monthly Jica 2008年4月号

特集 元気なアフリカ Part1 平和の果実を人々の手に

貧困や紛争、HIV/エイズのまん延といったネガティブなイメージが強いアフリカに、明るい変化の兆しが見え始めている。各地で内戦や地域紛争が終息し、民主的な国づくりに取り組む国が増えつつある。地域全体の経済成長率は年平均5%以上を維持し、10%を超える国も見られる。依然として1日1ドル未満で生活する極度の貧困人口は4割を超え、紛争や民族対立が続いている国もあるものの、もともと雄大な自然や活力溢れる人々、豊富な天然資源に恵まれたアフリカは大きな可能性を秘めている。アフリカが抱える困難を克服し、希望ある未来を切り開いていくことは、21世紀の国際社会の安定と繁栄につながるだろう。そのためには、この明るい変化の兆しが大きな流れとなるよう、国際社会が協調して積極的に後押しし、アフリカを一層元気にしていくことが重要だ。

今年5月28〜30日、「元気なアフリカ」を目指して、「第4回アフリカ開発会議(TICADIV)」※が横浜市で開催される。TICADはアフリカの開発の在り方を包括的に議論する国際会議として1993年に日本のイニシアチブで始まり、以後5年ごとに日本で開催、今年で4回目を迎える。日本はTICADの枠組みのもとで、アフリカのオーナーシップ(自助努力)と国際社会のパートナーシップを重視し、アフリカの自立的で持続可能な発展を目指して「平和の定着」「人間中心の開発」「経済成長を通じた貧困削減」を支援してきた。第4回では、これまでの取り組みを深化させ、(1)成長の加速化、(2)「人間の安全保障」の確立、(3)環境・気候変動問題への対処を重点項目とし、アフリカの発展の兆しを後押しする機運を盛り上げていく。

TICADIV開催に合わせて、本誌は4月号・5月号で「元気なアフリカ」をテーマとする特集を企画し、4月号では紛争終結後に復興、開発へとまい進している国々を応援するJICAの活動を紹介する。

※「TICAD」は「Tokyo International Conference on African Development」の略。

VOICES from Rwanda(ルワンダ)
「学んだ技術を生かして国の発展に貢献したい」

【地図】ルワンダ「千の丘の国」と呼ばれるアフリカの小国ルワンダ。1994年、多数派民族フツ族によるツチ族の集団虐殺(ジェノサイド)が横行したとき、世界に見放されたこの国は、その後目覚ましい復興を遂げ、さらなる成長の可能性を発揮して世界の注目を集めている。目指すは科学技術立国。その人材を育てるため、科学技術教育に力を入れる。JICAもこのチャレンジを支えようと、「科学技術教育・訓練プログラム」を展開している。

科学技術を生かした地域開発

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新しいコンピューターで授業を受けるトゥンバ高等技術専門学校の学生。校舎は、1990年に日本の無償資金協力で建設されたトゥンバ技術学校のもの。技術学校は内戦の影響で93年に閉校した

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高地のため過ごしやすい気候のルワンダは「アフリカのスイス」とも呼ばれ、政府は観光産業にも力を入れる

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マラバのコーヒー生産者協同組合が運営するマラバ・ビジョン・テレセンター。マラバは情報通信技術を活用した地域開発のモデルとして注目されている

美しい緑の丘が幾重にも連なり、その斜面には手入れの届いた段々畑が広がる。そんな平穏な風景から、この地で20世紀最大の悲劇ともいわれるジェノサイドがあったことを想像するのは難しい。

近年「ホテル・ルワンダ」や「ルワンダの涙」などジェノサイドを描いた映画が公開されたこともあり、ルワンダというとジェノサイドのイメージを持つ人は少なくない。しかし、14年前に100日間で80〜100万人が殺害され、すべてが崩壊したこの国は今、目覚ましい復興を遂げ、開発・成長の道をまい進している。

首都キガリから南へ約150キロ、ルワンダ第2の都市ブタレ近郊にあるマラバ地区は、国内有数のコーヒー産地だ。平均標高1500メートルの高地からなるルワンダは、安定した気候、豊富な雨と肥沃(ひよく)な大地に恵まれ、労働人口の9割が農業に従事する農業国。主要農産物のコーヒーは最大の外貨獲得源である。中でも、マラバのコーヒー産業の急成長は国内外から注目されている。

たわわに実るコーヒー畑に囲まれた静かな農村の小さな建物からコンピューターを操る音が聞こえてくる。「8台のパソコンがインターネットに接続しています。利用客は1日30人ほど。ネットやEメールを使ったり、書類を作ったり。料金は15分100フラン(約20円)。コピーや電話、ファックスもできるし、文房具も販売しています」と店員が説明する。

