実施するためのプロジェクトとは。

学校を続けられない女の子

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プロジェクト対象地域の女性と女児は、多くの時間を水くみに割いている。男性がこの仕事をすることはない。現地の女性は「それが文化だから。男性や息子に水くみは頼めない」と言う

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炎天下、算数を学ぶ子どもたち。この「学校」には校舎がなかったが、プロジェクト開始後、住民が協力して校舎を建設した。イエメンの教育制度は日本と同じ6-3-3-4制で、そのうち6-3を基礎教育と呼ぶ。59のパイロット校のうち8校には正式な教員がおらず、契約教員だけで学校を運営している

強い日差しが降り注ぐ中、地面に座って教員の声に耳を傾ける子どもたちがいる。教員が使っているのは、木に立てかけた一枚の黒板だけ。別の村の小学校では、校舎はあるが教室が足りないため、階段の踊り場で授業が行われている。こうした状況の中でも子どもたちは熱心に学ぼうとしているが、学年が上がるにつれ女の子の数が減っていく。

ここはアラビア半島南西端に位置するイエメン。この国では憲法により男女平等が保障されている。ところが実際には、あらゆる側面で著しい男女の格差が存在する。特に教育における格差は大きく、初等教育(1〜6年生)の純就学率は全体の75%に対し女子は63%、成人識字率も全体の49%に対して女性は28.5%にとどまっている(2004年)。

小学校を途中でやめた女性たちは言う。「父が、学校に先生がいないなら行っても意味がないと言いました」「3年生以上の女の子が他人の目にさらされながら遠くの学校まで通うのは恥ずかしいことだと、両親が言いました」。

先生がいない、教室がない、トイレがないといった劣悪な学習環境もさることながら、女の子は多くの家事を手伝うのが当たり前、思春期以降は自由に外に出られず、男女が同席することを嫌うといった社会的背景が、女子の就学率低下に拍車を掛ける。

こうした中、基礎教育の拡充を国家目標に掲げるイエメン政府の要請で、JICAの技術協力プロジェクト「タイズ州地域女子教育向上計画」が2005年6月から3年半の予定で実施されている。同国は「万人のための教育(EFA)」※の達成を重視し、1994年から地方分権化を推進、教育分野でも地方の教育行政官、州・郡の地方議会、校長、教員、地域住民によるパートナーシップを強化しながら、基礎教育における男女の格差是正に取り組んでいる。プロジェクトの目的は、学校と地域住民が主体となって女子教育の改善を目指す、地方教育行政の施策モデルを開発することだ。南西部タイズ州の6郡から、女子の就学率が低い、女性教員が少ない、女子の中退率が高い地域の59校をパイロット校として選び、集中的に支援を行っている。

1990年にタイのジョムティエンで開かれた「万人のための教育世界会議」で確認された、すべての人に基礎教育を提供することを目標とするイニシアチブ。

学校と地域が共に活動する仕組みづくり

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プロジェクトでは学校改善計画のつくり方や会計報告書の書き方などの研修のほか、校長や契約教員の研修も実施している。プロジェクト2年目に入ると、研修参加者に女性の姿も目立ってきた。講師役の郡教育行政官は、JICA専門家と州教育局の指導を受け、めきめきと腕を上げている

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識字教室で学ぶ女性たち。顔を隠すこのスタイルは「都会的でカッコイイ」と言う

「意外でしたが、思っていたほど親御さんたちは娘の教育に反対していなかったんです」。ジェンダー担当の園田亜矢専門家は、住民の聞き取り調査で得た感触をこう話す。「読み書きができないお母さんたちからは、自分が学校に通えなかったからこそ、子どもには男の子であれ女の子であれ学校へ行かせたいという熱意を感じました」。田中紳一郎専門家も「親には教育が大切だという理解があるが、学校側がその要望に応えられなかったのだろうと思います。こんな状態だったら、私たちだって子どもを学校に通わせませんよね」と、建物のドアを黒板代わりに屋外で授業する写真を示しながら言う。

