monthly Jica 2008年9月号

特集 科学技術 可能性を切り開く力

PROJECT in Saudi Arabia(サウジアラビア)
省エネルギー社会の創造を目指して

【地図】サウジアラビア急増する電力需要を背景に、省エネルギーの推進が求められているサウジアラビア。エネルギー効率を高める努力により世界でもトップクラスの省エネ技術を誇る日本の知見を生かし、同国のエネルギー政策を改善する取り組みが、JICAの支援で行われている。

増え続ける電力需要

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川野さんら調査団は、各地で30回以上にも及ぶワークショップを開催した。対象は、大学、宗教関係者、エネルギー関連企業、産業関係者などさまざまだ

急激な人口増加に伴い、電力需要の伸びがこの10年間で平均5.7%を記録しているサウジアラビア。今後、高まる需要に供給が追い付かなくなる恐れもあり、省エネルギー化を含めた電力管理の施策を早急に取りまとめる必要に迫られている。

そんな中、JICAの電力管理研修に参加したサウジアラビア政府の高官が日本の省エネ方策や技術を学んだことがきっかけとなり、同国は電力の省エネルギー化を図るマスタープランの作成支援を日本に依頼。それを受け、JICAは「電力省エネルギーマスタープラン調査」を2007年2月に開始した。同国の社会経済状況やエネルギー消費・需要動向を調査し、日本の技術や経験を活用した2030年までのマスタープランを策定するもので、東京電力株式会社と、(財)日本エネルギー経済研究所の協力で実施されている。

日本の経験を参考に省エネ方策を策定

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東京電力の工場電化技術展示施設I2(アイ・スクエア)で、液晶ディスプレーの製造などに使われる誘導発熱ジャケットロールを見る研修員。表面温度を均一化し、必要に応じ高温の熱エネルギーを効率よく得ることができる。また、超高精度な熱加工処理を可能にした

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住宅セクターを対象にした現状把握調査では、空調設備の設置・使用状況などをチェック。エネルギー効率の悪い老朽化したものが多く見られた

日本は石油危機での苦い経験を糧に、エネルギー効率を高める科学技術の開発や、法制度の整備に力を入れ、徹底した省エネルギーに努めた。その結果、技術面では発電所の発電効率の向上、産業排熱の再利用、省エネ建築、電化製品の省エネ化、運輸・交通セクターの効率化などが進んだ。また制度面では、産業・商業セクターの大口の需要家に毎年平均1%のエネルギー原単位※1の改善を求めるエネルギー管理制度や、大規模エネルギーを使用する事業体に選任管理者の配置を課すエネルギー管理士制度の導入、省エネ技術開発のための財政支援などを推進し、世界トップクラスのエネルギー効率を実現させてきた。

調査団は、こうした日本の省エネ制度をまとめた方策案を、サウジアラビアの産業・商業・住宅・政府※2・宗教など各セクター代表者に紹介し、意見を聞くためのワークショップを各地で開催。そして、参加者の声を反映させ、まとめ直したものを手に、サウジアラビア国内のエネルギー政策関係者や関係機関で形成されるステアリングコミッティーとの協議に臨んだ。

また、ワークショップと並行して、各セクターの電力使用状況を探る調査も実施した。調査団の東京電力国際部・川野泰(やすし)さんは、「住宅セクターでは夜中でも空調をつけっ放しにしている例が多い。商業セクターでは建物や商業用機器の管理面の不備が省エネ推進を妨げている。また全国に6万以上あるモスクでも、不必要な時間帯であっても空調や照明が際限なく使用されており、これら省エネ意識の希薄さが需要を増加させる要因となっていた」と報告する。これらの調査結果はステアリングコミッティーとの協議でも議論され、最終的に、国家の電力省エネ基本方針と、導入を検討すべき優先度の高い13の方策が策定された。その後、各方策の実施機関の確定、行動戦略の策定、予算の設定などを経て、今年7月に各方策の実行計画書案が作られた。

