monthly Jica 2008年8月号

特集 企業連携 経済成長を支える新しいパートナーシップ

Expert's View
専門家に聞く JICAの企業連携

「アジア発展の歴史を今こそアフリカで」

開発途上国への日本からの民間投資が果たす役割や、企業との連携強化を進めるJICAに、途上国はどんな期待を寄せているのか。途上国側の声を代表し、エリー・エリクンダ・エリネーマ・ムタンゴ駐日タンザニア大使に聞いた。

【写真】エリー・エリクンダ・エリネーマ・ムタンゴ

駐日タンザニア連合共和国特命全権大使。タンザニア外務国際協力省、各国大使館勤務などを経て、1993〜94年在ジュネーブ国連大使/常任代表。94〜95年ダルエスサラーム情報通信省事務次官。95〜2000年外務国際協力省事務次官。2000年より現職。韓国、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニアの大使を兼任。

アフリカには、十分に活用されていないさまざまな資源が眠っています。農地化されていない肥沃(ひよく)な大地、水力発電施設や灌漑(かんがい)設備を持たず、ただ海に注ぎ込むだけの水資源、インフラ不足で採掘されずに手付かずのまま残る貴重な鉱物資源、失業中の若者たち。世界人口の12%が住むアフリカで、これらが存分に活用され、発展につながれば、世界の経済市場に大きく貢献できるのです。

しかし、そのためには、インフラ、技術、知識、資本などが求められます。こうした資源を生かして持続的な経済成長を達成するため、JICAはこれまでアフリカ各地で、基礎インフラ整備や農業開発、産業振興、職業訓練などさまざまな支援を展開し、成果を挙げてきました。

そして今、アフリカはその豊富な資源が国際社会の注目の的となり、開発が盛んに行われ、それに伴い多額の資金を要する大規模インフラ整備や設備投資の導入が進められています。しかし、その効果を最大化・持続するためには自国政府の資金や開発援助だけでは十分ではなく、海外からの民間企業の参入が重要な役割を果たします。日本はかつてアジアで、ODAを通じたさまざまな支援で企業の進出を促し、その結果、投資・貿易の拡大を原動力に見事な発展を遂げました。今度はアフリカでも同様に、産業インフラの整備や人材育成を支えるODAと、企業による投資、産業開発がセットになった事業の展開を期待しています。

JICAと企業の連携は、アフリカにとって非常に意義があります。JICAが企業と手を組むかどうかで、企業のアフリカへの進出度合いに大きな違いが出てくるでしょう。

一方、公的資金で民間企業の途上国での活動を支援することが妥当かという議論があるのは知っています。私は、日本が戦後の荒廃から立ち直ったプロセスやアジアの発展を担ってきた経験を皆さんに思い出していただきたい。戦後の日本の大企業の輝かしい発展・技術革新は、納税者と政府による強力な支えがあったからこそできたことです。そしてその経験はアジアでも大きく生かされました。もちろん地域の特性に応じた微調整は必要ですが、アフリカでも同様に企業への力強い支援が広まっていくといいと思います。

企業には、JICAと連携してどんどんアフリカに来てほしい、と伝えたいですね。住友化学株式会社のマラリア対策の蚊帳「オリセットRネット」のように、アフリカには人々を助けながら利益を生むビジネスチャンスが転がっています。ここでは、製品は“グッド”であれば良い。決して“ベスト”のものが求められているわけではありません。大切なのは、人々の手に届く価格設定です。それでも、市場の規模から大きな利益を生むことが可能なのです。

また、企業の社会的責任(CSR)に基づく活動として、例えばコミュニティーや学校などを支援する小さなプログラムを展開したり、HIV/エイズの予防啓発を広めたりすることで、現地での存在感をより高めることもできます。

JICAが企業との対話に積極的に努めることで、両者の間には理解と信用が生まれてくるでしょう。政府機関というものは国を問わず、変化や新しいものを好まないものです(笑)。しかし、組織内部での啓発や企業との人材交流を通してビジネス精神を組織に注入するなど、新しいアイデアにオープンな組織環境づくりも大切だと思います。企業にとって親しみやすいJICAになるカギはそこにあります。