プロジェクトではまず、パイロット校すべてが父会、母会を組織し、さらにその代表と校長、教員、村のリーダーや聖職者など住民からなる学校運営委員会を立ち上げた。この委員会で自分たちの村の現状分析をし、どうしたら女の子をもっと学校へ行かせることができるかを話し合う。そして「学校改善計画」をつくり、住民が主体となって計画を実行に移す。プロジェクトはその活動に対して年間約30万円の資金を出したほか、州・郡教育行政官への研修を実施、その後行政官らが校長や学校運営委員会メンバーを支援する。

女子教育の促進に最も効果的な活動が、契約教員の雇用だ。プロジェクト1年目には地元出身の契約教員を145人採用し、うち45%が女性だった。女性が教員として活躍することで女性の社会貢献にもつながり、さらには、男性教員でも地元の顔見知りであれば、親は安心して娘を学校に通わせることも分かった。

「1年目は、契約教員を雇う、教室を作るといった活動が多かったです。熱心な契約教員が多く、中退した女子生徒の家庭を訪問して再び学校に通わせるよう親を説得する教員もいます。2年目になると優秀な生徒を表彰して文具セットを贈るとか、拡声器を購入し、女の子もみんなの前で発表できるよう朝礼を行うなど、活動の内容に幅が出てきました」(園田さん)。プロジェクト最終年の現在は、州の予算も加わり、再び教室の建設や改修が多くの学校で行われている。大工仕事は父親たちが行う場合が多いが、母親もお茶を出したり資材運びを手伝ったりする村も出てきた。

動き出した女性たち

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学校改善計画で新築された教室で学ぶ子どもたち。教室やトイレが整備され、契約教員が増えたおかげで、女子の就学率がぐんとアップした。契約教員は学校運営委員会が村の中からふさわしい人を探し出す

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学校運営委員会とJICAプロジェクトの契約署名式。学校改善計画書は州と郡の教育局が中身を精査し、承認する。プロジェクトによるきめの細かい研修と学校訪問、評価活動が成果を生み出した

プロジェクトでは、活動に女性が参加することを促している。1年目は、「研修に参加してほしい」と言っても女性はまったく参加しなかった。そこで女性だけを集めて本音を聞くと、「自分も何かやりたい」という意欲はある。ただ、父親や夫の同意がなければ何もできないことが分かった。2年目からは男性が理解を示してくれるような活動に女性を参加させようと、学校改善計画の中に女性のための活動を入れることを義務化した。

「小さいころ、牛の世話で忙しかったので学校へ行けませんでした。識字教室が始まることを聞き、母が私に通うよう勧めてくれました」。これは、パイロット校の一つアル・ワハダ校で開始した女性のための識字教室に通う生徒の声だ。当初30人を予定していた活動だが、85人もの女性が登録した。ここの校長先生は教室の開催を熱心に告知してくれ、授業が始まると、女性たちが安心して学べるようにと終わるまで学校に残っている。

午前中は男子校であるアルファヘッド・アハメドサイフ校の識字教室に通う女性たちも、「今、計算を習っています。もうおつりをごまかされることはありません」「以前、私たちは目が見えないも同然でした。識字教室が私たちの目を開いてくれた」と喜びを隠さない。彼女たちは、「自分が母親になったら娘や息子たちを学校へ通わせる」と断言する。

プロジェクト開始前にパイロット校全体で5327人だった女子生徒は、2年目の終了時、8901人に伸びた。男子生徒を100とした場合の女子生徒の数も、プロジェクト前の63から78へと飛躍した。3年目の今、その数はさらに伸びる見込みだ。

JICAのプロジェクトで確立された、学校と地域が共に考え、提案・実施するという女子教育改善のための仕組みは、今後、州教育局によってほかの郡にも普及される予定だ。学校改善計画で採用された契約教員も、教育省に正式採用されるケースが増えている。

「私たちが住民を信頼し、任せたことが彼らの自覚を促しました。そして、住民参加の枠組みづくりだけでなく、お金をつけて責任を持たせたこともうまくいった一因だと思います」(田中さん)。学校は与えられるものではなく、地域で育てるもの—住民にこうした意識が根付いた今、今後の活動の広がりが期待される。

「タイズ州地域女子教育向上計画」のホームページ: