monthly Jica 2008年4月号

特集 元気なアフリカ Part1 平和の果実を人々の手に

PROGRAM in Sierra Leone(シエラレオネ)
確かな平和と未来をカンビアに

【地図】シエラレオネ慢性的な貧困と11年にも及ぶ内戦により地域社会が疲弊した西アフリカ・シエラレオネ。内戦の後遺症は今なお残るも、終結から約5年がたち、活力ある地域づくりに意欲を見せる住民が増えている。彼らは今、JICAの「カンビア県地域開発支援プログラム」のもと、確かな平和を築く努力を重ねている。

ゼロからの再出発

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プロジェクトで新たに導入した脱穀機を使って作業する農家の女性。カンビア県の主な作物はコメのほか、キャッサバ、落花生、アブラヤシ、サツマイモなど

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稲作栽培を指導する山口淳一専門家(中央奥)。プロジェクトでは野菜栽培の技術改善を通して女性グループの収入向上も支援している

「モモ・モモ」

シエラレオネ北西部のカンビア県で、最近よく耳にする一言。現地の言葉ティムネ語で「ありがとう」の意。JICAの協力を好意的に受け止めた人たちが、笑顔でそう話し掛けてくる。

カンビア県は内戦の間、反政府勢力に占拠され、戦闘が繰り広げられた地だ。しかし、手足を切断するような残虐な行為がほんの5、6年前まで行われ、いつ殺されるか分からない恐怖におびえていたとは思えないほど、現在は平穏な時が流れる。「11年も内戦状態にあり、気性の荒い人たちだと思われがちですが、実は平和的で心の優しい人が多い」。内戦で破壊された給水施設の整備支援に携わるJICA専門家の松田和美さんはそう話す。

隣国リベリアから反政府勢力が侵攻、ダイアモンド鉱山を占領したことで長期的な内戦に発展し、1991〜2002年で死者7万5000人余り、200万人以上が難民・国内避難民となったシエラレオネ。カンビア県の人々の多くは国境を越えてギニアに逃れ、難民キャンプでの生活を余儀なくされた。内戦終結で帰還するも、町の様子は一変。残されていたのは荒れ果てた農地だけで、家、家畜、道路、給水施設、発電所、学校、病院のすべてが破壊された。

平和の回復に向けて、国際機関を中心に緊急復興支援が行われてきたが、内戦の後遺症はいまだ深く、インフラ整備など開発の兆しは見え始めたばかり。だが、苦境に耐え忍び、元の生活を取り戻すべくゼロからの再出発を経験した人々は、平和で活力ある地域づくりに貪欲(どんよく)だ。

そうした意欲ある人々とともにカンビア県の平和を確かなものにするため、05年にフィールドオフィスを開設したJICAは、「カンビア県地域開発支援プログラム」を実施している。内戦による深刻な被害のみならず、慢性的な栄養失調に苦しみ、地方部の中で人間開発指数※1が最も低い同県に対し、農業、教育、保健衛生、安全な水の供給など、分野横断的に組み合わせた協力を行い、地域の基礎的な生活環境の改善を目指している。また、日本が議長を務める国連の平和構築委員会※2もシエラレオネを重視し、平和構築に向けた協力の枠組みを策定して平和構築基金を通じた司法や治安の改善、若者の雇用促進、選挙支援などに貢献している。

※1 成人識字率、総就学率、一人当たり国内総生産(GDP)、平均寿命から、その国の人々の生活の質や発展度合いを示す指標。

※2 安全保障理事会および総会の諮問機関として、紛争状態の解決から復旧、復興、国づくりに至る一貫したアプローチに基づき、紛争後の平和構築のための統合戦略を助言する委員会。2005年12月設立、06年6月に活動を開始。

日常的な飢えと闘う人々

とにかくカンビア県の食料事情は深刻を極めている。3万7000戸のうち農家が95%であり、コメの作付面積が農地面積の半分を占める同県は、80年代まで国の経済を支えるコメの一大生産地だった。しかし内戦で備蓄庫や精米所など農業関連施設が破壊され、長期間手入れできなかった農地は荒廃。一般的な食事は、主食のコメと、アブラヤシや落花生の油に唐辛子を加えたスープで、肉や魚などのタンパク質にはめったにあり付けない。いまや“飢え”は日常的であり、農繁期にはコメが底を突き、1日1食という日も少なくない。そこで06年2月に開始したJICAの「カンビア県農業強化支援プロジェクト」では、人々が満足に食事を取れるよう、同県の4つの農業生態系に即した稲作技術を開発・普及し、コメの増産を目指している。

