monthly Jica 2008年4月号

特集 元気なアフリカ Part1 平和の果実を人々の手に

TRAINING in Japan(日本)
ヒロシマで学ぶ平和構築

【地図】広島県被爆による徹底的な破壊を経験しながらも、行政や人々の努力により「平和都市」として再生した広島。その復興プロセスや地域開発事例を学ぶため、紛争を経験したアフリカ諸国から、地方行政に携わる研修員がやって来た。彼らが見た広島の経験、人々の平和への取り組みとは?

広島の経験をもとに平和を考える

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東広島市保健センターで、家庭用応急手当ての安心ガイドブックや母子健康手帳について説明する桧山さん。センターには、毎月70〜90組の母子が育児相談に訪れる

原子爆弾投下により、長崎とともに、人類普遍の願望である恒久平和を象徴する地となっている「ヒロシマ」。ここで、1月23日〜2月15日、サハラ以南アフリカの紛争経験国を対象とする地域別研修「平和構築としてのガバナンス能力強化」が行われ、リベリア、ルワンダ、シエラレオネ、ウガンダから、紛争後の復興や開発に携わる地方行政官ら12人の研修員が参加した。広島の戦後復興プロセスや地域開発事例などを通し、自国の地方行政の現状と課題を整理し、効果的な復興・開発計画を策定、遂行するための能力向上が目的だ。

「『平和の象徴』といった視点で語られがちな広島だが、実際ここにたどり着くまでは、戦争被害の苦痛と混乱の中で、行政も市民も多くの失敗や試行錯誤を繰り返してきた」と言うのは、コースリーダーの篠田英朗・広島大学平和科学研究センター准教授。

「広島の事例を見て、先進国の経験なのだからこれが良い、ということを学んでもらうのではない。人々が自らの生活と安全を守るために工夫して築き上げてきた経験そのものが平和構築ともいえる。研修員には、平和構築にはどんな姿勢や信念が必要かを考え、地方行政従事者として持つべき平和構築への『感覚』を養ってほしい」

地域の平和と安全を守る住民の取り組み

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安佐南区約45,000世帯のうち、12,000世帯がサポート会員になっている緑井駅前サロン。住民参加による活動と考え方に賛同し、運営の一部を支える善意の募金を申し出た研修員も

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安佐南区のセブンイレブン広島緑井店では、店舗が「セーフティステーション」としての機能を果たす。企業の地域社会貢献活動の一環として、警察と連携した女性や子どもの駆け込みへの対応や、PTAとの協力による少年少女非行化の防止運動などを実施している。店長の笹岡繁さん(中央)は、住民グループの「あんぜんな町づくり部会」会長も務める

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広島平和記念公園を訪れた、シエラレオネ・カンビア県の主任行政官、ハルン・アルラシード・バさん。「夢は2025年までに国の恒久平和を実現すること」と語る

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園児への防犯教育は、アニメやマスコットキャラクターを用いた親しみやすいもので、研修員たちも思わず顔をほころばせていた。この日は「誘拐」がテーマで、マスコットキャラクターにふんして協力するのは、地域の警察官

広島都市圏のベッドタウンとして、市内最大の人口を抱える安佐南区(あさみなみく)。人口や商業施設の拡大に伴う軽犯罪の増加に悩んでいたこの地区では、2003年に県による「『減らそう犯罪』住民・行政・警察協働モデル事業」の実施地区に指定されたのをきっかけに、地域のさまざまなアクターが一体となり、日々の生活の安全を住民が主体的に守る活動が行われている。「安全・安心なまちづくり」をテーマとした地域開発事例を学ぶため研修員たちが向かったのは、同区中心部の緑井駅前にある人々の安全基地「緑井駅前サロン」だ。施設は広島市が無償提供し、住民ボランティアたちが協力して運営している。学区の児童の下校時同行サービスを全国に先駆けて実施しているほか、高齢者や障害者が利用できる電動スクーターや車いすの無料貸し出し、不審者情報の発信など、安全のための基地として幅広く機能している。

特徴の一つは、活動の担い手の多くが地域の高齢者たちであること。長年住み続けてきた地域への愛情に支えられた活動は、彼らの老後の生きがいにもなっている。現在、同区の犯罪件数は、ピークを迎えた5年前の半分以下にまで減ったという。

ウガンダのステファン・オロヤさんは、「わが国の地方行政では、緊急を要する課題が山積みなのが現実だ。人々がすべてを行政に頼るのではなく、安佐南区のようにコミュニティーに対する社会的な責任を住民が自覚し、積極的に地域づくりに参加できるような仕組みを構築できれば、行政のフットワークもより軽くなるはず」と感想を述べていた。