この「マラバ・ビジョン・テレセンター」を経営するのは、コーヒー生産者の協同組合「アバフザムガンビ」。マネージャーのビジャレミイ・テオフィレさんによると、組合が発足したのは1999年。ジェノサイドの影響やコーヒー価格の低迷などで苦しい生活を強いられていた小規模コーヒー農家たちが、貧困と闘うために結束した。米国の援助で生産技術の向上や加工施設の整備を図り、高品質のコーヒーを生産・輸出できるようになって生活が改善したという。テレセンターは、農村にも情報通信技術を普及するという政府の政策のもと、2006年に設置され、組合員が生産に役立つ情報の収集や国内外のビジネスパートナーとの関係づくりに活用されている。

「テレセンターは地域の発展にも貢献している。人々は安く簡単に遠方にいる家族や親類と連絡できるようになったし、就職に役立つ情報通信技術の講習会も開いている」とビジャレミイさんは誇らしげに話す。マラバは、ルワンダが目指す科学技術を生かした地域開発のモデルとされている。

鉱物などの資源開発に世界の期待がかかるアフリカの中で、ルワンダは天然資源に乏しい一方、四国の1.5倍程度の面積に920万人が暮らし、人口密度の高さはアフリカ一だ。つまり「ひと」が資源といえる。政府は、国家開発計画「VISION2020」において知識集約型経済の実現を掲げ、人的資源開発、特に情報通信技術を含む科学技術分野の人材育成を通じて、貧困削減、経済成長を目指している。

しかし、内戦・ジェノサイドの影響もあり、知識集約型経済・社会の実現に不可欠な技術者の不足は深刻だ。政府は、基礎教育とともに科学技術教育を重視し、初中等レベルの理数科教育から技術職業教育・訓練、工学系高等教育まで、科学技術社会の基盤となる人材の育成に取り組んでいる。

そこでJICAも、技術職業教育・訓練強化、中等理数科教育強化を支援する「科学技術教育・訓練プログラム」を06年に開始。技術職業教育・訓練強化では主に、教育省への政策アドバイザーの派遣、大学・技術学校へのボランティア派遣、トゥンバ高等技術専門学校強化支援プロジェクトを行っている。また、中等理数科教育強化では、中等学校に理数科教師隊員を派遣しているほか、中等理数科教育強化プロジェクト(SMASSE(スマッセ))を2月に開始した。

ルワンダ初の高等技術専門学校

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初めて実習用機材を触る電子通信工学コースの学生たち。2月に多喜正城・奈良産業大学教授(中央奥)が派遣され、カリキュラムの改善や教員の研修計画づくりなどを行った

「トゥンバ高等技術専門学校の電子通信工学コースは、特に通信産業界の発展に貢献できる実践的な技術を備えた人材を輩出します…」

北部県ルリンド地区の見晴らしの良い丘の上にあるトゥンバ高等技術専門学校の一室では、電子通信工学コースのギラマタ・イボンヌ学科長が、技術支援委員会に対する発表の予行演習をしていた。

同校は、ルワンダの産業・社会のニーズに合った高等技術者を育成するため、07年8月に開校した。電子通信工学コース、情報工学コース、代替エネルギーコースがあり、学生数は各コース約50人。特に産業界が求める実践力のある技術者を育成すべく、各コースに民間企業や関連機関の代表で構成される技術支援委員会を設け、教育内容などに助言をもらっている。

一刻も早い技術者の輩出を望むあまり、開校はしたものの、運営体制の確立やカリキュラム・教材の開発、教職員の育成など課題もある。新入生への教育の質を確保しつつ、コースを円滑に進めながらこれらの課題に取り組むことが、JICAのプロジェクトの役割だ。

「8〜12月の1学期は座学中心でしたが、ようやく実習室に機材が入ったので、2学期(2〜4月)から実習を始められます」

西山隆一専門家に校内を案内してもらうと、学生たちが真新しいパソコンを使ってプログラミングの授業を受けていた。ほかの教室では届いたばかりのパソコンや実習用機材を職員が設置している。「できることを同時に進めている状態ですが、今は特に授業計画・評価などのシステム作りと教員研修に力を入れています」。研修は国内だけでなく、ネパールやインドネシアなどの大学とも協力してグローバルに行われている。