「苗代の改善や植え付け本数を減らしたことで、種籾(たねもみ)の量が以前より少なくて済むようになりました。これは彼らの生計向上に大いに役立つはずです」とJICA専門家の君島崇さんは笑顔で言う。プロジェクト実施前は、食べるコメの確保のために農民たちは来期の植え付けに必要な種籾も食べてしまい、種籾は高利を覚悟で借金し、購入していたという。プロジェクトで種籾を減らしても収量を維持できる技術を知り、農民たちも大喜び。普及の拡大が期待される。

一方、収量を向上させるために行った施肥(せひ)試験では、施肥による増収は確認されたものの、増えた分のコメをお金に換算したところ肥料代に見合わなかった。「これでは持続的な農業にならない」と君島さん。現在は、肥料の種類や与える時期などを再度見直し、収益性を高めるための努力を重ねている。

「共に考え、共に働く」をモットーに農業省カンビア県事務所のスタッフと農民たちの自助努力を促し、いかに少ない資金・モノで人々が収益を実感できるかがプロジェクトのテーマとなっているが、開始から2年目、これが実を結んだうれしい出来事があった。新しい技術を取り入れたことで目に見える効果を実感した農民から「今期プロジェクトからもらった種籾や肥料を、来期は自分たちで購入するから技術だけを教えてほしい」と言われたこと。日本人専門家による地に足が着いた活動のたまものだ。

学ぶ楽しみと生きる喜びを

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青空教室を訪問し、子どもたちに笑顔で話し掛ける田中さん(右上)。児童兵だった子どもの多くは今中高生の年齢になっており、小学生は元気で明るいが、中学生には暗い雰囲気を持つ子もいる

もともと教育熱心なシエラレオネの人々。戦前、公立の学校がない農村部では自分たちでコミュニティー学校を開いていた。その数は全小学校のおよそ半数に上るが、校舎のない青空教室で、教員は資格のない地元の若いボランティア。公立学校の教員たちでさえ、安い給料と支払いの遅延などでモチベーションが低く、教育の質が低下している。教科書も一校一冊という場合がほとんどだ。

そして内戦中、子どもたちは十分な教育を受けられなかった。その上、5歳以上の多くの子どもが児童兵として従軍し、その数は一時反政府軍の半数に及んだともいわれる。戦うことへの恐怖感を喪失するために児童兵は麻薬を投与され、少女の多くはレイプ被害に遭った。

そんな深い心の傷を負った子どもたちは、「他人が信用できない」「怖い」「自分は独りぼっち」という感情をいまだ抱えているのが現状だ。そこでシエラレオネ政府は、元児童兵をほかの子どもたちと一緒に授業を受けさせることで、心の傷を癒やし、生き生きとした元の生活を早く取り戻してもらおうと努めている。

「私たちは許し合ったのだ。誰が元兵士か知っているが、彼らにだけ焦点を当てることは過去の記憶を呼び覚ますことになる」——そうしたシエラレオネ側の意向を受け、JICAは、元児童兵だけではなく、すべての子どもたちに学ぶ楽しみと生きる喜びを伝えるべく、05年10月に「カンビア県子供・青年支援調査」を開始した。

33校を対象とするこの調査で特に成果が表れているのは、マイクロプロジェクト活動。地域住民の間で組織された「学校・コミュニティー開発委員会(ECDC)」が中心となって、学校とコミュニティー双方の環境改善に必要な活動を提案し、その活動に対しJICAが50〜100万円程度を供与するものだ。これまでに行われた活動は、校舎の建設・改修や校庭の整備から、せっけん作りや製材など収入創出活動、道路舗装まで実にさまざま。提案書を審査・承認し、活動をモニタリングするゾーン調整委員会も設立され、同開発委員会の各代表や教育省の県職員が研修を受けている。