続けて訪れた保育園では、ちょうど園児向けの防犯教育が行われていた。担い手は、地域の青少年健全育成連絡協議会の主婦を中心としたボランティアスタッフたちだ。誘拐事件を取り上げ、「知らない人に道で声を掛けられたらどうしますか?」と危険への対処法を分かりやすく指導している。

研修員が「活動を続けるモチベーションはどこから来るのか」と尋ねると、「わが子だけでなく、地域の子ども全員を地域の皆で守るという強い信念です」との答え。研修員からは「国の未来を担う人材を育てる意味で、地域が協力して子どもたちを守るのは大事なこと」と感心する声が多く上がった。

翌日は、地域の保健医療の取り組みを学ぶため、東広島市の保健センターを訪問し、乳幼児の3カ月検診や予防接種の様子を見学した。母子の健康を守る行政や保健センターの役割を説明した桧山和子・母子保健係長は、「共働きや核家族化が進み、子育てに不安を抱える母親も多い中、彼女らをサポートし、育児放棄や児童虐待を防ぐための体制づくりに取り組んでいる」と話す。4人の子どもの母親でもあるルワンダのマリーローズ・ニレラさんは、「子どもが健康に育ち、母親が安心して子育てができる環境は、一つの平和を象徴するもの。地方のイニシアチブで一刻も早く母子保健体制を整えるため、何ができるか考えたい」と意欲を見せた。

帰国前の最終報告会では、研修を振り返って多くの意見や今後の意気込みが飛び出した。「子どもたちに平和の大切さを伝える平和教育を広めたい」(ウガンダのデビッド・イルンバさん)。「市民社会、警察、メディアなどの間で、平和の大切さへの認識を共有し、コミュニティーの生活環境を守る取り組みを始めたい」(シエラレオネのジョニー・ミアッタさん)。「平和構築への理解を人々に広める啓発番組をラジオで始めたい」(シエラレオネのファトマ・シモンさん)。

篠田さんは「平和構築には、常に新しい社会領域を作り出していくという要素がある。復興は長い道のりだが、地方行政官としての創造性と忍耐力を発揮して5〜10年後のビジョンを忘れずに、国の将来を背負っていってほしい」と、恒久的平和がいつの日か訪れると信じ、広島からエールを送っている。

元青年海外協力隊員のリベリアの教え子が研修に参加

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来日を喜ぶコリーさん(左)とサンプソンさん

今回の研修に特別な思いを抱いていた研修員がいる。リベリアのフィリップ・コリーさんとジョシー・サンプソンさんだ。2人には、JICAが内戦前の同国に派遣していた青年海外協力隊員から指導を受けた経験がある。

ロファ郡の州都・ボインジャマで高校時代を過ごしたコリーさんは、1983〜85年に、現地の多目的技術高校で稲作教育などを行っていた田中豊三さんから、稲作や農業に関する講義や実習、多くの農産物の栽培法などを学んだ。20数年が経過した現在、外務省国際協力局で上級担当官を務める彼は、当時のことを今でも鮮明に覚えているという。

「トヨゾーのおかげで、多くの学生が貴重な農業技術を学ぶことができました。国はその後つらい内戦を経験したが、今は徐々に復興に向かっています。当時は誰かに教わらなければならなかったことが、現在多くの人々の間で実践されています。トヨゾーのような日本のボランティアがその土台を築いてくれたことに感謝しています。日本はわれわれにとって特別な国。リベリアが変わりつつある様子を彼らにもぜひ見てもらいたい」

そんな「トヨゾー」こと田中さんは現在、農業生産技術の開発・普及支援を行うJICA専門家としてブータンで活躍中だ。今回、コリーさん来日の知らせを聞き、メッセージを寄せた。

「当時は、未熟ながらもただただ夢中で彼らを指導していました。そんな私から日本を知り、何かを感じ取った学生の中から国の要職に就く人材が育っている。感無量です。コリーさん、今後のリベリアの行方を決めるのはあなたたちです。インフラや知識・技術は代々引き継がれることで国を豊かにします。そのためには地域の平和と安定が何よりも大切です。国の将来のため、誇りを持ってその責任を果たしてください」

一方、現在は内務省管轄の地方州で監督官(日本の知事に相当)を務めるサンプソンさんは、グランゲデ郡の高校で協力隊員たちから電気技術の指導を受けた。「技術指導はとても有益でした。リベリアの若者にとって、彼らは日本からの素晴らしい伝道師のような存在だったと思います。戦争の荒廃から立ち直った日本の経験は、紛争後の復興を目指す私たちには最高の教材です。広島で学んだことを地方行政の場で生かしていきたい」と意気込みを語った。