monthly Jica 2007年12月号

特集 ジェンダー すべての人々が生きやすい社会へ

Expert's View
専門家に聞く 「ジェンダーと開発」の現状と課題

女性も男性も同じように人間として自分たちの生き方に決定権を持つ—この「ジェンダー平等」な社会を築くため、国際社会はさまざまな施策を講じてきた。ジェンダーと開発における国際的な取り組みと成果・課題、日本・JICAへ期待することなどを、日本におけるジェンダーの社会学研究の先駆け的存在である目黒依子教授に聞く。

1 「ジェンダーと開発(GAD)」に関する国際的な取り組みとその流れは?

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目黒 依子(めぐろ・よりこ)

上智大学総合人間科学部社会学科教授。1938年高知県出身。専門は社会学、ジェンダー学。JICA 第2次分野別ジェンダー・WID研究会委員長、国連婦人の地位委員会日本代表、国連開発計画(UNDP)開発政策局ジェンダーチーム・タスクフォースの委員長。著書は『女役割—性支配の分析』(垣内出版)、『少子化のジェンダー分析』(編著)、『家族社会学のパラダイム』、『ジェンダー学と出会う』(編著)(いずれも勁草書房)など。

世界中で女性の地位が男性に比べて非常に低いという状況の下、ジェンダー平等を達成するための大きな枠組みとして、国連婦人の地位委員会(CSW)が1946年に設立されました。さらに、79年の国連総会で採択された女子差別撤廃条約※1を監視するためにできた女子差別撤廃委員会が、各国に対し、自国の状況を4年ごとに報告することを要求しています。

CSWは年一度の定例会議のほか、これまでに4回の世界女性会議※2を開きました。「ジェンダー」という言葉が出てきたのは3回目のナイロビ会議(85年)あたりからです。95年の北京会議のときには、ジェンダーはすでに基本概念になっていて、「ジェンダー主流化」という言葉がこの段階で出てきました。北京会議ではジェンダー平等を進めるための重大問題領域として、12の領域※3を挙げた北京行動綱領をまとめました。

国連の特別総会として2000年6月に開かれた「女性2000年会議」では、北京会議以降の5年間に世界レベルで起きた大きな変化、つまり、グローバル化、紛争、アジア経済危機の3つが、北京行動綱領を進める上で大きな障害になったことが指摘されました。この会議での成果が同年9月の国連ミレニアム・サミットに反映され、ミレニアム開発目標(MDGs)の目標3に「ジェンダー平等の推進と女性の地位向上」が設定されたのです。

北京会議から10年後の05年、CSWは「北京+10」閣僚級会議を開き、そこでの成果を同年9月のMDGs見直し会議に反映させました。つまり、MDGsには8つの目標があり、多くの人がジェンダーのことは目標3だけだと思っていますが、実は「すべての目標達成にジェンダー視点が不可欠だと再認識する」ということを要求したんですね。男性も女性も開発の成果を公正に受けるためにジェンダー主流化が必要だという考えは、今では各国が認識しています。

※1 正式名称は「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」。女子に対する差別が権利の平等の原則および人間の尊厳の尊重の原則に反し、社会と家族の繁栄の増進を阻害するものであるとの考えの下、各締約国が男女の完全な平等の達成を目的として、女子に対するあらゆる差別を撤廃することを基本理念としている。日本の批准は1985年。

※2 第1回メキシコ(1975年)、第2回コペンハーゲン(80年)、第3回ナイロビ(85年)、第4回北京(95年)。一貫したテーマは「ジェンダー平等・開発・平和」。

※3 貧困、教育・訓練、健康、性暴力、武力紛争、経済、権力・方針決定、女性の人権、メディア、環境、女児、女性の地位向上のための制度的仕組み。

2 ジェンダー平等へ向けた国際社会の取り組みの成果と、新たな課題は?

世界全体で前進が見られたのは、ジェンダー平等を進めるための国内本部機構が各国で整備されてきたこと、平等基本法やクォータ制※4などの法律が整備された国が増えたこと、初等教育が広まったことでしょう。また、収入の増加にはつながっていないという問題はありますが、女性の就業も増えました。

国によって格差がある領域は、女性の政治参加ですね。ある国では男性と同じくらいの国会議員や大臣がいるけれど、ある国ではものすごく少ない。まだまだ大きな課題がある領域は、貧困、性暴力、武力紛争、健康です。貧困者の7割が女性であるとか、武力紛争の結果発生する難民・国内避難民の8割が女性や子どもといわれています。

今年7月、MDGsの中間点で発表された国連事務総長報告では、停滞している分野として、西アジア・サハラ以南アフリカの貧困、妊産婦死亡率、HIV/エイズ、衛生、気候変動の影響が挙げられました。それらの背景には、経済成長からの受益が不平等であること、紛争やエイズなどによって生活の安全が脅かされていること、政府開発援助(ODA)の増額が進んでいないという問題があると指摘されました。

MDGs達成に向けて開発援助をどのように進めていくかは、国際社会が話し合い、合意された方向で取り組んでいくわけですが、そこで必要なことは、ジェンダー平等を達成するための戦略について、各機関が制度的なコミットメントをもっと強く出すことだと思います。

※4 政策決定機関での男女の格差を是正するための方策。国の審議会や公的機関の議員や委員の人数枠を、男女の比率に偏りがないよう制度として割り当てること。

3 JICAや日本に求められることは?

JICAの協力は良い事例をいくつか重ねてきていますので、その内容を確認しつつ、さらに良い事例を増やしていくことが求められると思います。また、08年10月に外務省の無償資金協力の一部と国際協力銀行(JBIC)の有償資金協力がJICAに継承された後も、ジェンダー平等を進めるに当たってJICAがつくり上げてきた組織的な仕組みをさらに前進させてほしい。世界のあらゆる社会の仕組みが、人間を中心とした開発を持続的に進めていくためには、ジェンダーの視点が欠かせません。その認識がJICAという組織体のあらゆるレベルの人たちにあるかどうか、これは世界からの評価にかかわってくるのです。

日本政府に対しては、05年に策定した「ジェンダーと開発(GAD)イニシアティブ」※5を、さらに積極的に実施していくことを期待します。しかし、協力を行っていくための裏づけとなるODA予算は減り続けています。昨年閣議決定された「骨太の方針2006」にも、「今後5年間にわたってODA予算を毎年2〜4%削減する」とありますが、大変残念です。

開発途上国に支援するお金があったら国内の福祉に使うべきだという意見もありますが、それは発想としては考え直さないといけません。例えばテロとの闘いの問題にしても、さまざまなフィールドで「人間として生きること」をサポートすることが、長い目で見たときにはテロの予防になる。そう考えると、日本が今までODAでやってきたことは、いろんな意味で成果につながっているわけです。ですから、受益の公正を前提とする人間開発の部分に継続的に予算を使えるような政策を立てることが欠かせません。

※5 途上国の女性を取り巻く状況の変化や開発プロセスにおけるジェンダー主流化の重要性に対する認識の強化を受け、1995年の北京会議で発表した「WIDイニシアティブ」を見直し策定された。途上国のオーナーシップを重視しつつ、当該国におけるジェンダー平等と女性のエンパワーメントを目的とする取り組みに対して、日本のODAを通じた支援を一層強化するため、ジェンダー主流化に基づく取り組みを示している。