monthly Jica 2008年5月号

特集 元気なアフリカ Part2 新たな成長へのチャレンジ

PROJECT in Zambia(ザンビア)
マレーシアとの南南協力で成長を目指すザンビア

【地図】ザンビアかつては産業に乏しく、国全体が貧困に苦しみながらも、海外投資をもとに工業化に成功し、目覚ましい発展を遂げたマレーシア。その経験が今、貿易・投資の促進を通じた経済成長を目指すザンビアで生かされている。

発展を支えたマレーシア人が専門家に

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2008年1月、ザンビアに投資調査に訪れたインド企業がムワナワサ大統領を表敬訪問した。インド系マレーシア人のジェガテッサンさんのインドでの人脈も大いに役立っている

グローバル化が加速し、アフリカ経済を取り巻く環境も大きく変化している。市場経済の整備や中小企業育成といった民間セクターの強化と並び、産業振興などでそれぞれの特色を生かした貿易・投資機会の創出がアフリカ各国共通の課題となっている。

そんな中、アジアの経験を生かしてアフリカの経済成長を促すJICAの支援が注目されている。その一つが、マレーシアと協力してザンビアで行っている投資環境の整備支援だ。投資環境の改善が新たな投資につながり、雇用と富を生み、貧困削減に寄与することが期待されている。2003年の第3回アフリカ開発会議(TICADIII)で提唱された「アジア・アフリカ協力」「経済成長を通じた貧困削減」の取り組みとして発案された。

1957年の独立後、天然ゴムなどの一次産品輸出に依存していたマレーシアでは、国内市場の拡大と雇用確保、経済成長を実現するため、60年代後半から、工業化と労働集約型輸出産業の育成、自由貿易地域設立による外資の誘致などに取り掛かる。その結果、以前は工業製品の輸出が一つもなかった国が、80年には世界最大の半導体輸出国となるまでに成長した。

そんなマレーシアの経験をアフリカの経済成長支援に生かすため、JICAは、かつてマハティール政権で産業分野の成長を支え、貿易・投資促進分野の専門家として国際機関での経験も豊富な、元マレーシア工業開発庁副長官のジェガテッサンさんに協力を依頼する。彼は、一線を退いた後もコンサルティング会社を経営する傍ら、JICA在外専門調査員としてたびたび事業にかかわっていた。

新政策を大統領に提案

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ムワナワサ大統領(左)に政策を提案するジェガテッサンさん。「経済成長政策を進め、ザンビアを変えていきたいという大統領や閣僚たちの強い思いが伝わってきた」

一方、植民地時代に開発された銅の生産に経済を依存するザンビア。産業構造の転換・多様化、経済発展を通じた貧困削減のためには、潜在的な競争力を持つ農業や観光業などの育成とともに、これらの産業を活性化する国内外からの投資促進が求められている。同様の境遇の中で、国内外の投資を原動力に発展したアジア諸国の事例に注目していたザンビア政府は、マレーシアの経験を生かしたJICAの支援に強く興味を示した。

04年、ジェガテッサンさんはJICAの調査員として、ザンビアにおける経済成長・投資環境整備支援に関する調査を実施。その内容を踏まえ、05年6月、経済成長や貿易・投資促進を原動力としたマレーシアの発展経験を活用した政策をムワナワサ大統領などに提案した。それを受け、ザンビア側も政策協力を正式に要請し、彼の政策原案である通称「トライアングル・オブ・ホープ(ToH)」と呼ばれる投資環境整備策が国家政策として進められることになった。ToHは、(1)政府の意志、(2)効率的な行政、(3)活発な民間参加という、政治家・行政官・民間企業の3者の意思統一と相互連携を基本的な投資促進条件に挙げている(図参照)。

ザンビア政府はまず、(1)「政府の意志」を具現化する体制として、大統領経済特別補佐官、通商産業省事務次官、JICAザンビア事務所長などから構成され、この取り組みに関係する重要課題の議論、決定を行う運営委員会を設置。モニタリング機能として、進捗(しんちょく)状況を定期的に大統領に報告している。

そして(2)「効率的な行政」の実現のため、国の重要課題12分野※1にかかる12のタスクフォース(官民代表5人で構成)を形成し、それぞれが法制度改善案を策定。そのうち8つの改善案が内閣承認を得て、関係省庁により実施に移されている。

