必要なお金を、必要な人に ヨルダン

金融の重要な役割の一つが、市場に余っている資金を集め、必要とされるところに資金を流すこと。
財政赤字に悩むヨルダンと、民間資金の動員を模索するJICAは、それぞれが新しい資金調達手段を通じて課題の解決に向けて取り組んでいる。

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ドバイのホテルで行われた「Deals of the Year 2016」の表彰式。ヨルダン政府やICDの担当者と共に、JICA職員も出席した

政府と銀行をつなぎ 財政再建への一助に

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ヨルダン アンマン

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ヨルダン政府のスクーク発行に向けた実務能力強化を目指して、既にイスラム金融が発展しているマレーシアで研修を行った

世界中のイスラム金融情報を扱う『Islamic Finance News』紙が、年間で最も優れたイスラム金融取引を称える「Deals of the Year 2016」。この名誉ある賞に輝いたのが、ヨルダン政府が発行するスクークだ。スクークは利子を取ることを禁止しているイスラム法を遵守したイスラム金融商品で、これまで日本は発行のための仕組みづくりに協力してきた。

ヨルダンでは、人口の約1割にあたる60万人以上のシリア難民の流入や、長期化するパレスチナ難民の受け入れによって、国の財政が逼迫している。また、石油や天然ガスなどの資源を持たず、降水量も少ないことから、電力・水分野の歳出が膨らみ財政赤字の大きな原因となっている。赤字の解消や削減に向けて、資金調達コストの低減や、資金調達手段の多様化がすぐにでも必要な状況にある。

一方、国内のイスラム銀行は資金の運用先が見つからずにいた。こうした背景から、資金が必要な政府は、新たな金融商品となるスクークを発行することで、運用先が必要な銀行から資金を調達しようと考えた。

ヨルダン政府から支援の要請を受けた日本は、2014年と15年に、同国政府の財政運営の強化や、電力・水といった公的サービス分野の効率化を目的とした円借款事業を行った。この事業では、スクーク法案の閣議決定や、スクーク発行を含む予算書の国会提出などを政策達成目標に定めた。さらに、イスラム金融商品の開発などを行う「イスラム民間開発公社(ICD)」と連携を図り、同国政府に対してスクーク発行に向けた支援を行った。イスラム金融に深い知見を持ち、支援の実績も豊富なICDと手を組むことによって、現地の宗教関係者などイスラム法に厳格な立場の人にも、スクークに対する理解を少しずつ深めていくことができた。

こうした取り組みを通じて、昨年10月、ヨルダン政府は普段発行する国債よりも安い調達コストで、初のスクークを発行することができた。その2カ月後、日本は金融分野やビジネス環境の改善を目的とした新しい円借款契約をヨルダン政府と締結。同国の自立的な経済発展を引き続き支援していく方針だ。

開発途上国の支援に 日本初のソーシャルボンド

一方、開発途上国への支援や国際課題の解決につなげるための資金調達手段として日本国内で関心が高まっているのが、JICA債だ。JICA債は2008年から発行され、調達資金は全額、政府開発援助(ODA)の円借款と海外投融資に充てられている。

昨年6月、欧州を中心に約450の金融機関が加盟する国際資本市場協会(ICMA)は、社会課題の解決を目的とした資金を調達するための債券「ソーシャルボンド(社会貢献債)」の定義と要件を公表した。これを受けて、JICA債は日本市場で初のソーシャルボンドとして9月に発行が開始され、投資家から改めて関心を集めたのだ。また、2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために日本政府が策定した具体的施策の中でも、「JICA債の発行を通じて国内の民間資金を成長市場である開発途上国のために動員する」という項目が盛り込まれている。

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「天候インデックス保険」の開発にあたって、損害保険ジャパン日本興亜株式会社の担当者がミャンマーでヒアリング調査を行った

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損害保険ジャパン日本興亜株式会社が開催したSDGsの社内研修会

JICA債を購入する投資家は、保険会社や信用金庫、自治体などさまざま。このうち、損害保険ジャパン日本興亜株式会社は、昨年初めて、ソーシャルボンドとしてのJICA債への投資を決めた。「JICAは誰もが知っている援助機関であり、その信用力が投資を決めた理由の一つです」と同社・投融資部の砺波(となみ)政明担当部長は話す。

CSRの取り組みに力を入れている同社は、気候変動による農業経営リスクの軽減を目的とした「天候インデックス保険」をタイで提供。現在はJICAと協力しながらインドネシアで同様の保険の開発を進めている。また、グループ会社である損保ジャパン日本興亜アセットマネジメント株式会社は、日本の「エコファンド」の先駆けとして、環境対策などに積極的に取り組む企業に投資する投資信託を提供している他、ESG(環境・社会・ガバナンス)面の評価が高い企業に投資する投資信託も提供している。

「事業を通じて社会に貢献するという私たちグループの経営理念に、JICA債はまさに合致しています。世界に比べて日本はESG投資への取り組みが遅れているように感じますが、同時にまだまだマーケットが拡大していく余地はあると思っています」と砺波さんは今後のESG投資の広がりへの期待を示す。

市場の育成・活性化に貢献した債券発行体などを称える賞「DEAL WATCH AWARDS 2016」(トムソン・ロイター・マーケッツ株式会社主催)の社債部門で、「Bond Issuer of the Year」に輝いたJICA債。今後ますます金融市場で存在感を発揮しそうだ。