monthly Jica 2008年4月号

特集 元気なアフリカ Part1 平和の果実を人々の手に

JICA's Approach
紛争からの復興と平和の定着を目指す

アフリカの貧困削減のためには、紛争を経験した国々の復興と平和の定着が欠かせない。JICAは国の安定を築くため、人々に平和の配当が迅速に行き届く平和構築支援を実施している。

紛争経験と民主化への動き

石油や鉱物資源価格の高騰や貿易投資の促進を契機に、サハラ以南アフリカ全体で5%以上の経済成長率を記録しているアフリカ。しかし、国連開発計画委員会が定める後発開発途上国49カ国のうち、サハラ以南アフリカに33もの国が集中し、ミレニアム開発目標(MDGs)に向けた進捗もほかの地域と比べ著しく滞り、このままでは達成が困難になりつつある現状からも分かるように、この大陸が世界の最重要課題地域であることに変わりはない。

その大きな要因の一つが、民族問題や資源の獲得競争、政府と反政府勢力との対立激化などを背景に繰り広げられる紛争問題だ。人々の生活や社会基盤を破壊し、貧困の連鎖の源ともなる紛争は、1980年以降のサハラ以南アフリカにおいて、32カ国で126の事例を記録した※。国連平和維持活動(PKO)の介入で各地の大規模な紛争が終結し始めたのは2002年以降のこと。その後、各国で民主的な政権交代が行われ、ブルンジ、リベリア、コンゴ民主共和国でも内戦後初の大統領選挙が行われるなど、徐々に平和と民主化への動きが見られる。

一方で、PKO介入後もいまだ混迷が続くダルフール紛争を抱えるスーダン、内戦で国土が分断され無政府状態が続き、依然国家として統一されていないソマリア、07年12月の大統領選後に暴動が発生したケニアなど、引き続き憂慮すべき問題も残る。アフリカ連合(AU)やアフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)の取り組みといったアフリカ自身による平和や紛争予防への努力と、国際社会の協調援助による地域の和平の進展が期待される。

03年の第3回アフリカ開発会議(TICAD=2)以降、「人間中心の開発」「経済成長を通じた貧困削減」「平和の定着」を対アフリカ支援の3本柱に位置付けてきた日本。二国間または国際機関を通じて武装・動員解除や元戦闘員の社会復帰(DDR)、難民支援を実施するなど、紛争地域の和平の推進や切れ目のない復興のため包括的に取り組んでいる。

06年2月には「TICAD平和の定着会議」を開催し、成果としてスーダン、リベリアなどに、国際機関を通じて約6000万ドル(約64億円)を支援。また、平和構築支援の国際的な連携・調整を促進する国連平和構築委員会では、07年6月から議長国(任期1年)を務め、日本の平和構築の経験を踏まえ、国際社会の平和と安全に主体的に取り組んでいる。さらに08年1月、アフリカ諸国の人道危機・平和構築対策として約300億円の資金協力実施を表明した。

※“The Conflict-Development Nexus : A Survey of Armed Conflicts in Sub-Saharan Africa 1980-2005”Sakiko Fukuda-Parr, Maximillian Ashwill, Elizabeth Chiappa, Carol Messineo

JICAの取り組み

JICAのアフリカ支援において、紛争終結後の平和を後退させずに、持続的成長の促進と貧困削減を達成するための基本的理念として掲げられているのが「人間の安全保障」。貧困や飢餓、教育、保健医療サービスの不足などの「欠乏」からの自由、また、紛争やテロ、犯罪、人権侵害、環境破壊などの「恐怖」からの自由のために総合的な取り組みを進めている。

その中で、教育や保健医療、農村開発などと並んで重視されているのが、「平和構築」だ。紛争につながる構造的要因を抱える国々や、一部地域で散発的な紛争が起きている国、紛争が終結した国などにおいて、破壊された社会や経済、人々の生活を再生し、長期にわたる安定した国の発展に取り組むための制度の構築、人々の能力の向上に努めている。現在、アフリカ全体の平和と安定の要となる、スーダンやコンゴ民主共和国、国連平和構築委員会のパイロット国であるブルンジ、シエラレオネをはじめとするサブサハラ以南の紛争終結国に対して、治安回復や社会基盤整備、ガバナンスなどの分野での案件を実施している。