(3)「活発な民間参加」については、前述のタスクフォースへの民間の参加に加え、民間企業を含む投資促進調査団がマレーシア・インドを訪問し、官民両者に対する投資促進セミナーを実施。その後両国からの投資ミッションをザンビアに受け入れ具体的な商談を行った。その結果、携帯電話機組み立て、製薬、ITの3分野でマレーシア企業との合弁事業が形成され、インド企業とも、医療センターや医科大学の設立が合意済みだ。

※1 農業、綿花、航空貨物の拠点、教育、保健医療、情報通信技術、複合的経済特区、中小企業振興、金融、行政手続効率化、鉱業、観光からなる12分野。

【図表】ザンビア投資環境整備政策

双方に利益をもたらす南南協力

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JICAの支援により、2006年11月にクアラルンプールで「ザンビア投資促進セミナー」が行われ、熱心な投資家らが調査団の説明に耳を傾けた。セミナー後には個別商談の場も設けられた

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マレーシア北部・ケダ州のクリム・ハイテクパークを視察した調査団。マレーシア初のハイテク工業団地で、設立時の1990年には、JICAが開発マスタープラン策定を支援。その後約10年を経て電子工学関連の製造業が集中する東南アジア有数の工業団地に成長した

これらの取り組みを総合的に支援しているのが、06年7月に始まったJICAの「南南協力を通じた投資促進環境整備プロジェクト」だ。JICA専門家のジェガテッサンさんの活動を中心に、彼の技術指導を受けるザンビア開発庁※2職員とともに、投資促進調査団のマレーシア・インド訪問と投資促進セミナーの開催、12のタスクフォース行動計画の効率的な実施を目指すモニタリング支援などを行ってきた。

さらにJICAは、ToHの1分野である複合的経済特区を首都ルサカに建設するため、開発調査「ルサカ複合的経済特区マスタープラン調査」を08年2月に開始した。ユニークなのは、JICAが過去に設立を支援したマレーシアのクリム・ハイテクパーク※3を運営するクリム・テクノロジーパーク社と共同で調査を実施すること。ザンビアの有望産業や投資需要を調査し、経済特区の開発計画を策定する予定だ。また主要産業の鉱業分野では、ToHに基づく「鉱業分野投資促進のための地質・鉱物資源情報整備計画調査」を07年2月より実施している。

しかしこうした新たな動きが展開する中、ザンビア側の担当省庁大臣の交代、投資を統括する機関の大幅な体制変更など、予期せぬ事態が次々と起こり、進捗に遅れが生じていた。それでも、遅れが最小限で済んだのは、大統領をはじめ主要閣僚たちの改革への意欲と精力的な取り組みがあったからだ。ジェガテッサンさんも「この壮大な試みが3年前に始まったばかりであることを考えると、ここまでの進展には目を見張るものがある」と語る。

30年以上、貿易・投資環境整備や海外直接投資の誘致にかかわってきた彼は、今回のJICAの支援について、「途上国での数々の経済改革支援事例の中でも極めて実用的で、また誠実に進められている」と評価する。

「ほかのドナーでは専門家が報告書を作成して相手国政府に提出し、提案事項のその後の継続性や成果を確認しないまま終了するものも多い。JICAの支援は、ザンビアが自力で政策を実施し、投資促進により経済が活性化し人々に雇用が生まれるまで見守るものだ。周辺国の発展の良き事例となるためにも、引き続きJICAの役割に期待している」

「南南協力」としてマレーシア側にもたらされるメリットも大きい。今回、マレーシア政府は直接関与していないが、複合的経済特区開発へのクリム・テクノロジーパーク社の協力が成功すれば、マレーシアに対するアフリカの注目も高まるだろう。またすでに、いくつかのマレーシア企業がザンビアでの合弁事業を計画し、調査を進めている。一方で、発展著しいインドも、新たな市場拡大をアフリカに求め、積極的な投資を検討する企業が出てきている。

経済成長に基づく国の発展は一朝一夕に実現できるものではない。しかし、かつて途上国だったマレーシアの発展への歩みが、その柱となった一人の専門家と日本の支援を通じて伝えられ、ザンビアは新たな一歩を踏み出しつつある。これまで取り残されてきたアフリカ経済の活性化に寄与し、アジアとの関係も深化する、こうした南南協力の事例が今後さらに広まっていくことを期待したい。

※2 投資環境整備政策を進めるために、2006年にザンビア政府が設立した政策推進機関。

※3 1990年以降、段階的に建設されたハイテク工業団地。