「プロジェクトの成否は、ルワンダ人のオーナーシップと産学連携のネットワークにかかっている」と岡野貴誠(たかせい)専門家は言う。「教員も20代の経験の浅い人材が多く、日本人に頼りがちでしたが、最近ようやく、自分たちがやるんだという意識が芽生えてきました。また、産業界が求める人材を輩出するためには企業との連携が不可欠。ここは首都から離れているので、キガリに置かれる分校をその拠点にしたい」。

22人の教員を率いるパスカル・ガタバジ校長は「JICAの技術協力は非常に重要だ。資金・機材だけでなく、同じ目線で共に活動してくれる専門家の存在が大きい。また、ネパールやインドネシアなど、成功の経験を活用するアプローチも有効だ。研修によって教員たちは日々成長している。また、学生たちのモチベーションも高い。彼らは国や社会から多大な期待を寄せられている。わが国の民間セクターはまだ脆弱(ぜいじゃく)だ。卒業生には就職先を探すよりも、自ら起業し雇用を生み出す存在になってほしい。彼らは民間セクターを拡大し、経済成長を牽引してくれると信じている」と力強く語った。

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トゥンバ高等技術専門学校で、学んだ技術を生かし、校内にラジオを放送している学生たち。周辺地域、さらには全国への放送を目指す。卒業後は「留学して知識を増やし、ルワンダの発展に貢献したい」と夢を語る

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キガリ分校が設置されるキチュキロ技術学校の跡地は、映画「ルワンダの涙」の舞台。産業界との連携の拠点となる分校では、企業を対象とした研修や、研究開発の成果の展示などを計画している

ものづくりの楽しさを

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キブンゴ技術学校で設計製図技術を教える巣山さん。授業はフランス語だが「言葉の壁が大きいので、できるだけ図を使って説明しています」

学歴社会のルワンダでは、高等技術専門学校や工学系大学への進学は、技術学校あるいは普通高校(理数科専攻)の卒業試験の成績に左右される。JICAは技術学校の教育の質を高めるため、青年海外協力隊を教員として派遣している。その一人、巣山裕記さんは、東部のキブンゴ技術学校の建築コースで設計製図を指導している。

「今日は縮尺の技術を使って図面を書く授業です」。授業の様子を見せてもらうと、生徒たちは紙でできた定規を使っている。「縮尺に使う定規が高くて生徒全員の分を買えないので、僕が紙で作りました」と巣山さん。こうした製図道具や設備がなく、実習が十分にできないため、生徒の設計技術は低いという。巣山さんは「ものづくりの基本であり、技術者に不可欠な設計製図の技術」が習得できるよう、学校に掛け合って基本的な道具を購入したり、壊れた製図台を修理するなどして、学習環境の改善を図っている。

また、学校や教員ごとに指導内容やレベルが異なるため、巣山さんは教員同士の連携を強化して、コースの問題点に取り組み、限られた設備・予算の中で教育の質の向上に努めている。しかし、「教員は給料が安いので、やる気も低く、やめてしまう人が多い」。巣山さんは「ルワンダは教育に力を入れている割に、教育者が尊重されていないように感じる。科学技術立国を目指すなら、教育環境と教育者の地位の向上が大事では」と訴える。

学校を卒業しても就職先がほとんどないという現状で、「僕ができることは限られていますが、何をするにしても生きていける力になるよう、道具の使い方やものづくりのプロセスを身に付けてほしい。あとは、ものづくりの楽しさを知り、学校生活が面白いと思ってもらえるようになれば満足です」と笑顔を見せた。

工夫する力を養う理数科教育

JICAの科学技術教育・訓練プログラムのもう一つの柱、「中等理数科教育強化」では、科学技術教育の基礎を担う中等学校に理数科教師隊員を派遣して、生徒の学力向上を図ると同時に、JICAが多数の国で支援の実績を有する中等理数科教育強化プロジェクト(SMASSE)を2月に開始した。これは、中等学校の理数科教員の研修制度を構築し、理数科教育の質の向上を目指すもの。専門家の高橋佳子さんによると、まず中心となるトレーナーを選んで研修カリキュラム作りや教材開発を行い、7月に中央研修を実施、中央研修を受けたトレーナーが各地の理数科教員に対する地方研修を11月に11カ所で行う計画だ。

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ファウェ女子中等学校で物理を教える松山さん。任期を終えて4月に帰国するが、後任の塚原正裕さんを含む3人の理数科教師隊員が活動しているほか、今後も増員される予定だ

