monthly Jica 2008年3月号

特集 食と農業 生きる糧を守るために

JICA's Approach
発展段階に応じた持続可能な農業を支援

「食料安全保障」への関心が世界中で高まる中、人々の「食」を支える農業分野の支援が改めて重視されている。それは、貧困層の半減を目指すミレニアム開発目標(MDGs)の達成だけでなく、地球温暖化やバイオ燃料の影響などの新たな課題に対応するためにも不可欠だ。JICAは開発途上国の発展段階や課題に応じて、持続可能性に配慮した農業支援を展開している。

世界の食と農業

人々の「食」を支える農業は、今やグローバル化した市場を背景に相互依存の関係を深めており、開発途上国の農業分野への支援は、途上国のみならず先進国を含む世界全体の食の「安全・安心」にかかわる取り組みとして認識されている。

一方で、各国の農業の現状や課題は大きく異なっており、協力アプローチも現地の状況に応じた柔軟な取り組みが求められる。世界銀行の「世界開発報告2008 開発のための農業」でも、各国の農業への依存度をベースに、途上国を、サハラ以南アフリカ諸国などの「農業ベース国(Agriculture Based Countries)」、中国・インドを含むアジア諸国と北アフリカ諸国を中心とする農業から他産業への「転換国(Transforming Countries)」、そしてブラジルなどの中南米諸国を中心とした大商業資本の導入が著しい「都市化国(Urbanized Countries)」の3つに分類し、それぞれに異なる課題に応じた支援策を提示している。

JICAの協力

JICAも、協力対象国・地域の発展段階や課題に応じた農業協力を展開している。具体的には、持続可能な農業生産への支援を土台としつつ、食料の自給・増産から食物の多様化を目指す支援へ、さらに輸出振興に向けた農産物や食品の付加価値向上・安全性確保のための支援へと協力アプローチが推移する。

人口の多くが農村部で農業活動に従事し、貧困層の割合が相対的に高い地域・国に対しては、人々が基礎的な生活を送るための食料の安定的な供給(食料安全保障)の観点から、主に穀物の自給・増産、貧困層農民の収入向上を目指し、多収量品種の開発・導入や灌漑(かんがい)施設の整備、地域の事情に応じた農業技術の普及などを通じて、農業生産性の向上や食物多様化への協力を多く実施している。

特にサハラ以南アフリカ諸国では、新たな耕作適地が減少する一方で消費人口が増大し続けているために、食料の自給が一層難しくなりつつある。このような状況に対して、JICAは近年、ウガンダやベナンを中心に「ネリカ(New Rice for Africa:NERICA)」と呼ばれるコメの普及を積極的に支援している(VOICES from Uganda(ウガンダ)参照)。ネリカは乾燥地域における陸稲栽培でも高収量が見込める新品種で、食料増産および輸入外貨節約に取り組んでいるアフリカ各国から、その普及が期待されている。

また、食料の自給がおおむね達成され、他産業の発展やシフトも見られる地域・国に対しては、農産物や農産物加工品の輸出をにらみ、農産物の検疫技術、農産物加工技術の支援、流通網の整備やマーケティングへの支援、輸出振興政策などにも取り組んでいる。特に日本との貿易額が高く、多くの農産物を日本に輸出しているアセアン諸国に対しては、日本の国内農業への影響にも配慮しつつ、経済連携協定(EPA)に基づく協力も開始されている。タイに対する技術協力「農業協同組合におけるコミュニティリーダー育成計画」および「農産物品質安全性向上研修」(PROJECT in Thailand(タイ)参照)もその一環である。

一方で、地域の特徴に応じた協力としては、中東や中央アジアなど乾燥地域における天水農業が中心の国々に対して、環境面に配慮した持続的で安定した農業生産を目指し、伝統的な農法と日本の灌漑技術を生かした節水農業や土壌保全、循環型農業技術の普及にも取り組んでいる。

農業協力の今後の課題

近年、生物資源(バイオマス)を原料とした「バイオ燃料」の開発・利用が活発化している。バイオ燃料の開発は埋蔵量が有限な化石燃料の代替燃料として、またカーボンニュートラル※であることから地球温暖化対策としても期待されている。他方、食用作物がバイオ燃料の原料として使用されることによる食料需給バランスの変化が懸念されており、すでに食料価格の高騰などの影響も出始めている。特に、食料を輸入する途上国の貧困地域で、食料価格の高騰は貧困や飢餓の拡大に直結することが危惧される。JICAは、地球環境問題および貧困削減の双方の視点を踏まえたバイオ燃料分野における協力の在り方を現在検討中である。

また、地球温暖化による途上国農業への影響緩和や、絶対量の不足が懸念される水資源の確保、グローバル化の進展にも対応できる途上国農民および政府の能力強化など、これまで以上に農業協力が果たすべき役割は大きい。JICAもこのような地球規模の課題に対して、国際機関や他ドナーとも連携しながら積極的に取り組むことが期待されている。

※ バイオ燃料の主要原料である植物は、大気中の二酸化炭素を光合成によって吸収・固定化する。従って、その燃焼によって排出される二酸化炭素は元来大気中に存在したものであり、総じて大気中の二酸化炭素量を増加させないとの考え方。