「“善き社会”に向けた企業の新たな役割」

社会が政府と企業に期待する役割に変化が生じている中、「官民連携」の動きが出てきた背景は何か。日本の援助機関や企業が認識すべきことは何なのか。企業の社会的責任(CSR)に詳しい(株)日本総合研究所の足達英一郎さんに聞く。

【写真】足達 英一郎 (あだち・えいいちろう)

株式会社日本総合研究所 主席研究員、ESGリサーチセンター長。(株)三菱総合研究所勤務を経て1990年(株)日本総合研究所入社。2007年より現職。専門分野は、環境経営の視点から見た産業調査、企業分析。著書に『会社員のためのCSR入門』(共著、第一法規株式会社)、『地球温暖化で伸びるビジネス』(共著、東洋経済新報社)ほか。

企業の開発途上国への進出意欲の背後には、日本国内の市場にフロンティアがなくなったために、新興国を中心とした海外を目指すという経済的動機があると思います。しかし、企業が国際的な活動を強めてきたから開発援助の「官民連携」の流れが出てきた、とのとらえ方には物足りなさを感じています。

2004年6月、国際標準化機構(ISO)が行った国際会議に出席し、忘れられない言葉を聞きました。それまで、社会的責任(SR)の規格化※をめぐり、必要だとする消費者グループとそれに反発する産業界が議論を重ねてきました。ところがこの会議では、途上国の代表者が規格化を支持すると宣言し、会議の流れを方向付けたのです。「われわれはさまざまな社会的課題に直面している。多国籍企業が一定の規律を守り、政府が機能していない部分が補完されれば、社会の底上げが図れるはずだ」との途上国のメッセージは、非常に新鮮で印象的でした。

従来、社会的課題の解決の担い手は政府であり、企業は経済的な活動を担うものだとする明確な二分論がありました。しかし経済のグローバル化が進み、多国籍企業の力が強くなる一方で、途上国政府のガバナンスはなかなか改善しません。「官民連携」は、企業の役割に対する期待が大きく変わり、国際協力という枠組みの構造的変化の延長線上に必然的に生まれてきたものだと感じます。

米国の経営学者マイケル・ポーター氏が06年12月の「ハーバード・ビジネス・レビュー」に書いた論文の中で、「社会は優れた企業を必要としている」と同時に、「企業も善き社会を必要としている」と述べています。例えば自動車を売ろうとしても、整備工がいない国では車は売れません。知的財産が守られなかったり、訴訟を起こすときに弁護士がいなかったり、読み書きができる従業員がいなければビジネスは成り立ちません。企業が善きビジネスをするためには、善き社会が前提となるのです。こうした気付きが今、大きく広がっているのでしょう。

今議論されている開発援助の「官民連携」は、政府と企業の連携とともに、政府とNGOの連携もセットでなければおかしいと思います。米国国際開発庁(USAID)は、企業と連携する際の条件として、例えばマルチステークホルダーの一つとして現地で活動するNGOのプロジェクトに、企業が半分以上の資金を提供するよう求めています。援助を実効性のあるものにするには、政府対政府ではもうだめだということですね。USAIDは米国企業だけでなく、日本の企業にもパートナーシップを呼び掛けています。

私はこの「官民連携」の動きを基本的に評価します。ただ、これを進めていったときに、ODAの利権化や癒着化の危険性が生まれないか若干の懸念があります。企業連携プロジェクトが社会環境的に問題を起こさないかどうかを評価すると同時に、そこに入ってくる企業の資格要件もCSRの観点から厳しく問う必要があるでしょう。

企業は当然メリットを期待します。USAIDの動向から分かるように、日本企業だから日本の援助プログラムに乗ってくれるという保証はありません。JICAが付加価値として何を提供できるかを考えたとき、途上国に事務所を持つJICAの情報は企業にとって大きな価値があります。企業の駐在員だけではモニターできない情報がJICAと組めば分かる。そういう関係をつくっていくことが、連携の促進に大切だと思います。