中央研修の会場となるキガリのファウェ女子中等学校は、理数科教育に力を入れる進学校。ここでは理数科教師隊員の松山匡延(まさのぶ)さんが物理を教えている。

「先週は何の授業でしたか?」「光学です」「そうですね、どんなことを勉強しましたか?」

2月に新学期が始まったばかりで、生徒たちはまだ緊張した面持ちだ。この日の授業は鏡のメカニズム。松山さんが黒板に図を描きながら説明し、時折、質問をはさむ。答えをためらう生徒たちに「間違いを恐れなくていいよ」と促す。暗室で光線を見せたり、凹凸鏡を配って実際に像を見せたり、考える時間やノートに書き写す時間も取る。「教科書がないので、書き写したノートが彼女たちの教科書になる。常にアクティブな授業というわけにはいきません」と松山さん。きちんと理解できているかどうか気を配り、大切なポイントは何度も繰り返す。

ほかの教員は、物理は実験できないという認識が強く、口で説明し板書するだけの授業が多いという。しかし、松山さんが倉庫に眠っていた実験器具を整理し、実際に授業で使って見せたことで、彼から使い方を聞いて、実験を取り入れる教員も現れている。

「ただ説明するのと実験をやって見せるのとでは、生徒の興味の持ち方や理解力が全然違います。学校にケニアでSMASSEの研修を受けたケニア人教員がいるのですが、彼らの授業展開は参考になります。ルワンダ人教員も研修を受けて教授法が改善されれば、この国の未来は変わると思います」と松山さんはプロジェクトに期待を寄せる。

高橋さんも「隊員たちが学校現場で、SMASSEが目指す児童中心の授業を日常的に実践してくれることで、教員に大きな影響を与えられると思います」とプロジェクトと隊員活動による相乗効果を狙う。

教育省で技術職業教育・訓練政策・制度づくりを支援する武藤小枝里(さえり)専門家は「ものづくりには、どう工夫して質の高いものを作るかという姿勢が大切です。先は長いですが、理数科教育強化によって自分で考えて実践し改善するアプローチが根付き、技術職業教育・訓練によって質のいいものを提供する人材を送り出すことができれば、経済的のみならず、社会的・道徳的にルワンダは潤うでしょう」と強調する。

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ギタラマ技術学校の電子コースで電子回路の技術を教える青年海外協力隊の辻征史さん。停電が頻発し、部品が買えなくて実習できなかったり、電子産業が未発達で卒業しても就職先が限られるなど、課題が多い中、「電子回路に興味を持ってもらい、ものづくりの面白さを実感できるような授業をしたい」と張り切っている

驚くべきスピードで立ち上がり、国民和解を推進し、粉骨砕身の努力で復興を遂げたルワンダ。今や、高いオーナーシップと堅実な経済成長、グッド・ガバナンスを武器に、援助だけでなく貿易投資を世界に呼び掛ける。そしてあらゆるレベルで科学技術教育を強化して新しいルワンダをつくる人材を育て、2020年までに中進国になるという野心的な目標に向けて躍進を続けている。

しかし、不安の種は残る。100万人が暮らすキガリは、車が増え、数カ月前まで空き地だったところに瀟洒(しょうしゃ)な分譲住宅が立ち並ぶ一方、丘の斜面に粗末な家が密集し、多くの幼子が水くみに歩く。私立の技術学校には個人で製図道具を持つ生徒がいる一方、キブンゴのような公立技術学校には文房具すら買えない生徒がいる。この国でも貧富の格差が広がりつつある。さらに、「ジェノサイド・イデオロギー」というツチ族迫害・排除の考え方を支持するような不穏な動きも懸念されている。

武藤さんは言う。「貧困削減とは個々人が自分の生活が楽になっていると実感できることだと思います。ルワンダの人々はそれなしに平和でいられるという確信を持てないでしょう。貧困におびえながら生きることは、またねたみや争いを生むことになりかねません。個々人の満足か不満足かという気持ちが社会を動かします。生きるための力をつける科学技術教育は、貧しい家庭の子どもたちが貧困から這い上がる手段となります。そのための質のいい教育を提供できるかどうかがルワンダのチャレンジ。科学技術立国は、その積み重ねで成し得ることだと思います。しかし、それには時間がかかるし、息の長い支援が必要です。ルワンダの平和と成長のために、JICAが科学技術教育を支援する意味はあると思うし、子どもたちが自分の受ける教育に不満足のまま社会に出る状態を改善していくことは、私自身の仕事の課題だと思っています」。

「学んだ技術を生かして国の発展に貢献したい」と言うトゥンバの学生。 「宇宙飛行士になりたい」と言うファウェの女生徒。紛争はそんな夢も一瞬にして奪う。子どもたちの夢がかなう平和で希望ある科学技術立国の実現を信じたい。