新たな時代の開拓者

持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals、以下SDGs)が国連サミットで採択されてから、今年9月で丸2年を迎える。
SDGsの達成に向けて大きな役割を担うと期待されているのが、民間企業だ。
企業はSDGsにどのような可能性を見出しているのか。
そして、ビジネスの在り方は今後どう変化していくのか−。
新しいステージへと歩み始めた企業の挑戦に迫る。

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写真:今村健志朗

持続可能な社会の実現は企業の至上命題の一つ

最近、メディアなどでも耳にする機会が増えてきた「SDGs」。あなたはこの言葉を聞いたことがあるだろうか。

持続可能な開発目標(SDGs)は、“誰一人取り残さない”世界の実現を目指して、国際社会が2030年までに達成すべき課題を掲げた世界共通の目標だ。2015年9月に開かれた国連サミットで採択され、貧困、都市問題、地球環境などに関する17の目標達成に向けた取り組みが、全世界で始まっている。

一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)の後藤敏彦理事は、SDGs達成のためには民間企業の果たす役割が重要だと訴える。「さまざまな財・サービスを提供し、経済や社会を回している主体は民間企業です。その企業の取り組みなくして、社会課題は解決できません」。GCNJには、社会課題の解決に取り組む248の国内企業・団体(今年7月現在)が加盟し、SDGsをテーマとする分科会や、企業の動向調査などを行っている。「自社の事業が実はSDGsの課題につながっているのだという気付きが少しずつ生まれています。また、自社の経営資源でどの課題に取り組めばビジネスがより発展するのかを考える企業も出始めています」

企業がSDGsと向き合い始めた背景として、ここ数年、日本でESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する「ESG投資」に対する関心が高まっていることが考えられる。「ESGを重視する投資家の期待に応えるため、企業は中長期のビジネスモデルの構築を求められています。ESGとSDGsへの取り組みは、“持続可能な社会をつくる”という点で共通しているため、SDGsの目標を経営戦略に取り込もうとする企業が増えているのです」と後藤理事は説明する。

こうした動きは世界でも広まっている。例えば、CO2削減が課題となっている自動車産業をみると、インド政府は2030年までに、フランスと英国政府は2040年までにガソリン・ディーゼル車の国内販売を禁止する方針を発表しており、日本のメーカー企業も存続のためのビジネスモデルを検討する必要に迫られている。同じような潮流は、ありとあらゆる業種で押し寄せているのだ。

新しい視点とアイデアでSDGsをビジネスの発展に

実際、企業はさまざまな方法でSDGsの達成に向けて取り組んでいるようだ。大きく分類すると、まず、1)勉強会などを通じて社員の認識を高める、2)バリューチェーンの見直しを図る。次にSDGsを意識しながら、3)経営理念・企業戦略に導入する、4)新たな商品・サービスなどを開発する。さらにはSDGsをチャンスと捉え、5)共通価値の創造(CSV)を追求する企業を目指す—の5段階が考えられる。

後藤理事によると、日本では特に食品関連企業の取り組みが目立つという。「バリューチェーンの観点からすると、食品産業は生産から消費までの距離が短いので見直しを図りやすいのだと思います。例えば、ある飲料メーカーは持続的な原料調達のため、地方で増加する休耕地を活用した大規模な茶園造成事業を行っています。この考え方は、地方の雇用創出や、環境保全といったSDGsの目標にもつながってくるのです」

企業が海外で事業を展開する上では、現地政府やNGO、国際機関との連携も重要だ。「海外に低賃金だけを求めるビジネスモデルは、もはや成立しません。持続可能な社会づくりや企業の発展につなげるためには、現地をよく知る機関とパートナーを組み、現状や課題を把握した上で事業を始めることが有効です」と後藤理事。こうした企業との連携を加速するため、JICAは今年、情報収集や事業計画立案などを支援する「途上国の課題解決型ビジネス(SDGsビジネス)調査」を開始。第1回の公示では、貧困層向けの健診サービスや、へき地山間部の森林保全など、独創性あふれる5件の事業が採択された。

今後の課題について、後藤理事は、企業の中でも特に中間管理者層への働き掛けを挙げる。「経営層やCSR部門にはだいぶ浸透してきましたが、それ以外の中間層は業績を上げることに精一杯で、SDGsについて考える余裕がないのが現状です。そもそも日本では、公益活動は国家が担うものだという考えが根付いているため、無意識のうちに自分たちの役目ではないとの思い込みが働くのです。この思い込みを取り払うことが当面の目標です」

SDGsの採択から丸2年。表裏一体の関係にある社会の繁栄と企業の発展を目指して、今まさにビジネスの在り方が問われている。

編集協力:グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)理事 後藤敏彦