monthly Jica 2008年1月号

特集 地球温暖化Part2 迫る脅威に負けない力を

JICA's Approach
持続可能な開発に向けた支援が適応策としても有効

温室効果ガスの排出を削減する緩和策とともに地球温暖化対策の両輪として、取り組みが急がれている適応策。進行しつつある温暖化に対応するための適応策に関する協力を、JICAはどのように実施しているのか。

国際的に関心高まる「適応」への取り組み

地球温暖化は生態系保全や人類の生存に深刻な悪影響をもたらすと予測されている。例えば、乾燥地の拡大による植生の変化や農産品被害、極地の氷の融解などによる海面上昇、多雨地域の降水量増加、熱帯地域拡大による熱帯病拡散など、多様な分野で懸念されている。

特に開発途上国では、人間の安全保障を脅かし、持続可能な開発を妨げる最大の脅威の一つだ。貧困層など弱者の生存基盤を危うくする可能性も大きい。

国際社会は、温室効果ガス(GHG)の排出を削減する「緩和策」とともに、そうした避けられない悪影響に対処していくための「適応策」に結束して取り組むことが求められる。

また、影響を受ける人間社会がどのように悪影響に耐え、もしくは回避できるかも重要だ。そのためには、実際に影響が起きてから対応するよりも、事前に計画的に適応策を進めておくほうが効果は高い。適応策の多くは、将来の気候変動の影響への効果だけでなく、現在の効果も期待でき、持続可能な開発の促進や人間の安全保障の実現にも貢献し得る。

国際社会は、2007年12月にインドネシア・バリで開かれた国連気候変動枠組条約第13回締約国会議(COP13)で、2013年以降の「ポスト京都議定書」の枠組みに、緩和策とともに、適応策も位置付けることを検討した。

日本政府もわが国の温暖化対策として「美しい星50」を掲げ、国際社会に、GHG排出を2050年までに半減するという共通の目標を提案するとともに、適応策を開発政策の中で主流化し、気候変動の影響を受ける途上国に配慮していく方針を打ち出している。

JICAの適応支援

JICAが従来さまざまなセクターで実施してきた技術協力には、将来の気候変動への適応にも貢献するものがある(表参照)。

特に、気象災害や気象条件の変動などの影響を受ける地域で、それらの被害への対応を主目的の一つとして実施されたプロジェクトの中には、適応策としての効果を有するものが多い。また、JICAが重視する「住民参加」のアプローチを取り入れた協力にも効果の高いものが見られる。今後も途上国の持続可能な開発に向けた支援を着実に実施していくことは、気候変動への適応を後押しする上でも重要な役割を担うことができる。

一方、気候変動の影響が顕在化しつつある中、技術・資金・人材面で多くの制約に直面する途上国では、適応支援のニーズが高まっている。JICAは、途上国のニーズに応えるためにも、新たに適応策としてのプロジェクトも行っていく。その際、「人間の安全保障の視点に立った適応支援」と「キャパシティ・ディベロップメントを基本に置いた適応支援」の2つを基本的な考え方としている。

途上国の多くは、気候変動に伴うリスクを認知していても、財政的な制約から、将来の脅威の対応のための予算が配分されにくく、貧困層が多く住む農村や気候変動の影響に脆弱(ぜいじゃく)な沿岸部や山岳地などでの対策はより困難な状況にある。社会的弱者の生存や生活を守るためには、気候変動というリスクを最小限にとどめ、個人や社会の潜在能力を開発・活用したリスクの予防・軽減の方策が求められる。

そうした人間の安全保障の視点に立った適応支援を具体化するためのアプローチとして、キャパシティ・ディベロップメント※支援が柱となる。気候変動への適応は、国、地方、コミュニティー、家族、個人にまでさまざまなレベルで行われる。適応支援は、それぞれの主体の能力を強化するとともに、それらの間の連携や相互作用を可能にする制度・ルールを社会的に構築するものであることが重要だ。

さらに、プロジェクトの形成に当たっては、設計段階から気候変動の影響を考慮し、対象地域における適応策をプロジェクトに内部化することの妥当性や可能性を検討することも求められている。

※ 途上国の課題対処能力が、個人、組織、社会などの複数のレベルの総体として向上していくプロセス。

調査研究「コベネフィッツ型地球温暖化対策とJICAの協力のあり方」

JICAは地球温暖化対策分野の協力について調査研究を行っている。これまでに、緩和策の一部であるクリーン開発メカニズム(CDM)に関する調査研究「クリーン開発メカニズム(CDM)とJICAの協力」(2006年)を、また適応策に関しては「気候変動への適応策に関するJICAの協力のあり方」(07年)を行い、報告書を発表した。そして、現在「コベネフィッツ型地球温暖化対策とJICAの協力のあり方」の調査研究を実施中だ。

2008年、温室効果ガス(GHG)排出削減の数値目標が定められた京都議定書の第1約束期間が始まり、先進国は削減の取り組みを加速させている。一方、開発途上国でも経済発展に伴い、GHGの排出増加が予想されているが、途上国側には、排出削減など温暖化対策を行うことで開発が阻害されるのではないかという危惧(きぐ)が根強い。そんな中、開発ニーズの充足と温暖化対策を同時に実現する「コベネフィッツ型地球温暖化対策」のアプローチへの注目が高まっている。「コベネフィッツ」とは相互に利益があることで、途上国にとっては持続可能な開発の牽引(けんいん)要因として気候変動問題への取り組みを活発化させることができ、先進国にとっては途上国の開発援助を行いつつ、GHG排出の少ない低炭素社会の形成を誘導できることが期待されている。

JICAの調査研究では、コベネフィッツの概念整理や国際機関・各国ドナーの動向分析を行い、それらを踏まえてJICAとしての協力の方向性・可能性を検討し、事例収集を通じて今後の活動に関して提言することを目指している。報告書は今春完成・公開予定。