世界とつながる教室 知ることから始まる難民問題 宮城学院高等学校

ここ数年、ニュースで話題に上がることの多い難民だが、日本では必ずしも身近な存在とはいえない。
難民の現状をもっとよく知りたいと考えた宮城学院高等学校の生徒たちは、自ら調査を通してこの問題と向き合った。

世界で生まれる多くの難民 受け入れが進まない理由は

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サティヤルティさん直筆の「3つのD」のメッセージ。同校は生徒が世界の現状を知るきっかけとして、出会いの場を作ることに力を入れている

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1年生の発表では世界の難民問題に注目。難民と認定されるには、さまざまな条件を満たす必要があると学んだ(右が丸山先生)

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2年生の発表では、日本での難民受け入れの課題に注目した

世界にはどれくらいの難民がいて、どこの国に向かっているのだろうか。そして、日本では、毎年何人くらいの難民を受け入れているのだろうか。テレビや新聞のニュースを見て、そう考えた人は少なくないはずだ。では、どれだけの人が実際に自ら実情を調べただろうか。宮城県仙台市の女子校、宮城学院高等学校では、昨年度、総合学習「グローバルスタディーズ」の探究活動で、1年生と2年生のグループが自分たちの疑問に答えるために、難民問題の現状を調査した。

1年生のグループが調べたのは、世界でなぜ難民が生まれ、何が問題になっているのかという点だ。三浦和奏(わかな)さんは、このテーマを選んだきっかけを「テレビでシリアの内戦やヨーロッパに流入する難民の話を聞いて、現状を詳しく知りたいと思ったんです」と話す。共に難民について調べた君塚美佳さんも、「初めは難民について何一つ知らなかったんです。調べていくうちに、難民が生まれる経緯は思っていたよりずっと複雑だと気付きました」と言う。

シリアで起きているような紛争ばかりではなく、宗教対立や人種差別が原因で難民になる人がいることにも驚いたが、移民の受け入れをためらう側の課題にも注目した。君塚さんは、「他の国と比べて、日本は難民受け入れの数が少ないことに驚きました。また、難民を受け入れたくない理由として難民の生活を支えるために税金が使われることをあげる人がいることにも、違和感を覚えました」と発表を振り返った。

「調べる前は、難民の受け入れがテロなどの危険につながるのかもしれないと考えていましたが、そういう考え方の人が多ければ、難民は日本に来づらくなると思いました」と、三浦さんは話す。「私たちがもっと難民について知れば、受け入れにつながるのではないかと思います」

一方、2年生のグループは、日本における難民の受け入れの現状について調べた。きっかけは、やはりテレビの情報番組だ。「これまで、日本に難民がいるということを知りませんでしたし、難民にもいろいろな境遇の人がいることを知って驚いたんです」。川名ひかりさんは、難民を発表のテーマにしようと提案した理由を、そう振り返る。

川名さんと一緒に調査を行った千田(ちだ)絵玲奈さんは、難民申請に必要な書類を調べて、その枚数や答えなくてはならない質問の細かさに驚いたという。発表では、日本と他の先進国の難民受け入れ数を比較すると同時に、認定の流れや、申請書作成の負担などにも触れた。二人と一緒に調査と発表を行った阿部未来さんは、「難民といっても、日本に住むだけなら、すぐに認められると思っていたんです。調査を通して、問題の複雑さを学びました」と話してくれた。

1年生と2年生、二つのグループに共通する結論は、「もっとみんなが難民のことを知れば、日本でも難民支援が盛んになるのではないか」というものだ。将来は語学を生かせる仕事や、教育や福祉など人を支える仕事に就きたいと話す生徒たち。発表の準備は大変だったが、知らなかったことを学び、それを自分の言葉で発表したことで、自信もついた。

昨年度の探究活動では、難民問題の他にも、国内・国外のさまざまな社会問題をテーマに生徒たちが調査・発表を行った。「国内の貧困問題から外交問題に至るまで、独自の視点で深く切り込む発表がいくつもあり、私たちも感心しました」と、鎗田謙一校長は話す。

世界の現状に目を向け 行動できる女性を育てる

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難民と国内避難民の違いを学び、難民の視点で考えるワークショップに、生徒たちは大きな刺激を受けた

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中学校の生徒は、貿易ゲームを通して国際関係の在り方を身をもって体験した

宮城学院中学校・高等学校では、10年以上前からアフリカの貧困問題に注目し、課題を学ぶとともに、チャリティー活動などにも取り組んできた。「グローバルスタディーズ」は2014年度に学びと交流の活動を開始し、2015年度から探求型活動のパートを開始。知ることと行動することを並行して身に付ける取り組みとなっている。

「本校には、NPOや開発協力機関、国連などで活躍している卒業生が何人もいます。そうした方々や、時には開発途上国の実情を知っている方々に講演してもらい、質疑応答など交流の機会をつくることで、生徒たちが大きく成長してくれることを期待しています」と、丸山仁先生は話す。児童労働や世界の女の子が直面している課題、ルワンダの民族紛争とそこからの復興などに対しては、特に生徒たちの反応が大きかったという。昨年は、ノーベル平和賞を受賞したカイラシュ・サティヤルティさんも同校で講演した。

また、自分から積極的に学ぶ環境をつくるために、昨年度は難民ワークショップを開催した。その中の課題の一つに、「車に家族全員が乗れないときに、誰を乗せて誰を残すかを選ぶ」というものがあり、生徒たちが自分の身と重ね合わせて難民問題を考えるきっかけになったという。

「世界が急激に変化していく中で、生徒たちには現状に主体的に目を向け、行動できる女性に育ってほしいと思っています」と話す丸山先生。今年度からは"貧困と教育""環境と開発""平和と差別"の三つをグローバルスタディーズのテーマに据えている。

同校の教育理念は「神を畏れ、隣人を愛する」。謙虚さと勇気を持って社会の課題に挑み、他人を支えられる人になることを目指して、今日も生徒たちは学びを深めている。