※ ISO26000と呼ばれる企業や組織の社会的責任に関する国際規格で、ISOが作成作業を進めており、2010年9月の発行が予定されている。

「ODAと企業とNGOの連携を」

持続可能な社会の実現に寄与することを目指し、地球環境保全に取り組み続けている(株)リコー。開発途上国での生態系保全活動の理念や、一企業としての立場から考えるJICAとの連携の在り方とは。

【写真】岸 和幸 (きし・かずゆき)

株式会社リコー社会環境本部環境コミュニケーション推進室環境社会貢献担当。システムエンジニアとして企業に12年勤務した後、自然環境保全を学び、2001年より現職。地球の回復力を支えている生物多様性の保全を目的として、森林生態系保全プロジェクトや社員の環境ボランティア活動などを推進。

私たち企業は自然生態系から多くの恩恵を受けて経済活動を行っていますので、企業がこれからも存続していくには地球環境が健全であることが欠かせません。リコーグループでは、持続可能な社会の実現という長期的目標を達成するため、その通過点となる2050年をターゲットにした超長期環境ビジョンを掲げ、環境負荷の抑制と地球環境の再生力の回復に努めています。その成果もあり、世界経済フォーラムでは、「世界で最も持続可能な100社」に4年連続で選ばれています。

1999年より世界各地で森林生態系保全プロジェクトを実施しており、現在、途上国を中心とした7カ国8カ所でNGOと連携し、住民の参画を得ながら森林の保全・回復と地域コミュニティーの発展との両立に取り組んでいます。途上国での活動が直接売り上げや株価に結び付いているわけではないと思いますが、国際的な信用力の向上にはつながっているようです。

企業がビジネスで必要とする資源の大半は途上国から来ています。資源を大量に収奪し生態系を破壊する行為は、一時的な発展にはつながるかもしれませんが、決して持続的ではありません。地球環境の回復力を支える生物多様性を保全していく努力は、グローバルな社会的責任を果たすということであり、セクター間の壁を越えて取り組むべき、人類共通の大きな課題だと思います。

リコーが、国際NGO「コンサベーション・インターナショナル」とガーナで実施している熱帯雨林回復プロジェクトは、原生林の周辺の地域コミュニティーに対し、森林を切らずにカカオ栽培が可能なアグロフォレストリー(森林農法)の普及・啓発を行っています。それまで森を切り開いて農地を広げてきた農民は、最初半信半疑だったようですが、プロジェクト開始から6年たった今、カカオ豆の収穫は8倍に増えています。農民が「森を残すことで豊かになった」との意識を持てたおかげで、持続的な森林の保全に役立っています。

日本はカカオ豆の7割をガーナから輸入していますが、栽培に使われる農薬や化学肥料が現地の生物多様性に悪影響を与えています。このプロジェクトで作られるカカオ豆はそれらを使用しておらず、今、それをフェアトレードで日本へ輸入し、チョコレートに加工・販売する仕組みづくりを、あるNGOとの連携で始めています。

昨年、JICAの森林保全に関するシンポジウムで、「森林保全と地域住民の生活向上のバランスが大事」との話を聞き、私たちリコーが目指す姿と共通するところがあると感じました。JICAには国際協力のさまざまなノウハウ、多様な人材、ネットワークがあると思います。今後、ガーナのプロジェクトで成功しつつある事例・手法をほかの地域に展開させる可能性も含め、今後の連携について現在JICAとの情報交換をさせていただいています。

最近、欧米ではODAを慈善的に活用するだけでなく、国と企業とNGOが対等な関係で共通の目標に向かって連携し、国の存続を根底に据えた戦略的な使い方をしていると聞きます。日本は、資源や食料のかなりの割合を輸入に頼っており、今後は他国と日本との相互発展と、持続可能な社会の創造に寄与できる「win-win」型の戦略の下、ODAを通して国と企業とNGOが連携していく必要があると思います。3者連携による支援が相手国の持続可能な社会づくりに役立てば、それが結局、日本の持続可能性にもつながることでしょう。

