monthly Jica 2008年8月号

特集 企業連携 経済成長を支える新しいパートナーシップ

PROJECT in Ethiopia(エチオピア)
森を守る「森林コーヒー」を日本に

【地図】エチオピアコーヒーの発祥地とされるエチオピアで、ことさら貴重な種類として知られる「森林コーヒー」。森を守りながら、生計向上のためにこの特別なコーヒーの産品化を進めるJICAの支援に、日本の企業が注目している。私たちの手元に届く日も近そうだ。

森林を保全しながら質の高いコーヒーを栽培する

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森林保全に配慮し、農薬や化学肥料も使用しない森林コーヒー。企業にとっては、生産地の環境保全や生産者の人権、適正賃金などを重視する「サプライチェーン」におけるCSR活動としてメリットは大きい

近年の過度の伐採や人口増加の影響で、天然林の減少・劣化が進むエチオピア。森に自生するコーヒーの生産などに収入を頼る住民にとっては死活問題となっている。そこでJICAは2006年から、貴重な森林生態系を有する南西部ベレテ・ゲラ地域で、森林の保全・管理と住民の生計向上の両立を目的とした「ベレテ・ゲラ参加型森林管理計画フェーズ2」を実施。国の定める森林優先地域の住民が、集落ごとに森林管理組合(WaBuB)を組織化し、森の利用・管理にかかる取り決め(森林管理契約)を地方行政と締結し、実施することで、行政と住民による持続的な参加型森林管理の普及を目指している。

住民に森林管理に参加してもらう動機付けとなるのが、生計向上につながる「森林コーヒー」の栽培だ。同地域では、天然林に自生する世界的にも珍しい森林コーヒーが、農薬や化学肥料を使わない伝統的手法で栽培されてきた。しかし、以前はその価値が認められず、仲介業者に安く買い取られ、大規模農園や農家の庭先で栽培されたほかのコーヒーと混合された後、大量消費用の製品として安値で売られていた。また、コーヒーの摘み取り、乾燥、保管の過程で、管理が徹底されていなかったため、生産されたコーヒーの品質管理にもばらつきがあった。

プロジェクトで、WaBuBによる持続的な森林管理の実施と、その森の中に自生する森林コーヒーの生産・品質管理の改善に努めた結果、環境と生態系の保護や労働者の権利の基準などを満たした農産物に対して、国際NGO「レインフォレスト・アライアンス」(RA)から与えられる認証の取得に成功。その商品価値を高め、今では現地輸出業者との取引で、市場価格に対し15〜25%のプレミアム価格が上乗せされるようになった。

プロジェクトの西村勉専門家は、「RA認証を経て輸出業者と契約する際、WaBuBの生産者は、『私たちのコーヒーをほかのコーヒーとしっかり区別してほしい』と強調するようになり、森を適切に管理して良質のコーヒーを生産してきた自信と誇りを感じた。森林保全に努めながらコーヒーを栽培することで、生活も良くなることを人々も実感できたと思う」と手応えを語る。

森林コーヒーを日本に輸出・販売

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森林コーヒー栽培現場を訪ねた生活の木の宇田川さん(中央)は「日本で間違いなく売れる」と確信した(写真提供:生活の木)

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乾燥させたコーヒー豆を袋詰めする生産者。適切な方法でしっかりと乾燥させ、湿気のないところで保管して初めて良いコーヒーができるという。西村さんは「日本の消費者も決してイメージだけでは買わないだろう。品質管理が大事」と話す

2010年にプロジェクトは終了するが、それ以降も、WaBuBの生産者が、森を守りながら持続的に森林コーヒーを生産・販売していくには、少しでも多くの市場の開拓が求められる。そのため、森林コーヒーの日本への輸出を模索していた西村さんらは、主にハーブなど自然商品を扱い、ガーナのシアバター(シアの実からとれる油脂)から作るせっけんの輸入販売でも知られる株式会社生活の木に協力を依頼。07年9月に宇田川僚一常務が初めて現地を訪れた。そこで、「貴重な森林コーヒーであり、RA認証も受けている。これに、例えば生産者が炭火で手焙煎するというような付加価値を加えれば、環境問題などに関心の高い層を中心に、間違いなく日本でも売れる」と確信。同社がネーミングやパッケージングを支援して日本に輸入することが決まり、来年夏の全国の店舗での販売開始を目指して現在準備を進めている。

「生活の木では企業の社会的責任(CSR)の観点から森林コーヒーを輸入・販売したいと考えている。コーヒーが日本で売れていると聞けば、生産者もよりやる気が出て、質が上がる。大きな利益を上げるつもりではないが、これが起爆剤となり、エチオピアコーヒーの人気が定着すれば」

一方、国内コーヒーメーカーへの生豆輸入販売という大規模なビジネスの対象として森林コーヒーに注目しているのが、RA認証コーヒーの国内輸入ではトップの実績を持つ商社の兼松株式会社だ。同社の食品第一部飲料原料課コーヒーチームリーダーで、今年2月に現地を視察した鈴木潤さんは「世界のコーヒー生産者の多くは貧しいまま。コーヒービジネスに携わる者として、現地生産者に少しでも多く裨益(ひえき)するビジネスをしたい。企業の戦略的CSR活動としても有効だ」とRA認証コーヒーを扱う意義を語る。「特に今回は『JICAが生産に協力したコーヒー』としての付加価値も付けられるのではないか」と、日本でのビジネス展開に意欲を見せる。

森林コーヒーの事例は、環境を守りつつ質の高い製品を生産することで、住民の生計向上を図るJICAの支援に企業が注目し、CSRやビジネスの観点から連携が生まれたもの。日本を含む多くの国の企業が適正な条件で小規模生産者などと取引し、彼らの生計・生活向上につなげる動きが今後一層広がることが望まれる。その意味でこのプロジェクト終了後の持続的な発展も期待されている。日本の多くのコーヒー愛好家が、ベレテ・ゲラ地域の生産者の顔を思い浮かべながら森林コーヒーを楽しめるようになる日も近い。