「きっかけさえ与えられれば、地域住民は自分たちでどんどん開発を進めていく」と総括を務める田中清文さんは感じている。その言葉通り、教室3部屋に教員室・倉庫付きの立派な校舎が建設されたロクプール市では、約30万円を自力で集め、単純労働には住民がボランティアで参加した。内戦前後にたくさんの緊急支援が行われ、援助慣れしてしまった人々に、自立して村や学校の復興に取り組むことの大切さを伝えようと、「住民が自分自身で考え(Plan)、実施し(Do)、経験から学ぶ(See)」ことを強調してきた成果といえる。

汚名を返上するために

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緩速ろ過池の建設工事現場。コンクリート打設が深夜までかかったとき、作業員が「心配するな。何時になっても終わるまでやるさ」と言ってくれた。「とても責任感のある人たち」と松田専門家

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水道料金の徴収や制度などは住民の意見を聞きながら行っている。「水はただではない」ことを理解してもらう

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今年1月にロクプールを視察に訪れた大島賢三JICA副理事長(右から4人目)。あふれんばかりの住民が歓迎会場に詰め掛け、JICAの協力に感謝してくれたそうだ

シエラレオネは降水量が多く、カンビア県では年間3000ミリもの雨が降る。一見水が豊富にあるようだが、1年を通じて安全な水を得ることが難しいのが実情だ。80年代に地方に整備された給水施設は運転技術・資金の不足でまもなく閉鎖され、さらに内戦で破壊された。そのため現在地方の人々は井戸水を利用しているが、乾期の終わりごろには渇水し、水質も良いとは言い難い。

井戸水が枯れてしまうと住民は3〜4時間かけて沼などにたまった水をくみに行くが、やはり水質が悪く、ロクプールではこの1年でコレラ、赤痢、チフスなどの疾病に67%の人が罹患した。また、沿岸地域では乾期に井戸水が塩化するため、長期にわたって沼の水を利用しなければならず、水系疾病の発生率が著しく高い。

「『世界で最も寿命の短い国』の汚名を返上するためにも、給水施設の整備は重要です」と話す松田専門家は、「カンビア県給水体制整備プロジェクト」を指揮する。このプロジェクトは、かつて日本の無償資金協力で建設され、内戦で破壊されてしまったロクプールの給水施設を修復し、緩速ろ過池を建設するとともに、施設の運営・維持管理組織の設立と水道料金制度の開発を行うもの。06年6月に施設の改修が始まり、現在は組織の持続性確保、運転管理費の安い浄水システムの導入、料金徴収の人件費縮減、公平な料金制度の確立などに取り組んでいる。

中でも難しいと感じているのが水道料金額の設定。戦前に無料で給水を行っていたために、住民の間にはいまだ「水はただ」という意識が残る。「住民説明会を開催し、彼らの意見を聞きながら進めていますが、出席者のほとんどが携帯電話を持っていて月1〜2万レオネ(400〜800円)の通話料金を支払っています。しかしそんな人たちでも、『24時間給水・1家族1カ月200レオネ(8円)』と主張してきます。過去の認識を改めなければなりません」(松田さん)。

「汚名返上」のため、さらに求められるのが保健衛生環境の改善。同国の乳幼児死亡率、5歳未満児死亡率、妊産婦死亡率は世界最低水準で、医師の数は10万人に1人という少なさだ。JICAは08年5月に「地域保健改善プロジェクト」を開始し、行政官の能力向上を通じて、コミュニティーのニーズに即した保健サービスを提供できる体制を整備する予定。プロジェクト形成に携わるJICAの久下(くげ)勝也企画調査員は「多くの開発指標が最低ライン上にあるシエラレオネにおいては、人間の安全保障の観点からも開発による効果の住民への波及を最優先に考えるべきです。基礎保健サービス活動の持続性を保つためにも、シエラレオネ政府とドナーで予算を確実に確保していくことが重要」と話している。

マラリアやコレラなどがまん延する劣悪な環境の中でも専門家たちは、カンビアの人々に活動が理解され「ありがとう」という言葉を聞けば、苦労は吹っ飛び、やる気がじわじわとわいてくるという。健康で安心して暮らせる平和な明日を築こうと頑張る住民の姿に今後も注目したい。