monthly Jica 2008年5月号

特集 元気なアフリカ Part2 新たな成長へのチャレンジ

Expert's View
専門家に聞く アフリカの成長と国際協力

海外からの投資による石油・資源開発の加速化とその価格の高騰などを背景に、近年急速な経済成長を見せているアフリカ。世界がアフリカに注目する理由や、成長の果実を持続的な貧困削減につなげるために必要なことなどを、民間企業で長くアフリカの開発事業に携わってきた宮司正毅・JICA国際協力客員専門員に聞く。

「ODAと民間投資が相乗効果を発揮してこそ、経済成長が生まれ、貧困削減につながる」

宮司 正毅(みやじ・まさき)

【写真】JICA国際協力客員専門員。1943年福岡県出身。65年三菱商事株式会社入社。南アフリカ・ヨハネスブルグ支店長、欧州三菱商事会社社長、本社常務執行役員などを経て、2004年より三菱商事顧問。国連の「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)」支援委員会メンバー、南アフリカ、タンザニア、ナイジェリア、ガーナ各国の大統領投資諮問委員会メンバーなどを務める。07年より現職。07年より南アフリカ共和国北海道名誉領事。

1 アフリカの開発に注目が集まっている背景は?

アフリカの国々は、欧米による奴隷制度をはじめ、植民地支配や人為的に引かれた国境など、多くの負の遺産を抱えて独立しました。そのため、「それだけのことをされた自分たちは先進国から支援を受けて当然だ」という意識があったのです。そんな中、2000年に九州・沖縄で開催された主要国首脳会議に、ムベキ・南アフリカ大統領、オバサンジョ・ナイジェリア大統領(当時)、ブーテフリカ・アルジェリア大統領の3人が参加し、「アフリカの自立」をめぐり意気投合します。そして翌年彼らを中心に、アフリカ自身の自助努力によってアフリカの開発を目指すイニシアチブ「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)」が策定されました。以降、民主主義と安定した経済運営の実現に向けた、アフリカの自律の機運が急速に高まっていることが、背景にあります。

次に、世界経済の動向を左右する鉱物資源やエネルギー源が、アフリカに豊富に存在しているという点です。石油、天然ガス、鉄鉱石、石炭などのほか、アフリカにしかない資源も多く、例えばステンレスの原料となるクロムは、世界の埋蔵量の95%が南部アフリカにあります。クロムがなければ特殊鋼を製造することはできません。このように世界経済に欠かせない資源を有するアフリカが不安定になれば、世界経済も大きな打撃を受けるのです。よって、アフリカにはとにかく発展してもらわないといけないという周囲の期待があります。加えて、未開発の資源をいかに開発し、彼らの経済に寄与させ、かつ世界のために有効活用するかということも、今後求められるでしょう。

3つ目は農業です。中国やインドなどの発展に伴い、穀物需要が急増しています。アフリカの産業の約7割は農業といわれますが、自分たちの食料供給はもちろん、世界への輸出という意味でも、農業の重要性は高まっています。厳しい自然条件の中、アフリカが農業をオーナーシップの精神でいかに発展させるか。こうした点にも国際社会の関心が集まっています。

2 貧困削減につながる経済成長を実現するために必要なことは?

経済成長は、貧国を削減するための最大の武器になります。特にアフリカで経済成長と貧困削減を両立させるには、労働集約型の輸出産業を促進する民間投資が内資・外資を問わず必要です。世界銀行が1993年に発表したレポート「東アジアの奇跡」にも、「東アジアの奇跡的経済発展の原動力は民間セクターにあった」と書かれています。民間投資で利益が出て配当が生まれ、その配当が次の投資に回るという資金循環の仕組みが成長につながるのです。このような循環がない限り、援助をどんなにつぎ込んでも、一時的に人々の生活向上に寄与するにとどまり、持続的な経済発展に結び付くことはありません。

ただ、民間だけでできることには限界があります。生産コストが高くリスクも大きいアフリカでは、民間の事業に政府開発援助(ODA)をリンクさせるような工夫が求められます。例えばODAによってインフラを整備し、民間セクターが事業を進めやすくするなど、政府の援助と民間投資が相乗効果を生み出す、官民連携の取り組みを日本も増やしていくべきです。

また、アフリカの政府が、自国のチャームポイント(優位性)を見つけ、どの産業分野を優先して経済発展させるかという政策を策定し、長期的な戦略を立てることも重要です。そして政府が民間事業に対して補助金を出し、税制面で優遇するなど最大限の支援を行い、競争力をつけなければなりません。民間というのは収益を上げることが目的ですから、世界の市場でトップレベルの競争力を持つ事業でなければ投資は呼び込めないのです。

3 今後のJICAに期待されることは?

JICAはこれまで「人間の安全保障」に基づく支援という面で多大な貢献をしてきました。10月に発足する新体制では、無償資金協力と技術協力、円借款などの実施機関がJICAに一元化されます。これまでの支援の効果を継続させ、貧困削減につなげていくためにも、今後はそれらのスキームを組み合わせながら、民間事業の参入や投資・外資の流入を促進するような、包括的な経済成長を支援していくことが大切です。また、人々や企業の経済活動を支える制度づくりや、アフリカ政府による経済政策策定のための協力なども求められるでしょう。

さらに、これはODAの在り方にもかかわるのですが、日本はより国益を考えた外交戦略をつくるべきだと思います。これまでのODAは、相手が求める案件を個別に実施する「要請主義」が主流でした。しかし、そうした支援の繰り返しだけでは、持続的な経済発展や貧困削減になかなかつながりません。今後は、地域全体の拠点となる国を重点的に育て、発展を確実なものにし、同時に日本の国益にもつなげていく、という視点に基いた戦略的な支援が必要だと考えます。中国やインドが急成長し、世界の経済マップにおける日本の立場もこれから大きく変わっていく中で、世界経済のカギを握るアフリカに対し、今後10年の間に日本が何をし、どのような関係を築いていくのか、大変重要な時期を迎えています。