調査団が提示した基本方針の内容は、電力を使用する需要サイドのエネルギー効率改善、社会の省エネ意識の浸透、また数値目標として2030年までに電力原単位を30%改善することだ。優先度の高い13の具体的方策の代表的なものには、(1)政府・産業・商業セクターにおける大口の電力需要家を対象に、省エネ実施状況の定期的モニタリングや報告を義務付ける「エネルギー管理制度の導入」、(2)エネルギー効率によって電化製品をランク付ける既存の制度を見直し、日本の制度運営手法を取り入れる「ラベリング基準制度の改善」、(3)「省エネ月間の創設とキャンペーンの実施」、(4)関係機関の職員や学校教員による「小学校向け省エネ教育の推進」などがある。

特に(3)ではモスク対象のキャンペーンを行い、宗教省の協力のもと、説教者による省エネの呼び掛けやモスクの電力消費モニタリングを実施する予定だ。

今後、サウジアラビア側での承認を経て、10月にはこれらをまとめたレポートを提出する。同時に、13の方策の推進を担う省エネルギーセンターの設立準備も始める。

※1 エネルギーの消費効率の指標の一つ。熱や電気などのエネルギー消費量を、生産量や建物の床面積などで割ったもの。

※ 2 省庁、財団、公立の学校・大学、公立病院など。

科学技術を活用した日本の省エネ技術を学ぶ

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東京電力が小中学校を対象に行っているエネルギー講座に研修員たちも参加。「私たちの国でも中学生を対象とした講座は行われているが、小学生に対しても工夫すれば十分に伝わることが分かった」と今後の実践へのヒントを得たようだった

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東京大学生産技術研究所では、最新の環境・省エネ技術開発について学んだ。写真は、東京都心を再現した模型を用いて風洞実験を行う装置

今回の調査の一環として、日本の省エネ制度・技術を学ぶ研修も実施され、サウジアラビアのエネルギー政策関係者が7月に来日した。

東京電力が有する省エネ技術では、夜間に電気を蓄えピーク時の放電に回す電力負荷の平準化が可能な「NAS(ナス)(ナトリウム・硫黄)電池」や、二酸化炭素の排出を削減し以前より約30%の省エネを実現したヒートポンプ利用給湯システム「エコキュート」、自動車企業と提携して開発を進める電気自動車について学んだ。また、産業分野の省エネに有効な最新の工場電化技術※3を紹介する展示施設「I2」(アイ・スクエア)では、エネルギー効率とコストを大幅に改善した空調システムなどを視察した。

工学分野での最先端の研究活動を行う東京大学生産技術研究所では、効果的な断熱や設計面での工夫により、サウジアラビアの気象条件に合った省エネが可能な住宅建築の提案や、再生可能エネルギーとバッテリーの活用によって地域レベルでの広範囲のエネルギー効率を向上させるエネルギー管理システムに関する研究が紹介された。研修員は高い関心を示し、「省エネ建築の研究を進め、実用化させたい」といった声や、「再生可能エネルギーを普及するためのコストはどれくらいか?」などの質問が寄せられた。

研修員たちは、こうした日本の先進的な科学技術を用いた省エネ技術から得た多くのヒントを、今後、調査で提案された行動戦略の実践に活用していくことが期待される。

川野さんは今回の調査を通じ、「『電力省エネを必ず実現させる』という関係者の意欲と姿勢に手応えを感じた」と話す。日本の経験と科学技術を生かして作られたマスタープランが、サウジアラビアの持続的な省エネルギー社会の創造につながってほしい。

※3 企業の工場での生産プロセスにおいて、これまでの化石燃料に替わる電化の導入により、最新の誘導加熱(IH)技術などを生かし、生産品質や生産効率の向上、コストダウン、環境負荷の低減を可能にする企業向けの技術。