「裨益者の利益を最優先に」

開発途上国に対する企業の社会貢献活動や、JICAと企業の連携についてNGO側はどう考えているのか。紛争や災害の被災者支援を行い、企業とも連携している(特活)ジェンの木山啓子さんに聞いた。

【写真】木山 啓子 (きやま・けいこ)

特定非営利活動法人ジェン理事・事務局長。1994年よりジェンの旧ユーゴスラビア地域の地域代表として、難民・避難民支援活動に従事。1992年、ニューヨーク州立大学バッファロー校社会学大学院修士課程修了。2000年7月より現職。

企業との連携と聞くと、その連携先にかかわらず、裨益(ひえき)者のニーズに応える支援をしているかどうか、ということが最も気になります。企業が、本業を生かした支援を行いたいと考えるのは極めて自然ですが、その本業を生かし、裨益者のニーズに合致した良い支援をするためには、さまざまな工夫が必要です。

例えば、あるアパレルメーカーが、ジェンが支援している難民キャンプに冬用ジャケットの提供を申し出てくれたことがありました。まさに寒さが厳しくなる季節だったので、「企業の本業で生産するジャケット」と「防寒という現地のニーズ」が合致する、とても良い支援だと思いました。念のために現地にサンプルを送ると「ありがたいが、どうか暗い色のジャケットにしてほしい」との返答。寒さが迫るこの時期に、なぜ色が問題なのか、と不思議に思いましたが、難民キャンプでは簡単に洗濯ができないので、汚れの目立たない色にしてほしいとの要望だったのです。「ニーズは確認せよ」の良い例だと思います。

刻々と変わる支援のニーズを、企業の方々が正確に把握することは困難です。ですから、現場にいる私たちがニーズを的確に認識し、物資だけでなく技術やノウハウなど、企業が提供できるものと合致する部分を辛抱強く探し出してこそ、良い形での連携が可能になります。私たちのようなNGOであれば、そうした努力を全員に徹底させるのは難しくありません。JICAは大きな組織ですので、職員一人一人にいかにそれを浸透させられるかが問われると思います。

ちなみに、ジャケットの色の要望に驚いていたその企業は、今でも支援を継続してくれています。企業の素晴らしい点は、社内の情報共有が適切になされているところです。担当の方が変わっても、「ジェンさんにお願いするときは、まずニーズを確認するんですよね」と言われます。

良い連携事業を実施できたら、好事例としてこれを周知させてほしいと思います。そこでJICAに期待するのは、企業や一般市民に対する広報の役割です。本当に良い事業とは持続可能で裨益者の利益を最優先させるものだという点を、日本中に浸透させるキャンペーンをしていただきたいのです。そうすれば、企業の目先の利益でなく、裨益者の自立を支える持続可能な事業をサポートすることこそが良いCSRであり、そうしたCSRを果たす企業こそが優良な企業だと認められるでしょう。結果としてその企業の利益にもつながるはずです。

NGOの中には、JICAが一般市民から寄附金を募ることに疑問を持つ人がおり、連携によって「さらに企業からも募金するのでは」と懸念する声もあります。「JICA対NGO」のような対立構造で考えるのではなく、相互補完関係にあるという点を明確にし、JICAの広報活動の中でも、NGO活動の重要性を常に訴えていただければ、支援する側の一般市民や企業にとっても選択肢が広がり、国際協力がより身近なものになるでしょう。

具体的、直接的にNGOがJICAの企業連携に関与できるとしたら、NGO側がモニタリングをしたり、現場の声を伝えることで、プロジェクトの質の向上につなげていけるかもしれません。

大切なのは、支援を必要とする人々が、世界から早くいなくなることです。そのためには、すべての関係者が協力し合える環境の構築が重要だと思います。