JICAが平和構築支援において留意している視点には、(1)迅速かつ継ぎ目のない支援の実施、(2)社会的弱者への支援、(3)政府に対する支援とコミュニティー・人々に対する支援、(4)周辺国・地域への支援、(5)紛争予防・再発防止への配慮がある。

これらを支援する体制として、緊急性の高い事業を迅速に計画・実施するため、プロジェクト形成や事前評価、実施などの一連のプロセスを簡略化する「ファスト・トラック制度」を05年7月に導入。アフリカでは、06年1月〜07年8月に行われたスーダン南部の「ジュバ市内・近郊地域緊急生活基盤整備計画調査」や、07年9月にスタートしたコンゴ民主共和国の「キンシャサ特別州都市復興計画調査」などに適用されている。これらの緊急開発調査では、人々が平和の訪れを実感できるよう、河川港や道路の復旧などの目に見える復興支援を、調査段階において組み込んでいるのが特徴だ。

また07年1月には、平和構築支援や災害復興支援時に、現地で必要機材や物資の調達、無線ネットワークの構築などを行うための後方支援機能を、総務部の在外・安全対策グループ内に新しく位置付け、現地で迅速に活動を開始できるようバックアップしている。

05年1月には、紛争が終結したシエラレオネにアフリカでは初となるフィールドオフィスを設置し、カンビア県を中心とした総合的な地域復興支援の拠点となっているほか、07年11月にはそれまで内戦激化に伴い停止していたリベリアとの二国間協力が再開され、企画調査員も派遣された。また、スーダンでも07年7月に首都ハルツームに駐在員事務所を開設するなど、一日も早い復興に向けた支援体制を構築中だ。

一方日本国内では、05年、スーダンの行政官を対象に、復興開発と平和構築の基礎的な考え方を学ぶ研修「国際協力セミナー」を実施したほか、シエラレオネからの行政官が参加した「平和復興のための国際協力セミナー」では、被爆地としての戦後復興の経験を持つ広島の経験を学び、同国の社会経済開発への活用方法について考えた。08年3月にはコンゴ民主共和国政府高官を対象とした「国際協力セミナー」が実施され、復興・開発に関する研修に加え、日本からの投資を呼び込むための民間とのセッションも行われた。

アフリカ平和構築分野の主な案件 (2008年3月現在)

【図表】

英国ウィルトン・パークで国際会合を開催「アフリカにおける紛争予防と開発協力」

JICAは2007年11月8〜10日、ロンドン南西部のウィルトン・パークで「アフリカにおける紛争予防と開発協力」をテーマとする会合を国連開発計画(UNDP)と開催した。アフリカの紛争の構造的要因を理解するための視点や、開発協力における対応などを議論するのが目的。研究主査として、米国ニュースクール大学教授で、UNDPの「人間開発報告書」編集主幹を長年務めてきた、サキコ・フクダ・パー教授と、英国キングス・カレッジ・ロンドンのロバート・ピチオット教授を招いたほか、各国の研究者、ドナー、国際機関関係者、アフリカ諸国の政府関係者など約70人が集結。JICAからは、緒方貞子理事長、黒木雅文理事、国際協力専門員らが出席した。

緒方理事長は初日に基調講演を行い、紛争予防における「人間の安全保障」の視点の重要性を強調したほか、開発援助者の責任として、開発途上国の社会政治状況の変化に迅速に対処する必要性についても触れた。

その後のセッションでは、「紛争予防のための国際的な枠組み」「政治体制・国際社会の対応」「ガバナンス」「マクロ経済マネジメント」など、紛争予防をめぐるさまざまなテーマで活発な意見が交わされた。またケーススタディーとして、ルワンダ、ブルンジ、シエラレオネ、コンゴ民主共和国などの紛争の構造的要因や、援助国・機関の取り組みを振り返った。

JICA国際協力総合研修所は、フクダ・ピチオット両教授とともに今回の会合の成果をまとめ、紛争予防と国際協力の議論を国内外に喚起していく考えだ。また、将来的な援助の方向性を探るため、主要な紛争経験国の事例研究をさらに進めていく。